テクニカルソリューション
効率的な設備の現状把握を可能にする光損失異常区間リストアップツール
光ファイバケーブル布設後のケーブル区間での損失増加は、解決が非常に困難な課題の1つです。通信品質を維持しながら来るべき劣化に対して適切に対処していくためには、設備状態を常に正確に把握しておくことが重要です。そこで、定期的に取得した大量の試験データを基に光ファイバケーブルの状態解析を効率化するツールを開発しました。本稿ではその概要と機能について紹介します。
開発の背景
光ファイバケーブルはNTTの情報通信サービスを支えるインフラの根幹であり、日本全国に布設されています。ケーブルは地下や架空とさまざまな環境に布設されており、場所によってさまざまな影響を受けます。全国に高品質な通信サービスを提供するためには、ケーブルの点検作業は欠かせない業務となっており、点検作業では通常OTDR(Optical Time Domain Reflectometer)を用いてケーブルの損失を確認します。OTDRは試験光を光ファイバに入射して各地点で散乱される後方散乱光の強度を測定する測定器であり、ケーブルの長手方向に対して損失を把握し、設備の修理・更改の判断に役立てることができます。ケーブルの損失が増加する要因としては曲げや接続不良等があり、曲げによる損失増加の中では多湿な環境にあるケーブルにおいて、光ファイバの被覆内に水泡が形成され、小さな曲げ(マイクロベンド)を誘発することで損失増加につながるとされる場合があります(1)。マイクロベンドは光ファイバの長手方向の長距離にわたって発生することもあり、局所的には小さな損失であっても、ケーブル全体では大きな伝送損失となって通信品質に大きな影響を及ぼす可能性があります。マイクロベンドによる損失増加は時間が経過するにつれて進行する傾向がある一方で、その経過を発見しにくいという点で対処が難しい課題の1つです。この損失増加がいつ、どのケーブルで起こるのかを正確に把握するのは非常に難しく、それを完全に予測することも困難です。通信品質を維持していくためには、将来起こり得る損失増加に対して計画的な設備更改をしていく必要があり、そのためにも光ファイバケーブルの状態を常に正確に把握しておくことが不可欠です。
現在NTT東日本グループでは、布設した光ファイバケーブルの保守用心線を対象にOTDRを活用した定期試験を実施しています。定期試験で取得された波形データは損失異常が疑われる区間(異常被疑区間)がないかなど、すべてのデータに対して1つひとつ正常性を確認しています。このとき、どの設備のどの区間の損失異常なのかを整理するため、設備データと波形データの情報を紐付ける必要があります。しかしながら、それぞれのデータの形式が異なるため、データを扱うための異なるソフトウェアとデータの形式をそろえるための前処理が必要であり、全区間の確認には手間と時間がかかっていました。また、損失異常被疑区間の解析については波形データから目視で探索しているため、作業者に一定の経験とスキルが求められていました。
NTT東日本技術協力センタではこの課題を解決するため、すべての定期試験データを一括で解析し異常被疑区間を自動でリストアップする「光損失異常区間リストアップツール」を開発しました。本稿では本ツールについて紹介します。
ツールの概要
当センタで開発した「光損失異常区間リストアップツール」の操作画面を図1に示します。本ツールの主な特徴は「損失異常被疑区間のリストアップ」「ケーブル・設備情報との突合」「過去の試験データとの比較」の3つです。以下ではそれぞれについて解説します。
■損失異常被疑区間のリストアップ
実際の定期試験は各NTTビルの中に配置された光試験モジュール(OTM:Optical Testing Module)という装置を用いて実施されます。定期試験により取得されたデータは、ビル番号や試験を行ったOTM番号、心線の番号等をファイル名に記録し、何を測定したデータかを判別できるようにしています。本ツールは複数の定期試験データが格納されたフォルダを読み込ませるとそのフォルダ配下にある定期試験データをすべて自動で解析することができます。図1に示すように解析された結果は、ビル番号、OTM番号、心線番号等の情報ごとに整理して一覧表示されます。このとき異常の種類によって、「ケーブル損失異常」「浸水検知/接続損失」「口元デッドゾーン」「測定エラー」の4つに自動で分類しリストアップします。さらに異常被疑区間を自動抽出しその始点と終点位置、伝送損失と区間損失も計算します。このように本ツールによれば全体の異常被疑区間の数、異常の種類、位置を効率的に解析することができます。
■ケーブル・設備情報との突合
次にケーブルや設備名との突合機能を紹介します。上記の定期試験データの解析を行ったあとにケーブル情報を追加で読み込むことで、ビル番号とケーブル番号をビル名とケーブル名に自動で突合させることができます。さらに心線ルート情報を読み込ませることで、ケーブル上にある電柱やマンホール(MH)の位置等も自動で読み込み、異常被疑区間と照合して、その始点と終点に近い場所にある設備を第3候補までリストアップします。
ケーブル情報と心線ルート情報を読み込んで解析した結果の例を図2に示します。選択した部分(黄色でハイライト)を見ると、○○ビルの△△のOTMに収容されているXX1ケーブルの4207~4790mの区間で損失異常が発生していることが一目で分かります。さらにその異常被疑区間はA線No.1MH~A線No.2MHの間辺りであることも分かります。
また、本ツールは各異常被疑区間それぞれの波形データも確認することができます。図2で選択した異常被疑区間に相当する波形データを図3に示します。下部には波形データが示してあり、その上部には設備位置と異常被疑区間がそれぞれプロットと赤線で表示されています。さらにカーソル表示により区間の詳細な様子を解析することも可能です。このように、異常被疑区間の検出だけでなく設備名との突合もすべてこのツール上で完結させることができるので、従来までの確認方法に比べて劇的に設備状態の確認がしやすくなります。
■過去の試験データとの比較
最後に過去の試験データとの比較の機能について紹介します。本ツールでは過去に解析した結果を読み込ませることで、今回と前回で判定結果を比較することができます。過去の試験データとの比較を行った結果を図4に示します。過去と同じ異常が確認される場合は判定結果に「継続」と表示され、前回にはなく今回初めて観測される異常の場合は「新規異常」と表示されます。この機能により各区間の異常の経過を追跡することができます。
今後の展望
本稿では、光ファイバケーブルの正常性確認を効率的に実施するツールについて紹介しました。本ツールを用いることで、定期試験データの確認作業の効率化に加え、設備状態の正確な把握をすることができ、光設備の計画的な保守運用に貢献すると考えています。今後はNTTグループの関連部署と連携しながら、設備状態を可視化することで潜在的な課題を明確にし、その解決に努めていきます。
これまでに蓄積してきた知見・ノウハウを活用し、技術協力センタは通信設備の保守・運用に携わる現場の方々のために、技術サポートを通して現場の課題解決に貢献していきます。
■参考文献
(1) https://journal.ntt.co.jp/article/23476
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