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Event Reports

「NTT R&Dフォーラム2020 Connect」開催報告

2020年11月17〜20日の4日間にわたり、オンラインにて「NTT R&Dフォーラム2020 Connect」を開催しました。ここでは本フォーラムの開催模様を紹介します。

細田 智久(ほそだ ともひさ)†1/望月 崇由(もちづき たかよし)†1
恩塚 貴行(おんづか たかゆき)†1/森 俊介(もり しゅんすけ)†1
家保 具太(いえやす ともた)†1/向内 隆文(むこうち たかふみ)†2
堀田 健太郎(ほった けんたろう)†3/日達 研一(ひたち けんいち)†4

NTT研究企画部門†1/NTTサービスイノベーション総合研究所†2
NTT情報ネットワーク総合研究所†3/NTT先端技術総合研究所†4

フォーラム概要

NTTグループは、お客さまに選ばれ続ける“バリューパートナー”として、社会的課題解決に向け取り組んでいます。2019年5月に発表したIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想により、フォトニクス技術をベースとし、大容量、低遅延、低消費電力により持続的成長を支える情報流通基盤をめざして日々取り組んできました。その最新の研究成果について、初のオンライン開催となった2020年度は「Into the IOWN - Change the Future」をコンセプトに講演、特別セッション、技術セミナー、展示を通じて分かりやすく紹介しました。

基調講演・特別セッション

11月17日の基調講演1では、澤田純 NTT代表取締役社長が、「Road to IOWN」と題して講演を行いました(写真1)。冒頭、NTTドコモ完全子会社化の目的について触れ、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)やOTT(Over The Top)とどう渡り合うか、NTTグループ全体の成長・発展につなぐ考えを語るところから始めました。「パンデミックと覇権の歴史」を踏まえ、アフターコロナにどのような世界が待っているかに視点を広げるべきとの考えを示したうえで、技術貿易収支からみる日本のIT業界の課題感について、そしてアフターコロナ社会のトレンドとして、「リモートワールド・分散型社会」「ニューグローカリズム」について語りました。日本電気株式会社の新野社長、トヨタ自動車株式会社の豊田社長からのメッセージも紹介し、ゲームチェンジに向けた思い、IOWNについても語りました。さらにはデジタルツインコンピューティング、オールフォトニクス・ネットワーク、光電融合デバイスなどについても語り、“Changing the Future”をベースにおいた研究開発・事業活動を進めることを宣言しました。
18日の基調講演2では、川添雄彦 NTT 常務執行役員 研究企画部門長が、「Into the IOWN −限界打破のイノベーション−」と題して、最新の研究開発動向や展望について語りました(写真2)。人類が背負う未知なるリスクについて、現在のコンピュータが直面する消費電力や性能限界となっている熱問題の突破について、また、その時々に必要な新しい価値を生み出すデジタル化について触れ、IOWN構想の具体的な進捗内容とともに、超高速光論理ゲートの発明、光ダイレクト多地点接続技術、エクストリームNaaS(Network as a Service)、データセントリックコンピューティング基盤などについて紹介しました。そしてIOWNによって提供されるさまざまなサービスとして、より幸福に生きるために将来を豊かに導く未来予測サービスや雷充電技術、4Dデジタル基盤TMなどについても紹介しました。講演内では、量子科学技術研究開発機構の栗原研一所長、株式会社MTIの石塚一夫社長、JAXA宇宙航空研究開発機構の張替正敏部門長からのメッセージの紹介も交え、R&Dの領域のさらなる拡大を図る新しい挑戦として、グローバル化の取り組みや宇宙への取り組みについても熱く語りました。
19日に配信された特別セッション1では、ゲストに日本フェンシング協会会長/国際フェンシング連盟副会長 の太田雄貴氏、株式会社IMAGICA EEX 代表取締役CEO兼CCO/株式会社IMAGICA GROUP ゼネラルプロデューサー諸石治之氏を迎えて、NTTサービスエボリューション研究所 木下真吾主席研究員により「ポストコロナに向けたスポーツ&ライブエンターテインメントの再創造」をテーマにセッションが行われ、コロナ禍におけるスポーツ&ライブエンターテインメントの現状と今後について議論が交わされました(写真3)。
20日に配信された特別セッション2では、ゲストに小説家・「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」SF考証の高島雄哉氏、タレントの眞鍋かをり氏を迎え、NTT宇宙環境エネルギー研究所 前田裕二所長により「宇宙世紀に向けた、NTT宇宙環境エネルギー研究所の挑戦」をテーマにセッションが行われました(写真4)。SF作品であるガンダムの設定世界と絡めつつ、核融合炉の最適オペレーション技術など、NTT宇宙環境エネルギー研究所が取り組むさまざまな挑戦について紹介されました。

技術セミナー

17〜20日までの4日間、連日にわたって配信された技術セミナーは、NTTが取り組んでいる最先端の研究成果を紹介するとともに、今NTTが考えていること、想像している未来、そして未来に向けて続けている努力などを少しでも感じていただこうという趣旨で行われました(写真5)。
17日には、NTT研究企画部門 IOWN推進室 川島正久室長、ソニー株式会社 R&Dセンター コネクティビティ& RFセンシング技術領域 伊東克俊統括部長により「Into the IOWN — Beyond Human」をテーマにセミナーが行われました。IOWNのコンセプトの1つである「Beyond Human」について、処理にかかる時間を人間の応答速度とされる0。1秒に収めるため、センサがとらえた情報から必要な部分だけを抽出し届ける「次世代データハブ」の技術が紹介されました。IOWNのもう1つのコンセプト「Remote World」からは、NTTとSONYの共同研究から生まれた「観戦アシストシステム」が紹介され、超低遅延ネットワークIOWNを活用し、距離の壁を越えて熱狂できる空間をつくり出すコンセプトと、それを支える技術についての解説が行われました。そして「Into the IOWN」では、IOWNを実現する技術として高効率・低消費電力を実現する「光ディスアグリゲーテッドコンピューティング」、および快適にネットワークに接続し続ける「エクストリームNaaS」が紹介されました。
18日には、NTTデジタルツインコンピューティング研究センタ 中村高雄センタ長、『WIRED』日本版 編集長 松島倫明氏により、「デジタルツインの先へ ? Digital Twin Computing」と題してセミナーが開催されました。モノやヒトのデジタル世界への写像であるデジタルツインは、現在は産業ドメインごとに分割され進展していますが、本セミナーではモノ・ヒトなどのデジタルツインを統合することで多様な仮想社会を構築し、新たな価値を創出する計算パラダイムである「デジタルツインコンピューティング構想」を解説しました。また関連技術として、渋滞を軽減する高精度な車両位置情報のリアルタイム集計技術、ヒトのデジタルツイン実現に向けた研究開発への取り組みについて、「外面・内面をモデリングする技術」「理解する技術」「思考する技術」「表現する技術」「人の集団を再現する技術」の5側面が紹介され、今後はさらに脳科学や心理学、行動経済学など多角的なアプローチが必要であることが報告されました。セミナーの後半には「感性コミュニケーション」「Another Me」「未来社会探索エンジン」「地球と社会・経済システムの包摂的な平衡解の導出」の4つのグランドチャレンジも発表され、今後も振れ幅の大きく「尖った」研究を続けていくことを宣言しました。
19日には、NTTセキュアプラットフォーム研究所 中嶋良彰主席研究員、NTTネットワーク基盤技術研究所 濱野貴文主幹研究員、慶應義塾大学大学院KMD研究所 リサーチャー/株式会社パロンゴ 取締役兼CTO 林達也氏により、「Smartな世界をめざした安心・安全な社会基盤の確立」をテーマにセミナーが行われました。今後はモノだけでなくヒトも含めたデータをサイバー空間で分析し、物理空間にフィードバックすることで両空間が融合した今までにないスマートな世界が到来すると予想されます。一方でさまざまな要素がネットワークに接続されることにより攻撃のターゲットが増加するとともに、攻撃を受けた場合の損害も重大なものとなる危険性があるため、従来の「後追い型」ではない「先回り型」の新たなセキュリティ技術が必要とされていることを踏まえ、モノやヒトの構成や状態をサイバー空間上でとらえ、空間的・時間的に分析することで、ドメインをまたいだ感染拡大を発見し、その予兆や感染の原因特定を実現する技術を紹介しました。そして、スマート農業を例として、貴重な栽培ノウハウの流出、不正な制御情報配信による栽培の妨害などからデータを守るIoT(Internet of Things)認証認可技術が紹介されました。また、5G(第5世代移動通信システム)サービスが開始され、接続デバイスおよび通信量の増加が見込まれる中にあっても超低遅延な通信を可能とする「専用コアネットワーク」という考え方も紹介されました。
20日には、NTT研究企画部門 プロデュース担当 林勝義チーフプロデューサー、慶應義塾大学 医学部 教授 宮田裕章氏により、「健康で将来に希望を持つことのできる、輝く“医療の未来”へ〜ICTとWell-being、Human Co-being〜」と題してセミナーが行われました。セミナーの直前、NTTは「医療健康ビジョン:バイオデジタルツインの実現−心身の状態の未来を予測し、人間が健康で将来に希望を持つことのできる輝く“医療の未来”へ−」を発表しました。本セミナーはその内容を解説するものであり、研究の3つの視点、「(1)データを取る」では、ウェアラブルセンサデバイスから電波を照射して血中のグルコーストレンドを可視化する技術、「(2)行動をフィードバック」では生体信号である筋電を取得後、解析してフィードバックする技術、そして「(3)未来を予測」では自分の将来像をデジタル世界に創出することで現在の自分の行動を見直し、より良い未来を迎える手助けをする、という研究が紹介されました。
これらの基調講演、特別セッションの詳細は、本誌特集記事をご参照ください。
以上のとおりNTT R&DやNTTグループの取り組みを紹介し、お客さまからは好評をいただきました。

研究成果展示

今回は、8つの展示テーマ「[特別カテゴリ]IOWN Key Tech­nologies」「ネットワーク」「AI」「セキュリティ」「データ活用・管理」「メディア・デバイス/ロボティクス」「環境エネルギー」「基礎研究」を掲げ、83件の最新の研究開発成果をバーチャル展示スペースにて紹介しました。また、NTTグループで取り組んでいる技術やパートナー企業とのコラボレーション成果について展示し、基礎研究分野から商用化に至った技術まで幅広く紹介しました。

■IOWN Key Technologies

「IOWN構想」を実現するために策定した技術開発ロードマップの主要技術を、その価値を実感できるユーザ体験と併せて紹介しました(図1)。「拡張性・柔軟性の高いオールフォトニクス・ネットワーク構成技術(I01)」では、多様なプロトコルスタックを収容可能な大容量光パスをダイナミックに提供することによるリモートプロダクション、インフラ共用などの新たな顧客体験を創造する最新技術を紹介しました。この技術によって、光インタフェースと大容量光パスがつくり出す新たな世界の可能性を提示しました。また「光ディスアグリゲーテッドコンピューティング(I05)」では、CPU・GPU・FPGA等の計算資源を光電融合技術で密接につなぐことによって、計算資源を効率的に利用し、電力効率の向上を実現する最新技術を紹介しました。

■ネットワーク

スマートな社会基盤を実現する、光・無線による革新的ネットワーク技術や高度な制御・運用技術を紹介しました。「OAM-MIMO無線多重伝送技術(N04)」では、5Gの先を見据えて、増加する無線トラフィックへの対応に向けたテラビット級無線伝送技術を紹介しました(図2)。また「農機レベル3自動走行の実現に向けたネットワーク・情報処理技術(N06)」では、遠隔監視・制御によるロボット農機の安全&効率的な無人自動走行に向けた技術を紹介しました。IOWNの要素技術として無線品質予測、オーバーレイネットワーク、映像転送、画像解析、ネットワーク協調デバイス制御が使われています。

■AI

人や社会の活動を支援することによって生活を豊かにし、新たな価値を創造する AI(人工知能)関連技術「corevo®」を紹介しました(図3)。「デジタルツインコンピューティング技術(A01)」では、IOWN構想におけるデジタルツインコンピューティングや、ヒトのデジタルツインの実現を通した高度に相互作用する仮想社会と、その仮想社会との融合により拡張する実世界の世界観を紹介しました。また「リモートワールド時代のメディア処理デバイス技術(A15)」では、ユーザの周囲の音空間を高度に制御し、知らせたい音・聞かせたい音だけを届けるパーソナライズドサウンドゾーンを実現する技術を、「エッジコンピューティング環境を想定した非同期分散型深層学習(A20)」では、現在の深層学習が1カ所に集約したデータからモデルを学習させることが一般的なのに対し、近い将来に想定されるデータの分散蓄積(エッジコンピューティング環境)下の機械学習モデルをセキュアに最適化する手法とデモを紹介しました。

■セキュリティ

複雑化するサイバー攻撃からSmart Worldを適切に保護し、安全なデータ流通・活用を支えるセキュリティ応用技術、および将来を担う暗号技術を紹介しました(図4)。「NTT耐量子計算機暗号(S05)」では、国際標準化コンテストの最終選考に残っている公開鍵暗号基本技術で、量子計算機でも破ることができないNTTの次世代暗号を紹介しました。

■データ活用・管理

膨大かつ複雑なデータを高速に処理し、業界や地域の壁を越えた複数プレイヤがデータを自由に活用可能とする技術について紹介しました(図5)。「業務のデジタル化を実現するデータ活用・分析技術(D02)」では、行政や金融機関など窓口業務に従事するスタッフの生産性とユーザ利便性向上を実現するデータ活用・分析方法により、業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現し、ウィズコロナにおける顧客接点をデジタル化する技術を紹介しました。また「4Dデジタル基盤TMの全体像(D06)」では、高精度で豊富な意味情報を持つ「高度地理空間情報データベース」上に、多様なセンシングデータを精緻・リアルタイムに統合する4Dデジタル基盤TMの全体像を紹介しました。

■メディア・デバイス/ロボティクス

サイバー世界のデータを活用し、その人の持つ能力を最大限に活かせる社会の実現に向け、新たな「ライフ環境」を創出する仮想現実・拡張現実技術と、あらゆるものをシームレスに結ぶヒューマンマシンインタフェース技術を紹介しました(写真6)。「能力支援・拡張を実現するサイバネティックス技術(M01)」では、人の運動制御による生体信号の取得・解析とフィードバックにより運動能力を支援・拡張し、なりたい自分を見つける技術、また「遠隔観戦の熱狂を向上させる『観戦アシストシステム』(M02)」では、スポーツやコンサートの遠隔からの観戦・視聴において、熱狂感や一体感、観戦者どうしの相互作用による対話性の向上を図り、距離を超えて観客どうしの熱狂が共有できる空間を実現する技術を紹介しました。

■環境エネルギー

地球環境の再生と持続可能かつ包摂的な社会の実現に向け、地球環境の未来を革新する環境エネルギー技術を紹介しました(図6)。「核融合炉の最適オペレーション技術(E02)」では、国際核融合実験炉(ITER)の実現をめざし、IOWN技術(オールフォトニクス・ネットワーク、デジタルツインコンピューティング)の活用によって、核融合炉からの各種センサデータをコントロールセンタへ超高速かつ低遅延で伝送し、アクチュエータにフィードバックするネットワークを実現することで、核融合の安定運用への貢献をめざします。今後はデジタルツインコンピューティングの活用によるサイバー空間上での核融合炉再現を通した高度なシミュレーションも実施する予定です。また「落雷制御・充電技術(E03)」では、多雷化時代を見据え、雷を制御し人や設備を落雷から守るとともに、雷エネルギーの利用も実現する技術を紹介しました。

■基礎研究

革新的情報処理技術、先端的デバイス技術、物質材料技術、医療・バイオ技術に関する研究開発など、社会に変革をもたらす基礎研究を紹介しました。「テレ聴診器:装着型音響センサによる遠隔聴診と生体音の可視化(B01)」では、検査着に多数の音響センサを仕込むことで、生体活動に伴う音を同時多面的かつ高品質に受信端末に送信、また音から心臓の動きを表す動画の生成や所見文章の作成などの情報変換(可視化)により、オンライン診療や健康のセルフケアを支援する技術を紹介しました。また「ウェアラブル生体・環境センサを用いた暑さ対策システム(B02)」では、ウェアラブル生体・環境センサを装着した作業員を遠隔監視、暑熱による体調不良リスクを個人ごとに推定してアラートする技術を紹介しました(写真7)。

フォーラムを終えて

今回は初めてオンラインによる一般公開の開催となり、2万名を超えるお客さまにご視聴いただきました。オンラインでのR&Dフォーラムとして、これまでご招待にて来場いただいておりましたグループ社員の皆様に加えて、一般のお客さまからも注目されていると実感しています。加えて、アンケートあるいは実施後のお問合せ等にてNTTのR&Dに対する多くのご期待のお言葉をいただきました。皆様からのご期待に添えるよう、基礎研究並びに新技術の開発や展開により一層努力していきます。

基調講演(動画)、展示などは特設サイトに掲載しておりますのでご覧ください。
特設サイト:NTT R&Dフォーラム2020』 開催報告
https://www.rd.ntt/forum/2020/forum2020.html

(左から)森 俊介/家保 具太/細田 智久/恩塚 貴行/望月 崇由/日達 研一/向内 隆文/堀田 健太郎

問い合わせ先

NTT R&Dフォーラム事務局
E-mail rdforum-info-ml@hco.ntt.co.jp