グループ企業探訪
eスポーツという 新しい領域で地域貢献
NTTe-Sportsは、最先端ICTを活用した「つなぐ」「そだてる」「地域活性化」を創出するために、eスポーツをベースとして、イベントの開催から競技会場提供、人材育成、自治体の戦略コンサルティングまで、幅広く、ワンストップでeスポーツ関連ソリューションを提供している。設立直後の会社の紹介、将来への抱負について澁谷直樹社長、および自身もイベントのオーガナイザーとして有名な影澤潤一副社長に話を伺った。
左から、NTTe-Sports澁谷直樹社長、影澤潤一副社長
eスポーツをベースとして、最先端ICTを活用した「つなぐ」「そだてる」「地域活性化」を創出する会社
設立の背景と目的について教えてください。
eスポーツは2019年の茨城国体で文化プログラムに採用されたほか、経済効果や集客拡大による地域活性化を期待する自治体等がイベント誘致や主催に取り組むなど、急速な市場拡大期にあります。こうした中、NTT東日本は高品質で安定した通信ネットワークサービス等を軸に、eスポーツ施設やイベントにおけるICTソリューションの提供、イベントの企画運営支援等を2019年3月から開始しました。その後も多種多様な事業者と連携しながら、自治体等のお悩みやご相談を真摯に受け止め、解決に尽力して参りましたが、「ICT×eスポーツ」を通じた新たな体験やつながりの創出、および地域社会と経済への貢献といった取り組みをさらに飛躍させるには、より専門的な事業展開が必要だと考え、NTT東日本、NTTアド、NTT西日本、NTTアーバンソリューションズ、スカパーJSAT、タイトーの出資により、2020年1月31日にNTTe-Sportsが設立されました。
事業概要についてお聞かせください。
当社は、最先端ICTを活用した「つなぐ」「そだてる」「地域活性化」を創出するために、①eスポーツ施設事業、②サポート・教育事業、③プラットフォーム事業、④イベントソリューション事業、⑤地域の活性化コンサル事業の5つを事業の柱としています。
eスポーツ施設事業では、まずコアとなる拠点を秋葉原に開設し、運営していきます。ここでは、最新のeスポーツ体験や情報収集が行えるほか、各地の施設とICTを介して連携をとることで、訪れた方が全国のプレイヤーとつながれるような環境をつくります。アリーナといったプレイアブルエリアのほか、配信スタジオ、カフェも併設され、ビジネスパートナー向けのショールームとしての機能も兼ね備えます。
サポート・教育事業では、プロチームとのアライアンスによるeスポーツ指導や、専門学校との連携など、次世代eスポーツアスリートを育てるための教育プログラムの展開や、ハード・ソフト両面でのeスポーツ部活動の設立支援、さらには福祉分野でのeスポーツ活用も進めていきます。
プラットフォーム事業では、P2P型のコーチングや、カリキュラム型のオンラインレッスン、コミュニティの設立や交流機能等、プレイヤーやコミュニティをオンラインでつなぎ、コミュニケーションを活性化していくようなeスポーツ専門のプラットフォームを提供する事業です。
イベントソリューション事業では、大会の開催や、体験イベントの運営など、eスポーツを地域活性化コンテンツとして活用することを支援するほか、ICTを活用したeスポーツ向けのソリューション開発を通じて、労働集約型である既存イベントの高付加価値化、低コスト化、広域連携を推進していきます。
地域の活性化コンサル事業はeスポーツを通じた街づくりを支援する事業で、地域の政策、保有する観光資源等に適したソリューションを総合的にコンサルティングします。産業、観光、スポーツ振興等の多岐にわたるニーズにこたえるため複合的な提案になることが多く、時には自治体のeスポーツ活用における基本方針や全体戦略の策定を支援する場合もあります。
eスポーツで地域活性化を支援
eスポーツを取り巻く環境はどのようなものなのでしょうか。
「eスポーツ」とは「エレクトロニック・スポーツ」の略で、主としてコンピュータゲーム、ビデオゲームを使った対戦を競技として行うもので、言葉としては2000年ころから海外で登場しています。日本では2006年ごろから一部のゲーム業界の中で取り上げられ、企業をスポンサーにつけた「プロゲーマー」等も2013年ごろから登場してはきたのですが、当時はあまりeスポーツというものの認知が拡大しませんでした。まだまだゲームの延長で見られており、大会の賞金金額も目を引くほどのものではなかったといった背景も要因の1つです。
こうした中、日本のプレイヤーが徐々に世界に通用してくるようになるにつれ、日本のゲームメーカーもシーンの拡大に注力しはじめ、eスポーツの持つ経済効果に着目されるようになってきたのが2017年ごろで、そこから1つのブームとして立ち上がってきました。2018年はeスポーツ元年ともいわれ、国際大会も開催されるようになり、飲料や食品メーカーを中心に若者向けの広告媒体としての価値も着目され、大会への協賛も増加してきました。
そして2019年の茨城国体文化プログラムへの採用をはじめとして、いくつかの自治体が地域活性化の素材としてイベントを開催するようになり、学校教育の場でも課外活動としてサポートされるようになり、さらにはプレイヤーやeスポーツビジネス関連の人材育成のためのカリキュラムも登場してきました。
新会社としてのスタート。抱負をお聞かせください。
自治体がイベントを開催するのは、eスポーツを通して地域活性化や地方創生を行うのが目的で、そのためには1回限りのイベントではなく、サステナビリティ(持続性)、そしてイベント周辺の取り組みへの波及が必要となってきます。一般的なイベントは、プロモーターが集客目的で仕掛けている場合が多く、この場合はたとえ全国各地で開催されても、イベントのみで終わることになります。
当社は、イベントの開催から人材育成、プレイヤーへのサポート、コミュニティの形成・活性化等、eスポーツを取り巻くあらゆるソリューション、サービスを手掛け、さらにそれらを駆使したコンサルティングも行っており、こうした地域活性化、地方創生のニーズを充足することができます。また、従来は個々に提供されてきたイベントや人材育成といったソリューションを、ワンストップで提供できます。そういった部分への期待もあってか、会社設立直後であるにもかかわらず、多くの自治体に興味を持っていただいております。さらに、ICTや社会的信用といった、NTTグループならではの特長に期待されているところも多くあります。当社の強みを活かし、お客さまのニーズに1つひとつ丁寧におこたえしていくことで、地域活性化に貢献できるものと確信しています。
最近は企業対抗戦といった大会も少しずつ開催されるようになりました。eスポーツで地域が活性化されてくると、例えば都市対抗の大会や、高校生eスポーツ部の大会等が多く開催されるようになり、こういった動きがeスポーツ文化の普及、さらにスポーツ競技としての側面の啓蒙につながり、社会問題にもなっているゲーム依存症対策等の議論にも一石を投じることができるのではと考えています。
さて、eスポーツは2019年に茨城国体で文化プログラムに採用されました。この先国体の正式種目になる日もくるかもしれません。世界のほうが進んでいるので、もしかしたらワールドカップ開催、アジア大会正式種目採用、さらにはオリンピックの正式種目採用が先にくるかもしれません。こうした展望を視野に入れつつ、イベントの国外開催といったように、海外進出も考えていきたいと思います。
夢のある話ですね。当面はどのようなことに取り組んでいくのでしょうか。
Step1として環境づくりです。まず、秋葉原UDXビルにeスポーツの施設を構築し、常設のイベント会場に仕上げます。イベントの開催はもちろんですが、ここをショールーム化して、主催を検討している方やパートナー企業様にご来場いただき、実際のイベントのイメージを描いていただきます。そのうえで、お客さまのニーズに合ったコンサルティング、企画のカスタマイズを行い、いざ実施のフェーズでは各地域までサポートを届けていきます。
Step2としてeスポーツのコンテンツ化です。会社や学校にeスポーツのクラブをつくりたい、といった相談も数多くきています。単に組織をつくるだけではなく、指導者の育成サポート等も行い、日々の活動から自走できるチームとして定着させていくことで、競技人口の増加、健全な取り組み環境の充実を推進します。こうして出来上がったチームやそこに所属する選手がさまざまな大会に参加することで、競技種目ばかりではなく大会そのものが確立された1つのコンテンツになっていきます。このコンテンツがイベントへの集客につながり、また、放映権等の新たなビジネスへもつながっていきます。
Step1、Step2を分けて説明しましたが、前後関係はなく、事業の両輪だととらえております。こうした取り組みを地道に、かつ着実に行っていくことで、めざすべき方向に一歩一歩進んでいくのです。
担当者に聞く
eスポーツに関連するあらゆる商材をソリューションパッケージとして提供
担当部長
百瀬 敦さん
担当されている業務について教えてください。
私は、事業開発と営業推進を担当していますが、会社が設立されたばかりということもあり、現時点ではどちらかというと事業開発に軸足を置いています。
会社設立の準備段階から、当社の事業内容について、イベントが必要だろうとか、施設があったほうが良いとか、施設をつくるために必要なものは何かなど、さまざまな検討を進めてきました。ご相談、引き合いのあったお客さまとお話をし、ご要望を分析することを繰り返す中で、イベント、競技施設、教育や介護へのeスポーツの活用といったポイントをベースに活用ニーズを類型化できることが見えてきたため、これらをソリューションパッケージとして提供していく方向が出来上がりました。
現在は、個々の事例を積み上げていく中で、各地域の現場オペレーションで連携できるパートナー企業探し、イベント等のソリューションの低コストかつ安定的な供給のための体制構築、ICTやサポートといったNTTらしさの組み込みに取り組み、既存ソリューションのブラッシュアップを重ねながら、秋葉原のショールームを活用し営業プロセス等の具体化を進め、各ソリューションパッケージの可視化、ブランディング、高付加価値化に注力しています。
ご苦労されている点を伺えますか。
eスポーツというと、それを実現するシステムに着目しがちですが、実はコンテンツビジネスとしての色合いが非常に強く、コンテンツ理解を深めないと良いソリューションができないということに、事業の立ち上げの中で気付きました。人材育成を例に挙げると、「コーチング」のプロを連れてきてもゲーム内の技術をプレイヤーの立場で理解させる教え方はハードルが高いので、私たちがまずコンテンツへの理解を深めたうえで、コーチと二人三脚でカリキュラムをつくっていく必要がありました。これについては、NTT東日本のeスポーツチーム(ア・ラ・カルト参照)と連携し、コンテンツ理解の部分でサポートをもらいながら進めています。eスポーツ業界の方々と渡り合っていくうえでは、業界内外の歴史や関係性についても学ばなければならないことが多くあり、影澤副社長の経験や知識、リレーション活用しながら、担当の皆さんと徐々に勉強してきました。
技術的な側面でも気付かされることが多くありました。例えば遅延です。通信の遅延とその地域差が競技の勝敗に影響することは容易に想像できたのですが、それ以上にディスプレイの処理時間の差の影響が大きいのです。通常のテレビ装置と専用のディスプレイでは数100 msもの処理時間差があることも分かりました。こうしたこともあり、イベント、特に決勝戦は選手全員が同じ専用ディスプレイで、通信は利用せずローカルサーバで対応するような工夫をしています。低遅延化と遅延の均等性についてはこれからも続いていく課題です。
とにかくゼロからのスタートなので、見るもの聞くものすべてが勉強の連続でした。逆にこのおかげで、自治体等のお客さまに提案するときなど、相手目線にたって分かりやすく説明し、質問に対しても即座に的確に回答したことで、 商談成立に寄与できたという一面もございます。
今後の展開について教えてください。
事業の立ち上げには、当然ですが商材と営業環境を充実させていくことが重要です。その意味で、当面は秋葉原のショールーム、プレイヤーの交流や人材育成の基盤となるプラットフォームの構築、およびアライアンスパートナー探しに注力していくことになります。これらが整ってくると、これまで個別対応を行わざるを得なかった部分もパッケージとして効率良く対応できるようになり、さらなる展開拡大が図れます。
次に、それらのソリューションパッケージにさらなる付加価値をつけていきます。付加価値の一例として、広告媒体としての活用があります。主催者に配慮したスポンサーを集めやすい企画を練るためには、ICTの活用による話題づくりや、VRによる全く新しい広告スペースの提供といった可能性があります。そして、得られた効果の測定とスポンサーへのフィードバックの部分を画像認識やAIの力でセット提供していくことで、継続的なスポンサーの獲得、ひいてはサスティナブルな地域のeスポーツ活動につながると考えております。
こうしたビジネス基盤をより拡大していくためには、eスポーツそのものの普及が重要です。当社としては、教育コンテンツの提供、部活動をはじめたeスポーツチームの活性化支援、自治体主催といった公的なイベントへのeスポーツ採用支援等を行い、着実かつ健全な裾野拡大を進めていきます。eスポーツが普及することで、市場が広がり、ユーザが増えることで広告等のソリューションパッケージの付加価値が向上し、さらに参入者が増加する、といった良い循環が生まれてくることを期待しております。
NTTe-Sports ア・ラ・カルト
eスポーツチーム「TERA HORNS」
NTTe-Sports設立に先立つこと約8カ月、NTT東日本公式のeスポーツチーム「TERA HORNS」が発足しました(写真1)。影澤副社長が仕掛け人となり、NTT東日本グループ全社員からメンバーを募集し、その中から所属部署・役職・年齢に関係なく腕利きの精鋭約30名が選手として選抜され、サポーター約90名を含めた約120名で活動しているそうです。実力はなかなかのもので2020年1月に新宿と秋葉原で企業対抗戦があり、どちらも優勝したとのことです(写真2)。
通常は同好会として活動しているのですが、会社側からの依頼で大会や各種のイベントに出場したり、教育コンテンツ制作といった事業開発に参画する場合は、演出として試技を披露したり、プレイヤーの立場からアドバイスを行うなど、業務の一環としても活躍されているそうです。
写真1
写真2