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B2B2Xパートナーとのコラボレーションによる新たな価値創造

近鉄・NTTグループ共同で新たな駅の案内サービスに挑戦 ――「奈良ガイドボット」の実証実験を実施!

近畿日本鉄道株式会社(近鉄)は、奈良や伊勢志摩エリア等沿線に多くの観光地を有しており、外国人観光客が急増しています。本稿では、近鉄奈良駅で実施した、NTTのマルチモーダル・エージェントAI(人工知能)を用いた外国人観光客向け観光案内サービス「奈良ガイドボット」の実証実験について紹介します。

藤井 秀夫(ふじい ひでお)†1/ 伊東 剛志(いとう たかし)†1/ 北側 真由佳(きたがわ まゆか)†1/ 溝口 雄斗(みぞぐち ゆうと)†1/ 長谷場 隆之(はせば たかゆき)†2/ 島田 有理子(しまだ ゆりこ)†2/ 中村 泰治(なかむら たいじ )†3/ 村山 卓弥(むらやま たくや)†3/ 深田 聡(ふかだ さとし)†4

近畿日本鉄道株式会社†1
NTT西日本†2
NTTサービスエボリューション研究所†3
NTT研究企画部門†4

訪日外国人の急増

2017年の訪日外国人数は2869万人となり、5年連続で過去最高を更新しています。
日本政府観光局(JNTO)は2018年7月18日に2018年上半期(1~6月)の訪日外国人数(推計値)が、前年同期比15.6%増の1589万9000人で、6年連続過去最高であることを発表しています(1)。前年より1カ月早く、史上最速で1500万人の大台を突破しました。
関西の各府県も過去最高を更新しており、2017年の奈良県の外国人訪問客数(推計)は209万人と、2015年に初めて100万人を突破してからわずか2年で倍増しています。

シームレス案内

近畿日本鉄道株式会社(近鉄)では、このように急増している外国人観光客も含めたすべてのお客さまに対して「シームレス案内」の構築に取り組んでいます(図1)。
シームレス案内とは近鉄がめざす、年齢・言語を問わず、すべてのお客さまに鉄道サービスを円滑にご利用いただくためのご案内サービスの総称
です。
「お客さまが目的地までスムーズに、シームレスに移動いただく」という意味と、「年齢・言語に依存せずすべてのお客さまにご利用いただける」という2つのシームレスへの想いを込めています。
全世界的に年代を超えてスマートフォンやタブレットなどのスマートデバイスの利用は増えており、スマートデバイスを活用してさまざまなサービス実現をめざします。

図1 シームレス案内サービスのイメージ

近鉄奈良駅の状況

近鉄奈良駅は近鉄線においてもっとも訪日外国人のお客さまにご利用いただいている駅です。
現在、訪日外国人向けのご案内のために、多言語対応が可能なコンシェルジュスタッフを配置し、対応しています。
駅係員やコンシェルジュに寄せられるお客さまからの問合せは、おおむねパターン化されているものの、お客さまの増加により問合せ件数は増え続けているのが現状です。観光で近鉄線をご利用いただくお客さまの動向を調査・観察していると、海外、国内のお客さまに関係なく、多くのお客さまがご自身の持つスマートフォンで調べたり、写真で記録したり、ご自身で解決されようとしたり、またスマートフォンの画面を指し示して、駅係員にお問い合わせいただくケースも多く見られました。

実証サービスの検討

NTT西日本は、近鉄、NTTとともに、以下の流れにより実証サービスの検討を行いました。
① 近鉄奈良駅の外国人デスク・コンシェルジュへのヒアリング
② 訪日外国人の行動観察
③ 問合せ内容の分析
その結果、訪日観光客の増加でコンシェルジュ機能の必要性は今後も増えていくと予想されることから、駅に到着してから観光地までの行動パターンにおける課題を解決するサービスの提供を検討しました(図2)。

図2 実証サービスの検討

マルチモーダル・エージェントAIと実証サービス

世の中にはすでにさまざまなAI(人工知能)サービスがありますが、入力手段が単一(テキストのみ、画像のみ、音声のみ)のものがほとんどです。そのため1つのAIサービスでお困りごとを解決できなかった場合、他のAIサービスを起動したり、切り替えたりと、利用者の手間を取らせるものでした。
「マルチモーダル・エージェントAI」は、NTTのcorevo®技術等を活用した複数のコミュニケーションモードを持つエージェントAIであり、特定のAIが回答できない場合は他のAIに引き継ぐことで、利用される方の操作の手間を減らしつつ、迅速に有益な情報を提供することが可能です。利用者からの質問に対して、特定のAIが対応できない場合には、他のAIに引き継ぐことで、タイムリーな情報提供を実現します。
今回は実証サービスの検討結果を基に、テキスト形式の質問と画像形式の質問によるチャットボットを実証サービスシステム「奈良ガイドボット」として開発しました。マルチモーダル・エージェントAIにより、外国人観光客がテキストでの質問が難しい場合には、カメラインタフェースのAIに引き継ぎ、利用者が物体や写真の画像を送ることによる質問を可能にしています(図3)。

図3 マルチモーダル・エージェントAIのイメージ

カメラインタフェースのAIは、かざして案内®を利用しています。かざして案内®は、案内看板や建物、商品などにスマートフォンをかざすことにより、経路案内や観光の詳細情報などをスマートフォンに設定された言語で表示するNTTが開発したサービスです(2)、(3)。AI技術corevo®の1つである「アングルフリー物体検索技術」(4)により、斜めからかざしても遮蔽物があっても、対象物を高精度に認識可能です。
また、チャットボットのベースとなるテキスト言語処理と対話シナリオ処理は、NTTドコモとインターメディアプランニング株式会社が提供するRepl-AI®を基に開発しました(図4)。

図4 実証サービスシステムの構成

実証実験概要

実証実験は、以下の期間・場所において、多言語対応のスタッフから簡単な説明を行い、実際の外国人観光客の方にご利用いただき、アンケートによりサービスの使い勝手や利用意向をお伺いしました(図5、6)。
・期間:2018年7月27日(金)~2018年8月10日(金)
・場所:近鉄奈良駅 東改札外コンコース
また、東改札外コンコースの一角にポスター、リーフレットを置き、外国人観光客の利用動向を測りました。

図5 実証実験の概要

図6 実証実験の様子

実証実験結果

2週間にわたる公開サービス実証において、近鉄奈良駅を利用する多数の旅行客に「奈良ガイドボット」を体験していただきました。そのうち、400人を超える外国人観光客にヒアリングを実施し、以下のようなアンケート結果を得ることができました。
① サービスの使い勝手に関して、9割以上の回答者がこのサービスは簡単に使えると回答しました。理由としてもっとも多いのは「写真から調べられる」であり、「テキスト選択から調べられる」「テキスト入力から調べられる」を大きく上回りました。このことから、物体や写真の画像を送ることによる質問を可能にするマルチモーダル・エージェントAIが外国人観光客に対して有効であることが確認できました。
② 利用意向に関して、9割以上の回答者が今後もこのサービスを使うと回答しており、実証サービスの受容性が確認できました。
③ コンテンツに関して、駅を起点としたルート案内に加えて観光中の現在位置を起点としたルート案内も希望するなど、利用範囲の拡大要望を多数いただきました。

今後の展開

本実証実験を通じて得られた技術を、近鉄が推進する「シームレス案内」のプラットフォーム基盤として活用することにより、①言語に依存しない直感的な交通利用案内・観光案内の実施、②駅係員や観光案内コンシェルジュの業務支援、③収集データ分析による満足度の高い観光動線の提案、の3点につなげ、新たな観光案内サービスの実現をめざします。
また、「かざして案内®」「チャットボット」等、AIをはじめとするICTを活用したソリューションの実用化に向けて取り組み、インバウンドや交通業界を取り巻く社会課題の解決に貢献します。

■参考文献
(1) https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/data_info_listing/pdf/180718_monthly.pdf
(2) 久原・山下・木下・手塚・市川・深田:“空港の情報ユニバーサルデザイン高度化の共同実験、”NTT技術ジャーナル、Vol.28, No.5, pp.9-12, 2016。
(3) Focus on the News:“羽田空港の情報ユニバーサルデザインの公開実証実験を開始します――日本の玄関を起点とした世界最高のおもてなしが実証フェーズへ、”NTT技術ジャーナル、Vol.29, No.12, pp.69-71, 2017。
(4) Focus on the News:“3次元物体をどんな方向から撮影しても高精度に認識・検索し、関連情報を提示する「アングルフリー物体検索技術」を開発――スマホなどを看板や建物にかざすだけで、観光ナビゲーションサービスを実現、”NTT技術ジャーナル, Vol.27, No.5, pp.67-68, 2015。

(後列左から)島田 有理子/中村 泰治/村山 卓弥/溝口 雄斗/北側 真由佳
(前列左から)伊東 剛志/藤井 秀夫/深田 聡/長谷場 隆之

AIをはじめとするICTを活用したソリューションの実用化に向けて取り組み、インバウンドや交通業界を取り巻く社会課題の解決に貢献します。

問い合わせ先

NTT研究企画部門
プロデュース担当
E-mail diversity-navi-ml@hco.ntt.co.jp
URL https://www.ntt.co.jp/news2018/1807/180727a.html