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グループ企業探訪

第228回 株式会社ビオストック

畜産・酪農業に新しい風を吹き込んで地域貢献

ビオストックは、北海道帯広市に本社を置く、バイオガスプラントの導入推進をベースとした地域貢献型の企業だ。畜産・酪農家の課題解決に向けて、バイオガスプラントの新しいあり方を提唱・実践するとともに、周辺事業との連携を図りながら、地域循環型のエコシステムを構築していくことで地域貢献につなげていく思いを、熊谷智孝社長に伺った。

ビオストック 熊谷 智孝社長

バイオガスプラントで畜産・酪農家の課題解決

◆設立の背景と目的、事業概要について教えてください。

ビオストックは、持続可能な畜産・酪農業の実現と地域活性化をめざし、バイオガスプラントの専門家集団であるバイオマスリサーチ社(北海道帯広市)とNTT東日本の合弁により、2020年7月1日に設立されました。
NTT東日本では、地域の課題解決や地域に役立つ事業を行っていくことを目的にプロジェクトが立ち上がっており、いくつかの新会社が設立されてきている中の1つがビオストックです。地域の産業を支援するという観点から、第1次産業である農業、そのうち売上ベースで約3割を占める畜産・酪農関連に着目しました。特に酪農に関しては、この30年間で酪農家の数が3分の1になり、離農した方の牛を他の酪農家が引き取るかたちで、1酪農家当りの飼養数が3倍になってきています。一方で、酪農の担い手の高齢化も進んでおり、さらに離農が増えることで産業そのものが衰退していくことになります。こうした問題にスポットライトを当て、バイオガスプラントの活用と、NTTグループの得意なICTを活用したソリューションで課題解決に取り組んでいく思いで会社を設立しました。
畜産・酪農家および自治体に向けて、次世代畜産·酪農関連ソリューションの提供や、ICTを活用した次世代畜産·酪農施設の提供·運営等を事業の柱として、①小型(牛250頭、豚2500頭サイズ)バイオガスプラント(次世代型糞尿処理施設)の月額利用型モデル(ビジネス特許出願中)による提供、②中型以上のバイオガスプラントの事業主体への参画とIoT・AIを活用したO&M(運転管理・保守)の効率化、③次世代畜産・酪農ICTソリューションの提供を行います。

◆バイオガスプラントとは何でしょうか。

畜産・酪農においては、畜舎に毎日大量に発生する家畜の糞尿の処理が必須になります。この処理は、畜舎の糞尿を定期的に集め、それを重機で農場の一角に寄せて山積みにし、そこにおがくずを混ぜて空気に触れさせながら切り返すことで発酵させ、堆肥化することにより行われます。糞尿自体が重くこの切り返しを行うことは、非常に労力を必要とするばかりではなく、屋外で発酵させるため悪臭が漂うことになります。
糞尿の処理をプラントの発酵槽の中で自動的に行うのがバイオガスプラントなのです(写真1)。バイオガスプラントを畜舎の近くに構築し、自動的に糞尿が流れ込む仕組みにすることで、糞尿を移動させる労力を削減するとともに、、発酵は自動で行われるため、切り返し等の堆肥化処理が必要なくなります。また、密閉された発酵槽で発酵処理が行われるので悪臭も発生しなくなり、さらには作業場所の土壌汚染防止やそれに伴う水質浄化にも貢献します。発酵の過程では、メタンガスと熱が発生し、発酵完了後には「消化液」と呼ばれる有機液体肥料が生成されます。メタンガスでタービンを回すことで発電が行われ、こうして得られたクリーンエネルギー(ガス、電気、余剰熱)を乳製品加工工場やハウス園芸等に供給することで地域産業との連携が生まれ、有機肥料を牧草地等に撒くことで牧草の生育が活性化し、それを食べた乳牛が健康を増進する結果、生乳が良質かつ乳量アップし、その生乳が乳製品加工工場に提供される、といった地域循環型のエコシステムの構築も可能になります(図)。

写真1

図 地域循環型エコシステムの構築

◆まさに地域貢献、課題解決そのものですね。この市場はどのような状況にあるのでしょうか。

バイオガスプラントは、ヨーロッパ、特に大規模農場の多いドイツを中心に導入が進んでいます。日本では新しい分野でもあり、北海道では導入されているケースもありますが、その他酪農・畜産の盛んな地域ではまだまだ導入事例は多くありません。
バイオガスプラントには、その導入形態により個別型と集合型に分けられます。個別型は1軒の農家に1つのプラントを導入するタイプで、集合型は複数の農家で共同利用するタイプです。バイオガスプラントは大きなものが基本であるが故に、個別型では、メガファームといわれる超大型農家しか採算が合わない状況でした。また、バイオガスプラントは高価であり、個人農家では、構築にあたっての資金計画を立てることができないといった課題があります。
また、行政の支援のもとにJAや地域の建設業の会社が組んで、複数の農家を集めて4000~5000頭規模として、そこを対象に集合型を提供するパターンがあり、北海道ではすでにいくつか導入されています。しかし、運用含めて、事業主体が不在であるという課題に直面しております。

北海道から日本全国の畜産・酪農家へ展開して地域貢献をめざす

◆そこでビオストックの出番ということなのでしょうか。

当社として、まず個別型については、新たに小型・個別型のバイオガスプラントを提供していこうと考えています。小型とは牛でいえば250頭、豚でいえば2500頭くらいの規模を対象としたバイオガスプラントです。この規模に適用できるプラントは、国内はもとより外国にも導入事例は少ないので、協業先のバイオマスリサーチ社が独自に開発して国内のメーカに製造させる、独自のバイオガスプラントを提供していきます。提供にあたっては、レンタルとして毎月利用料を徴収するかたちで提供することで、イニシャルコストを抑え、生産物であるガスを中心としたエネルギーや肥料の売却益と利用料を相殺することで、さらに畜産・酪農家が負担する費用を少なくすることができます。
また、集合型については、プラント自体はその案件に合った仕様のプラントを選定し、当社がSPC(特別目的会社:Special Purpose Company)の組成をお手伝いしたり、O&Mを行っていくことで、新たなバイオガスプラントの構築が促進されていくと考えています。
このO&Mについては、個別型はもちろん集合型についても農場間の距離が離れているので、ICT、特にセンサなどIoTを活用して遠隔で集中的に監視を行うことで効率化とノウハウの蓄積を図ることができます。

◆今後の事業展開や抱負についてお聞かせください。

プラントの建設には10カ月以上を要する中で、会社設立から日が浅い当社としては、とにかく第1号のプラントを建設・稼働させ実績をつくることを優先的に取り組んでいます。北海道のみならず、全国的に展開していくつもりです。そのためにも実績は非常に重要な要素でもあります。
こうしたプラントを通した農家とのお付き合いは、20年を超えるような長いものになります。農家の抱える課題は糞尿に限った話ではなく、広範にわたっています。一方、NTTグループや学術機関で進められている関連した研究成果や、その他企業のソリューションについても、農家の課題解決に役立ちそうなものがあれば、それを次世代畜産・酪農ICTソリューションというかたちで農家に届けていきたいと考えています。
併せて、前述のバイオガスプラントを軸とした地域循環型のエコシステムを構築し、それを日本全国に展開していくことで地域の役に立つ会社になっていきたいと思います。

担当者に聞く

第1号のバイオガスプラント稼働による実績づくりへ邁進

事業開発部
千脇 健さん

千脇 健さん

◆担当されている業務について教えてください。

小さい会社なので、総務等の共通系業務も含めて担当しているのですが、メインはサービスの利用者となる畜産・酪農家の対応を行っています。
バイオガスプラントとそのサービスを紹介することで顧客開拓を行うのですが、バイオガスプラント自体が認知されていないことが多いので、ステップ1として、畜産・酪農家がどういうかたちで仕事をしていて、その中で糞尿処理の話や課題に関する話等のヒアリングをさせていただくところから始めます。ステップ2として、糞尿処理に関する課題にチューンしてその解決手段としてのバイオガスプラントを紹介します。ステップ3でバイオガスプラントの効用を説明するのですが、畜産・酪農家の仕事は人の稼働に依存する部分が多く、コストが可視化されていないことが多いため、その説明が必要になります。
こうした説明をとおして、ある種バイオガスプラントの啓蒙活動を行い、その先に成約、導入となり、建設におけるサポートや竣工後のO&Mと畜産・酪農家の皆様と長いお付き合いになっていきます。
このような流れの中で、地域活性化施策や補助金等の関係も発生してくるので、自治体への対応も出てきます。

◆ご苦労されている点を伺えますか。

畜産・酪農家とのコミュニケーションに苦労しました。私にとってこの分野は初めてであり、畜産・酪農家の方々が日々の業務の中でどのようなことを行っているのか分かりませんでした。お話しいただいている中で出てくる単語も初めて聞くものがあったりと、まさに1から始める感じでした。とにかく何回も畜産・酪農家にお伺いして、世間話も含めて話を聞いていく中で、畜産・酪農家の仕事や言葉の意味を理解できるようになりました。
その後、ステップ2のバイオガスプラントの紹介に入るところで、再びコミュニケーションの苦労が始まります。バイオガスプラントは北海道にはすでにいくつかの導入事例があり説明しやすいのですが、それ以外の地域には事例がほとんどないため、1度や2度の説明では理解していただけないこともあります。また、地域によっては農場の規模も異なり、さらにはプラントの対象が牛なのか豚なのか、同じ牛でも肉牛なのか乳牛なのかによって、仕様が異なってくることもあり、バイオガスプラントの紹介だけでも千差万別です。また、自治体との連携も必要なところもあり、こちらも地域差が激しく、バイオガスプラントそのものの説明に苦労するところもある一方で、プラントを中心にどう街づくりをしていくかまで話が出るところもあります。
これらについてパターン化ができれば良いのですが、まだ手掛けて時間が経っておらず事例が少ないので、とにかく畜産・酪農家と数多くお話をさせていただき、信頼を得ながら事例を増やしていくことが大切だと考えています。

◆今後の展望について教えてください。

ビオストックとして最初のバイオガスプラントを稼働させることが当面の目標なので、それまではとにかく畜産・酪農家とコミュニケーションをとり続けていくことに注力しています。先例の紹介といっても、自社の事例を直接語ることができれば説得力が違います。これにより、バイオガスプラントの全国展開を加速していきたいと思います。

ア・ラ・カルト

■「新しい働き方」の先端企業

北海道帯広の本社をはじめ、札幌、東京、福岡に支社があり、数少ない社員が拠点分散しているうえに、畜産・酪農家訪問の出張もあり、日本全国に1人ひとりの社員が分散しているような状況です(写真2、3)。会社設立以来社員・役員が一堂に会することがほとんどないそうです。これを想定して、場所にとらわれない働き方をしようと、クラウドやWeb会議等をフルに活用しており、世の中でいわれている「新しい働き方」の先頭を切っている感じです。というお話を伺っている最中に、その日は東京にいる社長にかかってきた電話には帯広の市外局番「0155」が表示されているのが見え、筆者は一瞬面食らってしまいましたが、さすがに社員の方は慣れた手つきで落ち着いて応対していました。まさにロケーションフリーです。

写真2

写真3

■「食」の追求で地域貢献

畜産・酪農家を訪問すると、その近くに必ず地元の畜産品や乳製品を扱っている店があるそうです。産地直送どころか産地そのものなので、とにかく美味しいとのことで、それをたくさん食べるだけではなく、土産品として段ボールで送っている社員もいるそうです。バイオガスプラントによる地域貢献だけではなく、個人のお金をしっかり地元に落としてくることで、ビオストックのメンバー全員で地域貢献を実践しています。また、あまりに美味しいので自分たちだけのものにしておくわけにはいかないと、こうした産品を自社ブランド化して販売して地域貢献をしよう、という声も出ているとかいないとか。