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NTTグループの食農分野の取り組み

食農プラットフォーム「Tsunagu」を使った食農バリューチェーンの展開

NTTドコモでは2019年2月より「地元を食べようプロジェクト」の実証実験を始めました。本実証実験では農産物の「集荷・分荷」にかかわる物流コストや時間を削減することで、農産物を販売する側が今まで以上に高く売っても、購入する側としては安く購入できる仕組みを実現しています。今までのスマート農業では生産工程における生産性の向上を主軸とした取り組みを行っていましたが、今後は生産~流通・販売までを一貫して取り組める「食農バリューチェーン」を主軸に日本の一次産業を応援していきます。

川野 千鶴子(かわの ちづこ)/ 金平 真由美(かねひら まゆみ)

NTTドコモ

NTTドコモのスマート農業の取り組み

NTTドコモは「地域協創」「社会課題の解決」の一環として、一次産業分野における農産物等の生産工程の効率化をめざし、圃場・牛舎・漁場における現場状況の遠隔監視が可能となる環境センサや、遠隔モニタリング、ドローンによる画像解析等に取り組んできました。これらの取り組みによって、生産工程における効率化や省力化、生産量の向上が図られるようになりましたが、農家の収入は「農産物の価格」×「量」で決まります。農産物自体の全体量が多い場合、供給過多となり、その「農産物の価格」は下落する傾向にあります。そのため、ICT化が一次産業分野全体に広がり、農産物の生産量が全体的に増えたとしても、せっかくつくった農産物が安値で取引されることが予想されます。これでは農家の収入が上がらず、ますます担い手不足が加速します。私たちはここに危機感を覚え、「農産物の価格」を適正な価格で取引できる流通プラットフォームを株式会社Tsunaguと協業検討し、2019年2月に横浜農業協同組合(JA横浜)と3社で「地元を食べようプロジェクト」の実証実験をスタートさせました。

実証実験の概要

「農産物の価格」を適正化させるためには、「①現在行われている商流の無駄を省く」「②価値に見合った価格での取引」「③需要に見合った生産を行う」の3点がポイントとなります。通常の市場流通では、図1の左側に示すとおり、収穫された後の農産物は
「集めて」「運ぶ」を繰り返し行うことで多くのコストと時間を費やしていました。この多くの中間プレイヤーが介在するモデルを改善するのが、売り手と買い手を直接つないで農産物の売買を可能とする食農プラットフォーム「Tsunagu」です。実証実験では、売り手がJA横浜、買い手が飲食店を含む法人企業で実施しました(図2)。この実証では売り手・買い手の両者が「法人向け(B向け)」であることが他のマッチングプラットフォームと異なる点です。

図1 既存流通(左)とTsunagu(右)

図2 地元を食べようプロジェクトのプレイヤー

マッチングプラットフォームを「B2B」で実施することの意義

中間プレイヤーを極力少なくするには、生産者から直接、買い手に販売するC(生産者)2BやC2Cのモデルがもっとも効果的です。他のマッチングプラットフォームでもこの手法を取るものが数多く存在します。しかし、買い手がBの場合、農産物の収量が確実に確保できないと、企業活動に影響がでます。そこで、本取り組みでは次に上げるメリットを見据えて売り手を「農業協同組合(JA)」とする、B2Bのモデルで実施しました。

① 農産物をJAが定めた一定の規格・品質で担保できる
② JA内で複数人数からなる生産者グループをつくることでB向けの収量を確保できる

マッチング方法

Tsunaguでのマッチングトリガーは、「売り手からの販売情報提供」と「買い手からのリクエスト」の2つから構成されています。
「売り手からの販売情報提供」では、農産物が収穫される約2週間前にJAが農産物の販売情報〔規格、1箱に入っている量(個数、束、本数、重さ等)とその単価〕をTsunaguに登録します。買い手側は、その情報(図3)を閲覧し、希望する野菜の予約を行います。事前の予約を行うことで、買い手側としては調達の不安を軽減するとともに、直売価格の新鮮な農産物をビジネス単位である「箱買い」で用意することが可能となります。なお、Tsunaguの流通はバラ売りせず、箱での流通としています。万が一、マッチングが成立しなかった場合、今までどおり市場流通に流すことを可能とするためです。これにより、マッチングが成立した分はTsunaguを使い販売、マッチングが成立しなかった分は市場流通に出す、と販売戦略が柔軟に立てられることが大きなメリットとなります。
もう1つのトリガーである「買い手からのリクエスト」は販売情報に欲しい農産物がなかったときに、JAに欲しい農産物情報を提示することができる機能です。例えば、こまつなの販売がなかったときに、「こまつなが欲しい」といったリクエストを出すこともできますし、「人参のMではなく2Lが欲しい」といったリクエストも可能です。買い手側は期間・規格・希望価格・必要量等を提示し、売り手はその情報にこたえられるときだけリクエストに「応募」します。この際、リクエストの応募は買い手が提示している条件すべてを満たさなくても応募可能です。「自JAで提供できる量・規格・サイズ・希望価格」などを各JAが応募することによって、買い手側が各JAの状況(図4)を総合的に判断し、最適なJAに対して正式な発注を行います。この際、1つのJAからだけの買い付けではなく、複数のJAを組み合わせることが可能となっているため、取引の幅が広がり、より効率的な買い付けが可能となります。
また、この「買い手からのリクエスト」についてはJA側に大きなメリットがあります。日本の農産物の生産は大半が「プロダクトアウト」と呼ばれる、農家主導での生産体制となっています。このため、時には農産物が足りなくなったり、時には収量が多過ぎて価格維持のための産地廃棄*1が起きています。しかし、「買い手からのリクエスト」に合わせた生産体制をとる「マーケットイン」のモデルになると、前述のような、フードロスが起こりにくくなるうえ、安定した収入を得られる出口を見据えた生産ができるため、安心して農業を続けられることが可能となります。

図3 買い手側からみた農作物の販売状況

図4 リクエスト応募状況イメージ

物流手段

本実証では、物流を除いたかたちでのマッチングとして「アセンブリー方式」を採用しており、収穫された農産物は買い手がJAの集荷場に引き取りに来ています。これにより、物流にかかわる余分なコストを削減し、なおかつ鮮度の良い農産物の提供を可能としています。農産物は残念ながら、1箱の価格が比較的安価なため、この物流に自社便や他社の定期便を使うと、総額に対する送料がかなりの割合を占めてしまいます。買い手は自身で農産物の引き取りに来る手間がありますが、アセンブリー方式により、1カ所の集荷場にまとめられた農産物を引き渡し時に確認ができるため、安心感につながります。

今後の展開

今回、売り手をJAとしたことにより、前述の「規格、品質の課題」「収量の課題」に加え、各生産者がつくっている農産物を集荷場にまとめる、買い手からのリクエストに基づき、生産者に指導栽培を行うことが可能となり、生産者がJAに加入するメリットがより強化されます。
「地元を食べようプロジェクト」は2020年3月末まで実証を行い、その後、商用化に向けた検討を行います。農産物には「端境期」*2があるため、コンスタントに農産物を入手するためには、時期によっては別の産地から入手する必要があります。そのためには「物流」をどのようなかたちで導入するか、また、より効率的にマッチングを成立させるためどの機能を強化させるかなどを総合的に検証し、利便性の高いプラットフォームの提供をTsunagu社とともにめざします。この取り組みが農産物売買全体に広がることにより、需要に合わせた農産物の生産によるフードロスの減少、農産物価格の維持安定により、日本の一次産業が活性化するよう、全力で取り組んでいきます。

*1 産地廃棄:農産物が各地で収穫でき過ぎてしまったため、農産物の価格が下落し、市場に出荷しても送料のほうが高くなってしまう、もしくは市場価格の維持のため、収穫した野菜を産地(生産地)で廃棄処分とすること。
*2 端境期:農産物が収穫できない期間。産地・作物によって異なります。

(左から)石原 英一/水口 純/桂 大士/金平 真由美(筆者)/川野 千鶴子(筆者)

日本の美味しい農産物を農家さんが引き続きつくり続けられるよう、ICTを使って楽しく、稼げる農業になる社会の実現をめざします。

問い合わせ先

◆問い合わせ先
NTTドコモ
第一法人営業部 地域協創・ICT推進室
第二・第一担当
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