R&Dホットコーナー ソリューション
ネットワーク種別に依存しない統一管理モデルを用いたサービス影響把握技術
- ネットワークオペレーション
- 災害影響把握
- 管理モデル
大規模かつ多様な通信事業者のネットワークでは、被災した通信ビルやケーブルによる通信サービスの影響を迅速に把握することは困難です。NTTアクセスサービスシステム研究所では、多様なネットワークを一元管理可能とするネットワークリソース管理技術の研究開発に取り組んでいます。ここでは、ネットワークリソース管理技術を用いた大規模災害時のサービス影響把握技術について紹介します。
佐藤 正崇(さとう まさたか) /西川 翔平(にしかわ しょうへい) /深見 公彦(ふかみ きみひこ) /村瀬 健司(むらせ けんじ) /田山 健一(たやま けんいち)
NTTアクセスサービスシステム研究所
背景
近年、地震や台風等に起因した大規模な災害が頻発し、通信ビルやケーブルの損傷により通信サービスの提供に支障をきたす事例が増えています。通信サービスは社会を支えるインフラの1つであり、災害により損傷したビルやケーブルは迅速に復旧する必要があります。
大規模・広域な災害になるほど、被災する通信設備は膨大になります。また、災害の復旧作業を担う官公庁や自治体、被災者が集まる避難所等の重要な通信回線や多くのユーザが使用する通信回線につながる設備損傷を早期に復旧する必要があります。しかし、通信事業者のネットワークは、さまざまな通信技術を組み合わせて全国エリアのサービスをカバーしており、あるエリアの設備損傷が他のエリアのサービスや他の種別のサービスに影響を与える場合が多いため、被災により生じるすべてのサービス影響を迅速に把握することが困難です。そのような状況において、被災設備によって生じるサービス影響を迅速に把握し、膨大な被災設備の中から優先的に復旧すべき設備の判断を支援する技術が求められています。
概要
私たちは、多様なネットワークを一元管理可能とするネットワークリソース管理技術(NOIM:Network Operation Injected Model)の研究開発を行ってきました(1)。ネットワークの終端点や接続性などのネットワーク種別に依存しない汎用的なデータ形式でネットワーク情報を管理し、さまざまなネットワークを一元的に管理することで、多数の通信技術を組み合わせた複雑な通信事業者のネットワークにおいて、通信設備障害により発生するサービス影響を迅速に把握することが可能になります。
ネットワークリソース管理技術は、ネットワーク種別に依存しない汎用的なデータ形式上に、ネットワーク種別ごとに異なる特性やレイヤ間の関係性を外部定義することにより、さまざまなネットワークの情報を格納することが可能です。図1では伝送・イーサ・IPネットワークを例としていますが、それらのネットワーク以外の専用線・モバイル網などの幅広いネットワーク情報を格納し、ネットワークをまたがった災害時のサービス影響を把握することができます。
ネットワークリソース管理技術のポイント
ネットワークリソース管理技術は、TM Forum(2)で議論されている情報フレームワーク(SID: Shared Information / Data Model)で規定されたEntityを採用し、汎用的なデータ形式によるネットワーク情報の統一管理を実現しています。採用したのは、SIDの Logical Resource(論理リソース)のうち3種の代表的なEntity〔Termination Point Encapsulation(TPE:情報転送の終端点)、Network Forwarding Domain(NFD:TPE間の接続関係を表し、各レイヤにおける情報転送が可能な領域)、Forwarding Relationship Encapsulation(FRE:NFD上に生成され、情報転送のパスの実体)〕です。これらの汎用的なEntityを組み合わせてマルチレイヤの通信プロトコルの管理に必要な管理情報を表現することが可能になります(図2)。また、物理リソースについても同様に、通信装置(PD:Physical Device)や光ファイバ(PL:Physical Link)、それらを収容する通信ビル(PS:Physical Structure)やケーブル(AGS:Aggregate Section)についても汎用的なEntityで表現します。
さらに、これらの汎用的なEntity情報を保持する際、通信技術毎に異なる情報を外部定義する機構を備えます。ネットワークを管理する従来のオペレーションシステムでは対象のネットワークごとに管理すべき情報保持に特化したデータベースを持つため、管理対象ネットワークの追加や変更を行うためには、管理機能の追加を行う必要があります。ネットワークリソース管理技術では、汎用Entity情報に基づきネットワーク種別によらない汎用的なロジックとして管理機能を実装するため、ネットワーク種別の追加や変更の際にも管理機能の修正は不要となります。
図3は従来のオペレーションシステムとネットワークリソース管理技術による実現方法の比較です。一例として、IPネットワークとイーサネットワークを管理するケースを考えます。従来技術(図3(a))では、IP+イーサネットワークに特化したデータベースを持ち、それらのネットワークに特化した管理機能を持ちます。このとき、管理対象に伝送ネットワークを追加しようとした場合、伝送ネットワークを管理可能とするために、データベースの変更や管理機能の改修を行う必要があります。
一方、ネットワークリソース管理技術(図3(b))では、汎用Entityで情報を保持し、ネットワーク種別ごとの特性を外部定義するため、伝送ネットワークを追加する際にも、その特性を追加することでデータの保持が可能であり、容易に拡張が可能です。同様に管理機能についても、汎用Entityに基づくロジックとなっており、伝送ネットワークの追加による機能変更は不要となります。
サービス影響把握技術のポイント
ネットワークリソース管理技術を用いて、災害により生じるサービス影響の迅速な把握技術を開発しました。前述した汎用的なデータ形式のEntityを用いて、通信事業者が構築しているさまざまな通信ネットワークの情報を統一形式で保持します(図4)。
本サービス影響把握技術は、災害により損傷した物理設備(ビルやケーブル)を入力として受け付け、その損傷設備に関連する論理リソースEntityを探索し、出力します。これにより、通信設備の損傷から波及して発生する通信サービスの影響を把握することができます。図4では、通信ケーブルが損傷した場合を想定し、物理リソースEntityから論理リソースEntityへ波及する影響を探索するイメージを表しています。各物理・論理リソースEntityはレイヤ間の上下関係や転送パスの終端点の情報を持っており、それらの情報を用いてレイヤをまたがった影響の探索が可能となります。
このように、汎用的なデータ形式で表現したEntity(終端点や転送パス等)とそれらのレイヤ間の関係性をたどる方式により、ネットワーク種別に依存しない汎用的な影響把握技術を実現しました(3)。
今後の予定
開発したネットワークリソース管理技術を用いた大規模災害時のサービス影響把握技術についての商用トライアルを通じた導入を支援するとともに、さらなる災害対応業務を高度化・効率化する技術の研究開発を進めていきます。
■参考文献
(1) 堀内・明石・佐藤・小谷:“ネットワークリソース管理技術,”NTT技術ジャーナル,Vol.29, No.7, pp.48-52, 2017.
(2)http://www.tmforum.org/
(3)深見・村瀬・佐藤・田山:“ネットワーク障害が及ぼすサービス影響把握方式の検討,”信学技報, Vol. 118, No.483, ICM2018-51, pp. 13-18, 2019.
佐藤 正崇 / 西川 翔平 / 深見 公彦 /
村瀬 健司 / 田山 健一
問い合わせ先
NTTアクセスサービスシステム研究所
アクセスオペレーションプロジェクト オペレーション方式SEグループ
TEL 0422-59-3030
FAX 0422-59-3030
E-mail ohoug-imf@hco.ntt.co.jp
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