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特集

IOWN構想特集─オールフォトニクス・ネットワーク実現に向けた光電融合技術

オールフォトニクス・ネットワーク、光電融合技術のめざす未来

NTT R&Dが提唱するIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想とその構成要素であるオールフォトニクス・ネットワークについて、本稿ではめざす未来とそれを実現するための技術について概説します。また、オールフォトニクス・ネットワークの実現において超低遅延・超低消費電力化の鍵となる光電融合技術とそのロードマップについて紹介します。

寒川 哲臣(そうがわ てつおみ)†1 /富澤 将人(とみざわ まさひと)†2 /岡田 顕(おかだ あきら)†3 /後藤 秀樹(ごとう ひでき)†4
NTT先端技術総合研究所 所長†1
NTTデバイスイノベーションセンタ 所長†2
NTT先端集積デバイス研究所 所長†3
NTT物性科学基礎研究所 所長†4

IOWN構想とは

NTT R&Dは、多様性を受容する豊かな社会の構築をめざしています。多様性に満ちた新たな世界を可能とするのは他者への理解であり、理解を深めるためには他者の立場に立った情報や感覚を得ることが大きな助けになるでしょう。研究開発を通じてこの世界を実現するためには、これまで以上に高精細で高感度なセンサにより多くの情報を得ることはもちろん、人間の感覚や主観にまで踏み込んだ情報処理が要求されます。
このような将来像に向けて、NTT R&Dは新たなコミュニケーション基盤であるIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想を提唱しました。光を中心とした革新的技術で、超大容量・超低遅延・超低消費電力を特徴としたネットワークと情報処理基盤の実現をめざしており、2030年の実現に向けて、パートナーの皆様とともにさまざまな議論を始めています。
IOWN構想は次の3要素から構成されています。ネットワークから端末まで、すべてにフォトニクスベースの技術を導入する「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」、あらゆるものをつなぎその制御を実現する「コグニティブ・ファウンデーション(CF)」、実世界を表す多くのデジタル情報を掛け合わせ、モノやヒトの相互作用をサイバー空間上で再現・試行可能とする新たな計算パラダイム「デジタルツインコンピューティング(DTC)」です。対象となるレイヤはそれぞれ異なっていますが、これら3要素が組み合わさることで、新時代のネットワークと情報処理が実現できると考えています。

APNの重要性

IOWN構想の3要素の中で新たな光通信と情報処理の基盤となるのがAPNです。APNの大きな特徴は、従来の「エレクトロニクス」から「フォトニクス」への転換により、ネットワークから端末のエンド・ツー・エンドで、最大限光技術を導入することで、低消費電力かつ高速な情報伝送と情報処理基盤の実現をめざします(図1)。低消費電力化については、後述する光電融合技術の導入により、電力効率を100倍にすることが目標です。また、伝送容量については、1つのファイバ中に多くのコアを並べたマルチコアファイバやコヒーレント用光送受信器(COSA: Coherent Optical Sub Assembly )などの開発によって、125倍に高めることをめざします。さらに、例えば遅延が許されないデータ伝送についてはデータを圧縮せずに伝送することで、エンド・ツー・エンドでの遅延を200分の1に減らすことをめざします。

APNのめざす世界観

APNが実現すると新たな活用シーンの誕生が期待できます。革新的な大容量化により、これまではデジタル変換の段階で意図的にデータ量を削減していた情報を、より原信号に近い精細な状態で送受信することが可能になります。もし、蜂の視覚、犬の嗅覚、コウモリの耳をナチュラルにとらえて丁寧に拾い上げていけば、人間の五感を大きく拡張していくことができ、人に寄り添い人の能力を高めた社会を実現することができるでしょう。また、光ファイバ伝送において機能やサービスごとに異なる光の波長を割り当てれば、複数の情報を同時に低遅延で送ることも可能になります。例えば、多チャネルで高精細な画像を送りながら、遅延のないインテラクティブなやり取りをすることも可能になり、遠隔手術やMaaS(Mobility as a Service)など通信品質に対する要求がクリティカルな現場での実用化もみえてきます。

光電融合技術とは

APNを実現するためには、光技術を従来のような長距離伝送やデータセンタ内インターコネクトなどの中距離伝送だけでなく、プロセッサチップ内の信号処理部にも光と電子を導入した「光電融合技術」が必要になります。
光電融合技術の試金石となる研究成果が、世界最小の消費エネルギーで動く光電変換デバイスであり、2019年4月15日、英国科学誌「Nature Photonics」に発表されました。電子回路の一部に光を融合する技術は、20年以上前に研究されてきましたが、デバイスのサイズや消費電力が大きく、実用技術としては確立されませんでした。今回の研究成果で、従来のものに比べて消費電力を94 %カットできたことで、実用化の可能性が高まったといえます。
光電融合技術のロードマップを図2に示します。まずは、ファイバとシリコンフォトニクスにより実装された回路、アナログIC等を集積した構造を実現し、チップ外部との接続速度を高速化します(Step1)。次に、チップ間を超短距離の光配線により直接接続し、情報処理能力を向上させます(Step2)。最後に、チップ内のコア間を光配線で接続し、光の特性を活かした光トランジスタや光パスゲート技術を適用して低消費電力化するとともに、演算を光回路の通過時間のみで瞬時に実現します(Step3)。

本特集の内容について

今回は、NTT先端技術総合研究所におけるAPN実現に向けた光電融合技術の取り組みについて特集します。Step1の取り組みからは、シリコンフォトニクス技術を活用した超小型光送受信回路を取り上げます。続くStep2からは高密度・低消費電力な光インターコネクション技術について、Step3からはナノフォトニクス技術を利用した光電変換デバイスや光パスゲート回路について紹介します。

(上段左から)寒川 哲臣 /富澤 将人
(下段左から)岡田 顕 /後藤 秀樹

IOWN構想の中で新たな光通信と情報処理の基盤となるオールフォトニクス・ネットワークと、超低遅延・超低消費電力化の鍵となる光電融合技術の実現に向けて、研究開発を推進していきます。

問い合わせ先

NTT先端技術総合研究所
企画部
TEL 046-240-5157
FAX 046-240-2222
E-mail science_coretech-pr-ml@hco.ntt.co.jp