グローバルスタンダード最前線
TTC技術調査アドバイザリーグループにおけるフォーラム調査活動
TTC(The Telecommunication Technology Committee)技術調査アドバイザリーグループ(AG)では、毎年、情報通信分野の国内外のフォーラム標準化活動動向を調査・分析し、TTCの標準化活動の方向性策定への支援を行っています。調査分析結果はTTCのホームページで入手でき、各企業にとって最新標準化の潮流の把握やフォーラムへ加入する際に有益な情報になっています。ここでは、特に新たに調査したフォーラムと最新の技術トピックに関するフォーラムの活動情報を報告します。
岩田 秀行(いわた ひでゆき)
NTT研究企画部門
技術調査AGの概要
TTC(The Telecommunication Technology Committee)技術調査アドバイザリーグループ(AG)におけるフォーラム調査(1)は、1994年から調査を開始し、2018年度で第25版となります。調査対象となるフォーラムは、ITU(International Telecommunication Union)、IEC(International Electrotechnical Commission)、ISO(International Organization for Standardization)、ISO/IEC JTC1(Joint Technical Committee1)等のデジュール標準化団体以外で、標準化の推進または標準化の普及を目的とした組織、任意団体、グループを対象としており、フォーラム、コンソーシアム、アライアンス、プロジェクトの名称が付くものです。調査員はTTC会員であるオペレータ、ベンダの8社からのメンバで構成されており、活動の内容は、①情報通信分野の最新動向の把握、調査対象のフォーラムの絞込み、②選定フォーラムについてWeb公開ベースでの会費、分野、メンバ情報等を情報収集、③調査データより、数年のメンバ推移や活動状況について考察を行っています。
2017年度の調査対象フォーラム
2016年度第23版で対象とした58のフォーラムの見直しを行い、活動が終了、他団体と合併、活動情報が得られない4団体について調査終了し、新たに13の団体を追記しました。
2017年度新たに調査対象として追加した13フォーラムについて簡単に紹介します。
5G Automotive Association(5GAA)
第5世代移動通信(5G)技術を利用したコネクティッドカーサービス開発を協力して行うために、2016年9月に発足しました。創設メンバは欧州企業が中心でしたが、現在は米国、日本、中国、韓国などからも参加し、通信機器ベンダ、通信事業者、自動車メーカ、部品メーカ等48社が名を連ねています。通信ソリューションの開発、テスト、推進に共同で取り組み、標準化をサポートして商用化や世界での普及促進も図っています。
OpenStack Foundation(OpenStack)
2012年9月に設立された非営利団体です。ベンダに依存しないオープンなIaaS(Infrastructure as a Service)クラウドコンピューティング環境を提供し、オープンソースソフトウェア(OSS)群を開発、普及することを目的としたプロジェクトです。会員は個人会員と企業会員で構成され、主な企業会員は通信機器ベンダ、通信事業者です。
Open API Initiative(OAI)
Linux Foundation Projectの1つであり、RESTful API(Application Programming Interface)のインタフェースを記述するための標準フォーマットを推進するコンソーシアムとして、2015年11月5日にSmartBear社の主導で設立されました。会員数は2017年8月現在28社です。OAIがAPIの記述のために採用したのが、SmartBear社が開発したオープンソースAPI 開発ツールの「Swagger」であり、すでに広く用いられてきました。このSwaggerをベースとしてOpen API Version3.0 Implementer’s Draft初版が2017年3月1日に発表されました。OAIではIaaS基盤としてOpenStackを採用しています。
FIWARE Foundation(FIWARE)
欧州FP7(7th Framework Programme)プロジェクトの1つである FI-PPP (The Future Internet Public-Private Partnership)で開発されたスマートアプリケーション基盤のFIWAREの普及を民間主導で推進するために設立された、ドイツを拠点とする非営利団体です。FIWAREはデータをコンテキスト情報として取り扱うことが特徴で、異業種間のデータを共通的に扱えることから、データ利活用を可能にするオープンAPIとして注目されており、スマートシティの共通基盤として欧州では定着しつつあります。会員数は欧州を中心に2017年9月現在28社であり、日本企業も1社参加しています。
Hypercat Alliance(Hypercat)
InnovateUK〔ビジネス・イノベーション・技能省(BIS)配下の組織〕のIoT Demonstrator Phase I Clustersの資金を活用して英国企業・自治体等42社が2014年9月に設立した団体です。Hypercatとは、IoT(Internet of Things)デバイス設計のために必要な仕様をメタデータでタグ付けされたオンラインカタログとして公開し、デバイス間の相互接続を自動的に行えることを可能にする技術です。IoTデバイスは必要なオブジェクトと機能のカタログを組み合わせて生成し、共有することでIoTデバイスの高機能化、高速化、相互運用性を図ることをめざしています。2017年9月現在の会員数は70社であり、日本企業からも1社参加しています。
OpenID Foundation(OpenID)
米国オレゴン州で2007年6月に設立された非営利団体です。デジタルID関連の標準化を行っており、OpenID ConnectをはじめとしたID連携技術で、サイト間のID連携、スマホアプリからWebサービスへのアクセス、API連携など、およびOpenID技術の普及促進、保護、育成を行っています。主要メンバはOTT(Over The Top)、通信事業者等で、2017年9月現在の会員数は40社です。
Spring Framework Project(Spring Framework)
Javaプラットフォームを対象とするオープンソースアプリケーションフレームワークです。従来のWebアプリケーションフレームワークが共通して抱えていた「仕様変更に弱い」「プログラム単体でのテストが困難」「メンテナンスや再利用が困難」などの諸問題に対応可能なフレームワークであり、HTTP、SOAP(Simple Object Access Protocol)、Enterprise JavaBeansなどの従来のプロトコル、製品とも連携ができます。主要開発者は6人ですが開発はオープンであり、誰でも参加できます。日本Springユーザ会というSNS上のコミュニティがあります。
Trusted Computing Group(TCG)
2003年4月に設立されたオレゴン州に本部を置く業界団体です。コンピュータの信頼性と安全性を向上させるための標準技術を策定しています。ハードウェアによる暗号機能を備えたセキュリティチップTPM(Trusted Platform Module)の仕様を策定しており、2014年にリリースされたVer.2.0が最新版です。個人の認証情報・暗号キーを安全に格納・管理するため、現在製造されているほとんどのPC に搭載されています。近年では、端末セキュリティの観点からIoTデバイスへの適用も視野に入れています。
Zero Outage Industry Standard Association(Zero Outage)
安全、高信頼、高可用なITサービスやソリューションを提供するためのベストプラクティスや標準のフレームワークを提供することにより、顧客満足度や価値の最大化を図ることを目的として2016年11月に設立されました。2017年9月現在、メンバは12社です。
Wi-Fi Alliance(Wi-Fi)
無線LAN製品の普及促進を図ることを目的として2000年に設立された業界団体です。相互接続性試験方法の策定、製品の認証、およびWi-Fiブランドの普及に向けたプロモーション活動を実施しています。会員企業数は2017年8月現在で790社です。現在は802.11acがメインですが、今後はad、ax、ahなどの新規格のほか、最適な無線環境に瞬時にアクセスできる「アジャイルマルチバンド」の機能も提供する予定です。
Z-Wave Alliance(Z-Wave)
スマートホーム向けの無線通信プロトコルZ-Waveを実装するデバイスや装置間のインタオペラビリティを確保するために設置された組織です。会員数は2017年8月現在で365社です。Z-Waveはデンマークの企業であるZensys(2009年に米国Sigma Designsが買収)が中心となって開発したスマートホームに適した低消費電力無線技術で、サブギガヘルツ帯を利用します。Z-Waveを搭載したデバイスは欧州をはじめとする海外では広く普及しています。
EnOcean Alliance(EnOcean)
EnOcean 技術の普及促進と製品間の相互運用性を確保するために、EnOceanなどの企業グループが2008年4月に設立しました。EnOceanはドイツのEnOcean GmbHが開発したエネルギーハーベスト技術であり、光や温度、振動などから微弱なエネルギーを電力に変換し、小電力無線通信を行うものです。EnOceanのスイッチやセンサモジュールは世界中のオフィスや工場、産業機器に利用されています。無線仕様はISO/IEC 14543-3-10で規定されている下位3レイヤを採用し、EEP (EnOcean Equipment Profiles)と呼ばれるアプリケーションプロトコルが規定されています。2017年8月現在で430社が参加しており、1200種類以上の製品が出ています。
Digital Stationary Consortium(DSC)
デジタルインクの相互互換性の確保と利用推進のため、2016年10月に米国デラウェア州で設立されました。ペンタブレットなどのデジタル筆記用具をクラウド環境で共有し、相互互換性を確保するための技術としてWILL(Wacom Ink Layer Language)を提唱してパートナ各社にSDK(Software Development Kit)を提供してきましたが、さらに緊密な連携を図るため本コンソーシアムを設立しました。参加メンバは文具メーカのモンブランをはじめ、機器ベンダ、通信事業者など日本、韓国、中国、欧州などから9社です。
最近のトピックに関連するフォーラム
注目される分野であるSDN(Software Defined Networking)/NFV(Network Functions Virtualization)、ビッグデータ/IoT/M2M(Machine to Machine)、スマートシティ、5G、ITS(Intelligent Transportation System)/コネクティッドカーに関する最近のトピックスを示します。
SDN/NFV
・ONF(Open Network Foundation)(2011年設立):2016年2月にSDN software distributionのAtrium第2版がリリースされました。第1版のONOS版の改良とともに、OpenDaylight Platformへの拡張がなされています。2017年10月にはON.Lab(ONOS/CORD)と統合し、ユースケースの議論の場が追加されました。
・BBF(Broad Band Forum)(1994年設立):2017年12月時点で、SDNアクセスノードのアーキテクチャ、PON(Passive Optical Network)向けYANG(Yet Another Next Generation)モデル、アクセスノード向けYANGモデル等の仮想化関連の課題に取り組んでいます。
・OpenDaylight(Open Daylight Project)(2013年設立):SDN/NFVを実現するSDNコントローラのソフトウェアを開発し、OSSとして提供しています。2017年6月にはSDNプラットフォームの6番目のバージョンとなる「Carbon」をリリースしました。IoTへの展開も可能となるよう、拡張されています。
・OPNFV(Open Platform for NFV)(2014年設立):2017年4月には4番目のOSSとなるDanube 1.0がリリースされました。同年5月にはDanube 2.0、7月にはDanube 3.0をリリースしています。また、同年6月にはOPNFV Summit 2017が開催されました。
・TMForum(1988年設立):ZOOM(Zero-touch Orchestration、 Operations and Management)というチームで、ETSI(European Telecommunications Standards Institute)のNFV ISG(Industry Specification Group)と連携しつつNFV管理実装モデルの開発を行っています。
ビッグデータ/IoT/M2M
・OMG(Object Management Group)(1989年設立):Work in Oil and Gasイベントでエネルギー分野に適用するためIIoT (Industrial Internet of Things)標準IICF (The Industrial Internet Connectivity Framework)の補足規定を2017年9月に発表しました。ほかにWebinar(Webセミナー)を2回開催しています。
・IIC(Industrial Internet Consortium)(2014年設立):活動は非常に活発で、テストベッドは2017年9月現在で25に増えています。イベントも数多く開催されており、ホワイトペーパー等数多くのドキュメントが作成されています。
・OCF(Open Connectivity Foundation)(2016年設立):UPnP(Universal Plug and Play)を併合したOIC(Open Interconnect Con-sor-ti-um)を母体としています。2016年10月にOCFとAllSeenはOCFの名の下に合体し、IoTivityとAlljoynは相互互換を図っていくこととなりました。2017年6月、6件のIoT仕様がJTC1の投票手続きにかけられたことが発表されました。
・THREAD(THREAD Group)(2014年設立):2016年夏にThread Wireless Networking Protocol 1.1版をリリースして以来、機器認証、相互接続検証を行っています。CES2017で17社がシームレス接続を展示、1.1版の製品を初めて認証しました。
・OpenFog(Open Fog Consortium)(2015年設立):日本のIoT推進コンソーシアムと技術やテストベッドの開発および標準化において連携しています。2017年9月25日にはETSIとMOUを締結してfogとedgeアプリの開発について協調していくことを発表しました。
・Hypercat(Hypercat Alliance)(2014年設立):スマートビルディング、スマートエネルギーなど14分野のユースケースを発表、2016年8月に英国規格のPAS212: 2016 Automatic resource discovery for the Internet of Things-Specificationをリリースしました。
スマートシティ
・JSCA(2010年設立):2017年6月にスマートコミュニティサミットを開催しました。太陽光発電普及への対応、新興市場エネルギー市場への参入の課題と対応についての議論がなされました。
・SGIP(Smart Grid interoperability Panel)(2009年設立):スマートグリッドの標準開発でNIST(National Institute of Standards and Technology)を支援する団体です。2017年4月にSEPA(The Smart Electric Power Alliance)に吸収合併されました。
・ECHONET(ECHONET Consortium)(1997年設立):認証機器数は2018年1月現在でECHONET Lite規格530、AIF仕様296、ECHONET規格19となっています。同年7月に第1回Plugfest開催しました。
・OpenADR Alliance(2010年設立):2016年2月にスマートグリッドの標準規格OpenADR 2.0 Program Guideをリリースし、2017年5月現在で120の機器を認証しています。
・FIWARE Foundation(2011年設立):スマートシティの共通基盤としてOSSおよびAPIが公開されました。このほか、使用分野ごとのセットもDSEs(Domain-Specific Enablers)として公開されました。
5G
・NGMN Alliance(2006年設立):2006年設立当初はSuper 3GやLTEを検討していましたが、現在は5Gに焦点を絞っています。2015年3月には5G White Paperを発刊し、現在までに12の技術文書を発刊しています。
・5GAA(5G Automotive Association)(2016年設立):2017年12月に“Edge computing for advanced automotive communications”、“An assessment of LTE-V2X (PC5) and 802.11p direct communications technologies for improved road safety in the EU”などのWhite Paperを発刊しています。
ITS/コネクティッドカー
・ITS Forum(1991年設立):2017年10月に「700 MHz帯高度道路交通システム実験用路路間通信ガイドライン1.1版」「700 MHz帯高度道路交通システム実験用車車間通信メッセージガイドライン1.1版」「700 MHz帯高度道路交通システム陸上移動局の相互接続性確認試験ガイドライン1.2版」などを多数発行しています。
・ITS America(1991年設立):2016年10月に“The Impact of a Vehicle-to-Vehicle Commu-nications Rulemaking on Growth in the DSRC Automotive After-market”というWhite Paperを発刊しています。
参加メンバ数の増減
2016年度から2017年度にメンバ数を増やしたフォーラムは12ありますが、その中でもLoRaは設立されて3年未満にもかかわらず、メンバ数がすでに400社を超え、前年比で70%以上増加、今後も増加する傾向にあります。また、ブロックチェーン関連の標準化を推進するHyperlegerも前年比で70%以上のメンバ増がみられました。中期的傾向をみると、2015年から2年連続してメンバ数が増加しているフォーラムは10あります。その中でも3年以上継続してメンバが増え続けているフォーラムは、OPEN Alliance SIG、Wi-SUN、TOG、IIC、OpenADR、ECHONETの6フォーラムでした。これを分野でみるとスマートシティ、IoT、クラウドコンピューティング、コネクティッドカー等になり、注目されているさまが伺えます。
今後の予定
第25版のフォーラム調査は2018年度末に報告予定です。
■参考文献
(1)http://www.ttc.or.jp/j/std/ag/tag/forum/