from NTT東日本
地域循環型社会の実現に向けた体感フィールド“NTT e-City Labo”
NTT東日本グループは、これまで情報通信分野において“地域密着”を強みとして事業を展開してきましたが、地域の社会課題は時代とともに刻々と変化し、多岐に及んでいます。特に、持続的な成長が可能な循環型の社会への転換ニーズが高まっていると感じています。NTT東日本グループでは、地域循環型社会の実現に向けて、スマート農業・ドローン・eスポーツ・デジタルアートなどさまざまな分野に取り組んできましたが、2022年5月、お客さまが地域循環型社会を実証・体感できる施設として、“NTT e-City Labo”を開設しました。
NTT e-City Labo開設の目的とこれまでの取り組み
NTT e-City Laboは、NTT東日本グループがめざす地域循環型社会を実現するために、地方創生の主体となる地域の自治体や各分野の参画企業の皆様にお越しいただき、地域課題の解決に向けた議論・実証を行い、社会実装をめざすための施設としてオープンしました(図1)。
NTT e-City Laboを開設するにあたって、こだわったことが3つあります。
1番目は、本物感(Reality)です。本施設では、最新技術を活用した、最先端農業ハウスや都市型バイオガスプラントなど、実際の産業で活用される機器や資材を稼動させています(1)。資料、映像、オンラインでは伝わらない現物・本物を五感で体感いただくことができます。
2番目は、共感(Sympathy)です。本施設で紹介する、NTT東日本グループの取り組みは、社会課題の解決に向けて、地域の皆様や、パートナー企業の皆様とともにつくり上げていったものです。机上の空論ではなく、皆様とともに汗を流し、課題解決に取り組んだNTT東日本グループ社員の生の姿を紹介します。
3番目は、共創(Co-Creation)です。本施設は、地域と地域、地域と企業を結びつける循環型社会に関するさまざまな取り組みや最新技術の情報流通基地として活用できます。地域や企業の皆様と地域課題の解決やビジネスをともにつくり上げていくことをめざしていきます。
このようなコンセプトの下オープンしたNTT e-City Laboですが、自治体や企業の皆様にも、足を運ぶだけの価値があるとご理解をいただき、これまでに見学された自治体・企業の皆様は、約150件、総見学者数は1200名に上ります(2022年10月10日現在)。
見学された方からは、「地域循環型社会やスマートシティなどについては、取り組むべき分野もさまざまで具体的に何をやればよいか分からなかったが、今回の見学を通じて、実物や取り組み事例を見ることができ、自身の地域で取り組むべき課題が分かった」といった声もいただいています。実際にコンテナ型バイオガスプラントの導入による再生可能エネルギーの取り組みや文化芸術のデジタル保存など、すでに具体的な相談を多数いただいています。
NTT e-City Laboの施設について
NTT e-City Laboでは、2022年10月時点で14の施設を用意しています(表)。
今回はこの中でも、屋外で実際に稼働している「最先端農業ハウス」と「再生可能エネルギー」を活用した都市型循環モデルの取り組みと、地域内外の交流促進として注目されている「eスポーツ」「文化芸術」について、詳しく説明します。
■最先端農業ハウスと再生可能エネルギーを活用した都市型循環モデル
農業経営体数は年々減少の基調であり、15年前と比べて、経営体数が約100万減少(2)しているといわれており「生産性の高い農業」と「省力化」の両立が社会的要請となっています。
また、小規模分散型の東京農業においては「技術指導員にかかる人手不足の解消」が課題となっています。
本実証ハウスでは、農業分野に注力した会社であるNTTアグリテクノロジーが、農林水産分野における東京都の政策連携団体と協力して、最先端技術を活用し、遠隔からの効率的かつ高品質な農業指導や、データを基にした最適な農作業支援の実現に取り組んでいます(3)。具体的には、4Kカメラやスマートグラス、遠隔操作走行型カメラで撮影された調布市の農業ハウスの様子を高解像度の映像データとしてローカル5Gを介して、立川市にある研究所に伝送し現地に赴くことなく高品質な技術指導を実現しています。
なお、栽培したトマトは市場流通するだけでなく、NTT東日本の食堂や地域の小学校と連携してフードロス削減・都市型循環モデルの取り組みを実施しています。
具体的には、①まず栽培したトマトを市内の小学校の給食として提供します。②続いて、給食の調理残菜は、NTT e-City Labo内にあるコンテナ型バイオガスプラントで処理することで、再生可能エネルギーと食品由来の液体肥料を生成します。③生成された液体肥料は、市内の小学校へ提供し、環境学習の機会を提供します。④再生可能エネルギーは、農業ハウスの予備電源に活用しており、NTT e-City Laboの中で都市型循環モデルを再現しています(図2)。
■eスポーツの取り組み
eスポーツは、2000年ごろから海外では大会が開かれ、2018年を境に、日本でも競技団体の設立、大会やイベントなどの開催がさかんになり、海外市場規模は約1000億円を突破(4)し、国内市場も2022年には約100億円に達する見込み(5)です。このような成長分野に対して、企業や自治体の皆様からは「eスポーツを社会課題の解決に活用できないか」という相談を多数いただいていました。
このような相談を受け、NTT東日本グループでは、eスポーツに必要な低遅延・高品質で安定した通信ネットワークやICTをベースに、新会社であるNTTe-Sportsがeスポーツを活用した地域課題の解決および地域の新たな価値創造を提案しています(6)(図3)。
NTT e-City Laboでは、NTTe-Sportsが運営する、「ICT×eスポーツ」を通じて新しい文化・社会を創造する交流施設「eXeField Akiba(エグゼフィールドアキバ)」を再現しました。最先端のICTと最新の機材に触れていただきながら、人と人、地域と地域をつなげる、eスポーツの事例や新たな可能性を体感いただけます。
■文化芸術の取り組み
日本の文化芸術は「少子化に伴う地域の伝統技術の後継者不足」や「災害・経年劣化・異常気象等による文化遺産の損失・消失」といった危機にさらされています。
また、新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、非接触や時間や場所に縛られない新たな文化芸術鑑賞のあり方が求められています。
そのような中、文化芸術分野に注力したNTT東日本グループの新会社NTT ArtTechnologyでは、地域の文化芸術に最先端技術を組み合わせ、文化芸術のデジタル化を通じた地方創生を実現する「デジタルアート推進事業」に取り組んでいます。
この事業のコンセプトの第一に、文化芸術のデジタル化によって「守る」といったことがあります。自治体や美術館・博物館、企業などが所蔵する絵画や彫刻といった貴重な文化財を協業パートナーが保有する画像処理技術を活用することで、オリジナルの作品の魅力を忠実に再現した高精細なデジタルデータとして記録します(7)。
また、文化芸術をデジタル化することにより、これまでにない新しいかたちで「活かす」ことが可能になります。さまざまな場所への配信が可能となるだけでなく、AR・VR・3D・プロジェクションマッピングなどの先進技術と組み合わせることで、新しい鑑賞体験を提供することができます。
最後に、このように地域の文化芸術の魅力と、ICTの力を組み合わせ、地域と地域、地域と世界を「つなぐ」ことで、地域の文化芸術を通じた地方創生にチャレンジしています。NTT e-City Labo内では、実際にデジタル化された文化財を複数展示しています。「守る」「活かす」「つなぐ」のコンセプトの下、地域の活性化に挑むNTT東日本グループの取り組みを体感いただけます(図4)
今後の展望
NTT e-City Laboは、地域循環型社会をよりリアルに体感いただくために、順次展示施設を増改築しています。そのための取り組みの1つとして、2022年10月末より、NTT e-City Laboを疑似的な都市と見立てて、各種データの収集・連携・分析を行う都市OS*の構築・展示を開始しています。具体的には、施設を見学される地域の自治体や企業の皆様を来訪者、施設の展示内容を説明する人物を地域住民に見立てて、各展示場所に設置されているデバイスやセンサから取得したデータを、NTT東日本が東京・蔵前に有する地域エッジクラウド上に集積し、分析を行います。分析結果は、見学者へその場で提示し、具体的なアクションまでをリアルに体感することができます。都市OSは、概念的で実際の活用イメージが湧きづらいとよくいわれますが、このようなリアルな体感を通じて、社会実装ひいては地域循環型社会の形成に貢献していきたいと考えています。
このような取り組みを通じて、NTT e-City Laboは、産(企業)・官(自治体)・学(教育研究機関)・民(地域)と連携したデジタルイノベーションを生むオープンな体験型プラットフォームとして、NTT東日本グループのケーパビリティの拡大および技術力を確保しつつ、SDGs(持続可能な開発目標)企業としてのブランドを確立していくことをめざしています。
* 都市OS:OSは、オペレーティング・システム(Operating System)の略語で、コンピュータがその機能を果たすために不可欠なソフトウェアのことであり、コンピュータを都市に置き換えて考えるため都市OSと呼ばれています。都市OSでは、さまざまなサービス連携および都市間の連携を実現するために、システム的な共通の土台を用意することで、さまざまな事業者や他の地域が提供するサービス・機能を自由に組み合わせて活用できるようになります。
■参考文献
(1) https://journal.ntt.co.jp/article/7831
(2) https://www.maff.go.jp/j/tokei/census/afc/index.html
(3) https://journal.ntt.co.jp/article/1866
(4) https://newzoo.com/insights/trend-reports/newzoo-global-esports-market-report-2019-light-version
(5) http://gzbrain.jp/pdf/release181211.pdf
(6) https://journal.ntt.co.jp/article/642
(7) https://journal.ntt.co.jp/article/16064
問い合わせ先
NTT東日本
経営企画部 営業戦略推進室
TEL 03-5359-3450
E-mail e-city_labo@east.ntt.co.jp