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国立大学法人東北大学とNTT、巨大災害と闘い安心・安全な社会の実現をめざす共同研究を開始

国立大学法人東北大学、NTTは、両者の強みを活かし、「安心なくらしを支える基盤技術」をビジョンとして設定し、災害対策・防災分野で新たな価値の創出と震災復興への貢献をめざし、ビジョン共有に基づく共同研究を開始しました。

共同研究概要

近年、巨大災害の発生が増加してきていることから、安心かつ安全なくらしを支える基盤技術が求められています。東日本大震災を経験した東北大学が持つ災害ビッグデータと、NTTが持つコミュニケーションサービス基盤技術を組み合わせることにより、安心・安全のいずれか、あるいは両者が欠如した状態から、安心かつ安全な状態へ行動変容を促す技術の確立をめざします。

共同研究テーマの内容

ビジョンの実現イメージに基づき、以下の共同研究テーマ2件を創出し、2018年度内に共同研究を開始します(図)。
(1) (テーマ1)震災アーカイブを活用した社会課題解決型サービスデザイン手法の研究
住民と一緒にサービスを創る方法論である「リビングラボ」において、地域で実際に使われる防災・減災サービスの創出のために、東北大学が持つ震災データアーカイブに記録されている統計データや災害対応ノウハウデータを有効に活用する手法の構築をめざします。
(2) (テーマ2)リアルタイム津波浸水被害予測を活用した意思決定支援手法の研究
災害発生時の高精度な被害予測に基づき組織や個人に紐付くリスクを適時に推定・可視化することでリスクへの気付きと理解を促し、リスクに対する対応案を提示することで迅速で果断な意思決定をめざします。

図 ビジョンを具現化する共同研究テーマの位置付け

各機関の役割

① 東北大学
・震災データアーカイブの収集・提供(テーマ1)
・多様なステークホルダによるサービスデザイン環境(Field Design Center)の提供・運営(テーマ1)
・リアルタイム津波浸水被害予測技術、および災害シミュレーション技術による動的・静的な被害予測手法の確立(テーマ2)
② NTT
・住民と一緒にサービスを創る方法論である「リビングラボ」におけるデータ活用手法の確立(テーマ1)
・組織がさまざまなリスクや危機に迅速果断に対応するための統合リスクマネジメントシステム(KADAN®)と連携した、リスク推定とリスク対応案提示手法の確立(テーマ2)

今後の展開

今回創出した共同研究テーマについては、2021年を目途とした技術確立をめざして、創出した個々の共同研究テーマを進めることにより、被災者や地域コミュニティ、さらには災害対応に携わる自治体や関係機関の安心と安全を両立する新たなサービスの創出と社会実装をめざします。
また、上記2つの共同研究テーマに限らず、双方の研究者を中心とした連携を密にすることで、ワークショップで抽出した要素技術に関するテーマや同ビジョンに沿った新たなテーマ探索を引き続き進める予定です。

問い合わせ先

NTTサービスイノベーション総合研究所
企画部 広報担当
TEL 046-859-2032
E-mail svkoho-ml@hco.ntt.co.jp
URL https://www.ntt.co.jp/news2018/1808/180828a.html

研究者紹介
災害科学分野での産学連携の新しい取り組みをめざして
今村 文彦

東北大学災害科学国際研究所 所長・教授
(本ビジョン共有型共同研究の東北大学側コーディネータ)

今年を振り返っただけでも、地震、火山、洪水、台風・高潮など自然災害が繰り返し発生し、被害を出しています。過去と同じ災害を受け被害や影響を繰り返している場合もありますが、過去に経験のない、さらには、リスクも低かったはずのエリアで、突然に発生しているケースも目立ってきています。これは、急激な気候変化も含めて地球変動の中で我々の社会や生活も変化し、新たな防災・減災を考える必要が迫られていると思います。そこで、東北大教員およびNTT研究所メンバでワークショップを3回開催し、改めて安心・安全は何か?それを実現するために必要な技術は何か?を議論・整理し、ビジョンの具体的イメージを策定できました。「安心かつ安全」をテーマに、災害時での安心×安全の2軸で分けたそれぞれの状態と安心かつ安全のエリアへ行くためのアイデアについて検討したのです。現在の我が国では、安全でないのに安心している、安全なのに安心できない状況があり、この改善をめざしたいと思っています。
2011年に発生した東日本大震災の総括的な検証を基に、東北大学は災害科学国際研究所が中心になり、国内外における低頻度巨大自然災害に対して、防御力・対応力・回復力のある「強くしなやかな社会」への変革を先導しています。予防防災から発災時対応、復旧・復興までの「災害対応サイクル」の理論に基づき、さらには現地調査・支援・連携から得られた教訓および今後も得られる知見をも基盤にしてNTTグループと今後、ビジョン共有型の研究開発・活用・社会実装を実施していきたいと思います。

 

研究者紹介
巨大災害と闘える強くしなやかな社会をめざして
植田 広樹

NTTセキュアプラットフォーム研究所
セキュリティリスクマネジメントプロジェクト プロジェクトマネジャ
(本ビジョン共有型共同研究のNTT側コーディネータ)

昨今、大規模な災害により通信設備等の被害規模も拡大する中、NTTグループでは災害時に必要な通信を確保し、被災地の通信サービスを早期に復旧するよう日々取り組んでいます。このような「つなぐ」という通信インフラ企業としての使命を果たすという取り組みも含め、さまざまな災害・危機にあって被害を受けても素早く回復し、復興を実現する「しなやかな社会」をICTで実現することをNTT研究所はめざしています。今回のビジョンの具体化では、ネットワーク上で実現する革新的なコミュニケーションサービス基盤技術により、災害対策・防災分野での新たなサービスの創出を見据えたテーマについて議論しました。
具体的な活動としては、まずワークショップを開催し両機関の研究者があるべき姿を描き、それを実現できない要因と解決するための要素技術を災害対応フェーズ上で整理しました。一方で、東北大学災害科学国際研究所とNTTの技術を広く調査し、必要な要素技術とのマッチングから選定された双方の研究者の議論を繰返し、共同研究テーマを2件導出しました。両テーマとも災害対応フェーズを広くカバーし、一方は住民目線でのサービスの設計、他方は災害対応に従事する職員の意思決定の支援を目標とし、将来的には双方の成果を活用し合えるような展開をめざしています。このような良い循環を形成することで、社会全体が一体となって巨大災害と闘えるしなやかな強さを有することができるよう、努めていきたいと思います。