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2025年3月号

トップインタビュー

Trust by People ・Trust in People 相互の信頼関係でチームは機能する

豊かで調和のとれた社会づくりをめざし、世界50以上の国と地域でITサービスを提供するNTT DATAは、デジタル技術を活用したビジネス変革、社会課題の解決に向けてさまざまなサービスを提供しています。お客さまとともに未来を見つめる佐々木裕NTTデータグループ 代表取締役社長に、新体制となったNTT DATAのビジネス戦略や新年度を迎えるにあたり抱負を伺いました。

NTTデータグループ
代表取締役社長
佐々木裕

PROFILE

1990年NTTデータ通信に入社。2016年NTTデータ 執行役員。ビジネスソリューション事業本部長、製造ITイノベーション事業本部長を歴任。2020年常務執行役員。2021年コーポレート統括本部長、2023年NTTデータグループ代表取締役副社長兼、NTTデータ代表取締役社長を経て、2024年6月より現職。

情報技術で、新しい「仕組み」や「価値」を創造し、より豊かで調和のとれた社会の実現に貢献する

NTTデータグループは新しい体制となられましたね。

2023年7月、NTT DATAは戦略的な観点から国内事業会社、海外事業会社、それらを統括する持株会社の3社体制に移行しました。また、2022年10月にNTT Ltd.をNTT DATA Inc.傘下とした事業統合は私たちの歴史において非常に重要なマイルストーン、転換期となり、私たちはスケールの拡大を果たし、グローバルでの競争力を一層強化しました。このような背景の中で、統合後の初めての通期決算である2023年度の決算を2024年5月に発表した後、2024年6月に私はNTTデータグループの社長に就任しました。
私たちはそれまで、グローバルTOP 5をめざして活動していましたが、事業統合により6位となり、アクセンチュア、デロイト、PwC、TCSなどの競争相手とともに、ITサービスプロバイダのグローバル市場で競り合う立場に立ち、グローバルTOP 5に手が届くところまできました。これは本当にシンボリックな出来事で、さらに実績あるコンサルティングファームやインド系の企業といったグローバル競争に対してどのように戦うのかが問われると考えています。
現在、私たちはグローバル戦略の策定、グローバルシナジーの創出、ガバナンスの強化を推進し、国内および海外事業会社は、これまで以上に機動的な事業展開を進めています。
また、事業統合により、海外事業の売上が全体の60%を超えるまでに成長し、これにより国内の安定した事業基盤をベースとしながら、より海外でのプレゼンスを高めていきます。そして、日本国内においては継続的な成長を実現し、コンサルティング力とデジタル競争力の強化に確実に取り組むことで、さらなる成長の加速をめざしています。そして、革新的なソリューションに注力し、お客さまビジネスの成功を共に実現したいと考えています。
さらに、海外においては、これまで以上に幅広く、充実したサービスポートフォリオをそろえることができました。こうした組織能力の拡大とグローバルカバレッジの展開により受注機会も大きく増加しています。今後も、グローバル市場における持続的かつ戦略的な事業拡大に注力したいと考えています。

企業文化をはじめ、国家の成り立ちや言語も違う多様なグループをまとめるのですね。

私たちは、現在、日本国内とグローバルの良質なビジネスの経験に基づく価値観を融合することで、統合されたダイナミックな企業カルチャーを築いています。このユニークなカルチャーは私たちの成功に欠かせないものであり、それを育むことにより、持続的な成長を実現したいと考えています。
これを成し遂げるために、トップとしてはグループの方向性やビジョンが極めて重要になると考えています。現在、NTTデータグループはグローバルを含め約20万人の社員を擁し、世界50以上の国と地域で事業を展開しています。特にグローバルにおいては、M&Aを通じて多様なバックグラウンドを持ったチームを形成していますから、グループ全体の共通の価値観の醸成が必要だと感じています。特に、NTT Ltd.が提供していた、データセンタやCisco製品のリセール事業などの新たな事業領域が加わりましたから、これまで以上に多様化した事業ポートフォリオを持つことになりました。だからこそ、NTTデータグループを1つにまとめ、全員が同じ方向に向かって進んでいくために、ミッション、ビジョン、バリューを見直す必要があると再認識しています。現在、私たちは2025年度に向けて、グローバル・リーダーたちとディスカッションしながら、英語版を先行して用語の使い方にもこだわりを持って、ミッション、ビジョン、バリューを「Our Way」として見直しを進めているところで、5月には日本語版を含めて新たな「Our Way」を発表する予定です。例えば、「Our Way」英語版のミッションにおいては、「Accelerate our clients’ success and positively impact society with responsible innovation」という言葉に大きな意味を込めました。具体的には3つ、お客さまの成功を加速させ、社会に対して積極的にインパクトを与え、責任ある技術イノベーションを通じてその成果を実現するという思いを込めています。この中で、“with responsible”という部分は非常に重要で、特にAI(人工知能)技術の進化において、光と影の側面を意識しながら、お客さまだけでなく社会的な責任を持って進めていく必要があると考えています。

Who・What・Howのフレームワークでビジネスの本質をとらえる

ところで、全社コンサルティング強化施策を展開していると伺いました。

私たちは現在、「提言・実装・成果」を軸に成長率と収益性を両立する「質の伴った成長(Quality Growth)」をめざし、コンサルティング力の強化を進めています。提言力を強化するためには社会・顧客課題からビジネステーマを特定して、コンサルティングやテクノロジを組み合わせた型紙(課題解決の型)を整備し、顧客へ価値提供するためのケイパビリティ獲得と仕組みの実装が必要です。現在、グループとしてこれを現実のものとしていくために中長期的な視野に立ち、世界最強レベルのシステム構築力・質と量を兼ねそろえるための人財の育成やアセット開発の投資を進め、組織力を養っているところです。
さて、価値提供のためには、コンサルティングによる提言力だけではなく、実現するための実装力の強化も重要です。そのためにはエンジニアリング力の強化も求められます。提案したテクノロジを顧客の課題に適合するかたちで「パッケージ」し、実際にサービスとして提供できなければ価値をなさないからです。
最近、私が社内で話していることは、私たちは単に技術を提供する会社ではないということです。NTT DATAの事業戦略において重要なのは、お客さまの課題に応じた解決策を提供することです。これに向けて、私たちはWho・What・Howというフレームワークを使っています。Whoというのはターゲットとなるお客さまやインダストリー、Whatは経営課題、特にCEOやCFOが抱えている経営課題にリーチすることです。ビジネスはややもするとHowから入りがちなのですが、やはりビジネスはWhatから入るべきだと私は考えています。
このフレームワークを社内に浸透させたいのです。課題を明確にするWhatから入り、How、つまり、その課題に対して最適なソリューションを提供することをめざす。例えば、営業力の強化やサプライチェーンの強靭化といった経営課題に対して、どのテクノロジを使うかを選ぶのではなく、まずその課題に対してどのようにアプローチするかを考え、最適な解決策を提案するのです。このように臨まないとお客さまに提供できる価値は大きくならないし、ひいては私たちの利益にもつながらないのです。そして、Howにはたくさんの引き出しが必要で、どんなパートナーと組むか、どんなテクノロジを使うかという、技術の目利きも非常に重要となります。

具体的な技術戦略、注目している技術についてお聞かせいただけますか。

私たちがお客さまに価値提供をしてきた歩みを振り返ると、10年前はお客さまの業務の効率化にITを使う時代でした。それが今では経営課題解決にITが使われるようになり、まさにデジタル化からDX(デジタルトランスフォーメーション)への変革が起きています。そのため、お客さまも私たちも、より攻めの姿勢で「仕掛けることができる」時代になりました。本当に面白い時代になりました。この時代の変化によって私たちからさらなるプロアクティブな提案が可能となり、その意味で私たちはより多種多様な人財が必要であると感じています。
こうした中、私たちはグローバルでの技術戦略を強化するために、EGM(Emerging、Growth、Mainstream)というフレームワークによる技術ポートフォリオを整備し、将来的に重要となる技術に対して準備をしています(図)。量子コンピュータなど、Emergingの分野は、今後10年くらいの間に実用化が進むと予測される技術分野です。Growthの分野は3〜5年先に普及が進むと予測される分野です。生成AIのようにEmergingからGrowthへ移行してきたものもあります。これらの技術をいかに現場で活用し、お客さまに提供するのかということが、今後の競争力を決定づける重要な要素となります。このため、Early Adopterと呼ばれる先進的なお客さまとともに先進的な技術にチャレンジしています。現在、私たちはグローバルに11のイノベーションセンタを設置して、約200人強のエンジニアがお客さまとともに技術の実証実験や新しいテクノロジの導入等、次世代の技術を研究開発しています。例えば、ヨーロッパのスカイメディアとの共同研究では、四足歩行のロボットなど先端的な技術の検証をしています。
その中でも、特に着目している技術として生成AIがあります。最近は多くの注目を集め、社会全体に対して大きなインパクトを与えていますね。現在、広く使われているChatGPTのようなパブリックなAIは、個人の生産性向上に役立っていますが、今後は企業の内部でも活用されるケースが増えていくでしょうし、プライベートAIも重要視されるようになると考えています。その点でtsuzumiは、軽量なLLM(Large Language Models)を活用したセキュアなAIです。企業が自社のデータを安全に活用できるよう、ごく少数のGPU(Graphics Processing Unit)などを利用してプライベートAIを構築することができますから、企業はパブリックなAIのリスクを避けつつ、独自のAIを活用して競争力を高めることができると考えています。

リーダーはついてきてくれる人がいて初めてリーダーになる

トップのあり方について、これまでの歩みとともにお聞かせいただけますか。

私が入社した1990年は、NTTデータ(当時)が設立されて(1988年)間もないころで、NTT DATAが今日のようなグローバルな会社になるとは想像もつきませんでした。私たちがグローバルビジネスを始めたのは2005年ごろですが、会社設立17年目にして海外での収益が6割、そして海外の従業員が全体の75%となり、一気にグローバルに変容してきました。
この時代の流れにおいて、私はシステム開発のプロジェクトマネージャ等を経験してきましたが、プロジェクトが大きくなればなるほど、プロジェクト全体の状況を共有し、メンバが同じ方向に向かうことの大切さを実感しました。プロジェクトのメンバが100人であろうと20万人であろうと、その大切さに変わりはありません。何のためにという目的、ゴール、価値観を共有することがポイントとなります。
また、チームのリーダーは後ろについてきてくれる人、フォロワーがいて初めてリーダーになるのです。フォロワーがいなければ組織は機能しません。だからこそ、部下から信頼されることも大切ですし、自分自身が部下を信頼することもとても重要です。Trusted by People とTrust in Peopleの相互の信頼関係でチームは機能するのだと考えています。
こうした中、NTT DATAのトップとなってまもなく1年が経ちますが、これだけ多種多様なカルチャー(文化)を包含する企業において、その多様性をいかに総合力につなげていくかという難しさを、正直なところ感じています。しかし、それは楽しさでもあり、私はそれを非常に楽しいものととらえています。例えば、毎月、現地に赴いてグローバルのビジネスリーダーたちと直接対話をして、私たちの戦略を正しく理解しているか、自分事としてとらえられているかを確認する時間を設けています。それは、社員にいかにポジティブに仕事をしてもらうかということが非常に大事だからです。人は人についていくものです。だからこそ、私は直接的なコミュニケーションをとても大切にするのです。

2025年度に向けて抱負をお聞かせください。また、NTT DATA、およびNTTグループ社員の皆様へメッセージをお願いします。

2025年度もさまざまな仕掛けを考えています。例えばデータセンタに付加価値をつけて、インフラとして高い価値を提供していきたいと考えています。現在、NTTデータグループのデータセンタの保有率は世界3位ですし、ネットワークエンジニアも数多く擁していますし、さらにユニークなサービスを提供できるようになっています。しかも、さまざまなグローバル企業と比較しても、やはり「日本企業」「日本品質」「日本人気質(真面目さ)」はマーケットにおいても非常に価値がありますから、もっとアピールしていきたいと考えています。
ITが活用される範囲は広がってきていますから、その広がりに合わせて私たち、仕掛ける側の発想も広がります。このような面白い時代を、社員の皆さんが楽しんで働いていただけるような環境をつくることが私の役割だと思っています。
私自身も若いときから仕掛けるのが好きですし、新しいことにチャレンジすることが大好きです。20万人の社員が一体となってイノベーションを掛け合わせ、大きな仕掛けをしていきたいですね。
また、NTTグループのR&Dは競争の源泉です。知的財産を生み出す能力を社会的価値につなげるのが私たちNTTデータグループの役割であると考えています。だからこそ、良い価値を生み出すプロセスの改善に努めます。IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)をはじめ、NTT研究所の技術には大きな期待を寄せています。スピード感を持った研究開発をしていただきたいと思います。
さらに、私たちはお客さまのsuccessを大切にしています。お客さまに寄り添い、価値を高める事業パートナーになりたいと思っています。ぜひ、ご期待ください。そして、今後、技術がさらにダイナミックに変わる時代において、事業パートナーは不可欠となります。共にITを支えるエコシステムを構築していきましょう。

(インタビュー:外川智恵/撮影:大野真也)

インタビューを終えて

本誌がNTTグループのトップにお話を伺うようになって10年超、すべてのトップに共通しているのは、「前向き」な姿勢かもしれません。そして、前の向き方や表現は実に個性にあふれています。佐々木社長は「性格的に私は後悔をあまりしませんし、過ぎたことを悔やむよりも次のことや最善策を考えたいですね」と、その姿勢を表現されます。ご発言はとても歯切れよく、すべてが前向きで、憂いを全く感じさせません。しかし、それは「憂う」ことのないよう、常に最善策を検討されているからなのだと実感することがありました。数あるご趣味のうち、料理のお話を伺ったときのことです。「揚げ物、よくするんですよ。焼き物だと肉が重なってうまく焼けないことがあったりするけれど、揚げ物ならしっかりと火が通るでしょう?」と、佐々木社長。最良の状態でお料理を提供することをお考えです。さらに、「揚げ物ならば味付けによって変化もつけられる」と、創意工夫も楽しんでおられます。チャレンジや仕掛けが大好きだという佐々木社長。次はあるイベントで制作過程を見て、面白い!と思ったモンブラン(ケーキ)づくりに挑戦するご予定だとか。どんなことも楽しく、面白く、そして、新しいことにつなげる佐々木社長の物事のとらえ方に学ばせていただいたひと時でした。

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