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特集1

NTT R&D FORUM 2023 ― IOWN ACCELERATION

「NTT R&D FORUM 2023 ― IOWN ACCELERATION」開催報告

2023年11月14~17日の4日間にわたり、「NTT R&D FORUM 2023 ― IOWN ACCELERATION」を開催しました。本稿では本フォーラムの開催模様を紹介します。

NTT R&Dフォーラム事務局

NTT R&D FORUM 2023の概要

2023年3月にサービスを開始したIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)は、さらなる進化に向けて着実に歩みを進めています。「IOWN ACCELERATION」と題した今回のR&Dフォーラムでは、昨今さまざまな領域で注目されるNTT版LLM(大規模言語モデル)「tsuzumi」(2023年11月公表)をはじめ、IOWNの最新動向について紹介しました。
まず講演においては、NTT幹部が語る事業戦略や技術戦略をはじめ、社内外の有識者がグローバルでホットな技術テーマについて紹介する特別セッション、各界にて著名な登壇者が世界の未来像について語る未来セミナーの合計9つの講演をリアル会場にて実施し、オンライン会場においてもその模様を公開しました。
また技術展示においては、NTT版LLM「tsuzumi」を柱とする技術を「IOWN Pick Up」として展示したほか、IOWN関連技術をその成熟度合いで「IOWN Now」「IOWN Evolution」「IOWN Future」の3つのタイムラインに分けて最新動向やデモによる実演を交えて紹介しました。今回はさらにタイムラインを分類した「次世代コンピューティング基盤」や「サステナブル技術」「APN」「次世代無線技術」など幅広い18のテーマに沿ったかたちで展示することにより、領域ごとの進歩がIOWN実現へと着実につながっている点も伝えました。
11月13日の内覧会には報道関係者の皆様をご招待し、さまざまなTV番組やメディアにて開催模様を放映いただき、新聞およびWebにも多数の記事を掲載いただきました。
11月14~17日においては、NTTがご招待しました国内外延べ約1万2000名の多数の来場者の皆様にリアル会場であるNTT武蔵野研究開発センタにお越しいただき大変ご好評をいただきました。加えて、オンライン会場も世界から約1万9000名の方にご覧いただき、大盛況の中幕を閉じました。
本稿では、「NTT R&D FORUM 2023 — IOWN ACCELERATION」開催の模様をお届けします。

基調講演

NTT代表取締役社長の島田明からは、未来に向けた新しいテーマに表した社会に貢献するNTTの姿と、IOWNとNTT版LLM「tsuzumi」がもたらす未来について、研究開発マーケティング本部長の大西佐知子からは、プロダクトアウトに加えマーケットイン視点でとらえた研究開発について講演を行いました。研究企画部門長の木下真吾からは、技術的な解説を盛り込んだIOWNとNTT版LLM、およびその相互作用について紹介しました。

■基調講演1:「挑む 人と地球のために」 NTT R&Dの取り組み

NTT代表取締役社長 島田明による講演は、NTTの新しく打ち出したテーマ「挑む 人と地球のために」を掲げ、社会が抱えるさまざまな課題の解決・人がよりよく生きるWell-beingな社会の実現という大きな目標を示すとともに、その達成の鍵となるのがIOWNとNTT版LLM「tsuzumi」であると述べて幕を開けました。
世界的な社会課題となっている労働力不足や環境・エネルギー問題をはじめ、少子高齢化、医療費増大などの難題をIOWNとNTT版LLM「tsuzumi」がどのように解決できるのか、さらにNTTがWell-beingな社会をめざすとは—NTTの技術が社会課題を解決する具体的な事例やパートナーと共創する未来像を紹介しました(写真1)。
IOWNについては、3月に商用化を開始した「IOWN 1.0」のオールフォトニクス・ネットワーク(APN)に続く「IOWN 2.0」以降の計画として、ネットワークからコンピューティングへとより内部へと光化を進めていくロードマップを改めて紹介し、来たる2025年の大阪・関西万博では、IOWNの技術を“体感”できるパビリオンにも注目してほしいと話しました。
また、現在世界的に注目を集める生成AIの分野に一石を投じるNTT版のLLM「tsuzumi」の商用化開始に向け確実な手ごたえを持って取り組んでいると語ります。そして、IOWNと「tsuzumi」が両輪で社会課題の解決、その先のWell-being実現へ大きく貢献するとし両技術が持つ大きな可能性を強調しました。
講演の最後に掲げたのは、「Innovating a Sustainable Future for People and Planet」のメッセージ。NTTが今後も人と地球のために挑戦し、イノベーションを生み出し続けることを宣言しました。
講演の詳細は本特集記事『「挑む 人と地球のために」NTT R&Dの取り組み』をご参照ください。

■基調講演2:IOWN ACCELERATION ~想像と創造~

NTT 研究開発マーケティング本部長 大西佐知子は、社会への実装が本格化し進化を続けるIOWNについて商用化の具体的な事例を紹介しました。「IOWN ACCELERATION~想像と創造~」と題した講演では、プロダクトアウト視点でのR&Dとマーケットイン視点でのR&D 両方の視点から、加速するIOWN構想とIOWN実現により創られていく新たな未来像を示しました(写真2)。
冒頭で「皆様にIOWNの芽吹きを感じてほしい」という言葉を投げかけ、「IOWN 2.0」以降、光電融合をはじめとする各領域の要素技術の進歩がもたらす通信のブレイクスルーへの道すじを示しました。また講演のポイントごとに、クイズ形式でNTTが培ってきた歴史的マイルストーンに触れ、NTTがなぜこのブレイクスルーを実現できるのか—その裏付けを示しました。
さらに、人が生きるための基礎と言われる衣・食・住にも触れながら、NTTが牽引する多種多様な分野の課題解決について紹介するとともに、人がよりよく生きる社会をつくるために必要な技術やソリューションはどのようなものかというマーケットイン視点からとらえ直したNTTの研究開発について示しました。
そして最後に、NTTが実現する“ワクワクするする未来”に向けて、人と地球にやさしいSocial Well-beingな価値創造をめざすという目標を示し、NTT技術へさらなる期待を寄せてほしいと締めくくりました。
詳細は本特集記事『IOWN ACCELERATION~想像と創造~』をご参照ください。

■基調講演3:「LLM+×IOWN」~IOWNの進展、NTT版LLMの誕生、そして2つの相互作用~

NTT研究企画部門長 木下真吾からは、11月に発表したNTT版LLM「tsuzumi」とIOWNの進展に加え、これらの相互作用について講演しました。「LLM+×IOWN」というキーワードを用いて、両技術を足し合わせる・掛け合わることにより大きく広がる可能性について技術的な解説を多く盛り込みながら語りました(写真3)。
LLM分野に新たな風を吹き込む「tsuzumi」が持つ、従来のLLMと一線を画す4つの特長「①軽量・低消費電力、②言語性能(特に日本語)が高い、③柔軟なカスタマイズ、④マルチモーダル」を可能にしている技術とその裏付けも含め詳しく紹介しながら、その抜き出た性能の高さをアピールしました。
またIOWNとの相互作用として、学習データを手元に置いたまま約100 km離れたデータセンタのGPUを利用する、遠く離れたデータセンタを1つのデータセンタとして利用するなど、物理的距離を超えてLLMの学習・推論を効率的に行うための計算リソースを組み合わせ最適化するという、LLMの飛躍的発展につながる実証実験を紹介しつつ、今後そのフィールドを世界に広げていく実験計画を明らかにしました。さらに東京発のスタートアップ企業として世界の注目を集めるSakana AI社との共同研究開始を発表し、今後の生成AIが進むべき方向性やアーキテクチャに対する考え方において、親和性の高い両社の連携がAI分野に大きな影響力を与える存在になることを示唆しました。
最後に、NTTの研究開発に受け継がれる「知の泉」の精神を振り返りました。研究開発の推進・研究成果の実用化・パートナー企業の皆様とともに実現する実社会への実装—これらを3つの「覚悟」として取り組む姿勢を示しました。
詳細は本特集記事『LLM+×IOWN~IOWNの進展、NTT版LLMの誕生、そして2つの相互作用~』をご参照ください。

特別セッション

特別セッションは、R&D FORUM 2023の目玉であるIOWNとNTT版LLM「tsuzumi」について、社内外有識者による世間でホットな3つのテーマを軸に今後の展望を掘り下げる講演となりました。

■特別セッション1:Data Drivenな社会を切り開くIOWN

日本オラクル株式会社から永椎裕章氏と深津吉聡氏をお招きし、データドリブンな社会を実現するためにIOWNとオラクルが果たす役割とその未来像について講演いただきました(写真4、5)。
永椎氏はオラクル社創業者の想いに基づく未来志向のビジョンから紹介し、そのマインドがさまざまな領域のデータ活用への挑戦と実績につながっていること、さらに再生エネルギーをはじめクリティカルな要件を求められる分野でも、オラクル社はデータドリブンな社会づくりへ貢献すると意欲を示しました。同時に、データドリブンな社会の実現にはIOWNの活用が欠かせないとして、高セキュリティ、大容量・低遅延通信によって実現されるパラダイムシフトに大きな期待を寄せていただいています。
続いて深津氏からは、実現性とフィージビリティの観点から「IOWN×オラクル」の具体的なソリューションを紹介し、NTTがIOWNを用いて実現する大容量・低遅延な通信基盤、それに対し世界最高のデータ管理技術を持つオラクル社が創出する、新たなソリューションへ前向きな考えを示していただきました。特にIOWNが持つ高いセキュリティ技術についても大きな期待を寄せていただいています。
最後に永椎氏は、NTTとオラクル社との今後のさらなるコラボレーションによる飛躍的な技術の進歩の先に「誰一人取り残されることのない社会」を創出していく意気込みを語りました。今後のNTTとオラクル社の共創に目が離せない講演となりました。

■特別セッション2:汎用AIはヒトと暮らす夢を見るか?~大規模言語モデル「tsuzumi」の研究開発~

特別セッション2の前半では、NTT上席特別研究員の西田京介がNTT版LLM「tsuzumi」の研究開発やその特長について詳しく紹介しました(写真6)。
NTT版LLM「tsuzumi」の研究開発を牽引する西田上席特別研究員は、講演に先立ち、講演の章立てが「tsuzumi」との対話で確定したという驚きの事実を明かし、「tsuzumi」の性能の高さを冒頭から存分にアピールしました。
さらに「あらゆる環境で人と自然に共生可能な汎用AIの思考エンジンを創り、人々のWell-beingを実現したい」という研究ビジョンを提示しました。講演の中では、「tsuzumi」に具体的な質問を交えたやり取りをお見せしました。さらに、AIを語るうえで避けられない「AIに規範をどう身につけさせるか」という問いについても「tsuzumi」は答えます。AIとヒトが共生できる世界に向けて「tsuzumi」が示した回答、課題感にこそ「tsuzumi」の高い性能が感じられるセッションとなりました。

■自然界に着想を得た新しい言語モデルの開発

さらに、特別セッション2の後半では、Sakana AIからDavid Ha氏とLlion Jones氏をお招きしました(写真7)。
世界的にも注目されているSakana AI社のDavid Ha氏とLlion Jones氏からは、言語モデルを中心としたLLMの今後の方向性についてお話いただきました。David Ha氏は、現在のLLMコミュニティ内で自身は少数派と断りを入れながらも「非常に大きなモデルがさらに大きくなったとしても、現実世界の複雑さをとらえることはできない」という考えを示し、会場を驚かせました。続けて、自然界からの着想を基に「人間のインテリジェンスは集団的な知性によるものが大きい」という観点から、1つの巨大なLLMとは異なる「状況に動的に適応しながら連携する」というLLM進化の方向性を示し、多様な特徴を持つLLMの連携がつくり出す知性への思いを語りました。
また、David Ha氏は日本という国自体のポテンシャルにも期待を寄せていると話します。日本がAI分野でも世界にその存在感を示すことができるか—Sakana AI社が日本に拠点を置く理由も含め熱量を持ってお話しいただきました。
続いてLlion Jones氏は、「tsuzumi」の強みとなっている「文字レベルモデリング」について詳しく解説しました。現在の英語を中心としたLLMの世界では、「文字レベル」「単語モデル」両方が利用されている状況を説明したうえで、「文字レベル」のモデルに移行していくべきであると強調します。さらに、AIの学習において、異なる言語間でも重複する構造を持つものがあるという意外な事実を挙げ、AI分野の未知なる可能性を改めて示しました。
両氏のお話しいただいた内容から、NTTとSakana AIが持つ今後のLLMがめざす姿や理想とするアーキテクチャに親和性を見出すことができ、日本語に強みを持つ「tsuzumi」の商用化、およびその後の展開に向けて大きな期待感じさせるセッションとなりました。

■特別セッション3:AI時代におけるニオブ酸リチウムフォトニクス

スタンフォード大学・NTT ResearchのBob Byer、NTT ResearchのTimothy McKennaの2名によるセッションでは、長い歴史や伝説ともいえるブレイクスルーにまつわるエピソードも交えた話題が展開されました(写真8)。
本セッションでは、もっとも多用途で機能的な光学材料の1つであるニオブ酸リチウム(LN)フォトニクスの歴史・背景から紹介し、LNのパイオニアBob Byerから、1960-1970年代の歴史「第一世代」について、続いて近年NTT Researchのチームを率いて技術革新と商業化を推進するTimothy McKennaから、1980年代以降の「第二世代」、続く「第三世代」を振り返るかたちで始まりました。
驚くべきは、「第一世代」の研究のさなかフォトニクス結晶を落とし破損してしまうことが、技術的ブレイクスルーにつながったという事実です。壊れた結晶をどうするか―その答えが近年の加工技術的躍進にもつながっていきます。そして現在、ナノメートル精度でのLNデバイスの製造が実現されたことにより、データセンタで高速・効率的な通信を実現するためLNが重要な役割を果たすと予測しています。さらに、TF(薄膜)LNフォトニクスは、来たるAIクラスタの規模と帯域幅ニーズ急増、フォトニクス市場のさらなる拡大、データセンタの需要・規模拡大によって、これまで以上に重要性が高まると予言します。2023年に市場に参入したばかりのTFLNの市場規模は、5年後には20億ドルを超えるとの驚きの解説も。LN分野を牽引する2人による終始笑顔のセッションとなりました。
最後に、TFNLの魅力と秘めた可能性について「ハードウェア面の課題を解決するために大いに貢献できる」と2人は期待を込めて語り、明るい未来に心を躍らせました。

未来セミナー

各分野で活躍されている著名な方をお招きし、それぞれの視点から未来像を語っていただきました。NTTの技術や取り組みと重ね合わせるお話しをいただくことにより、その未来像の輪郭は確かなものとなっていきます。3つのセミナーに共通するキーワードとして浮かび上がってきたのは「見えていなかったものが見えるようになる」です。

■未来セミナー1:技術革新による宇宙活用の未来

株式会社アクセルスペースの中村友哉氏が語るのは、衛星開発・利用の視点からの技術革新と宇宙からだからこそ見えるファクトの重要性、そしてこれからの人間と宇宙の関係性について講演していただきました(写真9)。
現在の宇宙ビジネスが世界的に急成長産業としてとらえられ、市場規模は2040年までに1兆ドルを超えると予測されている中、中村氏は衛星の活用がもたらす重要な要素の1つが「宇宙から見えるファクト」であると語ります。衛星画像の活用先はスマート農業だけではない―衛星から見た地球・宇宙の姿は、あらゆる分野で世界を正確にとらえ、よりよくしていくための重要なデータであり、エビデンスとしても機能すると中村氏は強調します。
また、衛星利用の目的からその開発・製造~打ち上げ~運用まで短期間かつワンストップで提供する新たな小型衛星事業を紹介し、このような取り組みが宇宙ビジネスとは離れた分野・業界へ衛星活用の可能性を広げ、「宇宙に民主化をもたらす」と語りました。
さらに中村氏からは、NTTのIOWNが推し進めている光通信が宇宙事業にゲームチェンジをもたらすほどのインパクトになると強い期待を寄せていただいています。NTTとスカパーJSAT社が協業するSpace Compass社とアクセルスペース社はまさに今光通信を宇宙に広げようとしています。中村氏は、今後もSpace Compass社が掲げる「次世代基幹通信ネットワーク」に向けて貢献するとともに、さらなる連携を深めたいと力強く講演を終えました。

■未来セミナー2:デジタル技術で未来の健康を考える~自律神経と腸内環境~

順天堂大学大学院医学研究科・医学部教授の小林弘幸氏をお招きし、医療が抱えるさまざまな課題への対策や技術の進歩がもたらす新たな解決法について、目から鱗の考え方も交えながら講演していただきました(写真10)。
小林氏は、データサイエンスの基本「見えないものを見える化すること」によって、私たちが「運」と思い込んでいるものさえ実は「科学」で立証できると話します。疾病や感染症のみならず、スポーツも科学で解き明かせるとの見解を、ゴルフの事例を示しながら解説し会場を驚かせました。また、医療やスポーツ科学において重要な要素とされる“再現性”という視点では、医療分野の遠隔手術などでも適用が進められているNTTの「運動能力転写技術」を挙げ、研究開発のレベルと技術が医療の世界にもたらす可能性を高く評価いただきました。
続いて話題は「健康とは何か?」へと展開し、そして健康な生活を送るために重要な要素が腸内環境であると話し、「ヨーグルトが腸内環境に良い影響を及ぼすのはなぜか?それはヨーグルトが“転校生”だから」というユーモアに富んだ解説も交えながら、健康な生活を送るうえでの腸内環境の重要性を説きました。
セミナー終盤では会場への問いかけも交えながら、人の健康的な生活を脅かすさまざまな問題に対する、悪循環に陥らない行動や考え方をご紹介いただきました。

■未来セミナー3:DXの先にある未来社会のビジョン

慶應義塾大学医学部教授の宮田裕章氏からは、DX化がめざすべき世界やIOWN構想実現の先にどのような未来を創ることができるのかというテーマを中心に講演していただきました(写真11)。
IT化が進み、検索エンジン等による情報収集が普及することで、“学ぶ”という営みは大きく変化したと振り返るとともに、昨今一般的な普及の様相をみせてきた生成AIは各分野で大きなインパクトを与えていると語ります。生成AIが課題整理も担いつつある中、人に必要なことは「未来を見て、そして技術を位置付けること」と宮田氏は話しました。また、生成AIやDXは、現在行っている作業を効率化するというよりも、今までできなかった理想的な姿を実現しようとする視点が重要だと語ります。
また、通信基盤の整備やSNSの普及を通じて、物理的距離を越えて互いに直接認識し共鳴できるようになってきた“つながり”にこそ価値があると強調し、NTTのIOWNによりさらにそのつながりは強まるのではないかと期待を寄せていただきました。
一方で、世界経済フォーラム(WEF)発表した「グレート・リセット」というキーワードを取り上げ、まさに今経済の位置付けや価値観の転換が訪れていると話します。その重要な局面において、従来の「最大多数の幸福」に代わる価値観として「最大“多様”の最大幸福」の必要性を主張し、IOWNをベースにしたデータ共有と「ともに生きながら未来を創る」というアプローチの重要性を示し講演を締めくくりました。

技術展示

■研究展示:IOWN Pick Up

研究成果や実用化、サービス開始などの発表を相次いで行った“今注目の”展示を集約した「IOWN Pick Up」。2023年11月に発表したNTT版LLM「tsuzumi」の研究開発にスポットライトを当て、NTTがこれまで培ってきた自然言語処理技術をはじめとする研究開発成果を結集した「tsuzumi」および言語にとどまらないさまざまなコミュニケーションの可能性を示しました。
(1) 大規模言語モデル「tsuzumi」
NTTが満を持して世界に示し、大きな注目を集める「tsuzumi」とはどういった技術なのか―展示『大規模言語モデル「tsuzumi」』では、その特長を「軽量で日本語が得意」「柔軟なカスタマイズ」の2つに分けて紹介。特筆すべきは、「tsuzumi」はローカル環境でGPU1枚でも動作が可能なほど軽量という点。言語学習データの質・量を向上させたことにより、消費電力・運用コストを大幅に削減しつつも国内最高峰の性能を達成しています。従来のLLMのように大規模な1つのLLMではなく、小さく賢いLLMが連携することにより、正しい答えを導き出すという考え方も示しました。また「tsuzumi」の汎用LLMをベースに「アダプタ」を適用するというかたちで、お客さまの要求や業界の特性に合わせてLLMを特化させるなど柔軟性も大きなポイントとして掲げています。これらの特長を活かしたさまざまなでの活用が期待できます(図1)。
(2) グラフィカルな文書を理解できる「tsuzumi」
さらに「tsuzumi」は言語を越えたコミュニケーションへも広がります。『グラフィカルな文書を理解できる「tsuzumi」』では、まるでLLMが“視覚”を持っているかのような「tsuzumi」について展示しました。テキストデータをベースにした従来のLLMに対し、この「tsuzumi」はグラフから手書き書類まで多様な形式の文書から状況を理解し正しい答えを導き出します。LLMがデジタル化されていない環境や状況でも人間との言語コミュニケーションを行う世界が見えてきます(図2)。
(3) 聴覚・音声を持つ「tsuzumi」
そして、「tsuzumi」は音によるコミュニケーションへと展開します。『聴覚・音声を持つ「tsuzumi」』では、音声をはじめとする情報を“聴覚”から読み取ります(図3)。テキストには表れない声色や語気など体調や感情などの非言語情報を読み取って人間に寄り添うコミュニケーションのかたちを提起しました。その他の展示においても、視覚のみならず“五感”あるいはそれを超える言語以外のコミュニケーションへ「tsuzumi」を展開した様子を紹介しました。

■研究展示:IOWN Now

「IOWN Now」では、ネットワークからコンピューティングへと歩みを着実に進めるIOWNの“今”を展示。さまざまな分野で活用が始まっているNTTの研究成果・要素技術を解説し、社会への大きなインパクトとともに伝えました。
(1) All-Photonics Networkを支える光・電子デバイス技術
「All-Photonics Networkを支える光・電子デバイス技術」では、IOWN2.0でもAPNを支えるさまざまな先端デバイスを発表。マルチコアファイバ、波長変換デバイス、1Tbit/s級デバイス、超広帯域光スイッチなどNTT研究所の技術を集約して開発したそれぞれの研究成果が、APNの「大容量」「低遅延」「低消費電力」実現の一翼を担います(図4)。
(2) 光電融合デバイス
そして、ネットワークのさらに微細な部分へも光を用いていくための研究開発「光電融合デバイス」の展示では、LSI(Large Scale Integration:大規模集積回路)に配置可能な小型光電融合デバイスを紹介しました。IOWNが「ネットワークからコンピューティングへ」と進み、電気信号を光信号に変換する機構を、ボード間→半導体パッケージ間→半導体パッケージ内へとより微細な接続部分に適用するための技術です。今後の ロードマップに計画されたIOWNの進歩「大容量」「低遅延」「低消費電力」に大きく貢献します(図5)。
(3) 建設機械の遠隔操作・現場環境の把握を実現するIOWN APN
加速するIOWNの可能性をより感じていただけるものとして、「大容量」「低遅延」「低消費電力」という特長を社会課題の解決に活かす様子を「建設機械の遠隔操作・現場環境の把握を実現するIOWN APN」の展示・動態デモで紹介しました。APNで現場の高精細な映像を低遅延に伝送し、人間の操作をリアルタイムへ現場へとリアルタイムにフィードバックすることにより精密な遠隔操作が可能となります。人手不足や技術者の安全な作業環境の確保など建築業界が抱えるさまざまな課題へ貢献できるAPNの有用性を示しました(図6)。

■研究展示:IOWN Evolution

「IOWN Evolution」では、日々進化を続けるIOWNによって切り拓かれる実現間近な未来像を皆様へ紹介。IOWNによるさまざまな社会課題解決とWell-being実現に向かうNTTの研究開発をご覧いただきました。
(1) オンデマンド型APNとネットワーク内映像処理技術
映像配信のあり方を革新する技術ともいえる「オンデマンド型APNとネットワーク内映像処理技術」では、2つの要素技術「光パスをオンデマンドに利用できる技術」「通信されるデータのまま映像処理を行う技術」を柱として、リアルタイム性の高い放送・配信サービスやインタラクティブな映像体験を実現する様子を展示しました。会場ではニュースや文化的遺産の紹介映像などを用いた映像処理のデモ実演とともに(図7)、カメラで撮影された映像を時間的・情報的損失なく視聴者に届けるだけでなく、視聴者が見たいカメラ映像を選べる時代の到来を示しました。また、放送局用の専用機器ではなくスーパーホワイトボックスを用いた通信側から制御できる技術であることも大きなインパクトとしてお伝えしました。
(2) 光ファイバ環境モニタリング
さらにIOWNは既存の設備を活かし、新たな価値創造につなげる方向にも展開しています。「光ファイバ環境モニタリング」では、地下に敷設された光ケーブルをセンサとして利用した振動解析技術を紹介。遠隔から豪雪地帯の除雪判断を行った世界初の例を展示しました。世界の多くの場所に敷設された光ファイバを通信用途だけではない、環境整備としてのインフラとして活用することにより、さまざまな地域課題解決への貢献が見込まれます(図8)。
(3) リアルの多様な見え方をとらえるハイパースペクトルデータ解析技術
「リアルの多様な見え方をとらえるハイパースペクトルデータ解析技術」では、ハイパースペクトカメラで撮影した画像から色彩変化予測を行い表現する技術について紹介しました。人間の目では捕捉することのできない視覚情報を可視化することにより、これまでの画像・映像に付加価値を与える可能性を大きく示しました。実演デモでは、2023年のパリコレクションでも用いられた、広範囲に光を照射し衣服の色の見え方を変化させるエンタテインメント分野での活用事例をご覧いただきました(図9)。また隣接する展示「メタレンズとAIを融合したハイパースペクトル撮像技術」では、果物の画像に対し糖度の違いを示す視覚情報を重畳することにより、果物の甘い部分を可視化するという事例(図10)を示し、多岐にわたる適用例を紹介しました。将来的にはハイパースペクトル画像でとらえたさまざまな色を正確に可視化することで、色を用いたさまざまな視覚表現・情報伝達を可能にできると考えています。
(4) リアル世界の体感を再現するXRスポーツ空間生成
五感で感じるバーチャル空間を実現する技術として「リアル世界の体感を再現するXRスポーツ空間生成」を展示しました。バーチャルで再現した空間と時間変化・音声・振動などの情報によって、リアルなスポーツ体験を提供する超高臨場メタバース空間「XRスポーツ空間」に関する技術(図11)に加えご覧いただいた動態デモでは自転車レースに参加する様子を紹介し、映像・音響・触覚をあたかも現実かのように再現した技術に多くの注目をいただきました(図12)。遠く離れた場所で開催されている国際大会に自分も参加し、選手とリアルタイムで“競走”できる世界も近づいてきました。

■研究展示:IOWN Future

「IOWN Future」では、NTTの技術が切り拓く新たな社会課題の解決について地球レベルの大きなスケールで示すとともに、人より良く生きるWell-beingな社会につながる未来を見つめた取り組みを紹介しました。
(1) 人工光合成
カーボンニュートラルが世界的な課題となっている中、植物が生育する営みに着想し研究開発を進めている「人工光合成」では、NTTの強みである「高品質な半導体光触媒」に、劣化抑制機能を持たせた保護層を適用することでCO2を削減する技術の進展について展示しました(図13)。この技術でNTTは世界トップクラスとなる「数百時間以上の連続動作」を実現しています。実演デモでは実際に光合成する様子を紹介し、大きな盛り上がりと実現に向けた期待を寄せていただきました(図14)。
(2) IOWNと未来の車
世界的にもさまざまな取り組みや技術開発が行われている車についても、未来を見据えた研究開発を行っています。社会課題を解決するのみならず、Well-beingにつながる車とは—「IOWNと未来の車」の展示では、IOWN Global Forumにおいても議論されている分野である「未来の車」、その未来像と実現に不可欠となるIOWNの光伝送技術や光電融合技術・コンピューティング技術の適用について示しました。安心・安全な運転のため全方位カメラ・センサなどの情報をフル活用しながら、より安全かつ楽しい車内空間を実現するのはもちろんのこと、生成AI搭載・低消費電力コンピューティングによる高機能化により、車を移動手段のみならず「生活を支えるパートナー」へと進化させ、快適かつ持続可能な未来をもたらす展示は大きな注目を集めました(図15)。

フォーラムを終えて

今回のフォーラムでは、NTTが牽引する研究開発が進展する中、IOWNの実現に向けた着実な歩みと、IOWNやNTT版LLM「tsuzumi」がもたらす新しい可能性について紹介しました。多くの皆様にNTTの最新技術と今後の展望、そしてさまざまなパートナーと共創していく未来像について、実感を持ってご覧いただけたと感じています。
これからもNTTは「人」と「地球」にとって豊かな未来創造をめざし、絶え間なく挑戦と革新を続けていきます。加速していくIOWNおよびNTTの研究開発に今後もご期待ください。

(後列左から)池田 篤志/藤原 正勝/大石 哲矢/芝 宏礼/唐澤 圭
(前列左から)白木 善史/兵藤 正樹/森 俊介/三反崎 暁経/馬場 大樹/横井 裕也/渡邊 貴則/高橋 慶太

◆特設サイト紹介
講演の様子・展示一覧は特設サイトからご覧いただけます.
特設サイト:「NTT R&D FORUM 2023 — IOWN ACCELERATION」開催報告
https://www.rd.ntt/forum/2023/

問い合わせ先

NTT R&Dフォーラム事務局
E-mail  rdforum-info@ml.ntt.com

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