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つなぐ(connect)、信頼(trust)、誠実(integrity)で、共通価値基盤を盤石にする

今年「ブランドファイナンス Global 500」において20位にランクインしたNTT。世界的企業ブランドを築き上げ、不動の地位を獲得しました。「国内外の市場で確たる成長を遂げるにはさらなる変革が必要だ」と語る澤田純NTT代表取締役社長に所信と経営指針について伺いました。

澤田 純 NTT代表取締役社長

PROFILE

1978年日本電信電話公社に入社。線路などの設備業務を担当した後、1998年NTTアメリカ副社長、2000年よりNTTコミュニケーションズにて経営企画部担当部長、コンシューマ&オフィス事業部企画部長、関西支店長を経て、2008年取締役経営企画部長、2014年NTT代表取締役副社長、2016年NTTセキュリティ代表取締役社長を兼務、2018年6月より現職。

お客さまを支え、パートナー企業と連携、自らの変革に努めることが基本

社長就任おめでとうございます。就任以降どのようなお気持ちで職務を遂行されていますか。

ありがとうございます。新しい任務への対応で落ち着きませんが、変わらず誠実を基本姿勢として、説明や議論をしに来てくださる方にも失礼にならないよう務めています。また、活動は常に能動的に動くことを心掛けており、就任が決定した直後からグループ主要会社の社長との月例会議(社長会)を設定し、意思疎通を円滑にする仕組みづくりを始めています。

それではこれからの経営指針や所信をお聞かせいただけますでしょうか。

まず、事業は鵜浦前社長がさまざまな改革に挑んできたこともあり、2017年度も過去最高収益、最高利益を上げることができました。全体的には非常に好調な状況にあります。ただ、環境の変化が速いので、さらに上向きにするには自らをさらに変革(デジタルトランスフォーメーション)して、市場の変化に対応し競争にも打ち勝っていくチャレンジが非常に重要だと考えています。中でもグローバル化は重要なキーワードです。チャレンジするなら成長過程にあるグローバル市場も見込んでいきたい。すでにこの市場では全体比2割に近い収益を上げていますが、まだまだ広げていきたいのです。一方で、国内市場も変革のときを迎えています。固定電話の契約数が年々減少し、携帯電話の契約数が伸びている時代ですから、2024年に計画されている固定電話のIP網への切り替え、PSTNマイグレーションを意識しながら、国内のメインとなるサービスをどう定めていくのかを見据え、自らの変革を進めていかなくてはいけません。
経営の基本は企業価値を上げることにありますから、利益を上げていくことに努めなくてはなりません。基本理念はお客さまの変革を支援し、パートナー企業としっかりと連携し、自らも変革に努めることです。企業の社会貢献をCSRと言いますが、CSRそのものが私たちの本業です。つまり、私たちの企業活動そのものが社会貢献につながると考えます。ところで、誠実な姿勢で社会貢献をしながら、自らも変革していくことは一見矛盾しているようにみえますが、事業の根幹に「つなぐ(connect)」「信頼(trust)」「誠実(integrity)」の3つの理念を置き、これに基づく共通価値基盤を盤石にすれば30万人の社員は一体感のある、両者バランスの良い企業活動を展開できると考えています。

バランスの良い企業活動を支えるためには何が大切だと考えていらっしゃいますか。

企業活動において重要なのは「人」です。NTTには国内に約18万人、世界各国に国籍や文化の違う社員が約12万人在籍しています。バックグラウンドの違う30万人を同じ方向に向かせるのは難しいことです。しかし、社内のダイバーシティを認めながら仕事をすることで、ビジネス、そして社会貢献につなげることができると思います。そこで、30万人のコミュニケーションを円滑に運ぶための仕組みが必要だと考え、これまでは会社単位で展開していたコミュニケーションの構造を変革しました。手始めに社長就任時に全世界に向けてビデオレターを英語で配信しました。大手町の本社ビルを背景に挨拶したところ、「これが本社なんだ!」「紙面よりも現実味がある!」と世界各国の社員から声が寄せられました。日本語は紙面で配信しましたが、国内向けにもビデオレターで配信してほしかったという声も上がりました。このように新たなコミュニケーション方法は前向きな反応を得ることができました。
これからもイベント、節目ごとにNTTグループ全体の状況を把握してもらうために、ビデオレターを全社員に向けて配信していきます。そして、海外事業会社のエグゼクティブと相互にコミュニケーションを図るため、対面でディスカッションする場を設けました。さらに、グループ各社の社長には社員との対話会等、さまざまな方々との交流を通じて意思疎通を図る機会を得るように促し、情報や意思が各社幹部に加え、社員にも十分に行き届くようなコミュニケーション基盤を整えていきます。
さらに、これまで持株会社が策定してきた中期経営計画に、主要会社のトップにも参画してもらい各社の計画も反映していきます。今回はNTT東日本、NTT西日本、NTTコミュニケーションズ、NTTドコモ、NTTデータ、NTT都市開発が参画して中期経営計画を策定する予定です。一方、主要会社のグループ社長会は年に2回開催していますが、グローバル全体の社長会はこれまで開催していませんでした。今後は、ICTを駆使してグローバル全体の社長会を展開し、時にはお互いに顔を合わせられる仕組みも考えていきたいです。電話やビデオを使っての会議も有意義ですが、本社のある日本で主要グローバル会社のトップが顔を合わせてミーティングをすることにはまた違う意義を感じています。

権限委譲と基本理念の共有を8対2のバランスで。世界基準の評価を導入する

30万人企業の経営陣を束ねることは並大抵なことではないと感じます。

そのとおりです。簡単なことではありません。2年前にグループ5社、15カ国から1500人を集めて組織化し、NTTセキュリティという会社を立ち上げました。このときに実感したのは、本社からの命を受けて全員が同じ方向を向くことは不可能だということです。そこで、方針決定の8割を各地域に任せ、2割を本社の意向により方針決定することにしたのです。この割合に落ち着くまでには試行錯誤の繰り返しでしたが、最終的には実際に動いている各地域の現場の実情に即した8割の部分を尊重し、任せることにしました。理念やシステムの決定などの大枠は本社の意向に基づいて決めていきますが、それ以外は権限委譲をしなくてはいけません。日本はそれが下手ですよね。任せているようで任せきれない。任せたといいながらいちいち報告を求めれば任せたことにはなりません。評価の基準を明文化のうえ共有して、任せたことを評価するのが世界のすう勢です。
評価が良くないときは、場合によってはその責任者にポストや会社を辞めていただく、良ければボーナスを出すというのが、世界基準の評価による結果の反映ですが、日本では、これまで包括的、相対的な評価であり、その結果として辞めさせるようなことはありません。こうした状況を世界の基準に合わせていきたい。すでに海外の会社では実践していますから、今後、ポストや会社を辞するといった極端な話はともかく、こういった権限委譲の考え方や仕組みを徐々に日本の会社にも導入していきたいと考えています。しかし、文化の変革は一朝一夕にはいきません。鵜浦前社長も最高益を上げ、株価を上げ、株主を大切にした経営に舵切りするのに5、6年の歳月を費やしています。何か1つの大きな変革を起こそうと思ったら同じくらいの年月は必要になるでしょう。2024年に予定しているPSTNマイグレーションが国内事業変革の大きなチャンスになると考えています。
また、社員1人ひとりが能動的に動けるようにもしたいです。過去の経験ですが、営業を担当していたときも、通信ケーブルや端末に関する保全部門である線路宅内課を担当していたときも、データを分析し、「見える化」をして部下に提示しました。営業のときは受注数などを1人当りに換算して時系列に並べるのです。すると傾向や要因を社員自身が理解して、自発的に戦略を立てて仕事に臨んでくれるようになりました。これにより2年半で売上が2倍になりました。保全のときはちょうどメンテナンスコストデータが出たときでした。全国平均等を割り出してみると、技術力があると自負していても、実際の成績(コスト)は下位であることが分かりました。そこで、その結果を、そんなことはないと思っている職人気質の社員に見せたところ、これではまずいと奮起し、仕事を自発的に求め、実績が3倍になったのです。業績の改善に対して、支社からは「いったい何をしたんだ?」と言われましたね。
こうした経験からいえることは、実績の見える化、自覚の重要性です。NTTの社員は皆優秀で誠実な方が多いので、現状に問題があれば「やらなくちゃ!」と自発的に動いて、計画的に仕事をしてくれるのです。裏を返せば私にできることは、見える化により自覚を促すことくらいかもしれません。ただ、これは信頼のおける関係性が築かれていなければ効果がないと思っています。単にあおっているだけだと聞き流されてしまいます。社員が働きやすい環境の整備を進めていくことが幹部の課題だと思っています。大きな組織では仕方のないことではありますが、現場の問題を上位組織へエスカレーションしていく過程において途中で中庸化してしまい、本質が見えなくなることがあります。これを解消するために権限委譲をしたいですし、現場には結果をコミットしてほしいと考えています。こういう仕事の進め方が健全ではないでしょうか。

人を幸せにする仕事をしよう

人と並んで改革を促す柱として技術をキーワードにされています。どのような思いや構想がおありでしょうか。

すべてにおいて、技術が世の中を変えていくきっかけになると私は理解しています。技術と人、社会の関係はイノベーションとマーケットとも言い換えることができるでしょう。この2つは両輪ですが、やはりイノベーションが先行しないと変革は起きません。そういう意味では研究所の存在に大きな期待を寄せています。
最近は、技術・イノベーションの分野が広がってきており、マーケティング技術も広がってきています。両者の間の垣根もなくなりつつあり、こういった流れの中でインキュベーションが行われ、新しいものが生み出されてきています。情報通信はツールであり、それによって人や社会に価値を提供することが大切なのです。医療、健康、交通等すべての分野において私たちの提供するツールを使っていただき、各分野で活躍するパートナーにとってなくてはならない技術を開発していかなければならないと思っています。
こうした活動を支えていくのがR&Dです。一言でR&Dといっても、R(研究)がなければD(開発)はできません。技術トレンドを洞察し、RとDそれぞれの成長を意識したR&D戦略を策定・展開して、RとDどちらも世界一にしたいと思います。研究企画部門とディスカッションを進め、NTT R&Dフォーラムで方向を発表していく考えです。

NTTのR&Dにおける急務と考える分野はどのようなものが想定されますか。

例えばロボットですが、本当に役に立つロボットが欲しいと思っています。姿はカメラであろうが机であろうが何でも良く、人間を幸せにしてくれる要素があるロボットがいいです。人が喜ぶものを提供する仕事はやりがいがありますね。
その他に、AI(人工知能)、ゲノム、高度な自動運転車、ドローンの運行管理、フレキシブルなIoT(Internet of Things)のセンシング、ブレーンマシーンインタフェース、マイクロロボット…いっぱいあります。それぞれに思いがありすぎて言葉がまとまりません。
あえて1つ申し上げるなら、私がコグニティブ・ファンデーションと表現しているソフトウェア基盤です。これはさまざまなものをつなぎ、処理し、蓄積をするための存在です。一般的な言葉で説明すると処理をするのがクラウド、蓄積するのがストレージ、これらの連携、つまりつなぐ部分はネットワークです。世の中、さまざまなモノをつないでビッグデータを解析しています。実はこのネットワークの部分、連携の部分はソフトウェアで実現するのですが、現在は確固たるソフトウェア基盤がないのです。第5世代移動通信システム(5G)でつなぐことはできますが、それは公衆網という一部でしかないのです。一般的にいえば、その外側にLANがあり、工場などのシステムがあります。これらをエンド・ツー・エンドでつながなければ意味がなく、星の王子様でいうところの「うわばみ」のような存在になってしまう(本当のこと、本質が置き去りにされる)のです。
例えば、自動運転車も会社ごとに方式をつくったとしたらその間をどうつないでいくかが課題となります。コグニティブとは認知という意味ですが、異質、違う存在であっても認知してつなぐことができるかということなのです。これはソフトウェアでなければできません。言い換えればマルチオーケストレーションが可能な存在が欲しいと思っています。
話は変わりますが、電力を直流化し、NTTの電話局を蓄電所にして電気自動車の充電や、周囲の企業にも電力を供給する事業は面白いと思います。バッテリ、太陽光発電これらはすべて直流であり、電気自動車等のモータも直流で動作するものが多いことから、世の中の機器が直流化されると効率が良くなります。また、自然エネルギーを利用しやすくなりますので、温暖化対策への貢献もできると考えています。こうした取り組みはまだ世界的に展開されていませんから、日本がイニシアチブをとることができますし、人や社会の役に立つものになっていくのではないでしょうか。

新しく日本が台頭する機会が誕生するのですね。社長になられて、改めて感じていることはありますか。

周囲からのさまざまな要望におこたえする、問題があればそれを取り除くのが私の仕事です。NTTは規模も世界的影響も大きいですから、私の知識や経験はそのポストに追いついているか、十分であるかを常に自問自答し、自分を鍛え続けていこうと思っています。そのうえで、さまざまなシーンにおいて、決断はなるべく早く、明確に伝えることに努めています。難しい話なら検討するか否かを伝える、やる,やらないをお互いに分かった時点ではっきりとさせたいです。また、途中でさらに良いアイデアを誰かが発したなら、躊躇せずにすぐに取り入れていきたい、一度言ったことにこだわらず、正しいと思ったことに変えていきたいと思っています。こうした姿勢が結果的に誠実につながるのではないでしょうか。

最後に社員の皆様に一言お願いします。

現在は非常に良い事業状況にあると感じています。しかし、技術革新や世の中の流れは思った以上に速く展開しています。この流れに対応するために自らのポジションで自らの変革に明るく臨んでください。現実は、どんなに用意をしていてもアドリブの連続。そういうものだと思えば、大変なことがあってもあまり苦にならないものです。また、何事も楽しいほうが良いですよね。楽しいと元気になり、良い循環が生まれます。楽しい社会をつくるためにともに歩みましょう。
(インタビュー:外川智恵/撮影:大野真也)

インタビューを終えて

澤田社長にはNTTコミュニケーションズ 経営企画部長時代に、トップインタビューに登場していただいております。今回のインタビューでは、6年前と変わらない笑顔で迎えてくださいました。当時、どんなに大変なことがあっても寝たら忘れてしまうとおっしゃっていた澤田社長。「責任の重さでしょうか。最近は肩が凝って首が回らないときがあるのですが、忘れっぽいのでそれすらも忘れちゃうんですよ」と、聞き手に負担をかけない心配りをさりげなく織り交ぜながらお話しくださいました。
分刻みのスケジュールであっても、出勤ルートを変えてリフレッシュ、NTTグループのスポーツ観戦や応援、歴史探訪は時間の許す限り、続けていらっしゃるとか。長らく行きたかった元伊勢、天橋立にある籠(この)神社を訪ねることができたとおっしゃるので、神社の趣の話に広がるかと思いきや、「ゲノムの分野では、ミトコンドリアDNAの解析からコアDNAの解析ができるようになった。すると日本人のルーツについて定説を覆すようなことが明らかになってきた」と、興味の対象をさらに広げ、深く掘り下げていらっしゃいました。
あくまでも自然体で日々を味わい、努力を怠らない澤田社長の周囲を笑顔にする暖かさに触れることのできたひと時でした。