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最先端技術を活かした価値創造の取り組み

金融業界におけるNTT R&D技術活用に関する取り組み

現在、金融業界ではフィンテックと呼ばれる技術革新により大きく業態の変化が起きています。NTT研究所ではブロックチェーンの秘匿化技術やAI(人工知能)による自動顧客対応、RPA(Robotic Process Automation)による業務効率化技術などフィンテックの推進に寄与する技術を数多く研究開発しており各事業会社を通じて紹介の機会を持ってきました。本稿では2017年度から実施しているNTTコミュニケーションズと連携した株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)とのコラボレーション事例と、今後のフィンテック分野でのNTT技術の活用の方向性について紹介します。

宮原 理夏(みやはら りか)†1/ 榎本 普美(えのもと ふみ)†1/ 小池 嘉久(こいけ よしひさ)†1/ 北牧 聖一朗(きたまき せいいちろう)†1/ 宮武 隆(みやたけ たかし)†2/ 冨永 隆(とみなが たかし)†3

NTTコミュニケーションズ†1
NTTサービスエボリューション研究所†2
NTT研究企画部門†3

取り組みの背景

金融業界においてはフィンテックと呼ばれる金融技術の発展により大きく業務の変革が進んでいます。AI(人工知能)による与信審査やチャットボットによるお客さま自動応対、また、ブロックチェーンと呼ばれる新しい情報基盤技術を利用した仮想通貨による国際送金など多岐にわたり技術革新が行われています。
NTTでは約1年間にわたりNTTコミュニケーションズと連携し株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が進めるデジタライゼーション変革に関して共同検討を実施してきました。NTT研究所の各種技術を紹介、体感いただき銀行業務での活用の可能性について共同で検討を行い、将来的に研究成果をビジネス化する際の知見の蓄積を相互にめざす営みです。
MUFGがNTT R&D技術に興味を持っていただくきっかけとなったのがKirari!という超高臨場感通信技術です。Kirari!は遠隔地でもまるでその場に人がいるかのような高臨場感映像を伝送する技術の集合体です。スポーツや歌舞伎、コンサート中継等のエンタテインメントでの活用を指向して技術開発を行ってきました。MUFGに本技術を紹介した際に対外イベントや会議、店舗での来店顧客の対応等に利用できないかとの提議をいただき、MUFGにおける新しい銀行サービスの提供に向けてNTT研究所の技術活用の可能性について幅広く議論する共同検討を開始しました。
現在、メガバンクをはじめとする銀行においては経営の効率化を目的として、お客さまにて各種手続きをセルフで対応いただく次世代店舗を増やし、さらにはご自宅で各種手続きが完結する新しい銀行サービスの提供をめざしています。例えば、来店いただいたお客さまに対して通常のビデオ通話ではどうしても無機的なコミュニケーションにならざる得ない面があり、Kirari!やcorevo®などさまざまなNTTの先端技術を利用することで、人とのつながり感や温かみを維持したまま遠隔地からお客さま対応できるのではないか、との可能性を感じていただきました。

MUFGとの取り組み

2017年度に「銀行サービスの将来像実現に向けた共同検討」というテーマでワークショップ形式のディスカッションを行いました。MUFGからは銀行業務のデジタルトランスフォーメーションを推進するデジタル企画部を中心に20名程度のメンバーに定例会に参画してもらい、各種検討を合計8回実施する大規模なものとなりました。
この検討においては、「新しい映像体験」と「コミュニケーションエンジン・ツール」という大きく2つの軸でNTTの技術紹介と活用の可能性について意見交換を行いました。
1点目の「新しい映像体験」においては、Kirari!を利用した来店顧客への対応についてKirari! for Mobileと呼ばれるTVサイズ型のKirari!を利用した共同展示を実施しました。Kirari!の技術により疑似的に立体に投影されるMUFGのキャラクターであるバーチャルエージェントが顧客への応対をする体感型のコンセプト展示です。シンガポールのフィンテックイベント:Singapore FinTech Festival 2017やCEATECH JAPAN 2017にて展示し、好評をいただきました。
また、「コミュニケーションエンジン・ツール」においては、音声認識技術や合成音声技術、インテリジェントマイクなどNTTが長年培ってきた音声に関する研究成果を紹介し、銀行業務への活用方法についてディスカッションを行いました。例えばインテリジェントマイクと音声認識、テキスト化技術を連携し、来店顧客への対応時の音声データをテキスト化することにより蓄積分析し、優良なお客さま対応例を幅広く展開することで、お客さまの満足度向上や業務効率化が期待できるのではという仮説を導き出しました。
さらに、アノテーション技術と呼ばれる既存システムに影響を与えることなくシステム画面に操作説明や注意喚起を促すメッセージを表示する技術の紹介では、今後ペーパーレス化やセルフ化を進めていく銀行手続きにおいて、高齢者や外国のお客さまへのシステム操作サポートとして活用できるのではという具体的な利用シーンについて意見を得ることができました。
このように一連の共同検討会の実施をとおして、MUFGの方とのリレーション強化を図り、今後も連携して金融業界におけるデジタルトランスフォーメーションを推進していきます(図1)。

図1 銀行サービスの将来像実現に向けた共同検討

最新技術の活用

NTT、NTTコミュニケーションズでは今回の共同検討により得られた知見を最大限に活用し製品化、サービス化を進めています。

音声認識

特にNTT研究所の音声認識・日本語解析技術については、共同検討をきっかけとして技術活用の可能性を深く感じていただきました。これにより、音声認識による顧客の声の見える化とすみずみまで検索できる技術を組み合わせた業務効率化についても、コールセンタだけではなく、店頭や外訪先、行内の議事録化などさまざまなシーンでの活用を検討しています。その具体的な検討の第一弾としてMUFGのアウトバウンドコールセンタにおいてForeSight Voice Miningを活用し感情分析や要約などの技術活用可能性の検証を進めています。

COTOHA TranslatorTM

COTOHA TranslatorTMによる自動翻訳技術については、銀行業務のグローバル化やインバウンド(訪日外国人)への来店対応などのシーンにおいて資料や顧客応対を多言語に翻訳する機会が増えてきています。この対応に向けて、翻訳精度に加え、PowerPoint資料のレイアウトを変更することなく翻訳ができるなど、作業効率の大幅な向上につながると好評を得ており行内での利用評価に取り組んでいます。これらcorevo®に関連する言語認識・解析処理のAI技術を金融業務において多角的に活用するべく、corevo®とKirari!の融合などNTTの技術総合力で「新しい銀行サービスの提供」に向けて共同検討を進めていきます。

Kirari!

2018年10月に開催されたNTT Communications Forum 2018において、Kirari!とNTTコミュニケーションズが大日本印刷株式会社と連携して提供するAIプレートによる裸眼3D映像表示が可能な端末を展示しました。金融機関やその他実店舗での利用を想定した端末の大きさ、コストでの提供の可能性がみえてきており今後の製品化を予定しています。
また、NTT研究所ではKirari!の被写体抽出技術と汎用のTV会議システムを連携するとともに、表示に透明有機ELディスプレイを利用したお客さま受付窓口端末のプロトタイプ機をNTT R&Dフォーラム2018(秋)に展示しました(図2)。フレッツ回線など一般的なブロードバンド環境でKirari!による臨場感を提供できるものとなっており、銀行業界をはじめ遠隔地でのお客さま対応が必要な幅広い業種に活用いただけるものにしたいと考えています。

図2 プロトタイプ

今後の展開

NTT研究所ではフィンテック分野での活用が期待できるブロックチェーンや量子コンピュータなど最先端技術を数多く研究開発しています。これからもMUFGをはじめとする金融事業とのコラボレーションにより優良事例を共同で導き出す活動を続けていきます。

コラム

NTTグループとの協働と今後の期待

株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ デジタル企画部 上席調査役 今藤 文俊(いまふじ ふみとし)

MUFGでは、デジタライゼーションを中期計画の構造改革の柱の1つに掲げており、デジタル企画部では、トップライン向上と効率化の両面で幅広く施策を立て推進する役割を担っています。その中でNTTコミュニケーションズにはNTTグループ全体の新しい技術をNTTの研究員と一緒になってワークショップや武蔵野・横須賀研究開発センタ見学会、NTT Communications Forum等を通して紹介していただき、何か新しいことができないかというアイデアをいろいろといただいています。
現在、アウトバウンドコールセンタでの音声テキスト化にNTTコミュニケーションズと取り組んでいますが、今後もNTTグループの得意な音声・伝送技術を活かして「今のMUFGの業務においてはこういうことができる」など、業務量削減にもつながる提案を期待しています。

上段左から)宮武 隆/冨永 隆
(下段左から)小池 嘉久/榎本 普美/宮原 理夏/北牧 聖一朗

今後も金融分野へのR&D技術活用、サービス化についてNTTグループ各社と連携して進めていき、フィンテックビジネスの獲得に貢献していきます。

問い合わせ先

NTT研究企画部門
プロデュース担当
E-mail incu-g-ml@hco.ntt.co.jp