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1波長当り毎秒1テラビットを長距離伝送する世界初の波長多重光伝送実験に成功 ―― IoTや5Gサービス普及に対応する大容量通信ネットワーク技術として期待

NTTは、多値信号の高精度校正を可能とするデジタル信号処理技術および超広帯域な光フロントエンド集積デバイス技術により、1波長当り毎秒1テラビットを長距離伝送する波長多重光伝送実験に世界で初めて成功しました。
NTTは、独自の多値信号の高精度校正技術と超広帯域な光フロントエンド集積デバイス技術を開発し、毎秒1テラビット(シンボルレートとして120ギガボー、変調多値度の高い高品質な64QAM)級の光信号生成に成功し、これを35波長多重して800 kmの伝送に世界で初めて成功しました。現在の実用システムの1波長当り毎秒100ギガビット容量の10倍の伝送速度であり、IoTや5Gサービス普及に向けた大容量通信ネットワーク技術として期待されます。

研究の背景

IoTや5Gサービスなど新しい情報通信サービスの普及に伴い、通信トラフィックは今後も増え続けることが予測されており、基幹系の光通信ネットワークにおいてもさらなる大容量化を経済的に実現することが求められています。経済性の観点では、光信号1波長当りの伝送容量を拡大することが有効であり、信号のシンボルレートを上げ、1シンボル当りの変調多値度を上げることで、1波長当り毎秒1テラビット容量の光信号を複数波長多重した長距離光伝送の実現が望まれていました。
1波長当りの伝送容量を拡大するためには、シリコンCMOSによる半導体回路の速度限界を克服する必要があります。これまでNTTではAMUXを用いてシリコンCMOSの速度限界を打破する帯域ダブラ技術を使った光伝送方式ならびに集積デバイスの研究開発を進めており、100ギガボーを超えるシンボルレートの光信号生成に成功しています。しかしながら、光フロントエンド回路部の不完全性(信号経路長差や信号経路による損失ばらつき等)のため、1波長当り毎秒1テラビットの高速かつ長距離の波長多重伝送が可能な品質の光多値信号を生成することは困難でした。

研究の成果

今回、独自の多値信号の高精度校正を可能とするデジタル信号処理技術および超広帯域な光フロントエンド集積デバイス技術(図)により、1波長当り毎秒1テラビットを長距離伝送する波長多重光伝送実験に世界で初めて成功しました。光フロントエンド回路部に内製InP HBTによるAMUXを用いることにより120ギガボーのシンボルレートを実現し、かつ高精度校正技術により変調多値度の高い高品質なPDM-PS-64QAM光信号生成に成功しました。さらに、これを35波長多重して800 kmの伝送に成功しました。

今後の展開

これまで世の中で実現が困難であった、高シンボルレート(120ギガボー)の高品質な64QAM級光信号を生成できるので、1波長当り毎秒1テラビットを長距離伝送する大容量波長多重光通信システムの実現が期待されます。現在広く使われている1波長当り毎秒100ギガビットの10倍の伝送速度であり、IoTや5Gサービス普及に向けた大容量通信ネットワーク技術として期待されます。今回、AMUXと変調器ドライバ、光変調器(InP MZM)をハイブリッド集積した多重機能内蔵の光フロントエンドモジュールも実現し、192ギガボーまでのQPSK光信号、および160ギガボーまでの8QAM光信号の生成にも成功しており、今後光伝送実験に適用していく予定です。シリコンCMOSの変調速度限界を打破する超高速光通信向けの基盤技術として、さらなる進化をめざします。

技術のポイント

AMUXによるアナログ多重機能を光フロントエンド回路部に導入することにより、シリコンCMOS回路部と光フロントエンド回路部の2つの回路ブロック間の電気信号の所要帯域を従来の半分に低減でき、回路実装を容易にすることができます。また、シリコンCMOSの速度限界を超えるシンボルレートの光信号を生成できます。さらに、光フロントエンド回路部の不完全性を高精度に校正する独自技術を導入することにより、64QAMまでの高い変調多値度を持つ高品質な光信号の生成に成功するとともに、800 kmまでの長距離波長多重伝送に成功しました。

図 毎秒1テラビット光伝送を達成した光送信構成

問い合わせ先

NTT先端技術総合研究所
広報担当
TEL 046-240-5157
E-mail science_coretech-pr-ml@hco.ntt.co.jp
URL https://www.ntt.co.jp/news2019/1903/190307a.html

研究者紹介
デジタル信号処理技術とアナログ回路技術の融合による超高速光伝送
中村 政則

NTT未来ねっと研究所
フォトニックトランスポートネットワーク研究部 光伝送方式研究グループ
研究員

光ファイバの伝搬中に生じる物理現象に起因した波形劣化を、デジタル信号処理により補償するデジタルコヒーレント技術は、光伝送の大容量化・長距離化に大きな進展をもたらしました。私が入所した2013年には、デジタルコヒーレント技術を用いた毎秒100ギガビットの波長多重伝送システムがすでに実用化されており、さらなるデジタル信号処理技術の発展が期待されていました。今回の毎秒1テラビットの波長多重伝送実験において、アナログ回路の機能をデジタル信号処理でアシストすることにより、従来の技術では達成が不可能であった超高速の信号生成を可能にする帯域ダブラ方式を新たに考案しました。こうした超高速信号の生成においては、理想的なデバイスと実際のデバイスの差分が問題になります。一般にアナログ回路には、少なからず理想からのずれや個体ばらつきが生じてしまいます。こうした理想からのずれや個体ばらつきをデジタル信号処理によって補うためには、理想的な状態との差分を詳細に把握する必要があります。そのため、測定データを詳細に解析することにより実際の送受信機中で生じている信号品質劣化のモデルを構築しデジタル信号処理によって補償することで、帯域ダブラ技術が持っているポテンシャルを最大限に引き出すことに成功しました。毎秒1テラビットの波長多重伝送の実証は大きなマイルストーンだと考えていますが、世界中のネットワークトラフィックは今後も増大を続けると予想されているため、引き続きさらなる光伝送の高速化をめざし、新技術を開拓していきます。