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Focus on the News

NTTと東北新社、二番工房が触覚体験のデザイン・シェアを可能にするCompticsを活用した共同実験を開始 ―― 世界最大規模のビジネスとコンテンツの祭典「SXSW2019」にプロトタイプを出展

NTT、㈱東北新社、㈱二番工房は、NTTが開発を進めている触覚コンテンツの体験・作成・共有システムCompticsを活用した体感型コンテンツの創造をめざし、2019年2月より検証を開始しました。
NTTと東北新社、二番工房は、米国テキサス州オースティン市で行われる、音楽・映画・インタラクティブをテーマとする世界最大規模のビジネスとコンテンツの祭典、「サウス・バイ・サウスウエスト2019(SXSW2019)」において開催されるオフィシャルイベント「Trade Show」(2019年3月10~13日)に出展しました。

背 景

NTTはSXSW2018においてCompticsのビジョンを提示してフィードバックを得ることを目的として第一世代のプロトタイプを展示し、米国オースティンの地で映像制作のトップカンパニーである東北新社および二番工房と出会いました。連動させるコンテンツとストーリーテリングの強化が課題であったNTTと、映像体験の拡張や映像制作に限らず新規事業を検討していた東北新社および二番工房は、2019年2月より三者の共同実験を開始し、Compticsのめざす体感型コンテンツの体験・作成・共有という世界の実現に向けた検討を進めてきました。第二世代のプロトタイプとして、東北新社および二番工房が制作した映像に合わせて、NTTが触覚のタイムラインを制作し、Compticsでの出力を実現しました。その価値検証の1つとして世界中のテクノロジ・映像・音楽関係者が集まるSXSW2019に出展することにより、体験レベルのフィードバックを収集し、2019年12月まで改良と検証のプロセスを進めます。
各社の役割分担は以下となります。
(1) NTT
・Compticsの提供
・触覚コンテンツの提供
(2) 東北新社、二番工房
・ストーリーテリング
・映像・サウンドコンテンツの提供

SXSW2019出展内容

NTTは今回Compticsを活用した2つのコンセプトをNTTの単独、およびNTTと東北新社、二番工房との共同の各々で展示しました。
(1) Perticipative Costume by NTT
Compticsを活用した新たな体験として、体験型ミュージカルなどにおける触覚を通じた演出や演者と観客の新たなインタラクションを提案します。今回は、想定される種々のシーンにおける触覚演出のプロトタイプを初披露しました(図1)。
(2) Haptics VR Theater “ME-HADA” by 東北新社、二番工房、and NTT
NTT、東北新社、二番工房によるハプティクスVR シアター “ME-HADA” では、映像演出の拡張や、今まで体験したことのない世界を切り取り、体験に落とし込んだプロトタイプを初披露しました(図2)。

図1 Participative Costumeコンセプトイメージ

図2 ME-HADAコンセプトイメージ

問い合わせ先

NTT先端技術総合研究所
広報担当
TEL 046-240-5157
E-mail science_coretech-pr-ml@hco.ntt.co.jp
URL https://www.ntt.co.jp/news2019/1903/190305a.html

担当者紹介
どんな映像でもリアルタイムでリアルなハプティクス体験ができる時代に向けて
麻王

株式会社東北新社
企画演出部
ディレクター

映像の歴史は、常に“視覚のリアリティの再構築”をめざしたものでした。写真を連続させることによって動画となり、視覚の時間軸が再現可能になりました。3D立体視によって視覚の奥行きが再現可能になり、視聴者はより実感的な観賞が可能になりました。VRによって画角という概念から解放され、自由な選択的観賞が可能になりました。そしてついに、ハプティクスによって、映像は触覚を伴い、もはやただの虚構ではなく、現実の体験そのものとなります。今回の制作を通して、ハプティクスは、確実に映像の歴史における次の重要な分岐点になる、と強く実感しました。もし次の機会につなげられるとするならば、ハプティクスの表現力をもっと具体的に進化させることが最重要課題だと思っています。より明確に目的を持った映像表現に対して、最適化させた「ハプティクスデザイン」を突き詰めて、表現する。たった1項目で良いから、一点に絞って視覚デザインと触覚デザインの可能性を詰めていくこと。より実験的になって構わないので、視覚と触覚の新たな領域をまずは一点突破していく。そしてそれを何回も繰り返すことで、ハプティクス技術全体の表現力が底上げされていき、それの集合技術がやがて「どんな映像でもリアルタイムでリアルなハプティクス体験ができる」というステージまでいざなっていくはずです。その未来へ到達できるまで、この進化は止めてはならないと思います。

 

担当者紹介
異国の地で始まった異業種コラボレーション
石井 鳳人

株式会社二番工房
チーフプロデューサー

物語は2018年3月米国テキサス州のオースティンという街から始まります。オースティンで開催されたSXSW2018というイベントに訪れた私は和田敏輝研究員と触覚デバイス Comptics に出会うことになります。会期中の4日間で開催されるトレードショーという展示イベントがあります。一度はトレードショーの会場を訪れていたものの、どうしてももう一度行かなくてはならないという衝動にかられ、最終日の終わりがけギリギリで再び会場を訪れたのでした。会場のドアをくぐり抜け、導かれるように歩いていくとNTTブースにたどり着きました。それまで触覚デバイスというものを見たことも触れたこともなかった私に、丁寧にそして熱く説明をしてくださる和田研究員。私は「この技術にはコンテンツの体験を変える可能性がある!」と思い、日本に帰国してからコンテンツへの応用について議論を重ねていきます。そして、出会いから1年後のSXSW2019にCompticsを活用したVRコンテンツを共同で出展するまでに至ったのです。今回の件を通し、お互いほぼ接点を持つことのない別業種どうしの人間が何かを一緒に取り組むことからイノベーションが生まれる可能性があるということを改めて実感しました。和田研究員の「熱意」と「行動力」、私の「好奇心」と「信念」が日本から遠く離れたテキサスの小さな街で2人が出会えた奇跡の所以だと思っています。この物語はまだまだ始まったばっかりです。続きを楽しみにしていてください。

 

研究者紹介
新しい文化の醸成をめざしたコラボレーション
和田 敏輝

NTTデバイスイノベーションセンタ
ライフアシストプロジェクト ウェアラブルアプライアンス応用DP
研究員

このプロジェクトをたどっていくと行き着くのは、当時の指導者小野一善主任研究員と始めたテーマ企画です。当時、機能的価値と体験価値、エンジニアリングとデザイン、センシングとアクチュエーションの関係性に興味を持っていました。在籍していたグループはセンシングチームでしたが、センシングは何かを実現するための手段であり、我々はその先の情報提示や実世界への働きかけ(アクチュエーション)という部分にフォーカスして新しい体験価値をデザインできないかと研究開発を進めてきました。
その後、センシングと同じインタフェースを活用し、ハプティクスをコンピュータ上で作成し、体験するだけではなくインターネット上で共有することもできる世界をめざすというコンセプト“Comptics”へと進化させました。そして、インサイトやネットワークを得るため、石井鳳人さんとの出会いにもつながるSXSW2018にも出展しました。現地では、ハプティクスを自由に操られるとしたらどう使うか? という問いを投げかけながら、映像や音楽などのコンテンツとハプティクスの融合を展示しました。そんな投げかけに対し、映像体験の拡張を検討されていた石井さんがこたえてくれたわけです。
本プロジェクトME-HADA works with Compticsでは、ヘッドマウントディスプレイならではの体験を組み込むことも目的の1つとして、日常生活で体験したことのないシーンを映像とサウンド、ハプティクスで表現しています。特にその部分に関しての評価は良好で、今後のコンテンツづくりの参考に十分になる知見が得られつつあります。
最終的には、プロだけではなく一般の方がコンテンツを簡単につくれて共有することもできるような仕組みの実現とそれに伴う行動様式の変化や、新しい文化を育むようなことができると素敵だなと思っています。