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B2B2Xパートナーとのコラボレーションによる新たな価値創造

NTTグループの海事業界における日本郵船との取り組み

日本と世界の海事業界(海運・造船・舶用機器等)は、大きな変革期を迎えています。環境規制のより一層の強化や、グローバル経済動向に左右されやすい業界構造の変革、将来の自律航行も見据えた進化した船の建造、船長・船員の人材不足の深刻化など、対処すべき課題は山積しています。NTTグループはこれまで通信事業で培ってきたICTのノウハウを海事業界に応用し、その課題解決を支援しています。本稿では、業界の動向と、それに対するNTTグループの具体的な取り組みと今後の方向性について紹介します。

堀 茂弘(ほり しげひろ)

NTT研究企画部門

海事業界の課題とIoT化の必要性

日本の海事業界のIoT(Internet of Things)化の取り組みは、日本海事協会子会社のシップデータセンター(ShipDC*)が運営し、日本郵船株式会社やNTTを含む46社が参加する「IoSオープンプラットフォーム(IoS-OP: Internet of Ships Open Platform)」を中心に進められています。本コンソーシアムでは、海運・造船所・舶用機器メーカに加え、NTTのようなICT企業も参加し、船舶データを業界内で共有・活用するためのルールや契約の整備を行っています。この取り組みがユニークなのは「メーカ主導」ではなく、海運などユーザ企業も巻き込んだALL Japanとしての仕組みであることです。また、日本海事協会という一般財団法人がデータ共有のデータセンタ機能を担うことで、データの所有や活用におけるさまざまな利害関係を整理し、データ流通を促進する役割を担っている点も他業界のIoTへの取り組みとは少し状況が異なっています(図)。
日本の海事業界がIoS-OPというプラットフォームを構築し、データ活用を急ぐのは、業界に課せられた高い環境規制の目標があることがその一因です。IMO(国際海事機関)の平成30年第72回海洋環境保護委員会(MEPC72)で国際海運のGHG(温室効果ガス)の排出削減目標やその実現のための対策等を包括的に定める「温室効果ガス(GHG)削減戦略」が採択されました。この戦略は、単一セクターで全世界的に今世紀中のGHG排出ゼロをめざすことに世界で初めてコミットしたもので、省エネ技術のさらなる促進、経済的インセンティブ手法の実施等を通じ、2030年までに国際海運全体の燃費効率を40%改善し、2050年までにGHG排出量を半減させ、最終的には、今世紀中のGHG排出ゼロをめざすという非常に高い目標を掲げた長期方針となっています。業界では、船舶の燃料費節約にはこれまでも取り組んできましたが、原油価格が上昇基調であることと、2020年のSOx(硫黄酸化物)排出規制によって燃料コストの負担が増加する見通しであることからも、もう一段上の改善に向けたオペレーションや船型改良の機運が高まっています。特に船型改良についてはまだまだ改善の余地があると考えられており、そのためにはIoT/AI(人工知能)等のDigitalizationによる船舶運行の実際のデータ収集・共有・活用が必須となります。
特に、日本以上に環境に対する意識の高い欧州はもちろん最近では中国も環境規制に対する取り組みを強化しており、日本としてはALL Japanで世界に先行しその技術を開発し、標準化やルールづくりでリードすることが重要となっています。

図 IoS-OPの役割

* ShipDC: IoS-OPにおいてデータの蓄積を担う業界データセンタ。

Digitalizationへの挑戦

日本郵船では、2014年からの中期経営計画“More Than Shipping 2018~Stage2きらり技術力~”において技術力による差別化をテーマの1つに掲げ、技術力や現場力、創造性を発揮して新しいビジネスの創出や課題解決を具体化する取り組みを推進してきました。その中で、海運会社にとって欠かすことのできない「安全」と「環境」への取り組みを一段とレベルアップさせるために、IoTやビッグデータなど、最新のICT活用によるイノベーションに注力し、データ活用による最適運航や船舶機器の故障予知・予防の研究、さらに将来の自律航行船に向けた技術開発も進めています。そうした取り組みの1つとして、運航状態、機器状態などの詳細な船舶データをモニタリングし、船と陸上で情報共有するためのパフォーマンスマネジメントシステム「SIMS(Ship Information Man-age-ment System)」の開発を進めてきました。

エッジコンピューティング活用に関する共同実験

今回、日本郵船グループの次世代SIMSにおいてNTT研究所のエッジコンピューティング技術(ソフトウェア配信技術やデータ交流基盤技術等)とノウハウを活用することで、船上で収集した各種データをさまざまなアプリケーションによる迅速な活用と、安定的・効率的な船陸間のデータ・情報・アプリケーションの共有を可能とし、より高度な船舶の運航と保守管理などの取り組みを加速させています。
共同実験では、実際に運行している船上に設置した実験用SIMSに対しアプリケーションの新規導入や更新を陸上から遠隔で配信・管理する仕組みを付加した次世代船舶IoTプラットフォームの実験に成功しており、商用提供に向けた開発に取り組んでいます。

今後の展開

船のDigitalizationの基盤として、次世代船舶IoTプラットフォームの実験に成功したことで、その基盤を用いたさまざまなアプリケーションの開発や、船全体のセンシング技術、またIoS-OPでのデータ流通の暗号化なども含めたDigitalization全体のセキュリティ対策など、多方面においてNTTの技術・ノウハウを活かし、日本郵船ならびに業界全体の挑戦をグローバルに支援していく予定です。船舶の安全性・経済性の追求、環境への取り組みおよび国際的な競争力の強化のため、海事産業のイノベーション創出に注目ください。

堀 茂弘

海事業界は世界単一市場で元からグローバルな業界です。NTTグループが日本郵船をはじめパートナーとともにグローバルなDigitalizationに挑戦し、新たな価値を創造することで、業界の発展と環境等の社会課題の解決に貢献します。

問い合わせ先

NTT研究企画部門
第三プロデュース担当
TEL 03-6838-5361
FAX 03-6838-5349
E-mail kenki-dai3-ml@hco.ntt.co.jp