三菱重工との新たな価値創造とその活用に向けた取り組み
- デジタルトランスフォーメーション
- フォトニック結晶光ファイバ技術
- 制御向けセキュリティ技術
NTTグループでは、パートナー企業・団体の皆様とともに、従来から取り組んできたB2B2Xモデルをさらに加速し、法人のお客さまのデジタルトランスフォーメーションを支援する取り組みを推進しています。本稿では、NTTとパートナー企業である三菱重工業株式会社(三菱重工)とのコラボレーションを通じて、NTTの研究所が持つICT分野の研究開発成果を、三菱重工のエネルギー・環境、交通・輸送等の社会インフラ関連製品や国内外の工場・現場などに適用し、「社会インフラ×ICT」による新たな価値創造をスピーディに実現し、お客さまの課題や社会的課題を解決するソリューションへ活用する取り組みについて紹介します。
進藤 勝志(しんどう かつし)†1/ 吉田 佐智男(よしだ さちお)†2/ 長竹 幸輝(ながたけ ゆきてる)†1/ 山口 卓也(やまぐち たくや)†1
NTT研究企画部門†1
NTTデータ†2
「社会インフラ×ICT」に関する研究開発連携の取り組み
NTTと三菱重工業株式会社(三菱重工)は、2014年4月より新たな価値創造をめざすことを目的に、3つのテーマで研究開発連携を開始しました(1)(図1)。
図1 社会インフラ×ICTによる新たな価値創出
(1) 光ファイバ・センサ分野
NTTが通信分野で培った光ファイバやレーザ技術および電波の計測技術、さらに生体情報計測技術などを活用し、三菱重工の製品の保守運用や製造現場等への適用可能性を検討。
(2) ビッグデータ分野
三菱重工の製品の稼動状況や、コールセンタにおけるお客さまの声などのビッグデータを対象に、NTTのビッグデータ処理・分析技術の適用可能性を検討。
(3) AR・メディア処理分野
三菱重工の国内外の工場や現地工事現場などにおけるサポート者と作業者との遠隔コミュニケーションや作業効率向上に対して、NTTのAR(Augmented Reality)技術や映像・音声等のメディア処理技術の適用可能性を検討。
2018年9月時点では、3つの研究開発連携分野と新たな取り組みとして2016年3月にセキュリティ分野を立ち上げ4つのコラボレーション分野に取り組んでいます。
(4) セキュリティ分野
三菱重工が防衛・宇宙分野で培った高い信頼性・安全性を獲得した制御技術とNTTの最先端のセキュリティ技術を組み合わせた制御システム向けのセキュリティ技術の検討。
本稿では、研究開発連携のテーマである「光ファイバ・センサ分野」として、NTTの光ファイバ技術と三菱重工の高出力レーザ加工技術の融合により、高出力シングルモードレーザ光を加工に適した品質を維持したまま、業界の常識を超えた長い距離にわたり伝送することを可能にする技術の研究開発の取り組み(2)と、新たなコラボレーションである「セキュリティ分野」として、制御システム向けサイバーセキュリティ技術「InteRSePT®」*1の概要と商用化に向けた取り組み(3)~(5)について紹介します。
*1 InteRSePT®:三菱重工の登録商標。総合的な制御システムセキュリティソリューション。
加工用高品質レーザの光ファイバ伝送技術に関する共同研究
情報・通信分野から製造分野への展開
光ファイバは今日の情報通信に欠かせない存在として世界中に普及していますが、光ファイバの用途は内視鏡やジャイロをはじめ、加工用レーザ光の伝送など多岐にわたります。
レーザ加工では通常の光通信で使用する光の一万倍以上の高出力レーザ光を伝送する必要がありますが、光ファイバで伝送できる光出力と距離には光非線形現象で制限される物理的な限界があります。
現在広く使われているレーザ光(マルチモードレーザ光)は、既存の光ファイバ(マルチモード光ファイバ)を使い、数百メートルにわたり伝送することができます。しかし、マルチモードレーザ光はより高い加工精度が求められる用途には不向きでした。一方、より精密なレーザ加工に適した高品質で10 kW級のレーザ光(シングルモードレーザ光)は、既存の光ファイバ(シングルモード光ファイバ)で数メートルしか伝送することができないことから、数十メートルの光ファイバ伝送が必要な実加工には適用できませんでした(図2)。
図2 加工レーザの品質と伝送距離および加工精度のイメージ
本共同研究では、NTTがかねてより空孔を利用して光を閉じ込め伝搬させる、フォトニック結晶光ファイバ(PCF:Photonic Crystal Fiber)(6)、(7)、*2技術を応用し、高出力シングルモードレーザ光の伝送に最適なPCFを新たに考案・設計し、共同で高出力伝送能力を実証しました(8)(図3)。本成果は2018年5月23日・24日に大阪大学(吹田キャンパス)で開催されたレーザ加工学会第89回講演会で報告しています(9)。
図3 従来の光ファイバとフォトニック結晶光ファイバのイメージ
研究開発連携の展開
今回の技術は遠隔からの加工、リモート溶接、さらには厚板切断に適用でき、既存の自動車・航空機・船舶の製造に適用できるのみならず、レーザ加工技術の適用領域を多様な社会インフラ産業に拡大する起爆剤として期待されるものであり、あらゆるものづくりの概念をダイナミックに変革します。今後、三菱重工にて耐熱合金の孔空け加工や溶接などへの適用に向けた開発を進め、2019年以降の実用化をめざします。
また、光ファイバだけではなく、レーザ加工に必要な要素技術として、KTN(タンタル酸ニオブ酸カリウム)偏向素子や回析素子などについても研究開発連携を進めていきます。
*2 PCF:光ファイバ断面に空孔や高屈折率ガラスを規則的・周期的に配列した構造を持つ光ファイバ。
制御システム向けサイバーセキュリティ技術の概要と商用化に向けた取り組み
制御システムのセキュリティにおける課題
IoT(Internet of Things)時代を迎えて、工場設備や電力システムなどの重要インフラの制御システムへのサイバー攻撃の脅威がますます増大しています。
工場、電力・エネルギーシステムや交通システム等の重要インフラは、情報システムと制御システムで構成されます。前述のとおり、情報システム系のセキュリティ確保に加え、制御システム系のセキュリティ確保は重要な課題ですが、制御システムは、情報システムと比較して以下のような特性と課題があり、これらの課題に対して、対応策が必要となっています。
① 頻繁な停止を伴わない問題対処:工場の装置や電力システムの設備は簡単に停止できないため、情報システムで一般的に行われている停止や再起動を伴う問題対処(セキュリティパッチ適用等)が困難です。
② 設備の長期の更新サイクルへの対応:設備の更新サイクルは、場合によっては10年以上の長期になります。一方、情報機器のサポート切れはそれよりも短いことが多く、設備の更新サイクルと合わないことが多く発生します。また、新旧の機器が混在することもしばしばみられます。
③ リアルタイム制御への対応:制御系信号のやり取りの遅延は、制御の不具合に直結する場合があります。伝送遅延が許容範囲よりも小さいことが必要となります。
④ セキュリティ技術者の不足:情報システム部門以外の部門が管理していることが多く、制御システムに関するセキュリティノウハウの流通が一般的にも少ないことから、制御系のセキュリティに詳しい技術者が不足しています。
InteRSePT®の概要
これらの課題に対応するため、三菱重工とNTTで、制御システム向けのセキュリティソリューションInteRSePT®を開発しました。InteRSePT®は総合的な脅威の監視と対応を行うセキュリティ統合管理装置と、ネットワークを流れる不正な通信を検知し、必要に応じて遮断等の対処を行うリアルタイム検知・対処装置で構成されています(図4)。
図4 InteRSePT®の概要
各コンポーネントの機能の概要は以下のとおりです。
・リアルタイム検知・対処装置は、制御システムのネットワークに接続し、通信を監視します。内蔵された検知・対処ルールによって、異常検知を行い、必要に応じて通過・遮断の制御を行います。
・セキュリティ統合管理装置は、制御システム全体の監視を行い、独自のノウハウによる総合的な状況判断により脅威の検知と対処を行います。制御通信データ、および各種センサデータを収集・分析し、個々のリアルタイム検知・対処装置のルールだけでは判定できない複合的な異常を検知します。また、セキュリティ制御装置によって、運転状態や検知された異常情報を基に、リアルタイム検知・対処装置における通信制御ルールの変更を行います。
このようにInteRSePT®側でセキュリティ処理を行うことにより、前述の課題に対して、次のようなかたちで解決策を提供しています。
① セキュリティ対処に必要な、更新に伴う停止を最小化することができます。
② 制御システムのエンドポイントである設備機器(センサや制御機器)に手を加えないため、設備の更新サイクルへの影響を最小化することができます。
③ 低遅延で高速処理が可能な機器を採用し、リアルタイム制御に対応します。
④ 制御システムを担当する技術者のセキュリティ対処の負担を軽減することができます。
InteRSePT®の展開
現在、NTTグループと三菱重工では、協力してInteRSePT®によるセキュリティソリューションの展開を進めています。さらに、制御システムの多様な要件に対応するため、順次、以下のようなメニューの強化に取り組んでいく予定です。
・導入をさらに容易にするための機能の提供:既存環境の変更を最小化するための柔軟なネットワーク制御機能等、InteRSePT®の導入をさらに容易にするための支援機能の提供を検討しています。
・産業用通信プロトコルの対応拡大:制御システムで利用されている各種産業用通信プロトコルへのより幅広い対応を計画しています。
・上流から下流までのトータルメニューの提供:セキュリティに関するコンサルティングから、システムの構築、移行、運用監視までトータルに対応できるサービスメニューの提供を検討しています。
今後の展開
今後も引き続き、NTTと三菱重工との研究開発連携や新たな取り組みを通じ、社会インフラにおける共通的な問題の解決に役立つ技術を創出していきます。また、事業会社とともに三菱重工とのコラボレーションを推進し、さまざまな業界に水平展開すること、さらにNTTグループ内でも水平展開していくことをめざします。
■参考文献
(1) https://www.ntt.co.jp/news2014/1404/140428a.html
(2) https://www.ntt.co.jp/news2018/1804/180425a.html
(3) https://www.ntt.co.jp/news2016/1603/160317a.html
(4) https://www.ntt.co.jp/news2016/1611/161130a.html
(5) https://www.ntt.co.jp/news2018/1804/180425b.html
(6) https://www.ntt.co.jp/news/news03/0312/031217.html
(7) https://www.ntt.co.jp/news/news05/0511/051108a.html
(8) Focus on the News:“三菱重工×NTT コラボレーション成果 加工用高品質レーザ光の長距離伝送で業界の常識を一新、”NTT技術ジャーナル、Vol.30, No.9, pp.64-66, 2018。
(9) http://www.jlps.gr.jp/
(左から)進藤 勝志/山口 卓也/長竹 幸輝/吉田 佐智男(右上)
問い合わせ先
NTT研究企画部門
プロデュース担当
E-mail sec-pr-ml@hco.ntt.co.jp
NTTグループは、三菱重工とのコラボレーションを通じて、B2B2Xモデルをさらに加速し、法人のお客さまとのデジタルフォーメーションを支援する取り組みを推進していきます。