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光通信波長帯ナノワイヤレーザの室温動作に成功 ―― 通信用微小レーザ光源の光回路集積に道

NTTは、独自に開発した半導体ナノ構造形成方法を用いて髪の毛の100分の1程度の太さの高品質なナノワイヤレーザ構造を作製し、ナノワイヤではこれまで実現されていなかった光通信波長帯での室温レーザ発振に成功しました。さらにナノワイヤ構造を厳密に制御することで通信波長帯1300~1600ナノメートル全域での室温レーザ発振も実現しました。本技術は、光集積回路実現に向け最大の難関であった微小レーザ光源の直接形成と光ファイバ通信網とのシームレスな接続を可能にすると期待されます。
なお、本研究の一部は、独立行政法人日本学術振興会科学研究費助成金の助成を受けて行われました。

研究の成果

今回研究チームは、従来の金や銀の異種金属を用いず、発光・障壁層構成原子と同元素である(不純物になる心配のない)インジウム金属を触媒とする自己触媒ナノワイヤ成長法を開発しました。この手法を用い、発光層にインジウムヒ素(InAs)、障壁層にインジウムリン(InP)というそれぞれ触媒金属+単一元素からなる多層膜ナノワイヤレーザ構造を作製しました(図)。これは通常二次元ヘテロ構造では大きな格子不整合のために作製不可能な層の組合せです。この構造からの光励起による発振特性を調べたところ、通信波長帯である1570ナノメートル付近でナノワイヤ構造としては初めて室温でレーザ発振を観測しました。また発光層の厚さのみを精密に変化させることでレーザ発振波長が1300~1600ナノメートルで制御可能であることも実証しました。これは現在用いられている光通信波長をほぼカバーします。

図 作製した多層膜ナノワイヤレーザ構造

今後の展開

ナノワイヤ構造は格子不整合の影響を受けにくい特性から、異種の半導体基板上への作製も可能です。今回実現した自己触媒ナノワイヤ成長法を、今後シリコンフォトニクスに代表される光集積回路でもっとも大きな課題となっている微小レーザ光源の直接形成に展開していきます。シリコン光回路上に直接光通信波長ナノワイヤレーザが実装できれば、光配線やコネクタにおける光損失が飛躍的に低減されるだけでなく、既存の光ファイバ網との波長変換等を必要としないシームレスな接続が可能になります。また発光層をさらに微小化することで単一光子や量子もつれ光子対発生源へ発展させ、量子光集積回路として研究がさかんになりつつあるシリコン量子フォトニクスの光源としての展開もめざします。

問い合わせ先

NTT先端技術総合研究所
広報担当
TEL 046-240-5157
E-mail science_coretech-pr-ml@hco.ntt.co.jp
URL https://www.ntt.co.jp/news2019/1902/190223a.html

研究者紹介
インパクトのある基礎研究成果をNTTのサービスにつなげることが夢
Zhang Guoqiang

NTT物性科学基礎研究所
量子光デバイスグループ

この研究を始めたのは約9年前です。その当時「自己触媒法」による高品質なInP/InAs半導体ナノワイヤ構造の作製というアイデアを思いつきました。もしこれが実現できれば、さまざまな高性能な光デバイス応用が可能になるはずだと非常に興奮したことを覚えています。しかしその作製は簡単なものではなく、このテーマを進めることへの周囲の反応も良いものではありませんでした。実は私も成功する自信は全くありませんでしたが、チャレンジングな研究テーマに取り組み、誰にも成し得ない結果を出すと心に決め、研究に没頭しました。
最初に取り掛かったのはナノワイヤでInP/InAsヘテロ構造(異なる半導体が順に積層された構造)を作製することです。これはLEDやレーザなどで基本となる重要な構造です。積層した半導体層から結晶の欠陥を取り除く高品質化も重要な課題でした。これらの実現には非常に長い時間が必要でしたが、その結果、極低温で初めてナノワイヤからの通信波長帯レーザ発振の観測に成功し、間もなくして今回の成果となる室温での発振も実現しました。このときは我ながら驚くとともに、このテーマを選んだことが間違いではなかったと確信しました。
現在は実際のデバイス応用、具体的には光集積回路の微小光源への応用に向け、電流注入によるレーザ動作や半導体基板上でのナノワイヤ配列制御などに取り組んでいます。私の夢は大きなインパクトのある基礎研究成果をNTTの製品やサービスにつなげていくことです。基礎研究の立場からNTTの事業に貢献できるよう、これからも研究を楽しみたいと思っています。