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特集

つくばフォーラム2018 ワークショップ

アクセス系における新たな運用を目指した研究開発

NTTアクセスサービスシステム研究所アクセス運用プロジェクトでは、アクセス系設備の運用業務を抜本的に効率化する研究開発に取り組んでいます。本稿では、保守業務においては点検方法の効率化に向けた取り組み、施工業務においてはセンシング技術を活用した現場課題の解決および安全作業に向けた取り組み、さらに今後のアクセス系設備運用のめざす方向性について紹介します。なお、本特集は2018年10月26日に開催された「つくばフォーラム2018」ワークショップでの講演を基に構成したものです。

新居 丈司(あらい たけし)

NTTアクセスサービスシステム研究所
プロジェクトマネージャ

アクセス設備運用を取り巻く環境

日本の生産年齢人口の減少に伴う人手不足が叫ばれる中、膨大なアクセス設備を保有するNTT東日本・西日本も例外ではなく、2025年にはおおむね40%の人員の減少が見込まれています。安心・安全な通信サービスを持続的に提供していくためには、面的に広がるアクセス設備に対して多くの人手に頼っている現在の運用方法を、抜本的に見直していくことが必要となります。また、現場に目を向けると人身事故は近年増加傾向にあり、ベテラン有スキル者の退職に伴うスキル不足が原因の事故は、今後も減らないと懸念しています。そのため、作業者のスキル不足が顕在化したとしても、事故を起こさずに作業できる施工方法が必要になります。

アクセス系設備点検のイノベーション

運用の中でも膨大な稼働がかかっているアクセス系設備点検の効率化に向けた取り組みについて紹介します。私たちがめざす姿は“現地点検をなくすこと”です。そのためのステップとして、3段階を想定しています。
STEP1としては、点検の中で一番稼働がかかっている電柱点検について、自動診断できる仕組みを構築していきます。今まではすべての電柱を点検していましたが、正常な電柱と異常の可能性がある電柱を自動で分類し、異常の可能性があると診断した電柱のみを現地点検する運用に見直すことで、大幅に現地点検を削減することができます。STEP2としては、自動診断できる仕組みを電柱以外のアクセス系設備であるケーブルや支線、つり線等に拡大していくことで、さらに現地点検を削減していきます。しかしながら、STEP1、2を実施したとしても、異常と診断した設備の現地点検は残ります。そこで、将来に向けてはAIを活用して設備劣化状態を推定し、異常となる時期を予測することで、現地点検そのものを不要にしたいと考えています(図1)。

図1 所外設備点検のスマート化に向けて

STEP1

MMS(Mobile Mapping System)という測定用車両を走らせることで3D点群データを集める市中技術があります。私たちはその集まった点群データから電柱を抽出し、電柱の傾きやたわみを自動で計測する技術を開発しました。また、本技術に加え、膨大な点群データを扱うため、大量のデータを効率的に処理する仕組みを具備した「構造劣化判定システム」を開発し、2018年度より実用化しています。

STEP2

現在は、電柱に加え、ケーブル、支線の抽出ができるようになっています(図2)。ケーブルや支線は障害物に遮られた状態であると抽出が困難でしたが、 NTTメディアインテリジェンス研究所(MD研)と連携し、補間技術を活用することで抽出ができるようになりました。しかしながら、引込線については始点と終点が不明確なため、補間区間の特定ができないことから、現状では抽出が不完全な状態であり、さらなる研究開発が必要となっています。ケーブルや引込線が抽出できるようになれば、地上高を自動で計測し、不安全な設備を見つけることができるようになります。
現地に行かずに点検を実施するために、VR(Virtual Reality)を活用した方法にも取り組んでいます。MMSで集めた3D点群データを活用することで、仮想空間をつくることができます。仮想空間の中では、不良設備に瞬時に移動することができるとともに、電柱の傾きやケーブルの地上高といった測定結果を表示することもできます。また、現地写真を組み合わせて表示することで設備の状態を確認することもできます。さらに、点検者自身を巨人化し、高い視点から俯瞰的に設備構成を確認することもできます。本技術により、点検が必要になったとしても、机上で確認できるようになります。
MMSで点検をすべて実施できれば良いのですが、車が走行できないところでは点検できないという課題もあります。現場では、電柱のたわみ等の計測であればBAUMという測量に使う機器を活用して点検しますが、電柱以外の設備には対応できません。そこで、固定式のレーザスキャナを活用する方法を検討しています。レーザスキャナを活用することで、簡単に点群データを集めることができ、MMSで集めた点群データと同様に、自動で計測することができるようになります。

図2 ケーブル・支線の抽出

AIを活用した設備劣化予測

現在は過去の電柱点検データをAIで学習し、10年後にヒビが入りそうな電柱を予測する研究開発を行っていますが、その精度は決して良くありません。 AIで「ヒビがある確率60%以上」と予測した電柱において、実際にヒビの入っている電柱のうち、「ヒビあり」と判定したのは70%程度であり、残り30%は見逃していました。またAIで予測した電柱のうち、実際にヒビがあったのは30%程度であり、残り70%にはヒビがありませんでした。現時点では現場で活用できるレベルには達していませんが、今後さらに研究開発を進め、予測精度を高めていきます(図3)。
今まで取得できなかったさまざまな設備データを取得できるようになると、データを組み合わせることで新たな付加価値を創出できます。例えば、電柱の傾き・たわみのデータと地図データを組み合わせることで、不良設備の場所を可視化することができ、現地写真を組み合わせることで現地の状況を確認することもできます。また、不平衡な設備のデータとも組み合わせ、電柱位置を地図上で動かすことで、不平衡状態を解消する場所を簡単にシミュレーションすることもできます。同時に現地写真を確認することで、現場調査も机上で実施できるようにもなります。さらにシミュレーションした図面等を活用してそのまま工事発注することで、設計・工事発注業務の効率化にもつながります。

アクセス系設備の現況センシング技術

開通・保留解除作業の効率化

フレッツ光サービスのスプリッタ下部の心線がどのお客さまに接続しているかを確認するツールを紹介します。仕組みとしてはスプリッタ下部の心線を曲げ、漏洩するONU(Optical Network Unit)の上り光から通信フレームを抽出し、ONUのMAC(Media Access Control)アドレスを識別することでお客さまを特定するというものです。本技術はお客さまサービスに影響を与えることなく実施することができます。現場ではサービスオーダで指定されたスプリッタ下部の心線が誤っていることがあるため、どの心線がどのお客さまに接続しているかを現地にて確認することができれば、バックオーダを減らすことができると考えています(図4)。

図4 開通・保留解除作業の効率化(心線対照高度化)

浸水した地下クロージャのマンホールを特定する技術

従来の手法では、NTTビルから浸水した地下クロージャまでの距離をOTDR(Optical Time Domain Reflectometer)で測定しますが、OTDRでは光ファイバ心線の長さで距離を測定することから、光ファイバ心線の余長があると実際の距離と乖離することになります。そのため実際の現場では、おおよその距離で該当するマンホールを予測しますが、マンホールを特定することができないため、複数のマンホールに入坑して確認する作業が発生します。これに対し、振動センシング技術を活用すると、マンホールの蓋をハンマーで打撃し、検知した振動の大きさの違いをみることで、浸水したマンホールを特定することができます。OTDRと組み合わせ、打撃するマンホールを限定することで、効率的な作業を進めることができます。

安全な施工に向けて

道路横断での施工方法

危険作業の1つとして道路横断で引込線を敷設する工程がありますが、施工中に走行車両が引込線を引っ掛けることで人身事故につながるケースがあります。そのため、道路横断の引込線の敷設の際に人が触らないようにすることで、人身事故を回避できます。具体的には、引込線と連結したケーブル縛りひもを横断先に持っていき、ケーブル縛りひもを装着した自動引込線張上げ装置を架空線に引っ掛け、無線リモコンにて巻き上げることで引込線の敷設を完了する方法になります。本装置の重さはベルブロックと同程度であり、現場施工できるレベルではあるものの、作業性を向上する観点から、さらなる軽量化に努めていきます。

ARを活用した作業前点検

作業現場にてタブレットやスマートフォンをかざすことで、現場の状況を自動で判別し、注意メッセージを出すことで作業者に安全作業や基本動作を促すツールになります(図5)。現状は、作業現場にてボイスKY(音声による作業前点検)を実施していますが、現場に適した作業前点検になっていない場合もあることから、本ツールを活用することで、より有効な作業前点検になると考えています。

図5 AR技術を活用した作業前点検

今後のアクセス系設備運用のめざす方向性

最後に今後のアクセス系設備運用のめざす方向性について紹介します。ケーブルや構造物といったアクセス系の設備の多くは、ネットワーク系の設備と異なり、ログを取得したり、遠隔にて状態を確認したりはできません。この状況を打破するため、MMS等の技術を活用した現況センシングに取り組み、今まで取得できなかったデータをデジタル化していきます。現況センシングを「ながら」で実施することができれば、稼働をかけずに既存のデータベースの精度向上を図ることができ、さらなる作業の自動化にもつなげることができます(図6)。また、さまざまなデータを組み合わせることで、新たな付加価値を創出し、仕事のやり方そのものを大胆に変えることもできます。例えば、NTT研究所の基盤技術である構造物の設計ノウハウと、電柱の傾き・たわみのデータ、そして設備構成のデータを組み合わせることで、不平衡荷重の可視化という付加価値を創出できます。さらにその付加価値を前提とした設計法をつくることで、異常のある設備を更改するといった現行の対処法ではなく、ケーブル張力を変えるだけで簡易に対処する方法へと見直すことができます。その結果、設備投資コストの低減が図れる仕事のやり方に変えていくことができます。また、データの組み合わせにより、新たな設備点検基準や現場調査基準という付加価値を創出することができれば、現地点検や現場調査の削減もできる可能性があります。NTTアクセスサービスシステム研究所は、さらに研究開発を積み重ねていくことで、ミニマルオペレーションの実現に取り組んでいきます(図7)。
今後も皆様との協働・連携を深めていきながら、研究開発成果をタイムリーに実現できるよう努めていきますので、関係の皆様方にはご理解、ご協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

図6 「設備管理」×「業務」のデジタル化でめざす将来像

図7 研究開発の方向性(長期的取り組み)

問い合わせ先

NTTアクセスサービスシステム研究所
アクセス運用プロジェクト
TEL 029-868-6394
FAX 029-868-6400
E-mail aunp-pmhosa@hco.ntt.co.jp