2026年4月号
特集
狭隘部での地下メタルケーブル撤去への挑戦
- 地下メタルケーブル撤去
- 狭隘マンホール対応
- 全国展開
地下マンホール内が狭隘な場所では、メタルケーブル撤去が困難を極めます。そこで、限られた空間でも設置可能な小型油圧装置と専用治具を開発し、撤去困難な地下メタルケーブルの抜去に挑みました。その結果、狭小空間での優れた設置性を確認するとともに、従来手法では撤去を断念した事例を解決へと導き、本装置の有効性を実証しました。本稿では、これら実証結果の詳細と全国導入に向けた技術講習会等の取り組みを紹介します。
中村 秀章(なかむら ひであき)/平良 真樹(たいら まさき)
森田 賛明(もりた よしあき)/窪塚 吉彦(くぼづか よしひこ)
吉田 将俊(よしだ まさとし)
NTT東日本
開発の背景と目的
光ブロードバンド・モバイルサービスの普及・拡大を背景に、メタル設備を利用した加入電話については、利用の減少や老朽化した設備の維持限界により、2035年ごろまでにはサービスレベルの維持が困難な状況を迎えます(1)。光ブロードバンド等のさらなる普及に向けては、地下の既存管路設備を有効活用する必要があり、そのためにはメタルケーブルの撤去が必要になります。しかし、狭隘マンホール(MH)や図1に示すような都市部を中心としたケーブル輻輳個所では、従来の撤去装置の搬入や設置が困難なケースが多くみられます。また、従来撤去手法の1つであるワイヤ直掛けやチェーンによる牽引では、負荷集中によるケーブル損傷を招き、撤去不能に至る事例も確認されています。これらの課題は管路の有効活用を阻害しています。NTT東日本 技術協力センタでは、こうした状況を解消するため、狭隘MHへ搬入可能な小型・軽量設計でありながら、高荷重牽引と低加速度の荷重制御を両立した「ケーブル引き戻し装置」*1と、ケーブルを確実に把持する「撤去用把持具」を組み合わせた撤去装置を開発しました。本稿では、本装置の概要を紹介するとともに、実際の撤去困難個所における検証結果と、その成果を踏まえた全国展開に向けた取り組みについて解説します。
*1 ケーブル引き戻し装置:道路上を走行する車両の振動に伴うクリーピングにより移動してしまった地下メタルケーブルを元の位置へ引き戻すための装置。ケーブルを把持する治具と、その側面に配置された2本の油圧シリンダ(脚部)で構成されます。油圧シリンダをMH壁面に押し付けた状態で、ケーブルを把持した治具を壁面から後退させることにより、管路内のケーブルを引き戻します。

ケーブル撤去作業の現状と技術課題
従来の撤去手段としては、撤去対象のケーブルにワイヤを掛け、チェーンブロックや張線器(シメラー)で牽引する方法のほか、油圧式専用装置と車両を組み合わせた自動撤去や、専門業者による最大20t級の床置き型油圧牽引装置を用いる手法が一般的です。しかし、狭隘MH内では直線的な牽引スペースや、金車*2および床面固定に必要な設置スペースを十分に確保できないことが、狭隘MH内において従来手法の適用を困難にする要因となっています。
また、ワイヤをケーブル外被に直接掛けて牽引する従来手法には、荷重がケーブル外被のワイヤ掛け位置に集中しやすいという課題があります。特に、「管路内壁にケーブルが固着している現場」や「ケーブルが動き始めるまでに大きな摩擦抵抗を要する初動前の段階」において、過大な荷重による外被損傷を招きやすく、結果として撤去を断念せざるを得ない事例もありました。こうした事態は、将来的な管路の再利用率の低下を招く要因となります。
以上の背景から、本開発においては解消すべき技術課題を以下の3点に整理しました。
・狭隘な環境下での可搬性と設置性を両立する「小型・軽量」な構造
・外被だけでなく心線部を含めて確実に把持し、「高荷重牽引」を可能とする把持機構
・外被損傷を防止するため、急激な負荷を避ける「低加速度な荷重制御」
技術協力センタでは、これら3つの課題を同時に解消する新たな撤去装置の開発に取り組みました。
*2 金車:電気工事、通信工事、土木工事などにおいて、ケーブルやワイヤーロープを円滑に引き回すために使用される金属製または、プラスチック製の滑車(ローラー)。
技術課題に対する撤去装置の設計方針と動作原理
本開発品を構成する「ケーブル引き戻し装置」および「撤去用把持具」を図2に示します。以下に、その開発コンセプトと具体的な動作原理を解説します。

■狭隘環境に適応する「小型・軽量」設計
油圧ポンプを利用することで狭隘な地下MH内での可搬性と設置性を確保し、装置本体は全長約25cm、重量約9kgという極めてコンパクトな設計を実現しました。これにより、作業者は限られたスペースでも容易に装置を持ち込むことができ、既設ケーブルが輻輳する環境下でも、周囲との干渉を避けながら柔軟に設置することが可能です。さらに、油圧ホースの接続部は90度単位で向きを変更できる構造としており、周囲の設備配置に応じてホースを迂回させることで、狭隘空間でも干渉を生じさせずに接続することが可能です。
■滑りと外被損傷を解消する「高荷重牽引」対応の把持機構
撤去用把持具の構造を図3に示します。撤去用把持具は、シンプルな構造を採用することで高荷重牽引を可能とし、さらに1本のボルトで簡単に把持・解放できるようにしています。アタッチメントを交換することで、外被を含む外径が40~70mmの幅広いケーブルに対応しています。さらに現場実証を進めていく中で、把持形状の抜本的な改良を行いました。外被の材質やケーブル外径に左右されず、円周方向からケーブル外被を加圧し、円周上に4本のくびれを形成して把持する構造へと進化させています。この改良により、従来は2t弱の負荷で外被が破断しやすかったポリエチレン(PE)外被のケーブルにおいても、4t強までの高荷重牽引に耐え、心線と外被を一体として引き出すことが可能となりました。

■外被損傷を抑止する「低加速度な荷重制御」機構
本装置は、最大8tの荷重を発生可能な油圧シリンダ2本を備えており、MH壁面にシリンダを押し当てて反力を確保したうえで、ケーブルに装着した撤去用把持具を壁面から後退させることにより、管路内からケーブルを引き出す動作原理を採用しています。油圧シリンダは緩やかに荷重を与えることができるため低加速な荷重制御を実現し、外被への急激な荷重集中を回避します。これにより、管路内での固着を緩やかに解消し、外被損傷を抑えつつ、ケーブルを引き出し始めることが可能となりました。
現場実証による効果検証
開発した撤去装置の有効性を確認するため、従来手法では撤去ができず残置されたままのケーブルに対して実証実験を行いました。以下に、代表的な4つの事例とそこで得られた主な知見を紹介します。
■事例1:狭隘空間における設置性と初動確保の有効性
本事例は、MH内作業空間の最大長1.5mに対し、従来の大型撤去装置では動作寸法2.0mを要したため、物理的に設置が不可能であった現場です。その代替として過去にワイヤを用いて1.3tで牽引を試みた際には、初動が得られる前に鉛被ケーブルの外被が損傷し(図4(a))、撤去を断念せざるを得ませんでした。今回、本装置を用いて1.7tの牽引力を加えることで初動が得られ、計145cmの引き出しに成功しました。初動以降は従来手法に移行して作業を継続し、最終的に当該管路区間における全体のケーブル撤去を完了しました。本事例により、狭隘空間においても本装置を用いることで、初動確保が可能であることを確認しました。

■事例2:損傷ケーブルおよび短尺ケーブルに対する撤去手法の確立
本事例は、既設ケーブルの輻輳により装置設置スペースの確保が困難な現場です。張線器(シメラー)による牽引では初動が起こらず、鉛被ケーブルの外被が欠損し、心線が露出した状態となっていました(図4(b))。MH壁面から露出しているケーブル長は約30cmに制限されていました。
ここでは、アーマーキャスト部材*3を用いて心線部へ「疑似的な外被」を形成するという現場独自の工夫を加え、その上から本装置を装着しました(図4(c))。また、本装置は把持部がコンパクトであるため、露出長が短い条件でも装着が可能でした。約1.3tの牽引で初動を確認し、計86cmの引き出しを行うことができました。本事例では、外被が損傷したケーブルであっても、事前処理と本装置を組み合わせることで撤去作業が可能であることを確認しました。
*3 アーマーキャスト部材:ガラス繊維布に特殊樹脂を含浸させた補修・保護用材料で、硬化させることで高い機械的強度と耐候性を発揮します。主にケーブル外被の保護、補修、補強や、管路出口部・曲がり部における機械的損傷防止を目的として用いられます。
■事例3:強固な固着に対する「心線抜き」の試行
本事例は、過去の撤去試行の影響により、MH壁面から露出しているケーブル長が約11cmと極めて短く、把持具の装着自体が困難な現場です。本実証では、ケーブルが動き出すまでは、一方のMHからの「牽引」に加え、対向側のMHからの「押し込み」を併用する2台での運用を試みました。管路内の固着により、2.1tの荷重をかけた段階でPE外被が破断し始め、内部の心線だけが牽引される状況が発生しました。事例2と同様に、心線部分を補強しながら把持・牽引を繰り返すことで2.4mの引き抜きを達成しました。以降は、ユニック車による牽引へ引き継ぎ、最終的に外被を管路内に残したまま内部の心線だけを撤去しました(図4(d))。本事例では、管路内の固着による摩擦抵抗が外被の耐裂性を上回ったことから完全なケーブル撤去には至りませんでしたが、管路再利用(光ケーブルの通線など)の可能性があることを確認しました。
■事例4:管路損傷を伴う条件下での施工限界の把握
本事例は、本来4つのMHで構成される3区間のうち、中間に位置する2カ所のMHが有姿除却により埋め戻された現場です。中間MHへの入孔が不可能なことから、作業個所が両端のMHだけに限定される長大な単一区間での実証となりました。この区間におけるケーブル初動時の負荷を考慮し、両端MHに装置を配置し、片側で牽引(2t)、反対側で押し込み(0.5t)を行う同時運用により初動が得られました。その後は牽引のみとし、当初は4.5tの牽引荷重を要しましたが、引き出しが進むにつれて必要な牽引力は3.5t、3.0tと徐々に低下し、約50cmの牽引を達成しました。しかし、従来型の自動撤去装置へ切り替えて作業を継続したものの、当初と同様に撤去不能な状況に陥りました。隣接する空管路にパイプカメラを挿入して内部状況を確認した結果、埋め立てられた旧MH個所において管路継手部の変形が確認されました。このことから、当該管路にも同様の損傷が生じている可能性が高く、時間を十分に確保すれば撤去できた可能性はあるものの、現実的な作業時間では対応が困難であったため撤去作業を断念しました。本事例は、初動を得ることができても、管路設備の損傷状況によっては、撤去完遂が困難となることを示す結果となりました。
■現場実証の総括および装置改良
一連の現場実証を通じて、本装置は狭隘環境下における高い設置性に加え、単なる「牽引」にとどまらず、対向する「押し込み」や、従来手法では対応が困難であった損傷ケーブルや短尺ケーブルといった厳しい条件下での対応方法についても確認できました。さらに、万一外被が破断した場合を想定した「心線抜き」など、現場状況に応じた柔軟な発想を加えることで本装置の適用領域を拡大できたと考えます。
一方、管路自体の損傷が存在する場合には、撤去作業の完遂が困難となる場合もあることが明らかとなりました。また、油圧シリンダのストローク長(約127mm)を超えて引き出す場合には、その都度ケーブルから装置を取り外して再装着する必要があり、作業効率の低下が課題として明らかになりました。この課題を踏まえ、装置を脱着することなく連続的な牽引を可能とするスペーサ方式を採用しました。スペーサ挿入による油圧シリンダの連続牽引方式を図5に示します。シリンダがストローク端に達した際、①いったん圧力を解放し、シリンダを縮めたうえで、②装置と撤去用把持具の間に専用スペーサを挿入します。その後、③シリンダを再伸長させるだけで引き続き牽引が可能となります。この「①解放・②挿入・③再加圧」のサイクルを繰り返すことで、初動から連続牽引までの工程を効率化し、作業時間の短縮と作業者の負担軽減を両立させています。

全国展開に向けた技術普及の取り組み
本装置を用いた撤去手法の現場運用を確実にすることを目的に、技術普及活動を実施しました。ここでは、撤去断念事例の発生割合が高かったエリア(6県域)を対象として実施した、実機を用いた講習会および現場適用に向けた取り組みについて述べます。
■実機を用いた技術講習会
現場への適用に先立ち、当該エリアの撤去作業従事者約50名を対象として、本装置を用いた技術講習会を実施しました。講習会では、装置構成と仕様の説明に加え、基本的な操作手順、設置時の留意点、および牽引作業に関する注意事項について説明しました。講習会の様子を図6に示します。実習では、模擬MHを用い、狭隘空間を想定した装置の搬入および設置を行いました。併せて、撤去用把持具の装着方法、油圧シリンダの作動手順、および荷重を段階的に付与する操作方法について確認しました。これにより、現場条件を想定した一連の操作手順を、装置仕様に基づいて把握できるようにしました。

■現場での適用状況と評価・改良に向けた取り組み
講習後、当該エリアにおいて過去に撤去不能と判定されていた現場を対象に、本装置を用いた撤去手法の適用を順次進めています。各現場では、本装置の設置方法、牽引時の荷重推移、適用可否、および作業結果を記録しました。これらの記録は、施工条件との関係性を整理し、本装置の適用範囲や運用時の判断基準として取りまとめを進めています。また、現場作業を通じて得られた操作性や作業手順に関する意見については、装置仕様への反映可否を含めて検討し、今後の改良に向けた検討項目として活用しています。
まとめと今後の展望
地下メタルケーブルの撤去は、管路設備の継続的な利用や有効活用の観点から、今後も対応が求められる作業です。本稿では、狭隘なMH内での使用を前提としたケーブル引き戻し装置と、撤去用把持具を組み合わせた撤去装置について紹介しました。現場での適用を通じて、従来手法では対応が難しかった条件に対しても、本装置が適用可能となる施工条件が明らかになってきています。一方で、施工条件や管路設備の状態によっては、装置の適用が制約されるケースがあることも確認されています。今後は、本装置を用いた撤去手法の適用範囲を順次拡大するとともに、現場で得られた知見を装置改良に反映させることで、狭隘・輻輳環境における撤去作業の効率化に貢献していきます。
■参考文献
(1) https://www.ntt-east.co.jp/release/detail/pdf/20250929_01_01.pdf

(上段左から)中村 秀章/平良 真樹
(下段左から)森田 賛明/窪塚 吉彦/吉田 将俊

私たちは現場の「困った」を技術で解決することを使命としています。本装置を全国の皆様に活用いただき、残置ケーブル撤去という大きな課題を共に乗り越えていけるよう、今後も全力でサポートしていきます。