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準天頂衛星みちびきに対応したドローンおよびNTTグループのAI技術を活用したスマート営農ソリューションの実証実験を開始

NTTグループ、ふくしま未来農業協同組合、(株)エンルート、日本農薬(株)は、準天頂衛星みちびきに対応したドローン(みちびき対応ドローン)やNTTグループの先進的なAI技術を活用したデータドリブンなスマート営農ソリューションの実証実験を行います。
本実証実験は、福島県南相馬市原町区鶴谷地区にて、福島第一原発事故に伴う避難指示の解除後、初めての稲作を2018年に再開した(株)アグリ鶴谷(つるがい)の農場で、福島県の水稲オリジナル品種「天のつぶ」を対象に実施します。なお、本実証実験の一部は、農林水産省「スマート農業技術の開発・実証プロジェクト」における実証課題として2019年3月に採択されました。

実証実験内容

(1) 概要
本実証実験は、就農人口の減少と地球温暖化に伴う気候変動という、日本の農業における2つの主な課題に着目し、その有効性を検証します。とりわけ、年々進む地球温暖化は、熟練農業従事者が有する施肥タイミングなどの経験則が通用しないケースや従来その土地ではあまり目立たなかった病害虫の増加など、今までとは異なった課題を引き起こすことが想定されます。
これらの課題に対応しつつ収量最大30%増と品質向上を目標に、「①スマート生育診断・追肥」「②スマート病害虫診断・対処」「③スマート病害虫予測・対処」について実証実験を行います(図)。
(2) 検証内容
① スマート生育診断・追肥
稲の収量・品質向上のためには、生育ステージを診断したうえでもっとも効果的なタイミングで追肥を行うことが有効といわれています。しかし、例えば、生育ステージの1つである幼穂(ようすい)分化開始時期の診断に際して、稲の茎を切断して観察するなど、専門知識と人手を要することが課題となっています。また、地球温暖化の影響などにより、各生育ステージの推定を経験則だけで行うことが難しくなりつつあります。
本実証実験では、みちびき対応ドローンなどで撮影した稲の画像を用い、生育ステージをNTTグループのAI技術で正確に診断し、もっとも効果的な追肥タイミングを特定します(本AI技術は、国際特許を出願済)。
② スマート病害虫診断・対処
従来、病害虫・雑草種類の診断や対処には、熟練した農業従事者や営農指導員の判断が必要となる場合がありました。本実証実験では、みちびき対応ドローンなどで撮影した広範囲に及ぶ稲の画像をAIで分析し、同判断を可能とする技術の確立をめざします。なお、本AI技術は、NTTグループが日本農薬(株)の協力を得て、スマートフォン撮影画像の分析ですでに実績のある技術を応用します。
③ スマート病害虫予測・対処
病害虫の被害を抑制するためには早期の対処が重要です。しかし、農薬散布準備に時間を要することや被害が急速に拡大する可能性もあることから、病害虫発生に関する予測技術の確立が強く望まれています。
本実証実験では、NTT研究所のAI技術「corevo®」の「多次元複合データ分析技術」や「時空間変数オンライン予測技術」を活用し、みちびき対応ドローンなどで収集した画像・位置情報や水温・地温(サーモグラフィカメラ活用)などと、NTTグループが保有する気象データや地図データなどを組み合わせて分析することによる病害虫発生予測技術を検証します。なお、稲作における病害虫発生予測技術が確立できれば日本初の取り組みとなります。

図 スマート営農ソリューションのイメージ

今後の展開

本実証実験で検証するスマート営農ソリューションについては、「天のつぶ」以外の水稲品種や稲以外の農作物への活用も視野に入れ、「福島発」で日本全国に普及させていくことをめざします。さらには、準天頂衛星みちびきの活用が可能な東南アジア地域など海外への展開も視野に入れます。

問い合わせ先

NTT経営企画部門
広報室
TEL 03-5205-5550
E-mail ntt-cnr-ml@hco.ntt.co.jp
URL https://www.ntt.co.jp/news2019/1904/190418a.html

パートナー紹介
準天頂衛星みちびきのサブメータ級測位補強の精度は誤差1 m以下

森 豊樹†1/ 松尾 英明†2
株式会社エンルート
開発本部長†1/開発本部長補佐 ソフトウェア開発部長†2


(左から)森 豊樹/松尾英明

現在、GPS等の衛星測位の誤差は3~5 m程度といわれていますが、みちびきのサブメータ級測位補強(SLAS)により、誤差1 m以下に位置情報の精度が向上します。これにより、ドローンの自動航行、農薬・肥料の自動散布をより正確に行うことができます。特に国内耕地面積の約4割を占める中山間地域では、GPS電波が山に遮られて位置測定に誤差を生じますが、みちびきにより精度向上を図ります。
エンルートはNTTと共同開発したみちびき対応ドローンを活用し、スマート営農ソリューションの実証実験に参加し、みちびき対応ドローンにおけるSLASに対応した基板とフライトコントローラを開発します。
その他のドローンの利活用では、老朽が社会問題化している橋梁、鉄塔、送電線などのインフラの点検業務の効率化や、作業員の不足解消や安全対策に寄与します。ドローンはまさに“空の産業革命”と喩えられるツールといえます。現行の法律では、ドローンの飛行は操縦者の見通せる範囲であることという制限がありますが、今後飛行精度・フェールセーフ機能の向上により、安全性を担保することで見通し外での飛行も可能となれば、ドローンの応用分野は飛躍的に広がります。
エンルートは、来る5G時代に対応し、広く社会に貢献できるスマートなドローン開発を推進していきます。

 

開発者紹介
NTTデータのスマート農業への取り組み

大川 英敏†1/ 吉井 洋平†2
NTTデータ
戦略ビジネス本部 食農ビジネス企画担当 課長†1/
第一公共事業本部 第一公共事業部 営業統括部 市場創造推進室 課長†2


(左から)大川英敏/吉井洋平

NTTデータは今回、営農支援プラットフォーム「あい作TM」とドローンの複数台運航管理ソフトウェアパッケージ「airpalette® UTM」の2つの技術要素で大きく貢献しています。就農人口は年々減少し、さらに65歳以上が6割を占めるなど高齢化が進んでいるため、農業分野のスマート化・自動化は避けられない課題です。
「あい作TM」は、PC・スマートフォン・タブレットから簡単に日々の栽培計画・栽培記録をデジタルデータとして残すことができ、JAなどの組合組織と生産者との連絡相談など、密なコミュケーションを実現する機能が充実しています。生育診断・病害虫診断などのAI機能や水位センサなどのIoTデバイスとの連携を行い、さらなる営農データの集約・活用を図ることで、営農力向上のみならず、産地営農の復興や高度化に寄与します。
「airpalette® UTM」は、簡単な操作で複数台のドローンを正確に自動運航する管制システムです。ドローンは目覚ましい技術発展を遂げており、農業でも生育状況把握や農薬散布等作業の省力化への貢献が期待される一方、操縦スキル習得や、複数台利用によるさらなる効率化にはまだまだ課題があります。本事業を通じて、「airpalette® UTM」の有効性が認められ、自動化されたドローンが日本各地の農家の方々の作業を支えることで、日本の農業発展に貢献することを願ってやみません。

 

研究者紹介
NTTのAI技術で病害虫の発生予測に挑戦します

納谷 麻衣子
NTTサービスエボリューション研究所
プロアクティブナビゲーションプロジェクト
研究員

「世界の食糧生産のうちその3分の1は病虫害や雑草害によって失われている」といわれているほど、病害虫による食糧被害は農業において深刻な問題です。また、日本の農業では就農人口の不足が懸念されており、被害を最小化して生産性を上げることが重要な課題の1つであると考えています。病害虫の発生時期は、前年からの気象条件や圃場の周囲の環境の変化といったさまざまな要素から影響を受けます。そのため、複数のデータの相関関係を明らかにし、病害虫の発生をモデル化することは困難といわれてきました。
NTT研究所では、人の行動分析・モデル化することをめざし、さまざまな研究開発を行ってきました。「多次元複合データ分析技術」「時空間予測技術」もその営みの中で生まれた技術です。本実証実験では、これまでNTTが人向けに培ってきたノウハウを基に、実際の圃場で収集したデータを用いて、病害虫の発生予測を実現することをめざします。
前述のように農作物に深刻な被害を与える害虫がいる一方で、果樹の花粉を運ぶことで次期の収穫の芽をつくる重要な役割を担っている益虫もいます。病害虫による被害は虫全体のイメージを損なう要因になり得ますが、適切に対処することで作物に与える被害を最小限にとどめることができます。本実証実験で得られた知見を基に、虫と人とが心地良く共存可能な社会の実現に貢献できることを願っています。