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NTTグループの環境エネルギーへの取り組み

エネルギーの将来技術

エネルギーに関する事情は急激に変化しており、NTTグループでもその対応を進めています。それらに寄与するためNTTネットワーク基盤技術研究所では、エネルギー流通に関する研究を開始し、再生可能エネルギーを活用しつつ商用電力と同等の品質を維持して給電する電力サービス提供に向けた研究開発を進めています。本稿ではその概要と将来のエネルギー事業の推進について紹介します。

加藤 潤(かとう じゅん)/ 高田 英俊(たかだ ひでとし)

NTTネットワーク基盤技術研究所

日本を取り巻くエネルギー課題

限りあるエネルギー資源を今後どのように利用するかは世界中で課題となっており、ここ数年で情勢が大きく変化しています。特に日本を取り巻くエネルギー課題は、主に以下の3つがあげられます。
① 国際的な環境の枠組みへの対応(パリ協定など)
② エネルギーセキュリティ(海外へのエネルギー依存度の低減)
③ エネルギーにおける国土強靭化(災害に強いインフラ)
まず、日本の一次エネルギーの供給構成比率を図1に示します(1)。一次エネルギーとは人が利用するエネルギーのうち、石炭、石油、天然ガス、水力、原子力、風力、地熱、太陽エネルギーなど自然から直接採取されるエネルギーです。日本では東日本大震災以降の原子力発電稼働低減により化石燃料への依存が高くなり、約90%を石炭、石油、LNGによって賄っています。化石燃料を用いるとCO2排出量も多くなり、①の環境の枠組みへの対応が難しい状況となっています。
次に一次エネルギーの自給率について図2に示します。世界の各国と比較すると、自国のエネルギー使用量が多いが資源が乏しい日本の自給率は10 %以下です。国際的有事の際や将来的な資源枯渇時に一次エネルギー源を集めることが困難となり、動力や電力不足が発生すると想定されます。さらに、昨年の北海道や千葉で発生したブラックアウト*1や長期間停電など災害時に発生する電力供給の喪失を防ぐ必要があります。
これらの解決に向けて、日本全体の使用電力における再生可能エネルギーの割合を高めてCO2排出量低減とエネルギー自給率の向上を両立が必要であると考えます。

*1 ブラックアウト:地震や津波等の大災害時に発電所や送電線などが大きな被害を受けて、一瞬にして電力供給がなくなる状態。

図1 日本の一次エネルギー国内供給構成(2017年度)

図2 主要国の一次エネルギー自給率(2017年度)

NTTグループにおけるエネルギー事業とその研究開発

NTTグループは日本の約1%の電力を消費しており、エネルギー利用について大きな責任を持っています。また、環境・エネルギーに関する社会的課題の解決に取り組むため、グループの保有する既存の電話局や基盤設備、直流送配電や蓄電等のノウハウおよびICTプラットフォームを組み合わせた「スマートエネルギー事業」(2)を展開することを目的とし、エネルギー事業にかかわるNTTグループの統括会社として、2019年6月にNTTアノードエナジーが設立されました。NTTアノードエナジーの事業内容を図3に示します。今後NTTグループではグリーン電力発電事業、バックアップ電源事業、および電力小売事業などエネルギー事業に幅広く参入し、自社のエネルギーだけでなく他社への販売・サービスを実施する計画を立てています。また、太陽光発電・風力などの再生可能エネルギー、蓄電池、電気自動車(EV)関連など分散エネルギー基盤への投資も積極的に行うことも予定されています。
次にNTTネットワーク基盤技術研究所で行っているエネルギー分野の研究開発について紹介します。

図3 NTTアノードエナジーの事業内容

NTTのエネルギー研究

NTTのエネルギー研究の概要を図4に示します。私たちは研究の方針として、日本のエネルギー課題およびNTTグループのエネルギー事業拡大への貢献のため、直流技術や微小エネルギーを最大活用し、災害等による長時間停電でのネットワークと生活持続可能なシステム構築をめざします。
具体的には再生可能エネルギーを無駄なく使いこなし、かつ地域のエネルギー融通とレジリエンスを実現する「次世代マイクログリッド基盤技術」、日本全国に点在する数十万台レベルの電力リソースを監視・計測・制御し、現在他事業者でも実現できていない数秒以内に応動する数100 MWクラスの仮想発電機能を有する「仮想エネルギー流通基盤技術」、場所や状況による制限がない通信を実現する「微小エネルギー活用技術」などの研究開発に取り組んでいます。

図4 エネルギー研究概要

次世代マイクログリッド基盤技術

次世代マイクログリッド*2とは、地域におけるエネルギーの自給自足を促進し自治体・企業のBCPを支援するため、直流技術を段階的かつ安全に導入することで、低コスト・シンプルな地域マイクログリッドです。次世代マイクログリッドについて図5に示します。このグリッドではNTT通信ビルの蓄電池などのアセットを活かし、グリッド内で電力を融通します。またグリッド内の再生可能エネルギーや蓄電池で出力される直流電力と商用電力の双方の利点を備えて電力融通する直交流連系型のマイクログリッドの構築をめざしています。そこで、まず直交流連系をするために重要な要素である直流送配電システムのアーキテクチャ、および直流送配電の電気安全を確保するための研究開発に取り組みます。
(1) 直交流連系型のマイクログリッドアーキテクチャ
直交流連系型マイクログリッドのアーキテクチャを検討するため、直流配電線、蓄電池、パワーコンディショナ、電力変換装置等の特性を考慮し、各構成要素の応動速度や需要変動特性を考慮した負荷分担制御技術および電力融通制御技術を確立するなど、任意のエリアの需給者間で電力融通するための技術に取り組んでいます。また将来の革新的な情報通信ネットワークのアーキテクチャおよび近年の気候変動による商用電源信頼性の変化を考慮し、必要十分な安定性を備えたマイクログリッドアーキテクチャを確立するため、信頼度とTCO(Total Cost of Ownership)*3のバランス最適化方法を検討します。
(2) 直流送配電の電気安全技術
屋外への配電を想定した直流送配電システムでは、雷によるサージ電流・電圧の影響を受ける可能性が高いため対策が必要です。また直流送配電システムの経年劣化や不慮の事故の際、漏電が発生することも考慮する必要があります。このため直流送配電の電気安全技術として、実際のビルに検証システムを構築・データ取得し、直撃・誘導雷への対策技術、想定されるトポロジーでの事故点検出技術の確立をめざしています。
*2 マイクログリッド:既存の大規模発電所からの送電電力にほとんど依存せずに、エネルギー供給源と消費施設を持つ小規模なエネルギー・ネットワーク。
*3 TCO:機器やソフトウェア、システムなどの入手、導入から使用終了、廃棄に至るまでにかかる費用の総額。

図5 次世代マイクログリッド

仮想エネルギー流通基盤技術

仮想エネルギー流通基盤とは、人や街の活動と再生可能エネルギーの調和による脱炭素社会実現に貢献するため、全国規模の物理的エネルギーリソースと仮想的な発電・需要リソースを連携・制御するためのエネルギープラットフォームで、大手電力会社の送配電網の電力品質を維持しつつ再生可能エネルギー供給を受け入れるための基盤システムです。仮想エネルギー流通基盤について図6に示します。再生可能エネルギーによる発電量は気象状況などにより急激に変化するため、基盤内の蓄電・需要リソースの最適制御を行う大規模高速応動VPP(Virtual Power Plant)*4制御技術により電力品質を維持することをめざします。また需要量についても人流・物流や大規模イベントなどを考慮して予測する高精度需要予測技術に取り組んでいます。
(1) 大規模高速応動VPP制御技術
瞬時変化する再生可能エネルギーや蓄電池などの創蓄エネ機器群の入出力特性のモデリングと、ネットワーク装置等の電力需要群の入出力特性のモデリングから、瞬時に電力リソースの最適配分と制御を行う技術の確立をめざします。また全国規模の超高速ネットワークで連携して数100 MWの規模と電力品質制御にも対応できる応動性能を備えたVPPを構成する技術も検討します。
(2) 統合的エネルギー需給調整技術
さまざまな特性の電源や複数の需要家ポリシーに基づき、多様な要求タイミング・複合的な要求価値と調達可能な電力とを照らし合わせて要求レベルの最適化と需給マッチングを行い、数十万台の需給機器に対応できる大規模P2P電力取引技術の確立をめざします。
(3) 準リアルタイム需給予測技術
従来の気象情報を基にした太陽光発電・風力発電予測や電力エリアごとの需要予測を高精度化することに加え、NTTグループが保有する人流・物流データや社会的イベントの影響、EV等の要因によるローカルな需給変動まで準リアルタイムで予測する技術の確立をめざします。
*4 VPP:需要家側エネルギーリソース、電力系統に直接接続されている発電設備、蓄電設備の保有者もしくは第三者が、そのエネルギーリソースを制御することで、発電所と同等の機能を提供すること。

図6 仮想エネルギー流通基盤

微小エネルギー活用技術

微小エネルギー活用技術では、周囲にある微小なエネルギー(光、圧力等)から微小電力に取り出して蓄積し、ある程度の量になったら使用する「鹿威し」のようなシステムを検討しています。例えば、環境エネルギー問題の解決手段の1つとして、植物の光合成を模して、太陽光から有用物質を生成する人工光合成技術に取り組んでいます。本技術の確立に向け、これまで情報通信分野を支えてきた半導体成長技術や触媒技術を活用して、進めています。
(1) 光エネルギー高効率利用技術
オールフォトニクス・ネットワークにおけるレジリエンスの向上を目的に、微小エネルギーである光エネルギーを可能な限り高効率で安全に利用する技術を検討しています。通信とともに伝送された光エネルギーを分離し、他のエネルギー形態へ変換し、停電時における使用条件を考慮して効率的に利用するための基礎的技術を研究します。
(2) 微小創蓄エネ技術
振動や熱、静電気等の身の回りにある微小エネルギーを取り出し、密度を上げる微小創エネに関する基礎研究を行います。微小創エネ技術を利用し、エネルギーを人体に纏うための微小蓄エネ技術の研究を行います。衣類やベルト、メガネ、端末等の装具を活用したエネルギー蓄積・放出技術の研究開発を実施します。

IOWNについて

前述の研究開発において、エネルギーリソースの制御やオペレーションには高速、低遅延で高機能なネットワークが必須となります。現在NTTでは新たな世界を実現するIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想を提案し、その実現に向けて取り組んでいます(3)。 IOWNはネットワークだけでなく端末処理まで光化する「オールフォトニクス・ネットワーク」、サイバー空間上でモノやヒトどうしの高度かつリアルタイムなインタラクションを可能とする「デジタルツインコンピューティング」、それらを含むさまざまなICTリソースを効率的に配備する「コグニティブ・ファウンデーション®」の3つで構成されます。
大規模高速応動VPP制御で電力品質を維持するためには、エネルギーリソースの状態を常にリアルタイムで把握して制御するため、高速で低遅延で通信を行う必要があります。また数百万、数千万のエネルギーリソースを制御するためのオペレーションシステムも今までより格段に高機能なものが必要となります。このためエネルギー研究ではIOWNの重要なユースケースとしてエネルギーシステムの要件を検討し、新しいネットワークへの実装をめざします。

今後の展開

今後もNTTグループ各社と連携し、エネルギー事業拡大に貢献する研究開発を進めていきます。

■参考文献
(1) https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/
(2) https://www.ntt-ae.co.jp/pdf/press20191112.pdf
(3) https://www.ntt.co.jp/about/r_d02.html

(左から)加藤 潤/高田 英俊

NTTグループだからこそ実現できるエネルギー×ICTの技術創出で、人と街と自然が調和する世界の実現に貢献していきます。

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◆問い合わせ先
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環境基盤プロジェクト
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E-mail nt-kensui-mlhco.ntt.co.jp