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2025年5月号

from NTTファシリティーズ

目視での建物点検を画像異常検知AIで代替するための共同検証

NTTファシリティーズとLiLz株式会社(リルズ)は、施設所有者・管理者が直面する施設管理技術者の担い手不足や労務費高騰などの課題に対応するため、リルズの提供する画像異常検知AI(人工知能)「LiLz Guard(リルズガード)」を活用した検証プロジェクトを共同で開始しました。このプロジェクトは、2024年12月から東京・大阪エリアの管理建物13件を対象に、従来の目視点検業務の一部をAIによる代替をめざす国内初の試みです。本検証を通じて、2025年度からの本格運用を視野に入れた取り組みを展開し、建物点検のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進します。

建物維持管理における現状の課題

建物維持管理業界では、担い手不足と業務負担の増大が継続的な課題となっています。従来の目視点検は技術者の知識と経験に基づいて行われていますが、熟練技術者の不足、特に高齢化や新規担い手の減少により、建物点検業務の効率性と精度維持が難しくなっています。以下に建物点検業務の課題を述べます。

■人的負担の増大

目視点検は、膨大な設備や施設全体の状態を人の五感によって確認するため、点検業務に多くの時間を要します。さらに、建物維持管理業界では労働力不足が深刻化しており、点検者の負担が増加しています。点検業務は人の五感によるという性質上、DX(デジタルトランスフォーメーション)化による代替が難しく、効率化が進まないという構造的な課題も存在します。

■ミスや見落としのリスク

人的な作業には常にミス・エラー発生のリスクが伴い、特に劣化状態や経年変化など、微細な異常を見逃す可能性があります。これにより、設備の劣化が進行する一方で、トラブルの発見や対応が遅れるケースが生じています。

■運用コストの増加

技術者が建物の目視点検を行えるようになるにはある程度の経験と時間を要しますが、こうした経験を持つ熟練技術者の不足や労務費の高騰が、維持管理業務全体の運用コストを押し上げる要因となっています。このような状況は、企業や施設所有者にとって大きな負担をもたらしています。
こうした状況において、IoT(Internet of Things)技術やAI(人工知能)技術の進化に伴い、これらの課題を解消するためのソリューションが登場しつつあります。特に、画像異常検知技術のような新たなアプローチは、点検業務の効率化と品質向上を同時に実現する手段として注目されています。

共同検証の概要と目的

検証プロジェクトは、NTTファシリティーズとLiLz株式会社(リルズ)の協力により、建物点検業務のDX化を目的として実施しています。本プロジェクトは、以下の具体的なステップを含む段階的な実証を行っています。

■初期実験(2023年度)

NTTファシリティーズは、2023年度よりリルズと共同で、建物日常点検の、リルズの提供する画像異常検知AIである「LiLz Guard(リルズガード)」への代替検証に取り組んできました。維持管理現場の疑似環境としてモデル設備機械室でリルズガードの性能試験を実施しました。性能試験において異常状態を検知することができた日常点検項目は以下のとおりです。
・防火シャッター等付近の閉鎖障害物
・給水・汚水制御盤等のランプ故障・不点灯
・照明器具の不点灯個所
・配管・ドレンパン・設備機器等からの漏水
・天井、壁、床や設備機器等の外観破損・剥がれなど
検証の結果、技術者の目視精度以上(検出率97%)で異常を検知し、ビル運営の管理品質向上に寄与できることが確認できました(図1)。

■「リルズガード」の管理建物への導入

2024年度には、首都圏および関西エリアの13棟の管理建物を対象に、「リルズガード」を実運用環境に導入し、人による点検の異常検知率とAIによる異常検知率の有効性を比較検証し、現場環境下での信頼性と性能の評価を行っています。これらの検証データに基づき、システムの最適化と運用体制の整備を行い、2025年度からの本格運用開始をめざしています。
これらの検証は、熟練技術者による目視点検業務をAIで代替し、省力化と高精度化を同時に実現することを目的としています。また、迅速なトラブル対応や異常の早期発見を通じて、安全性と運用効率の向上をめざします。

検証に採用した画像異常検知AIの技術的特長

共同検証では、「導入の初期コストが抑制できること」「運用時のカメラ自体のメンテナンス作業の負担が少ないこと」「広範囲の建物設備に設置可能なこと」「点検用IoTカメラの初期設定に専門知識を要しないこと」を特長に持つ、「リルズガード」を採用しました。「リルズガード」の具体的な特長は下記のとおりです。

■点検用IoTカメラ

・LTE(Long Term Evolution)通信モジュールおよびリチウムイオン電池を内蔵しており物理的な電源ネットワーク工事が不要
・低消費電力設計により1日当り約3回の撮影頻度で充電なしで約3年間の継続使用が可能
・外部信号を受信し自動撮影機能を持つIoTカメラへの代替も可能
・外部信号受信機能を持っており外部からの撮影コントロールが可能

■育成型画像異常検知AI

・4枚の正常画像の学習により異常検知が可能な判定モデル(図2)
・異常画像の範囲や異常値の閾値をIoTカメラ単位に設定が可能
・撮影画像の学習データへの追加による異常検知精度が継続的に向上

■クラウドベースのインタフェース

・ユーザによるクラウド上での異常検知IoTカメラの初期設定(図3)

■異常通知機能

・外部連携用API(Application Programming Interface)により、メールやチャットツールでのさまざまな異常通知が可能

今後の展望

本共同検証の次なるフェーズとして、NTTファシリティーズ管理物件13ビルにおけるPoC(Proof of Concept)を踏まえ、2025年度内にNTTファシリティーズ管理建物への本格運用を開始する見込みです。検証期間中に収集された運用データを基に、改善点を洗い出すとともに、最適な運用体制の構築をめざします。
また、目視以外の五感代替ソリューションも、本共同検証によって段階的に実証を進め、順次導入をめざしていきます。これにより、従来の人手による点検では把握しきれなかった異常状態の監視が可能となり、従来の人手による点検に代わる新たな手法の実現が期待されます。

おわりに

NTTファシリティーズは、これまで技術者のノウハウに支えられて提供してきた安心で安全なサービスを今後も継続していくために、技術者の負担軽減とお客さまサービス品質の向上を両立させる建物維持管理のDXを推進しています。この取り組みにより、施設所有者や管理者が直面する課題の解決に貢献することをめざしています。
リルズとは今後も継続して共同検証を進め、五感点検を代替するIoT・AIソリューションの開発・提供を進めることで、建物維持管理業界の課題解決に貢献します。

NTTファシリティーズ
経営企画部 広報担当

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