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2025年11月号

特集1 主役登場

IOWN APN step3の普及展開に向けて

豊かな体験をユーザに届ける光のネットワーク

深谷 崇文
NTTネットワークサービスシステム研究所
ネットワーク基盤技術研究プロジェクト
主任研究員

光ネットワークは通信インフラの下支えをする領域であり、これまでもネットワークの大容量化およびコスト削減に貢献をしてきました。一方で、光ネットワークで増収は実現できるのかという課題は、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)APN(All-Photonics Network)が取り上げられる以前から、当時の上司や他研究所の方と議論していました。その答えがなかなか見つからない中、30代前半にサービス開発業務に携わることになり、お客さまと意見を交わすたび、ユーザまで光ネットワークを届けることができれば、付加価値のあるサービスを提供でき、増収も実現できるのではとたびたび考える機会を得ました。IOWN APN、特にAPN step3は、ユーザが必要とするときに光ネットワークを届けるというビジョンを実現できるのではと、期待をもって研究しています。
現在の光のネットワークは階層型で構築されてきており、ユーザに光ネットワークを届けるには複数のネットワークを通過する必要があります。一方でAPNはそれらの階層をなくし、光ネットワークをフラットに面的展開することが可能、すなわちこれまでの垣根を越えてネットワーク間の連携が可能になっています。APN step3の技術面での実現には、APN Controller (APN-C)/Photonic Gateway(Ph-GW)/Photonic Exchange(Ph-EX)を研究するNTTネットワークサービスシステム研究所、NTTアクセスサービスシステム研究所、NTT未来ねっと研究所などが連携し、これまでは各々実施していた技術議論を横通しで行うことにより、異なる価値観が組み合わされた相乗効果をネットワークに提供できると考えています。
私たちのグループで取り組んでいる伝送システムPh-EXの研究では、複数の光信号のチャネル番号(波長)を一括で変換することを可能とするうえで、キーデバイスとなるPPLN(Periodically Poled Lithium Niobate)の研究を推進するNTT未来ねっと研究所、NTT先端集積デバイス研究所、NTTデバイスイノベーションセンタとの連携も強化しています。APNでは、従来電気信号処理を加えながら実現してきた機能を、光の特性を活用してネットワークを実現します。それらの技術は一般には研究段階であるものが多く、PPLNにおいても同様の状態でした。しかしながら、APNの実現にあたっては重要な技術であるため、PPLN研究チームからシステム開発を担うネットワークイノベーションセンタまで研究所横断で連携体制を構築し、波長帯変換を搭載したPh-EXプロトタイプを実現しました。波長帯変換は複数の市販技術による実現も可能ですが、PPLNではそれらと比較し高効率に変換ができ、システムに実装してもネットワークに必要な光特性を満足できる可能性を示唆しました。これは、NTTがデバイスの基礎研究からシステム、ネットワークの研究を一連で実施しているため実現できたと考えています。
Ph-EXプロトタイプ含め、各研究所で一定のかたちをつくり上げたうえで、APN step3を構成する要素技術をまとめネットワークとしての機能実証をする際には、APN-CとPh-EX/Ph-GWのIF、Ph-EXとPh-GWの接続インタフェース、制御シーケンスなどを、実現したいシナリオに沿って一気通貫で整理し、ユーザ端末間で伝送品質を適切に確保できるかなど、各担当がそれぞれの情報を持ち寄りながら検討し、机上にて実現性を担保しました。実機を用いて実証する際には、物量が多いこともあり、ビルやフロアが異なる物品を接続するため、物品間を接続する光ファイバの特性を把握し、机上検討結果に照らし合わせながら実証を完遂させました。APN step3で得られる効果を示せただけでなく、机上だけでは見落としてしまう課題を抽出することもでき、APN step3の社会実装にまた一歩近づくことができたと考えています。
APNは複数の要素技術が組み合わさることで実現することができ、IOWNが提供するさまざまなサービスの基盤になります。デバイスからシステムまで一貫した研究開発が可能であるNTTならではのネットワークにより、豊かな体験をユーザに届けられるよう、検討を続けていきます。

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