NTT技術ジャーナル記事

   

「NTT技術ジャーナル」編集部が注目した
最新トピックや特集インタビュー記事などをご覧いただけます。

PDFダウンロード

特集

つくばフォーラム2018 ワークショップ

光アクセスネットワークの方向性

将来の光アクセスネットワークには、モバイルネットワーク、IoT(Internet of Things)ネットワーク等、FTTH(Fiber To The Home)以外の足回りとしての活用に向けた「High Flexibility」と、保守稼働を低減する「Low Maintenance」の両輪が必要となります。本稿では、今後の光アクセスネットワークの方向性について紹介するとともに、その重要な要素技術であるFASA®(Flexible Access System Architecture)の取り組みや、FASAを適用した具体的な取り組み事例であるモバイル光連携技術、およびそれらの標準化活動等について紹介します。

寺田 純(てらだ じゅん)

NTTアクセスサービスシステム研究所
プロジェクトマネージャ

光アクセスの状況

FTTH(Fiber To The Home)は、ここ十数年で急激に普及し、NTT東日本・西日本の契約数が合計で2000万件を突破する等、飽和状態となっています。そのような状況の中、NTTグループとしては、B2B2Xモデルへの移行、携帯電話基地局の大幅増設によるモバイルトラフィックの増加、IoT(Internet of Things)等の新たな使い方の出現、さらには、保守人員の確保困難化といった変化に対し、どう対応していくかが課題となっています。ネットワークの使われ方も多様化しており、多くの端末が同時に接続したり、1つの端末のデータ量が小さいといった利用も増えてきています。また、保守稼働については、日本の労働力人口が年々減少し、2060年には4割減少するといわれており、アクセスネットワークの膨大な設備を、継続的かつ容易に保守できるかが大きなポイントとなってきています。アクセスネットワークの装置は、各家庭に設置されている等、分散配置されているため、保守者の移動時間も含めた保守稼働は非常に大きな課題になります。

将来の光アクセスネットワーク像

このような状況の中、将来の光アクセスネットワークとしては、「High Flexibility」と「Low Maintenance」の2つのキーワードが重要になると考えています。High Flexibilityは、今後ますます発展が予想されるモバイルネットワーク、IoTネットワーク等、FTTH以外の足回りとしての活用を実現する柔軟性です。具体的には、低遅延、多数接続、といった新たな要件に、アクセスネットワークとしても対応していかないといけません。また、Low Maintenanceは、アクセス装置に、何らかの保守稼働を低減する技術を適用していくことです。そして、これら2つのキーワードを実現するうえで、アクセス機能の部品化・仮想化が重要な技術となります。
技術的なポイントとしては、転送機能とサービス機能の分離、サービス重畳による光アクセスネットワークの共用があげられます。基本的な考え方として、さまざまなサービスを実現するための機能は、上位階梯に集約し、それ以外の装置は、シンプルな汎用装置をなるべく多く使うことです。上位階梯に機能を集中配備しておくことにより、機能の追加・削除を容易に行うことができます。新たな機能をアクセスネットワークのすべての装置に追加することは非常に困難であるため、できるだけ上位の階梯にサービス機能を集約するのが望ましいです。新しいネットワークの要件が出てきたら、上位階梯の装置のみに機能追加することで新しい要件に対応することができます。

FASAの取り組み

NTTアクセスサービスシステム研究所は、より多様なサービスを迅速かつ経済的に提供し、長期にわたり継続的に発展可能とするため、2016年2月にFASA®(Flexible Access System Architecture)コンセプトを発表しました。現状のアクセスネットワークは、サービスごとに異なるアクセスシステムを導入しており、機能の追加・変更が困難となっています。例えば、FTTHなら、FTTH専用かつNTT専用の装置が入っており、それぞれに最適化された実装となっています。一方で、FASAコンセプトでは、汎用ハードウェアの上で動作する、部品化された機能ブロック(ソフトウェア)の組合せでサービスを実現することができます(図1)。これにより、ソフトウェア機能の追加・変更が容易となります。ハードウェアでしか実現できない機能、例えば、伝送技術に応じたハードウェアモジュール等は、ハードウェアを付け替えることで対応します。FASAがめざす姿は以下の4つです。
① 迅速なサービス提供:オペレータ独自の機能部品をサポートし、機能部品を簡易にインストール可能とします。
② OPEX(Operating Expense)の削減:予備物品の共通化や保守作業の共通化により、OPEX削減に寄与します。
③ CAPEX(Capital Expenditure)削減:共通化された安価なハードウェアにより多様なサービスを実現します。
④ サービスの継続性:既存機能に影響せずハードウェアのアップグレードや交換を可能とします。

図1  FASAコンセプトの概要

FASA技術のポイント

FASAの技術的なポイントは主に次の3つです(図2)。以下の技術を順次実現することにより、段階的にFASAの効用を得ることを想定しています。
① 機能の部品化と部品をつなぐインタフェース
② 機能部品のソフト化
③ 機能部品のクラウド化

現状では、複雑な構成がネックとなり、機能の交換が容易にできないのに対して、複雑な構成から機能を部品化(ソフト化)し、インタフェースを定義して柔軟に入れ替え可能とします。最終的にクラウド化をめざします。FASAでは、ソフトウェア機能の柔軟な追加変更に向け、OLT(Optical Line Terminal)上でさまざまなFASAアプリを動作させる「FASA共通API(Application Programming Interface)」、および適切な単位で追加変更・動的組合せを可能とする「機能部品化」の研究開発を推進しています。「FASA共通API」案・FASAホワイトペーパを2016年5月に発表し、2017年2月に更新するとともに、Broadband Forum(BBF)に標準化プロジェクトを提案し、検討を行っています。例えば、モバイル向けの帯域制御を行うDBA(Dynamic Bandwidth Allocation)機能を、FASA基盤上で動作するアプリケーションとして実装し、FTTH向けのDBAアプリと入れ替えることができます。このように違う機能を盛り込むことが、FASA APIを通じて行うことができます(図3)。

図2  段階的なFASAの実現

図3  FASAにおける機能部品化とAPI

めざす開発の方向

基盤となるプラットフォーム、標準化された通信プロトコル等については、オープンな環境で継続的に利用ができ、メンテナンスができる環境が必要です。一方で、独自性を実現する機能は、必要とする人が迅速・柔軟に開発可能であり、将来にわたって使用できる環境が必要となります。さらに、保守稼働をできるだけ削減するため、機能を可能な限り上位階梯に集約できる必要があります。これらの実現のため、プラットフォームやAPIのオープン化、標準化が必須となります。
国内だけでなく、グローバルなオペレータと共同で取り組み、共通基盤として発展させていきたいと考えています。一例として、オープンソースソフトウェア(OSS)の団体であるONF(Open Networking Foundation)のSEBA(旧R-CORD)とFASAは補完関係にあり、これらの技術が融合された仮想化をめざしています(図4)。仮想化技術で柔軟にコントロール・設定するだけでなく、高速動作が必要な機能も含め、柔軟に変更可能な技術をめざしています。

図4  FASAとONFのSEBA

光モバイル連携制御技術

FASA技術との組み合わせにより光アクセスシステムの適用領域を広げる技術として、光モバイル連携制御技術があります。将来のモバイルネットワークにおける基地局増加に伴い、光ファイバによる携帯基地局の効率的な収容が課題となっています。光アクセスとモバイルの信号制御を連携させる「光モバイル連携制御技術」により、低遅延化を実現した光アクセスネットワークをモバイルネットワークに活用し、多数の基地局を効率的に収容することができます。本技術は、2018年2月14日に報道発表を実施しており、光アクセス技術を使ったモバイルを効率的に収容する技術をすでに確立しています。技術のポイントは「連携DBA」となります。携帯基地局であるCU(Central Unit)が、送信データ量等のユーザ端末のスケジューリング情報をOLTに通知し、PONシステムの送信許可を早めることで低遅延化を実現しています(図5)。PONシステムの上り伝送については、ONU(Optical Network Unit)にデータが到着してから、ONUがOLTに送信リクエストを出し、DBAが他のONUとタイミングをずらして各ONUの送信タイミングを制御するため、データが到着してから実際に送信するまでの遅延が大きくなります。一方、CUも無線の周波数を複数端末で共用するため、PONと同様の上り送信スケジューリングを行っています。この無線のスケジューリング情報をOLTで受信し、無線の上り送信タイミングに合わせて、あらかじめPONの上り送信許可を出すことで、遅延時間を小さくしています。これにより従来1ms程度あった上り遅延時間が、50 μs以下に低減できました。
本技術のデモを、BBFの会合で実施しました(図6)。デモでは、LTEドングルを使ったモバイルシステムのエンド-エンド構成において、従来のFTTH用DBA(SR-DBA:Status-Report-DBA)とモバイル用のDBA(CO-DBA:Cooperative DBA)との遅延時間の比較を行いました。本デモは、BBFメンバも非常に関心が高く盛況でした。

図5  連携DBAによる低遅延化

図6  BBFの会合でのデモ

DBA機能ソフトウェア部品化の実証実験

アクセスシステムに必要なさまざまな機能の中でも、DBA機能は、リアルタイム性の高い処理を伴うため、ソフトウェア部品化により自由に入れ替えられるようにすることは難しいと考えられていましたが、サービス要件に依存するソフトウェア部と依存しないハードウェア部との分離方法について検討を重ね、APIを定義することで、ソフトウェア部品化に成功しました。定義したAPIを実装した2つの異なる構成のOLTプロタイプ試作機により、光アクセスシステムの利用シーンに応じてソフトウェア部品化したDBA機能を入れ替える実証実験を行いました(図7)。ボックス型OLTは、通信事業者の収容局内などの環境下で用いることを想定しており、従来のFTTHサービスに加え、前述の光モバイル連携制御技術との組み合わせにより、低遅延要求の厳しい5Gモバイルシステムなどへの適用 が期待されます。モジュール型OLTは、従来のOLTの機能のうち、ハードウェアによる実現が必須となる機能のみを小型のモジュールに収めたもので、ソフトウェアで実現可能な機能を配置した汎用サーバと組み合わせて利用します。スモールスタートが可能となるため、工場および大学・オフィスビル内などの構内LAN(Local Area Network)などへの適用が期待されます。

図7  DBA機能を入れ替える実証実験

標準化の推進

連携DBAは、CUのベンダに依存することなく連携ができ、また、市中のOLTにも搭載できることが重要となります。その世界の実現のため、2つの標準化を推進しています。1つは、ITU-T(International Telecommunication Union - Telecommunication Standardization Sector)やFSAN(Full Service Access Network)において、CU-OLT間のスケジューリング情報の連携について標準化を推進中です。もう1つは、BBFにおいて、DBAアルゴリズムと共通処理部間のインタフェースについて、標準化を推進中です。どちらも海外の主要なオペレータ・ベンダと議論しています。ワールドワイドでのグローバルな展開も視野に取り組んでいます。

今後の展開

将来の光アクセスネットワークに向けて、High FlexibilityとLow Maintenanceという2つのキーワードの実現に向けた研究開発を推進していきます。アクセスシステムを柔軟に構成するFASA技術の展開として、5Gモバイルに向けた光アクセス技術の研究開発に取り組んでいきます。柔軟な追加変更が可能なソフトウェア機能の継続的な発展に向けて、FSAN/ITU-TやBBFでの標準化、ONFでのオープンな開発に参画していきます。さまざまな関係者の皆様とともに議論しながら、光アクセスの研究開発を推進していきます。

問い合わせ先

NTTアクセスサービスシステム研究所
光アクセス基盤プロジェクト
TEL 046-859-2437
FAX 046-859-5513
E-mail fasa-support-ml@hco.ntt.co.jp