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最先端技術を活かした価値創造の取り組み

成田国際空港における快適性向上に向けた取り組み ――高精度屋内地図と地磁気測位を活用しお客さまの円滑な移動を支援

訪日外国人の数は右肩上がりに増加しており、日本の玄関口である成田国際空港では、スマートエアポート構想の中、誰もが快適に過ごすことができる空港サービスの実現をめざしています。2018年9月、国内空港初の高精度屋内ナビゲーションアプリ「NariNAVI(ナリナビ)」のサービスが開始されました。本アプリは、屋内測位技術として「地磁気測位」、また地図表示には、複数のフロアにまたがる複雑な空港ターミナル内を立体的に表現する「2.5D地図」を採用し、利用者にとって直感的で分かりやすい地図により、円滑な移動を支援します。

村上 智彦(むらかみ ともひこ)†1/ 瀬下 仁志(せしも ひとし)†2/ 近藤 亘(こんどう わたる)†3/ 稲葉 智(いなば とも)†3/ 高石 光章(たかいし みつあき)†3/ 鎗野目 真士(やりのめ しんじ)†3/ 中村 慎ノ介(なかむら しんのすけ)†4

成田国際空港株式会社†1
NTTサービスエボリューション研究所†2
NTTデータ†3
NTTデータアイ†4

成田国際空港の現状と課題

増加する訪日外国人

成田国際空港(成田空港)は2018年開港40周年を迎えました。2020年のビッグイベントを契機に国が強力に進める観光立国政策の成果もあり、訪日外国人旅客は2012年の836万人から2017年には2869万人と約3.4倍に増加、政府目標では2020年に4000万人をめざしています。成田国際空港株式会社(NAA)は、2016年より「イノベイティブNarita2018」として3カ年のNAAグループ中期経営計画を推進してきました。これは「アジアでトップクラスの国際拠点空港としての地位の維持・強化」を図り、「お客さまに世界最高水準と評される“高品質”な空港」をめざすものです。最先端ICTを活用した世界最高水準の「スマートエアポート」の実現により、お客さまに驚きと感動体験を提供するとともに、成田空港の快適性の向上を図るものとして「スマートエアポート構想」を掲げています。

高精度屋内電子地図の使い道

空港の空間は広大です。バスや鉄道の交通結節点でもあり、また複雑な商業施設の側面も持っています。世界中の人々が訪れるようになり、旅客のニーズも変化していることが肌で感じられます。例えば、都心へのアクセス、Wi-Fiレンタル、おみやげ売り場など枚挙にいとまがありません。デフォルメした統一的な地図だけでは多様化するニーズにこたえることができなくなる、ということを契機に高精度屋内電子地図の作成に踏み切りました。
既築物件の電子地図化は、屋外と屋内の接続個所が異なり、統一されたデータの基準がなく手間がかかります。NAAは、国土交通省の高精度測位社会プロジェクトで作成されたガイドラインに準拠し整備を進めました。2017年10月には、高精度地図を活用したデジタルサイネージ「infotouch」を開発し、地図をデジタルにしたことで変化するターミナルの情報をタイムリーに反映できるようになりました。また、お客さまの利用頻度が高い施設(トイレ・喫煙所)は検索しなくても地図上に常時ピクトを表示し続ける仕組みを導入しました。さらに、ユニバーサルデザインに配慮したデザイン(色彩、ボタンなど)を多角的にゼロから検討し、現在は第1ターミナルに4台設置、2019年度には全館展開を計画しています。新たな取り組みとして、高精度電子地図を他の業務利用や航空会社にも展開できるようAPI(Appli-ca-tion Programming Interface)も同時に開発しました。これを利用してお客さまのために、infotouchで表示した情報をモバイル端末に移し、利便性を高めてほしいという想いがありました。位置情報を活用すれば空港での新しい過ごし方をご提案できます。

NariNAVI誕生

ナビゲーションアプリ「NariNAVI(ナリナビ)」(図1)はこうしたコンセプトの中で開発がスタートしました。アプリで表示する場合、①自己位置の正確性、②目的地の設定の手軽さ、が重要です。屋内位置測位にはさまざまな技術がありますが、国際的には空港インフラとしてiBeaconの採用が主流であることも踏まえ、成田空港では約1500個のiBeaconを設置し、これに地磁気を組み合わせて位置特定する考え方を採用しました。iBeaconを設置すべき位置や高さが旅客動線などから制約があり難航しましたが、地磁気サーベイ方法を見直すことで対処しました。GPSが届かない屋内で自己位置が特定できることは、当たり前のようではありますがとても画期的なことです。
目的地設定には予測変換機能を実装しました。施設が提供する検索ロジックの多くは、正式名称での検索を求めますが、正式名称を入力せずとも目的の施設を検索できるよう多様な“揺らぎ”にも対応する辞書を作成しました。これによりフライト情報や店舗施設の検索がよりスムーズに行えるようになりました。
もう1つの特徴は、Android、iOSのアプリケーションに加えWebブラウザでも使えるものとしたことです。Webブラウザで表示できるようにすることでホームページ等さまざまなWebサービスとの連携を容易にできます。NAAは、こうした位置情報に基づくサービスを並行して進めているロボティクスやチャットボットなどにも展開することで、成田空港を利用する皆様に新たなサービスを提供していきたいと考えています。

図1  NariNAVI

NariNAVI導入技術

NariNAVIに求められる屋内での正確な位置測位と、複雑な階層構造の空港における分かりやすい地図表現を実現するために、アプリ実装にあたっては、NTTグループの2つの技術が採用されました。
1つは地磁気を使った高精度屋内測位技術、もう1つは2.5D地図基盤技術です。地磁気測位は、NTTデータが提供するクラウドサービス「高精度位置情報サービス」の一機能であり、NTTデータとGiPStech(ジップステック社)が共同開発した技術を活用しています。また、2.5D地図基盤技術はNTTサービスエボリューション研究所が開発した地図配信・表現の技術です。
NariNAVIアプリ開発はNTTデータが担当し、これらの技術を組み込んで完成させました。

高精度位置情報サービス

NTTデータの高精度位置情報サービスは、屋内空間におけるナビゲーションサービスを実現するための基本機能である、地図配信と屋内測位、経路検索機能を提供するクラウドサービスです。本サービスを利用することで、屋内での案内誘導サービスを実現したいお客さまは、上位のアプリケーション開発に注力することができます。
本サービスにおける屋内測位の仕組みは、お客さま施設内に設置された各種機器〔Wi-Fi、BLE(Bluetooth Low Energy)ビーコンなど〕が発信する電波と、建物内の地磁気を最適なバランスで計算することで、高精度な測位を実現しています。成田空港では、すでに設置済みのiBeaconを有効活用した高精度な屋内測位実現をめざしていたことから、本サービスの活用に至りました。
地磁気測位とはその名のとおり、地球の磁気を利用した測位です。建物の鉄骨など構造物が存在することで地磁気に歪みが発生する屋内では、磁気の強弱の特徴が出やすく、これを利用して測位を行う技術です。地磁気の強度は現地で歩行による調査を実施することで測定し、それをデータベース化しておいて、多くのスマートフォンに標準的に搭載されている磁気センサで読み取った磁気の値とのマッチングで測位を行います(図2)。

図2   地磁気測位の仕組み

一度測定した地磁気の情報は、大規模工事など構造物に大きな変化がない限り変わることがなく、継続的に安定した測位を実現できる特徴があります。
成田空港では、これまでの一連の開発で、屋内地図と地磁気測位環境が整備されました。すなわち高精度な屋内位置情報の基盤が出来上がったことになり、この基盤を活用することにより、今後の多様なサービスへの展開を図ることができます。infotouchや、NariNAVIでの活用にとどまらず、ログ情報から利用者の行動履歴分析、空港内で働く人の業務改善、カートやベビーカーなどの物品管理など、空港におけるさらなるサービス向上に向けNAAと検討を進めていきます。
また、利用者視点でみると、屋内でも案内可能なエリアが拡大していくことで、どこでも同じサービスが受けられることになり、利便性向上につながります。NTTデータは今後、成田空港を基点に本サービスを他の空港や公共交通機関に対して横展開していくことをめざします。

2.5D地図基盤技術

NTTサービスエボリューション研究所では、車いすやベビーカーで移動される方や、高齢者、訪日外国人の方などの身近な移動を安心・便利にサポートする「ダイバシティ・ナビゲーション」の実現に向けた研究開発を推進してきました。2.5D地図基盤技術はそうした研究成果の1つであり、屋外や屋内の階層地図(階・高さ情報を持つ平面地図)をシームレスに配信・表示可能な地図基盤技術です。
基本的に平面移動である自動車と異なり、人の移動は立体的です。屋内・屋外を行き来し、かつ階段やエレベータなどによる上下移動もあります。従来の地図サービスでは平面(2D)地図の重なりを切り替えて表示することでこれに対応してきましたが、この方法では、例えば異なる階にある自己位置と目的地を鳥瞰して見通すことは難しく、案内ルートも階層ごとに途切れ、直感的な把握が難しくなります。そこで私たちは、従来の屋外2D地図上で位置合わせした屋内2Dフロアマップに対し、さらに「高さの情報(各階の階層数、天井高等)」のみを加える(+0.5D)ことで、平易な立体地図=「2.5D地図」を自動的に生成・配信・提示する技術を確立しました(図3)。地図を2Dから2.5Dという立体表現に変えることで、先に述べたように階段やエレベータといった階層間のつながり方や位置関係が一覧でき、案内ルートも連続的に一目で確認できるため、例えば階段を上がって左右どちらに向かうのか、などを行動に先んじて見通すことができます。加えて、壁面や床面を透過で表現することも可能であり、実世界では見えない「先の見通し」も、自由に確認することができます。
いわゆる3D地図のように精緻で写実的な表現とはなりませんが、その分、既存の平面地図や屋内フロアマップを元手に地図制作の時間とコストを低減するほか、端末の読み込むデータ量や処理負荷も低減できます。これにより、PC・モバイルを問わずWebブラウザベースでのサービス提供を可能としており、実際今回のNariNAVIにおけるアプリ版とブラウザ版、infotouchにおける地図表示にて、共通の仕組みとして活用されています。
NTTサービスエボリューション研究所では、2016年度以来の国土交通省による実証実験や民間企業との共同実証、今回の商用導入からのフィードバックをいただきつつ、新たな研究開発にも取り組んでいます。例えば、2.5D地図の素となる屋内2D地図については、現状まだまだ手作業による制作が多いところ、建築設計系の既存データを活用した自動生成ができないか、検討を進めています。経済化は水平展開のポイントの1つと考えられるため、可能な限り地図制作作業の効率化を技術で後押しし、低コスト・短期間で屋内地図の充実を図りたいと考えています。また、ナビゲーションの分かりやすさへの取り組みとして、地図の苦手な方に向けて、2.5D地図データを最大限活用しつつ、可視化表現(地図面)に頼らない案内手法についても検討を進めています。

図3  2.5D地図の自動生成

(後列左から)中村 慎ノ介/鎗野目 真士/高石 光章/稲葉 智
(前列左から)村上 智彦/近藤 亘/瀬下 仁志

私たちが日常の大半の時間を過ごす屋内空間。NTTグループでは、屋内電子地図や測位環境に関する技術活用し、ナビゲーションをはじめとしたさまざまなサービスを実装することで、より便利で楽しい社会の実現をめざしています。まずは国内空港初「NariNAVI」をぜひお試しください。

問い合わせ先

NTTデータ
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ソーシャルイノベーション事業部
第一営業担当
TEL 050-5546-2507
FAX 03-3532-0910
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