グローバルスタンダード最前線
TM Forum最新動向――Autonomous Networks認定企業の拡大
TM Forumは、1988年の設立以降、テレコムオペレーション〔通信事業者のBusiness Support Systems(BSS)/Operation Support Systems(OSS)〕の検討・標準化だけでなく、次世代のネットワークの仮想化に対応しつつ、企業のデジタル化によるさらなる収益拡大をねらうためのCollaborationを含めたDigital Businessを推進する検討が進められています。最近は、特にAI(人工知能)技術を活用したネットワークオペレーション業務の自律自動化をめざしたAutonomous NetworksやAI/AI agentの信頼性、セキュリティや情報管理の要件の検討や、AIを活用するうえでのデータアーキテクチャなどの標準化に向けた取り組みがさかんに行われています。NTTグループは本団体を通じて、NTTグループの技術・ビジネス要件の標準化への反映を進めているとともに、ネットワークオペレーションの自律自動化、AI/AI agentの活用に向けた検討を進めています。
矢沢 豪(やざわ ごう)/堀内 信吾(ほりうち しんご)
NTTアクセスサービスシステム研究所
TM Forumとは
1988年に設立されたTM Forum(1)は800社以上が加盟するテレコムオペレーションに関するフォーラムスタンダードです。過去には電話のオペレーションを実現させるBusiness Support Systems(BSS)/Operation Support Systems(OSS)の検討を行っており、業務プロセスや管理モデルなどのアセットを有しています。近年では、ネットワークの仮想化に対応しつつ、企業のデジタル化によるさらなる収益拡大をねらうためのCollaborationを含めたDigital Businessを推進する検討が進められています。
TM Forumでは現在Composable IT and Ecosystems、Autonomous Networks、Trustworthy AI and Dataの3つのミッションを掲げており、Collaborationプロジェクト(図1)での標準化議論、Catalystプロジェクトと呼ばれるProof of Concept(PoC)、標準仕様を活用したソリューションづくりやフレームワーク議論を行うInnovation Hubを通じてテレコムビジネスの変革を推進しています。

Collaboration Projects
■Autonomous Networks(AN)Project
Autonomous Networks(AN)はインテリジェントで自律的なネットワークとオペレーションを通じて、待ち時間のない(Zero-Wait)/人手を介さない(Zero-Touch)/トラブルのない(Zero-Trouble)なユーザ体験を提供します。これまでに、全体アーキテクチャや自律自動化を実現させるための目的となるIntentのモデルやAPI、自動化のレベル規定およびレベルの判定方法などが標準化されてきています。
Autonomous Networks Levels(ANL)は、ネットワーク運用の自律自動化レベルをLevel 0-5の6段階で評価する枠組みです。図2にANLの定義(2)を示します。TM Forumでは「実行(Execution)」、「認知(Awareness)」、「分析(Analysis)」、「判断(Decision)」、「意図・体感(Intent/Experience)」の観点でANLを判断します。現在認定を受けられるもっとも高いレベルであるL4とその1つ下のレベルであるL3の差はユーザのIntentを自律自動的に満たすネットワーク運用ができるかという点にあります。私たちはこのIntentに着目しIntent抽出技術について検討を進めています(3)。
ANLの公式認定数の累積は2024年の3件から2026年6月時点で96件と大幅に増加しています。2026年度に開催されたTM Forumイベントの1つDTW Igniteにおいては、新たに38件の公式認定があり、このうち14件がANL4の認定でした。
最近では、ANLの評価指標だけではなく、ANを実現することで得られるビジネス価値の定量的評価指標(BVM:Business Value Measurement)の規定も進んでいます。図3にTM ForumにおけるBVMのフレームワークを示します。自律自動化能力そのものを示すKey Capability Indicators(KCIs)だけでなく、運用改善効果を示すKey Effectiveness Indicators(KEIs)とビジネス価値を測るKey Business Indicators(KBIs)を規定しつつあります。
AN projectでは現在、いくつかの議論を並行で進めています。AI/Agentic AIを用いてANをどのように実現させるのかなどのAIを含めたアーキテクチャの議論、ANを実現させるための目的となるIntentのモデルをOntologyベースで記述する方法の議論、ANのレベル認定のための基準の議論などがあります。さらに、これまではアジア・欧州を中心のANの議論を進めてきましたが、最近では北米の通信事業者のANへの関心が高まってきており、議論への参画が始まっています。
また、最近では生成AI(Gen AI:Generative AI)やAIエージェント(AI agent)を用いた自律自動化のシナリオなどの議論が活発に行われています。また複数のAI/AI agentを組み合わせて自律自動化を実現するうえで、異なるAI/AI agent間のプロトコル(Agent-to-Agent)に関する議論や、AI/AI agentの信頼性、トレーサビリティについても議論が行われています。AI/AI agentの信頼性に関する議論においては、AIのAutonomy(自律度)、Trust(信頼度)、Control(統制度)の3軸でAI/AI agentの運用を動的に調整するAdaptive Governanceの考え方が提案されています。これはAI/AI agentの信頼度が下がれば自律度を下げることで統制度を高め、状況によってHuman-in-the-Loopと呼ばれる人的な判断を用いた運用へ移行する考え方です。
NTTでは、6G(第6世代移動通信システム)向けの3GPP(3rd Generation Partnership Project)の議論との整合をとる観点からIntentのモデル議論が重要と考えています。TMF 921 Intent Management APIによりオペレーション領域で自動化を実現させるプロセスをIntent Drivenに進めることが可能となりつつあります。この一連のフローの中で6GのネットワークにおいてもRANやコアのネットワークドメインと協調してネットワークの自律自動化を実現させる必要があります。オペレーション領域のTM Forumのシステムから3GPPで想定するIntentの情報を適切に伝達することが求められます。将来のネットワークサービスでは多様な要望に基づいたネットワークの実現に向けて、サービスに求められる要望を6Gなどの将来のネットワークとして柔軟に提供していけるように標準化を推進しています。


■その他 Projects
ANプロジェクトのほかに20程度のCollaborationプロジェクトで標準化議論が進められています。その中からいくつかのプロジェクトでの議論トピックを紹介します。
AI 4 Business & IT ModernizationプロジェクトやAI Native Blueprintプロジェクト、AI 4 X Pathway to ProductionプロジェクトなどのAI系プロジェクトでは、AIやAI agentを使っていくうえでの情報セキュリティ、情報管理の要件の検討や、AIを活用するうえでのデータアーキテクチャなどの議論が行われています。
DT4DIプロジェクトでは、オペレーションプロセスに含まれる判断において、Digital Twinをいかに活用していくかについてデータアーキテクチャやユースケースの議論などが行われています。
Component and canvasプロジェクト、End to end Open Digital Architecture(ODA)プロジェクト、Information systems architectureプロジェクト、Master ODAプロジェクトなどODAに関するプロジェクトでは、図4のODAの機能構成を基に、BSS/OSSのアーキテクチャとしてAI活用やビジネス連携をどのように実現できるのかを議論しています。また参照実装であるODA Componentの活用に関する議論も行われています。

Catalyst Projects
TM Forumでは標準仕様を策定するだけではなく、その標準仕様の実装可能性、ビジネス価値を実証するためにCatalystと呼ばれるPoCを実施する特徴があります。
2026年度に開催されたTM Forumイベントの1つDTW Igniteにおいては、59件のCatalystプロジェクトがPoC展示を行っており、250社以上から約1350名が参加しています。このイベントでは、「Agentic AI x AN x Intent x Digital Twin」を組み合わせた展示が50%以上を占め、改めてAI/ANへの注目度の高さがうかがえました。
■Catalyst例:Living Networks
NTTでは、Telin、Orange、Verizon、中華電信、TIM、Beyond Now、infosim等、14社と連携したLiving NetworksというCatalyst(4)に参加しています(図5)。海底ケーブルのメンテナンス自動化、5Gモバイルネットワークのエネルギー最適化、スマートファクトリーの遠隔メンテナンス、無線基地局の容量設計の4つのユースケースにおいてAIベースのオペレーション自動化・高度化によるエンド・ツー・エンドでのANL4を実現すべく実装・検証を進めています。
この4つのユースケースの中で、NTTは特にスマートファクトリーの遠隔メンテナンスに着目し議論を進めています。chatbotを活用しながらユーザの要望をIntentとして抽出し、Digital Business Platformを介してネットワークの開通にかかわる各種通信設定に必要な情報を伝達します。またネットワークのパフォーマンス・状態の変化を検出した際は自律自動的にネットワーク状態を改善し、ユーザに必要に応じて対応結果を報告します。
他企業と連携しながら、現在の標準仕様の実装可能性(Feasibility)を確認し、今後求められる標準仕様を見極め、各技術要件・ユースケースに対する賛同者を増やし、寄書提案につなげています。

■参考文献
(1) https://www.tmforum.org/
(2) https://staging.inform.labs.tmforum.org/research-and-analysis/reports/an-level-4-industry-blueprint-high-value-scenarios-11-24
(3) https://journal.ntt.co.jp/article/18762
(4) https://www.tmforum.org/catalysts/projects/C26.0.913/living-network-phase-iii
