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2026年11月号

from NTTドコモ

需要家クラスタリングと時系列基盤モデルによる長期電力需要予測の取り組み

近年、電力事業では再生可能エネルギーの導入が拡大していますが、天候条件による発電量の変動が、需給バランスの調整を困難にしています。こうした状況下では、電力卸売市場のボラティリティも大きくなる傾向にあり、予測誤差による直前の追加調達は事業収益を圧迫するリスクとなります。そこでNTTドコモでは、早期かつ正確な需要予測により計画的な電源調達を実現することを目的に、時系列基盤モデルを活用した長期電力需要予測技術を開発しました。本技術により、ボラティリティリスクを最小化し、需要家に対する安定的な電力供給と運用コスト削減に貢献することが期待できます。

電力需給調整の難しさと長期需要予測の必要性

太陽光や風力などの再生可能エネルギーの普及に伴い、天候による発電量の変動が大きくなり、電力の需給バランスを保つ難しさは年々増しています。電力の調達は、実際に電力を使う時期に近づくほど、需給バランスに応じた価格変動の影響を強く受ける傾向があります。そのため、需要の見通しを誤り、卸売市場からの直前調達を余儀なくされると、価格のボラティリティ*1の影響を直接受け、事業収益を圧迫するリスクが生じます。したがって、できるだけ早い段階で正確な需要を見通し、計画的に電源を調達することが、電力事業者にとって重要な経営課題となっています。
従来の長期需要予測では、気温や天候といったマクロな要因を用いた統計的な手法が主に使われてきました。しかし、電力需要は人々の暮らし方や社会活動の変化といったミクロな動向にも強く影響されるため、マクロな指標だけではとらえきれない変動が存在します。また、こうしたミクロな変動は、天候などのように事前に予測することが難しいため、従来の統計的な手法だけでは十分にとらえることができませんでした。そこでNTTドコモは、需要家*2ごとの特性を活用したクラスタリングと、2つのモデルを組み合わせたハイブリッド予測を採用することで、マクロとミクロの両方の変動を高い精度でとらえられる長期電力需要予測技術を開発しました。

*1 ボラティリティ:価格変動の度合いのこと。ここでは電力卸売市場における取引価格の激しい値動きを指します。
*2 需要家:小売電気事業者と契約し、電気を使用する一般家庭や企業などの総称。

需要家特性とハイブリッドモデルを組み合わせた予測手法

本技術の特長は、①需要家特性を活用したクラスタリングによって、需要に潜む細かな変動をとらえられるようにした点と、②役割の異なる2つのモデルを組み合わせたハイブリッド予測によって、マクロな変動と未知の変動パターンの双方に対応できるようにした点の2つです。本手法の全体像を図1に示します。以降、それぞれについて説明します。

■需要家特性を活用したクラスタリング

電力需要は、気温などの気象条件だけでなく、世帯構成や設備の保有状況といった需要家ごとの暮らし方によっても大きく変わります。しかし、多数の需要家の使用量をまとめて1つの需要として予測すると、個々の消費特性が平均化されてしまい、特定の世帯層に起因する細かな変動をとらえることが難しくなります。そこで本技術では、契約種別や建物形態、家族人数といった需要家特性と、過去の電力消費実績の両方を組み合わせて解析し、消費傾向が似た需要家どうしを同じグループ(クラスタ)にまとめます。需要家特性を併用することで、過去の実績が少ない新規の需要家であっても、特性の近いグループへ適切に振り分けることができ、実績データ不足によって分類が難しくなる課題にも対応できます。
こうして得られた各クラスタに属する全需要家の使用量を集約し、クラスタごとの代表的な需要の推移を計算します。需要総量を直接予測するのではなく、挙動の似たクラスタ単位に分解してから予測することで、全体を平均化すると相殺されてしまう細かな変動パターンや、特定の需要家層に特有の季節変化を、より精緻にとらえられるようになります。こうして得られたクラスタごとの需要の推移を、以降の予測の対象とします。

■マクロ変動とミクロ変動を分けて予測する二段階モデル

各クラスタの需要を予測する際、本技術では役割の異なる2つのモデルを組み合わせています。第一段階では、気温やカレンダー情報(曜日、祝日など)といった外部要因を使い、従来の時系列予測モデルで需要全体の大きな動き(マクロ変動)を予測します。気温と電力需要の間には、冷暖房の使用に伴うV字型の非線形な関係があることが知られており(1)、こうした関係をとらえられるモデルを採用しています。
第二段階では、この予測値と実際の値との差(残差)を対象に、時系列基盤モデルで予測を行います。時系列基盤モデルは、金融や気象、エネルギーなど多様な分野の膨大な時系列データをあらかじめ学習したモデルであり、学習データに含まれない未知の変動パターンにも一定の精度で対応できる特長を持ちます(2)(3)。本技術では、この時系列基盤モデルに対し、電力需要の残差データを用いたファインチューニング*3(追加学習)を行うことで、高い汎用性を維持しつつ、需要固有の細かな変動(ミクロ変動)をとらえられるように調整しています。最終的な需要予測値は、マクロ変動の予測値とミクロ変動の予測値を足し合わせることで算出します。
このように、外部要因への追従性に優れた第一段階のモデルと、未知の変動への対応力に優れた第二段階のモデルを組み合わせることで、両者の弱点を補い合う高精度な長期需要予測を実現しています。
最後に、各電力エリアについて、クラスタごとに算出した予測値を、クラスタに属する需要家数に応じて重み付けしたうえで集約し、エリア全体の最終的な電力需要予測値を求めます。

*3 ファインチューニング:事前学習済みのモデルに対し、特定のデータを用いて再学習させ、微調整する手法。

実データを用いた効果検証

本技術の効果を確かめるため、NTTドコモが提供する電力サービス「ドコモでんき」*4の実データと需要家特性を用いて評価を行いました。2022年10月から2024年9月までの2年分のデータで学習し、続く2024年10月から2025年9月までの1年分を対象に検証しました。予測対象は、電力エリアごとの1需要家当りの電力使用量とし、評価指標には、予測値と実績値のずれの大きさを示すMAPE*5を用いました。MAPEは値が小さいほど予測誤差が小さく、予測精度が高いことを表します。長期予測は一般に難易度が高いとされていますが、本評価では丸1年間という長い期間を対象とすることで、実運用に近い条件のもとで技術の効果を確認しました。
評価にあたっては、「需要家クラスタリング」と「時系列基盤モデルによるミクロ変動予測」それぞれの効果を確認するため、表1に示す4手法を比較しました。
比較の基準(ベースライン)には、需要家クラスタリングも時系列基盤モデルによるミクロ変動予測も行わない手法1を用いました。以降、各手法の効果は、この手法1からの誤差の増減として説明します。評価期間全体のMAPEを手法1と比較したところ、手法2は誤差が0.197ポイント、手法3は誤差が0.068ポイント縮小し、いずれも単独で効果が確認されました。これに対し、両者を組み合わせた手法4は誤差が0.249ポイント縮小し、比較した4手法の中でもっとも高い改善効果を示しました(表2)。
図2に示す月別の推移を見ると、手法2は、冷暖房需要が増える夏・冬の期間で改善効果が大きく、需要家ごとの設備やライフスタイルの違いをより詳細に反映できたためと考えられます。一方、5月や10月といった需要が少ない中間期(軽負荷期)では、手法1と比べて誤差がやや拡大し、精度が悪化する月も見られました。ただし、これらの時期は需給が逼迫しやすい夏・冬のピーク期と比べて電力需要そのものが少ないため、精度低下による実務上の影響は相対的に小さいと考えられます。
手法3は、手法2と比べ全期間平均での改善幅は小さいものの、月ごとの変動が小さく、中間期を含め年間を通じて比較的安定した改善効果を示しました。なお、開発の過程では、時系列基盤モデルだけを用いて電力需要そのものを直接予測する方法も検証しましたが、気温などの外部要因の影響を十分にとらえられず、全期間のMAPEが手法1より大幅に悪化する結果となり、実用に適さないことを確認しています。この結果は、時系列基盤モデルを残差(ミクロ変動)予測に特化させる、本技術の設計方針の妥当性を裏付けるものです。
手法4は、手法2で課題となった中間期の精度低下を抑えつつ、夏・冬のピーク期の改善効果を維持しました。これは、クラスタリングによって需要変動の特性を分解したうえで、さらにミクロ変動予測によって各クラスタ固有の変動パターンに対する誤差を補正できたためと考えられます。
また、時系列基盤モデルは日々研究開発が進んでいる分野です。本技術は、運用中のモデルを、より高性能な最新の時系列基盤モデルへ置き換えられる構成になっており、需要家特性や実績データを継続的に更新しながら、サービスを止めることなく予測精度を高めていくことが可能です。
こうした改善幅は、電力事業者が卸売市場からの直前調達に頼る場面を減らし、調達コストのばらつきを抑えられることを意味します。また、予測に用いる需要家特性やモデルの性能は、運用しながら継続的に見直すことができるため、需要動向の変化にも追従しながら予測精度を維持できます。

*4 ドコモでんき:NTTドコモが取次を行う、家庭向けの電力サービス。小売電気事業者はNTTアノードエナジー。
*5 MAPE:Mean Absolute Percentage Error の略で、予測値が実績値から平均して何%ずれているかを示す指標。

今後の展望

本技術により、1年先といった長期間の電力需要を高い精度で見通せれば、電力事業者は電源をより早く計画的に調達できるようになります。これは、調達コストの最適化だけでなく、市場価格のボラティリティリスクの回避にもつながり、安定した電力事業の運営や、需要家への経済的な電力サービスの提供に寄与します。
本技術は、多様な分野のデータで事前学習された時系列基盤モデルを、電力需要という特定の領域に適応させて活用した事例でもあります。今後、時系列基盤モデル自体の性能が向上していけば、同様の考え方を他のエネルギー需要や交通量など、長期的な見通しが求められるさまざまな分野の予測にも応用できると考えられます。
NTTドコモは今後も、高度なデータ分析力と先端AI技術を活用し、予測精度のさらなる向上や、より長期間の予測の実現に向けた技術開発を推進していきます。そして、これらの高精度な予測技術を基盤として、需要家にとって魅力的な電力サービスを提供するとともに、エネルギー需給の最適化を通じたGX*6やサステナビリティの推進にも貢献していきます。

*6 GX:グリーントランスフォーメーションの略。化石燃料中心の社会から、脱炭素社会へ転換する取り組みのこと。

■参考文献
(1) 蛭田・Lu・芦名: “気温と湿度に対する消費電力の感応度――般送配電事業者ごとの毎時電力消費量に着目して,” 土木学会論文集G(環境),Vol.75, No.6, pp. II_17–II_27, 2019.
(2) A.F.Ansari, L.Stella, C.Turkmen, X.Zhang, P.Mercado, H.Shen, O.Shchur, S.S.Rangapuram, S.Pineda Arango, S.Kapoor,J.Zschiegner, D.C.Maddix, H.Wang,M.W.Mahoney, K.Torkkola, A.G.Wilson, M.Bohlke-Schneider, and Y. Wang: “Chronos: Learning the Language of Time Series,”
Transactions on Machine Learning Research, 2024.
(3) A.Das, W. Kong, R.Sen, and Y.Zhou: “A Decoder-Only Foundation Model for Time-Series Forecasting,” Forty-first International Conference on Machine Learning, 2024.

NTTドコモ
サービスイノベーション部

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