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テクニカルソリューション

自動判定機能を備えた接地設備評価シミュレータの導入

NTT東日本技術協力センタでは、雷による年間150件程度の通信設備の被害に対する故障相談を受けています。被害を受ける設備は通信センタビル内からアクセス区間、お客さま端末まで多岐にわたっています。その中でも通信センタビルでの雷による故障は、大規模な通信障害につながるため、安心・安全な通信サービスの提供に向けて確実な対策が必要です。この通信センタビルでの雷害を抑制するためには、ビル内の接地構成の適正化を図ることが重要です。技術協力センタでは、通信センタビル全体の接地および接地線を含めたすべての既存配線(給電線、通信線)を見える化し、最適化することをサポートするツールを開発し、現場作業の効率化を支援しています。

通信センタビルで発生する雷故障と原因

通信センタビルに設置された通信設備(通信装置や電源装置)は、雷の発生により、屋上の鉄塔、アンテナ、避雷針等への落雷(直撃雷)や、付近への落雷によって通信ケーブル、電源ケーブルに誘導された雷サージ(誘導雷)によって被害を受けることがあります。このような雷からの被害を最小限にするための1つの方法として、通信センタビル全体での接地の適正化が挙げられます。接地の構成が適切でない場合には、これら雷サージの侵入によって、通信装置間の電位差、フロア間の電位差、接地極間の電位差等が発生し、通信設備のスタックや装置損傷等の故障を引き起こす原因となります。

通信センタビルの接地構成の考え方

通信センタビルの接地構成については、平成8年に制定された「接地ガイドライン」に基づき設計・施工・対策を行うことになっています。基本的な雷対策には、複数の接地点を連接させる「①等電位化」、雷サージ電流の侵入を電気的に阻止する「②絶縁」、雷サージ電流を迂回させるルートを構築する「③バイパス」の3つの方法が存在し、通信センタビルの場合には、主に①、②を用いて接地の適正化を進めていきます。その考え方として以下の3点が重要になります(図1)。
(1) 建物レベルでの等電位化(IF-A)
通信センタビルに複数の接地極が存在する場合は、連接して1点にまとめます。これにより、接地極間の電位差を抑制します。
(2) フロアごとの等電位化(IF-B)
通信センタビル全体と同じようにフロアごとの接地の基準を1つにまとめることで、複数の接地端子間の電位差を抑制します。
(3) フロア間をつなぐ通信ケーブルの絶縁確保(IF-C)
フロア間をまたぐ通信ケーブルが存在すると、フロア間の電位差の違いにより通信装置が影響を受けることがあります。そこで、異なるフロアをまたいで接続される通信ケーブルに絶縁対策を行い、通信装置の雷故障を抑制します。

図1 通信センタビルの接地構成方法

技術協力センタの取り組み

接地適正化に向けたマニュアルの提供

通信センタビルをより雷に強くするため、通信センタビルの接地環境の点検、改善を下記の3つのステップで実施します。
① 通信センタビル設備・配線状況の把握
② 既存環境における配線の不備個所の把握
③ 配線の不備個所の改修
これらのステップを確実に行うためには、作業者全員が既存設備の配線状況の正確な把握とその結果に対する良否判断ならびに、不備があった際の不備改修方法について、理解するとともに統一した作業ができるようにすることが重要です。そこで技術協力センタでは、「接地調査マニュアル」と「接地改修マニュアル」を作成し、主管部門から関連部に展開しています。これらのマニュアルでは、通信センタビルの接地構成の状況を把握するためのチェックポイントならびに、通信センタビル全体、フロア単位、通信ラックへの配線(通信線、給電線、接地線)の確認方法と不備があった際の改修方法を記載しています。

接地適正化の判断を行うツールの提供

提供したマニュアルを運用するうえでの課題として、実際の通信センタビルでは、通信設備(通信装置や電源装置)の配置、ケーブルの配線、接地の構成などが区々であり、その接地構成の良否判断には、通信設備の設置や配線法に関する幅広い知識や雷対策に関する専門的な知識の活用が必要となり、すべての作業者が統一的に作業を実施することが難しいという点がありました。そこで、技術協力センタでは、経験や知識によらず、通信設備の構成を見える化し、簡易に接地構成の良否を判定可能な「接地設備評価シミュレータ」を開発しました(図2)。
本シミュレータでは、通信センタビル全体、フロア単位での通信設備の設置状況、各線(通信線、給電線、接地線)の配線状況を入力することにより、通信センタビル内の設備状況、各線の配線接続状況を簡単に「見える化」することができます(図3)。また、良否判定機能を具備しており、ワンクリックで「接地構成の正常性」を判定することが可能です(図4)。シミュレータ内には、「接地ガイドライン」と「接地調査・改修マニュアル」に基づいた30個のチェック項目があらかじめ設定されており、それに基づいて配線1本1本に対し自動で正常性の確認を行います。
通信設備の設置状況や配線状況のデータの入力については、調査結果に基づいてあらかじめ用意されているパーツを使いGUIで作図していく方法と、他システムで利用している通信センタビルの配線情報ファイルを読み込み自動作図する方法の2つがあります。本シミュレータはノートPCレベルで動作するため、接地の調査をしながら通信設備の設置状況、配線状況の図面を作成することが可能です。また、通信設備が設置されている架内の配線状況も直流、交流給電といった給電電圧ごとに入力することができ、架内配線の見える化も可能です。
通信センタビル内の通信設備の設置、配線のデータ入力が終了すると、接地の適正化に向けた良否チェックが行えます。良否チェックにより不備が発見されると、不備個所の配線や通信設備がハッチングされるので、簡単に不備個所を確認・特定することができます。合わせて、不備と判定された理由も明示されるため、接地や配線の適正化に向け確実な対策をすることができます。
本シミュレータを活用いただくことで、構成が区々な通信センタビルの接地適正化作業に対し、知識や経験によらず統一的な通信設備の見える化と不備個所の確認・特定が可能となり、現場作業の効率化が期待されます。

図2 接地設備評価シミュレータの判定イメージ

図3 通信設備の設置状況や通信線・給電線・接地線の「見える化」

図4 「接地構成の正常性」の判定結果

今後の展開

安心・安全な通信サービスを提供し続けるためには、雷の影響を受けにくい通信センタビルの構築と維持が重要です。その1つの方法として、接地の適正化が必要です。今回開発したシミュレータは、設備の接地、配線に関する不備を漏れなく明示するため、確実な改修が可能となります。接地の適正化により、より雷に強い通信センタビル構築に貢献します。
技術協力センタでは、引き続き現場の課題解決に向けた技術協力活動を推進し、通信設備の品質向上・信頼性向上に貢献していきます。

問い合わせ先

NTT東日本
ネットワーク事業推進本部 サービス運営部
技術協力センタ EMC技術担当
TEL 03-5480-3711
FAX 03-5713-9125
E-mail gikyo-ml@east.ntt.co.jp