2026年4月号
For the Future
美容×テクノロジが生む新市場:ビューティテックの成長メカニズム(後編)
- パーソナライズスキンケア
- 診断
- 収益モデル

前編では、ビューティテックの注目される背景や市場の特徴、ビジネスモデルの変化を概観し、AI(人工知能)・画像診断、パーソナライズ化粧品、美容機器とアプリの連動、オンライン美容カウンセリングの4領域から整理しました。後編では、これら4領域における国内外の具体的事例を通じ、技術の実装状況を明らかにします。さらに収益モデルの違いや競争環境の構造的変化、日本企業の立ち位置を整理し、今後の方向性を考察します。
はじめに
前編では、ビューティテックとは何か、なぜ今注目されているのかといった背景や、市場の特徴、ビジネスモデルの変化について概観しました。美容という身近なテーマを使って、企業の顧客接点や価値提供のあり方を、AI(人工知能)・画像診断、パーソナライズ化粧品、美容機器とアプリの連動、オンライン美容カウンセリングの4領域から整理しました。後編では、前編で整理したビューティテックの概念や市場構造を踏まえ、それらが実際の事業としてどのように実装されているのかを、具体的な事例を通じてみていきます。日本を含む各国企業の動きや技術活用の方向性を、同じ4つの領域に沿って整理するとともに、事例ごとの収益モデルの違いや競争環境の構造的変化、日本企業の立ち位置、今後の展望について考察します。
ビューティテック活用の最新動向
ビューティテック市場では技術の実用化が進み、研究段階にあった技術が、実際のサービスや事業として定着しつつあります。本稿では、前編で整理した4つの領域を軸に、各領域においてどのような企業が、どのようなかたちで価値創出と収益化を実現しているのかに焦点を当て、日本を含む各国の具体的な事例を整理します。
なお、本稿で取り上げる事例は、前編で整理した4つの領域に基づき、表1に一覧化しています。以降では、この整理を踏まえながら、各領域における具体的な取り組みを順にみていきます。

■AI・画像解析による肌診断
AI・画像解析による肌診断の価値は、専門家レベルの診断を、いつでもどこでも受けられる点にあります。従来は、店頭で美容部員のカウンセリングを受けたり、皮膚科を受診したりする必要がありましたが、近年はスマートフォンを用いた画像解析によって、個人の肌状態をより詳細に把握できるようになってきました。
ここでは、店頭で高精度な肌診断を提供するフランスのLancômeの取り組みと、誰でも気軽に、時間や場所を問わず利用できる日本の資生堂「エリクシール」のサービスを紹介します。
(1) Lancôme(フランス)
L'Oréalグループの高級ブランドであるLancômeは、研究開発力とグローバルな顧客基盤を強みに、ビューティテック分野において先進的な取り組みを進めています。同社はAIと光学技術を組み合わせた肌診断サービス「Skin Screen」を展開し、2020年から世界30カ国以上で提供しています。店頭デバイスを用いた約20分の診断では、通常光・偏光・UV光の3種類の特殊光により、肌表面だけでなく隠れたシミや紫外線ダメージまで可視化します。シミ、シワ、毛穴、水分量など13項目を0~100点でスコア化し、その結果を基にビューティーアドバイザーが最適な製品やケア方法を提案します。この診断は、L’Oréalが20年以上にわたり蓄積してきた約1万6000(1)枚以上の肌画像データを用いて学習されたAIによって支えられています。
さらに2025年には「Longevity AI Cloud」を発表し、診断データを製品開発や成分研究と連動させる取り組みを強化しています。グローバルブランドならではの規模と研究資産を活かした点が、Lancômeのビューティテック戦略の特徴といえます。
(2) 資生堂(日本)
資生堂は、スキンケアブランド「エリクシール」において、2023年9月よりAIを活用した肌測定サービス「AIスキンアナライザー」を提供しています。本サービスは、資生堂が長年蓄積してきた皮膚科学研究の知見とAI技術を組み合わせ、無料で、かつスマートフォンから手軽に利用できる点が特徴です。
利用者は、簡単な質問への回答と顔写真の撮影を通じて、ハリやシミ、シワなど16項目の肌状態を可視化できます。2025年9月には測定結果を基にスキンケアのアドバイスや商品提案を行う対話型のAIチャット機能も追加され、診断結果の提示にとどまらず、利用者との継続的な関係構築を意識した設計が進められています(図1)。店頭に足を運ばずに利用できる利便性に加え、年間約56万人(2)が利用するなど、既存ブランドの顧客接点を起点に、データと対話を活用した関係構築へと発展させている点は、国内大手企業によるビューティテック実装の代表例といえます。

■パーソナライズ化粧品・スキンケア
人は28歳ごろから、肌の乾燥やハリの低下などを感じやすくなるといわれています。こうした変化の現れ方やタイミングは、生活習慣や肌状態によって人それぞれ異なります。
これまで、自分に合う化粧品やスキンケアを見つけるには、複数の製品を試したり、ビューティーカウンセラーの経験に頼ったりする方法が一般的でした。これに対し、パーソナライズ化粧品・スキンケアの価値は、試行錯誤を減らし、利用者の肌状態に合わせた製品を提供することで、効果と満足度を高める点にあります。ここでは、店頭での肌分析を起点に独自の進化を遂げてきた日本のポーラ「APEX」と、医療アクセス格差の解消をめざすインドのCureSkinの2事例を取り上げます。
(1) ポーラ(日本)
1989年に誕生したポーラのパーソナライズスキンケアブランド「APEX」は、2024年7月に新「APEX」シリーズとして刷新されました。ポーラ独自の技術「モーションスキャンテクノロジー」を用いた動画分析と肌カメラ分析によって、「365日、個肌対応」のブランドとして生まれ変わっています。
「モーションスキャンテクノロジー」は、カメラで撮影したわずか14秒の映像から肌に関する約170万個の特徴情報を抽出します。肌の動きの速さや方向などの特徴から、肌三層(表皮・真皮・皮下組織)の状態を、これまでポーラが蓄積した約2070万件(3)の肌データを活用しながら推測します。今の肌状態を分析すると同時に、今後表れやすい肌の変化の兆しまで推測できる点が特徴です。
こうした分析に基づき、フルイド(美容液・化粧水)全36種類、エマルション(乳液・クリーム)全24種類を含む6品目計75種類から、1人ひとりの肌状態に合わせてセレクトできるので、自分に合ったスキンケアを提案します(4)。2025年8月には肌分析技術を応用したパーソナライズメーク品も投入し、診断から提案、継続利用までを一体で設計する日本型パーソナライズの代表例といえます。
(2) CureSkin(インド)
一方で、CureSkinはインド・ベンガルールを拠点に2017年に設立されたデジタルヘルス企業で、都市部以外で専門医へのアクセスが制約されるという社会課題を背景に創業されました。肌写真をアプリにアップロードすると、独自のAIによる画像解析が行われ、その後40名以上の資格を持つ経験豊富な皮膚科医(Dermatologists)が診断内容を補完・監修しながら、個別の治療方針やケアプランを提示します。
このAI解析と医師監修を組み合わせたモデルは、単純な自動診断ではなく、人間の医療判断と連携したパーソナライズ支援を実現しています。これまでに170万人(17 lakh)(5)以上のユーザが肌や毛髪の健康改善の支援を受けた実績があり、実運用として一定規模の利用が進んでいることが分かります。また、医療資源へのアクセスが困難という社会課題に対し、テクノロジで現実的な解を提示する点が特徴です。
■美容機器とアプリの連動
美容は「美しく見せる」だけでなく、肌状態を正しく把握し、「予防的にケア」するという方向へ広がりつつあります。また、家庭向け美容機器も高度化が進み、アプリと連動することで、診断からケアまでを自宅で完結できる設計が現実のものとなってきました。ここでは、韓国最大級の化粧品企業であるAmorepacificと、美容機器とアプリの連動を進める日本のヤーマンを例に、家庭内デバイスを起点とした事例を紹介します。
(1) Amorepacific(韓国)
Amorepacificは、韓国を代表する大手化粧品・美容・ヘルスケアメーカです。韓国を拠点に、アジア、北米、欧州など世界各国で事業を展開し、K-Beautyトレンドを牽引してきました。技術を通じて美と健康を創造することを理念に掲げ、韓国初の化粧品研究所を設立するなど、早くから研究開発を重視してきた企業です。
同社が展開する「Skin Light Therapy 3S」は、自宅にいながらエステのようなケアを可能にする最新の美顔器です。2025年3月に発売され、忙しい日常の中でも、簡単にツヤやハリのある健やかな肌を保つことを目的としています。肌状態に応じたパーソナライズ設計を前提とし、個々の肌質に合わせたケアを自宅で実践できる点が評価されています。
また、CES 2026で披露されたMITと共同開発の新技術では、肌に貼る薄型センサを用いて温度、湿度、紫外線などをリアルタイムに計測します。取得したデータをAIが解析し、老化兆候や肌状態の変化を早期にとらえることで、肌トラブルが顕在化する前の予防的ケアにつなげることをめざしています。
(2) ヤーマン(日本)
1978年設立のヤーマン株式会社は、美容機器市場シェア5年連続No.1を誇る美容機器専門メーカです。同社の研究開発組織「表情筋研究所」では、電気電子工学と皮膚科学の両側面から美容技術を研究し、電気・光・熱・超音波などを活用した美容機器の開発と効果検証を行っています。
2023年6月に発売したAI美顔器「HAKEI」は、使用するスキンケア化粧品の成分に応じて浸透に適した波形を生成して出力する点を特徴とします。クラウド上に蓄積された2万点(6)のスキンケア化粧品データを基に、専用アプリ「YA-MAN HAKEI」で化粧品を検索すると、成分に応じて浸透に適した波形を生成し、美容器に送信します(図2)。
この仕組みにより、HAKEIはデバイス単体ではなく、化粧品・アプリ・機器が連動する設計を前提としています。基本の「ENRICH LIFT」モードに加え、「myMODE」では好みに応じたケアモードのカスタマイズが可能です。さらに独自技術「CERTEC」を搭載した「顔全体エイジングケア」モードを追加購入できるなど、買い替えを前提としない設計も特徴です。肌悩みの変化に長期的に対応するサステナブルなアプローチといえます。

■オンライン美容カウンセリング
オンライン美容カウンセリングの価値は、場所や時間の制約なく、自分に合った製品を選べる点にあります。従来は美容部員による対面接客が中心でしたが、近年はオンライン面談に加え、AIやAR(拡張現実)を活用して“試す”体験そのものをデジタル化する動きが広がっています。
(1) Perfect Corp.(台湾)
Perfect Corp.は、2015年に台湾で創業したAI・AR技術を強みとするビューティテック企業です。AIによる肌解析やARメイク技術を基盤に、消費者向けアプリと企業向けソリューションの両面で事業を展開しています。
同社の特徴は、診断や試着といった技術を自社サービスとして提供するだけでなく、APIとして外部企業に提供するビジネスモデルを構築している点にあります。化粧品ブランドや小売企業は、Perfect Corp.の技術を自社のECサイトやアプリ、店頭施策に組み込むことで、肌診断やバーチャル試用といった体験を自社サービスの一部として提供できます。
現在、同社は数百のグローバルブランドと提携しており、消費者向けアプリ「YouCam」シリーズは累計10億回(7)以上ダウンロードされています。こうした実績は、診断・試着技術が特定ブランドに依存せず、横断的に活用されていることを示しています。
さらに、2025年11月には対話型の「YouCam AI Beauty Agent」を発表しました。セルフィー画像の解析と自然言語対話を組み合わせ、診断から製品提案、ARによるバーチャル試用までを一気通貫で支援する仕組みです。2026年のCESでは、このAI Beauty Agentを中核に、診断から購買支援までを統合した体験構想を示しました。Perfect Corp.は、診断技術そのものの販売を収益源とすることで、製品販売とは異なるかたちでスケール可能なモデルを確立しており、ビューティテック市場における新たな収益構造を示しています。
収益モデルの進化:「物売り」から「体験とデータ」へ
前編では、ビューティテックが「物売り」を中心とした美容ビジネスを、「診断×継続」へと拡張し得る点を整理しました。後編で見た事例を収益モデルの観点から俯瞰すると、同じ「診断」を起点としながらも、企業ごとに収益化の設計は大きく異なっています。
例えば、Lancômeや資生堂の「AIスキンアナライザー」のように、診断を無料で提供し、製品販売を強化するアプローチがあります。一方、Perfect Corp.は、診断や試着機能をAPI/SDKとして外部に提供し、技術そのものを収益化しています。また、Amorepacificやヤーマンのように、デバイスとアプリを一体で設計し、家庭内での継続利用を通じて価値を生み出すモデルもみられます。
さらに、同じく診断を起点に継続的な関係を構築する例として、CureSkinは、デバイスを用いずにAI診断と皮膚科医のカウンセリング、処方、定期配送を組み合わせた医療D2C型のアプローチを採用しています。
ここでは、これらの事例を基に、表2で示しているように、「診断」という価値をどのように位置付け、どのような事業として成立させているのかを整理します。

■製品販売促進型
最初のアプローチは、診断を製品販売の「入口」として位置付けるモデルです。診断サービス自体から直接的な収益を得るのではなく、診断を通じて顧客理解を深め、その結果に基づく製品提案や購買体験の高度化につなげます。
例えば、フランスのLancômeは、店頭で高度な肌診断を起点に、診断結果に基づいたビューティーアドバイスや製品提案を行っています。日本では、資生堂のエリクシールが、スマートフォンによる肌測定を通じてオンライン上の顧客接点を拡張し、診断結果に応じた提案につなげています。また、ポーラの「APEX」は、長年にわたり蓄積してきた膨大な肌データを基に、個々人の肌状態に合わせた処方設計を行い、診断から提案、製品提供までを一貫して設計している点が特徴です。診断を起点に、継続的な製品利用へと自然につなげる仕組みを構築しています。
これらに共通するのは、無料診断により心理的ハードルを下げ、パーソナライズ提案によって購買納得感を高め、結果として関係を継続させる点です。診断は目的ではなく、顧客理解と提案精度を高めるための基盤として機能しています。
■技術ライセンス型
次のアプローチは、診断技術そのものを商品化するモデルです。自社で化粧品を販売するのではなく、AIやARによる解析・試着機能を外部に提供し、技術利用料として収益を得ます。
このモデルの代表例が Perfect Corp.です。同社は、肌解析やバーチャル試着といった機能をAPIなどとして提供し、化粧品ブランドや小売企業が自社のECサイトやアプリ、店頭施策に組み込めるようにしています。同社発表 では数百のブランドによる導入実績を示しています。2026年のCESでは、診断から提案、購買支援までを統合する「AI Beauty Agent」を発表し、EC・アプリ・店頭といった複数接点でのパーソナライズ体験を支える基盤としての位置付けを明確にしました。診断技術を「製品販売の補助」ではなく、「独立した価値」として提供する点が、このモデルの特徴です。
■デバイス×アプリ統合型
最後に、美容機器とアプリを連動させ、診断からケアまでを一体で提供するモデルです。このアプローチでは、デバイス単体の販売ではなく、診断後の継続的な利用やケア体験を通じた価値創出が重視されます。
例えば、韓国のAmorepacificは、家庭用美容機器とアプリを組み合わせ、個々の肌状態に応じたケアを自宅で実践できる仕組みを構築しています。日本ではヤーマンが、AI美容器「HAKEI」を中心に、アプリ連動によるモード制御やカスタマイズを可能にしています。
これらの事例に共通するのは、機器・アプリ・データを統合することで、診断から日常的なケアまでを循環させ、長期的な顧客関係(LTV)を前提とした価値設計を行っている点です。
■3つのモデルが示す市場の多様化
以上の収益モデルの分化は、ビューティテック市場の成長が進む中で、競争の焦点が変化していることを示しています。重要なのは、各社が自社の強みや立ち位置に応じて、診断データをどのように価値へ変換しているかという点です。製品と販売網を持つ企業は顧客体験の高度化に強みを発揮しやすく、技術を強みとする企業はライセンス提供でスケールしやすい傾向があります。ビューティテックの本質は、技術の選択ではなく、化粧品単品による価値提供から、「診断→提案→継続」という新たな価値提供サイクルへの変換にあると考えます。
競争環境の変化と日本市場の特徴
前述したように、ビューティテック市場では「診断」を起点とした多様な収益モデルが生まれています。こうした多様化は、競争環境そのものの変化を示しています。ここでは、競争環境の変化を整理したうえで、日本市場ならではの特徴を考察します。
■競争環境の変化:「製品品質」から「データ×スピード」へ
従来、美容業界の競争軸は、製品品質や効果、安全性といった要素にありました。日本企業は特に、研究開発力や品質管理の高さを強みとしてきました。
しかし、ビューティテック市場の拡大と実装の進展とともに、競争軸は変化しつつあります。「どれだけ多くの顧客データを蓄積できるか」「それをどれだけ迅速にサービス改善や提案に反映できるか」が、新たな競争要素として重要性を増しています。
消費者向けアプリを展開する企業では、利用回数の増加とともにデータが蓄積され、診断精度や提案の質が継続的に向上する好循環が生まれています。また、店頭診断や美容機器、オンラインサービスを通じて大量の肌データを保有する企業も、AIを活用した分析やサービスの高度化を進めています。
このような競争環境では、単一の技術や製品そのものではなく、複数の技術を組み合わせ、データをいかに早く価値に転換できるかが差別化の源泉となっています。競争優位の鍵は、「技術を持つこと」ではなく、「技術を収益化し続ける仕組みを持つこと」に移りつつあるといえます。
■日本企業の特徴:「ものづくり志向」の光と影
日本企業には、「ものづくり志向」という明確な特徴がみられます。資生堂やポーラの肌測定サービス、ポーラの「APEX」に代表されるように、長年にわたる研究開発投資を通じて、高い技術基盤と信頼性を築いてきました。
2025年11月に発表された「The 6th Japan BeautyTech Awards 2025」のファイナリストをみると、花王、日本メナード化粧品、資生堂、コーセー、ポーラなど、化粧品メーカや研究開発組織を中心とした顔ぶれが並んでいます。
特別賞では、コーセーの「量子コンピュータによる最適解から生まれたコスメデコルテAQ毛穴美容液オイル」が受賞しました。先端研究を起点とした製品開発や技術研究が高く評価されている点は、日本のビューティテックにおける特徴だと考えます。世界で初めて1000億通りを超える組み合わせから最適処方を導くといったコーセーの事例は、デジタル活用を「ものづくりの深化」に結びつけていることを示しています。
一方、収益モデルの観点では、既存の製品販売を補完・高度化するかたちにとどまるケースも少なくありません。品質や完成度を重視する強みがある反面、データ蓄積やサービス展開のスピードが競争力に直結する市場では、事業化・展開のスピードが課題となる場面もあります。経済産業省の調査(8)によれば、日本の化粧品産業は諸外国と比べてデジタル技術の活用が遅れ、国内市場への依存度が高い傾向にあるとされています。こうした産業構造を踏まえると、高い技術力をいかに迅速な事業展開と結びつけられるかが、日本企業の競争力を左右するといえるでしょう。
今後の展望
ビューティテックの進展は、「1人ひとりに合った製品やサービスを提供する」という美容産業界における長年の課題に、現実的な解決策を示しつつあります。診断データや利用データを継続的に蓄積・活用することで、個別最適化は一部の高価格サービスに限られたものではなくなりつつあります。
今後は、利用者数とデータ量の蓄積が競争優位を左右し、先行企業と後発企業の差が拡大する可能性があります。日本企業にとっては、これまで培ってきた研究開発力や品質重視の姿勢を活かしつつ、国内市場だけでなく海外市場への展開などをより意識した外部パートナーとの連携を通じて事業展開のスピードを高めることが重要になります。技術力と事業化スピードをいかに両立させるかが、今後の成長を左右する論点になると考えます。
まとめ
前編では、ビューティテックが美容ビジネスを「物売り」から「診断×継続」へと拡張し得る点を整理しました。後編では、その変化がどのように実装されているのかを、複数の技術領域と収益モデルの観点からみてきました。
競争軸は、製品品質だけでなく、診断・提案の精度、データ蓄積、体験設計、そして事業展開のスピードへと広がりつつあります。特に重要なのは、診断データをどのように価値へと変換するか、すなわち「診断―提案―継続―収益」を一貫して設計できるかという点です。
日本企業は、長期的な研究開発投資と高品質なものづくりという強みを持つ一方で、データ蓄積や改善スピードが競争力となる領域では、事業化の速さが課題となる場面もあります。ビューティテックは、美容という身近な分野を通じて、技術とビジネスの関係を改めて問い直しています。企業には、何を守り、何を変えるのかという戦略的判断が、これまで以上に求められているといえるでしょう。
■参考文献
(1) https://www.loreal.com/en/articles/science-and-technology/lancome-skin-screen/
(2) https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000004067
(3) https://www.pola.co.jp/about/news/20240313-02/index.html
(4) https://www.pola.co.jp/column/beauty-tips/beauty/73/index.html
(5) https://cureskin.com/expertise/
(6) https://www.ya-man-tokyo-japan.com/products/forface/hakei/
(7) https://www.perfectcorp.com/business/info/aboutus
(8) https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/cosmetic_industry/pdf/001_03_00.pdf


(左から) 主任研究員 イータンダーウィン/主席研究員 手嶋彩子