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2025年8月号

特別企画

標準化・知的財産の一体的活用の戦略的な取り組みで知財経営を積極的に推進

NTTドコモは、知的財産(知財)の取り組みである「標準化と知財の一体的活用」の功績が認められ、「内閣総理大臣感謝状」を通信企業としては初めて受賞しました。本件の内閣総理大臣感謝状は、2025年が産業財産権制度140周年の節目にあたることから、産業財産権制度の普及・発展に極めて顕著な功労や功績があった企業などに特別に贈呈されたものです。本稿では、本賞の対象となった「標準化と知財の一体的活用」の取り組みについて紹介します。

森本 彰人(もりもと あきひと)/角田 克典(つのだ かつのり)
NTTドコモ

受賞の対象となった「標準化と知財の一体的活用」の取り組みにつ いて

NTTドコモは、モバイル通信技術の国際標準化*1が加速した3G(W-CDMA:Wideband Code Division Multiple Access)から現行の4G(LTE:Long Term Evolution)、5G(NR:New Radio)に至るまで、世界の主要プレイヤと連携して国際標準化をリードし、自社で培った最新モバイル技術を利用したビジネスの早期導入を図りつつ、国際標準必須特許*2も確保し、事業で活用していく計画・戦略を長中期で継続し、かつ強化してきています。この活動を通して、NTTドコモは、5Gの国際標準化に関する寄書数(技術提案数)では、国内首位、世界13位(基本仕様であるリリース15では世界10位)となっています。
また、NTTドコモは、経営・事業に関して、国際標準化にはサービス・ブランド・コストの3つの意義があり、「標準化と知財の一体的活用」で取得した国際標準必須特許はこれら3つの意義を戦略的に実現する基盤として必要不可欠と考えています。
なお、コストの観点では、ライセンスによる研究開発投資の回収、事業の知財リスク抑制、製品調達価格の低減などに国際標準必須特許を活用しており、経営・事業への多面的な貢献を図っています。

*1 国際標準化:世界の異なるメーカの製品間で相互運用を可能とするため、業界内で統一規格を作成する取り組みのこと。
*2 国際標準必須特許:国際標準規格に準拠した製品の製造・販売やサービスの提供を行う際に必ず実施することとなる特許のこと。

「標準化と知財の一体的活用」に関する主な取り組み

■経営戦略:ドコモグループ中期戦略で経営目標として明示

2021年10月に公表された「新ドコモグループ中期戦略」において、「6G時代においても標準化で世界をリードし必須特許を獲得」することを経営目標として掲げ、「標準化と知財の一体的活用」をさらに強化していくことを明確化しています(図1)。

■体制:組織横断的な標準化・知財体制を整備

CTO(Chief Technology Officer)/CSO(Chief Standardization Officer)を含む経営層のリーダーシップのもと、R&D部門と知財部門の要員が標準化の成果を国際標準必須特許として組織横断的に漏れなく取得し、経営・事業部門と連携しながら戦略的に活用していくための体制を整備しています(図2)。

■標準化の実績:3GPP標準化をリード

3Gから現行5Gまで世界の主要プレイヤと連携して国際標準化をリードし、自社で培った最新モバイル技術を利用したビジネスの早期導入を図るため、NTTドコモは国際標準化に精力的に取り組んでいます。NTTドコモの技術者が3GPP(3rd Generation Partnership Project)における、日本初のワーキンググループ議長に就任するなど、日本企業として、モバイル通信の高速化・低遅延・多接続を可能とする多数の要素技術や、全体方式の策定を主導し、標準化活動を国際的にリードしています。
上記のモバイル通信の取り組みへの注力の表れとして、「標準化と知財の一体的活用」で創出された3Gから5Gの基本技術は、国際標準必須特許となっており、国産技術の世界的普及・標準化の観点から意義があるものとなっています。
また、日本は地震、台風等の自然災害が特に多い国の1つであり、本知財活動で取得した特許には、緊急速報システム「エリアメール」など日本特有の事情に基づくため、国として国際標準への採用を強く求める必要がある技術に関するものも含まれています。これらの特許も国際標準必須特許となっており、本知財活動は、日本および事情を同じくする国々における国民の皆様の安心・安全確保の観点でも意義があるものと考えられます。
その結果、3G・4Gでは、携帯電話システムにおける無線アクセス制御技術の開発に関し、NTTドコモ技術者が紫綬褒章を受賞しました。5Gでは、5G基盤技術を国際標準化し、5G基盤技術の発明で令和5年度全国発明表彰「発明実施功績賞」、「内閣総理大臣賞」を受賞しています(図3)。

■知財の実績:世界でも上位の必須特許を保有し、活用

「標準化と知財の一体的活用」に関する知財活動で取得している国際標準必須特許は、世界全体で利用されるモバイル通信技術にかかわるものであるため、PCT(Patent Cooperation Treaty:特許協力条約)出願制度*3を活用し、日米欧中を含めた海外最大61カ国でのグローバルな出願・権利化を実施しています。
国際標準必須特許については、特許の権利範囲を標準規格と合致させる必要があるため、標準化完了まで権利化を避ける必要がありますが、完了後は活用のため、早期権利化が重要となります。このため、PCT移行のタイミングを調節し、早期審査制度も適宜活用するなど、権利化タイミングをコントロールしながら、早期の権利取得を図る社内プロセスを整備しています。
そのほか、日本・外国特許庁における円滑な出願審査をサポートするため、モバイル通信の国際標準化や技術の最新動向に関する説明会を開催するなどの取り組みも進めています。
その結果、5Gの標準必須特許シェアにおいて世界有数の地位(通信事業者としては世界首位)を確保しています。高い標準必須特許シェアは、NTTグループの技術力が世界レベルであることの証明であり、投資回収や事業優位性の確保に資するだけでなく、グループ全体のブランド力向上にも寄与しています。
また、NTTドコモが「標準化と知財の一体的活用」の取り組みで取得した国際標準必須特許は、全世界で利用されるモバイル通信の基本方式にかかわるものであり、国内外の通信関連企業の多くが利用しています。
NTTドコモは国際標準必須特許を対象とするライセンス事業を展開し、個別ライセンスまたは特許プールを通じ、公平、合理的、かつ非差別的な条件でライセンス供与を実施しており、海外の大手ベンダとライセンス契約を締結し、ライセンス収入の確保に活用しています(図4)。

*3 PCT出願制度:1つの出願願書を条約に従って提出することによって、PCT加盟国であるすべての国に同時に出願したことと同じ効果を与える出願制度のこと。

「内閣総理大臣感謝状」贈呈式の模様

2025年4月18日に「内閣総理大臣感謝状」贈呈式が開催されました。NTTドコモのほか、同じく「内閣総理大臣感謝状」を受賞した旭化成株式会社、株式会社ブリヂストンなどの代表者が出席しました。NTTドコモ前田義晃社長が石破茂総理大臣より感謝状を受領しました(図5)。
受賞に際しての前田社長のコメントは下記のとおりです。
『このたびは、「内閣総理大臣感謝状」を賜り誠に光栄に存じます。当社は「テクノロジーと人間力で、明日のあたりまえとなる価値を生み出すこと」を目標に掲げ、「標準化と知財の一体的活用」など、世界中のパートナーとイノベーションをリードする取り組みを進めております。今回の受賞を励みに、次世代の6Gモバイル通信技術の標準化など、明日のあたりまえを生み出し、社会を豊かにするさまざまな挑戦を続けてまいります。』
モバイル通信技術の国際標準化においては、3Gから5Gに至るまで国際標準必須特許の全体件数が急増しています。6Gにおいてもこの傾向は継続し、世界の主要プレイヤによる知財取得の競争激化が見込まれています。
また、2025年3月に3GPPにおいて6Gのワークショップが開催され、6Gの標準化に関する議論が開始されています。それに伴い、6Gの国際標準必須特許取得における世界の主要プレイヤとの競争が始まっています。NTTドコモは、NTTと連携して6G/IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)の研究開発およびサービス提供に向けた取り組みを進めており、次世代の6Gでも標準化で世界をリードし必須特許を獲得できるよう、R&Dと知財の標準化チームで一丸となって、6Gの標準化・知財を戦略的に進めていきます。

今後の展開

モバイル通信技術の国際標準化においては、3Gから5Gに至るまで国際標準必須特許の全体件数が急増しています。6Gにおいてもこの傾向は継続し、世界の主要プレイヤによる知財取得の競争激化が見込まれています。
また、2025年3月に3GPPにおいて6Gのワークショップが開催され、6Gの標準化に関する議論が開始されています。それに伴い、6Gの国際標準必須特許取得における世界の主要プレイヤとの競争が始まっています。NTTドコモは、NTTと連携して6G/IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)の研究開発およびサービス提供に向けた取り組みを進めており、次世代の6Gでも標準化で世界をリードし必須特許を獲得できるよう、R&Dと知財の標準化チームで一丸となって、6Gの標準化・知財を戦略的に進めていきます。

(左から)森本 彰人/角田 克典

NTTドコモは、NTTと連携して、世界に新しい社会価値を提供する基盤となるIOWN/6Gの実現に向けた取り組みを進めています。標準化と知財は、モバイル通信の最新技術を6Gとして世界に普及させる鍵になるため、関係者一丸で、社会を豊かにする「明日のあたりまえ」を生み出していきたいと思います。

NTTドコモ
知的財産部

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