NTT技術ジャーナル記事

   

「NTT技術ジャーナル」編集部が注目した
最新トピックや特集インタビュー記事などをご覧いただけます。

PDFダウンロード

特集

シリコンフォトニクス技術による 光電融合型光送受信モジュールの開発

IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の実現に向けたオールフォトニクス・ネットワークの実現に向け、光電融合型の超小型光送受信モジュールの開発を行っています。シリコンフォトニクス技術を活用した超小型光送受信回路と、電子デバイスのコパッケージ化による、光インタフェースの超小型化および経済化技術について紹介します。

那須 悠介(なす ゆうすけ)
山中 祥吾(なかやま しょうご)
NTTデバイスイノベーションセンタ

はじめに

通信機器の多様化とともに、通信ネットワークを経由したサービスの増大が進み、ネットワーク内でIT機器の処理すべきデータ量や消費電力は飛躍的に増大しています。今後も伸び続けるトラフィックへの対応と、さらなる大容量、低遅延、低消費電力、かつ柔軟性に優れた通信ネットワークを提供するため、NTTは新たなネットワークIOWN(Innova­tive Optical and Wireless Network)構想の実現を提案しました。

IWON構想を構成する3つの柱の内の1つ、オールフォトニクス・ネットワーク(APN)は、ネットワークから端末まであらゆる所にフォトニクス技術の導入を図るというものです。APNでは、ネットワークにおける短距離伝送から長距離伝送に至るあらゆる情報伝送において、フォトニクス(光技術)の利用を図り、圧倒的な低消費電力、高品質・大容量,低遅延の伝送を実現します。従来の光技術は、伝送距離が比較的長いエリアに適用されてきました。より短距離の通信にも光技術を導入するためには、光を操るデバイスの圧倒的な小型化や経済化、性能向上が必要とされます。そこで、重要となってくるのが、光と電気を一体に集積し、より効率的な動作を可能とさせる光電融合技術です。

光電融合技術とは、光回路と電気回路を融合させ、小型・経済化に加え、高速・低消費電力化など、さまざまな性能向上を図るものです。ネットワーク内の光インタフェースに配置される光送受信部から、将来的には、1つのLSIチップ内における信号伝送を担う光送受信部まで、光電融合により光電融合回路の集積規模が拡大するほど光技術の適用範囲が広がります。

NTTデバイスイノベーションセンタでは、ネットワーク内の光インタフェースの小型化および低消費電力化、伝送速度の拡大をめざし、シリコンフォトニクスという技術を用いた光送受信モジュールの開発を行っています。シリコンチップ上に小型の光送信回路や、光と電気の変換機能を実現する光受信回路を集積し、これを電気の増幅器等のアナログ電子回路とコパッケージすることで、光電融合型の光送受信モジュールとなります。これをデジタルコヒーレント用の光モジュールに適用することで、圧倒的な光トランシーバの小型化を実現でき、このような光送受信モジュールを私たちはCOSA(コサ:Coher­ent Optical SubAssembly)と称し、開発を進めています。このような光電融合技術は、光ネットワーク内の光インタフェース部分を大幅に小型化し、ネットワークの経済化や伝送システムの小型化に寄与できます。

シリコンフォトニクス

NTT先端技術総合研究所では、世界に先駆けて、シリコンフォトニクスを研究開発してきました。シリコンフォトニクスとは、大規模集積回路(LSI)技術によって培われてきた微細加工技術を用い、通信波長帯(1.3〜1.5 µm)において透明なシリコンを光集積回路のプラットフォームとして活用する技術です。

シリコンフォトニクスは、シリコン上に単純な光受動素子だけでなく、変調器や Ge(ゲルマニウム) PD(Photo Detector)などの集積も可能であるという特徴を持ちます。NTTでも、 2000年代初頭より、基盤的研究としてシリコンフォトニクスに取り組み,さまざまな要素技術の検討を進めてきました(1)。光トランシーバ内の光デバイスは、従来、それぞれ異なる材料系を用いて実現され、光ファイバや空間光学系などで相互に接続されていました。NTTは、キーとなる光デバイス群をシリコンフォトニクスにより実現し、それらを1つのチップ上に集積することに成功しています。このようなシリコンフォトニクスチップを、電子回路とともに同一パッケージ内へ実装することで光デバイス部分の超小型化が達成できます。

デジタルコヒーレント用光送受信 モジュール(COSA)

デジタルコヒーレント伝送は、その強力な電気補償技術によって光伝送における信号劣化を補償することができ、これまで数百〜数千kmの長距離伝送用途として発展してきました。現在では、特にトラフィックの増大が顕著となっているデータセンタ間等の比較的短距離用途としても、このようなデジタルコヒーレント伝送技術の適用検討が進んでいます。光伝送用のデバイスの標準規格を策定する業界団体「OIF(The Optical Internet­working Forum)」は、デジタルコヒーレント用光トランシーバの消費電力やサイズについての規格を定めています。同団体は2012 年以降1〜2年ごとにデジタルコヒーレント用光トランシーバの新規格を策定し、そのたびにサイズの小型化を要求しています。2012年ころには, 5×7インチ(1インチは2.54cm相当なので12.7×17.8 cm)の大きさだったものが、最近,QSFP-DD(Quad Small form Factor Pluggable-Double Density)と呼ばれる2×8cmまでに小型化されたトランシーバサイズが要求され、伝送速度の規格も100 Gbit/sから400 Gbit/sへと増大しています。小型化と伝送速度の拡大が要求される背景には、データセンタなどにおける装置の高密度配置に対するニーズがあります。その一方、適用領域の拡大のためには、装置のさらなる経済化も必要です。このようなデジタルコヒーレント用光トランシーバの光送受信部に対し、光電融合技術であるシリコンフォトニクスの適用を行ったのが,NTTが提案したCOSAです(2)

COSAの概念図を図1(a)に示します。1つのパッケージ内に、シリコンフォトニクスチップ、受信用PDの出力電流を電圧信号に変換するTIA(TransImpedance Amplifier)、送信変調器を駆動するためのドライバが集積されています。シリコンフォトニクスチップ内には、送信側にはIQ変調器と偏波回転合流器(PBCR: Polarization Beam Com­biner Rotator)、受信側にはコヒーレント受信器を構成する偏波分離回転器(PBSR: Polarization Beam Splitter Rotator)光90度ミキサー、高速PD(Photo Detec­tor)アレイが集積され、さらに送信受信の光信号パワー監視するモニター用PDが集積されています。従来は、これら光デバイスはそれぞれ異なる材料系を用いて別々のデバイスとして実現されており、光ファイバ等で相互に接続されていたため、サイズの小型化には限界がありました。私たちは図1(b)に示すように、これらキーとなる光デバイス群をシリコンフォトニクス技術により1つのチップ上に集積しました。このチップを、ドライバおよびTIA等の電子デバイスとともにパッケージへ実装し、400 Gbit/s伝送に対応した小型の光送受信モジュールを実現しました。

小型化に寄与する他の要素として、温度コントロール部を省略できたこと、パッケージに気密性が必要ではないことも、挙げられます。これらは、シリコンの持つ高い屈折率や材料安定性など、材料特性を最大限に活用しつつ、独自の光回路設計を適用することで特性の温度無依存化や耐湿性を実現した結果によるものです。また、光ファイバの端面を直接シリコンフォトニクスチップに接続できたのも小型化やデバイスの低背化に貢献しました。図2はCOSAの外観写真です。COSAは現在、パッケージサイズとして19×12×2.1 mmと、極めて小型で薄い外形で実現できています。デジタルコヒーレント用光トランシーバの小型化が進んでいる現在、COSAの適用により、さらなる小型化が加速されることが期待できます。

COSAの組み立て時、および使用(光トランシーバ内の実装)時のプロセスを図3に示します。パッケージ上に半田印刷とリフローにより部品を搭載後、チップを搭載します。その後、 高速電気信号、制御信号、および給電の入出力インタフェースとなるBGA(Ball Grid Array)を形成し、リッドを固定して完成します。これらのプロセスでは、実装の完全自動化が実現されており、COSAの高生産性と経済化に寄与しています。また、光トランシーバのPCB(Printed Cir­cuit Board)基板に実装する際も、COSAは BGAインタフェース技術の採用により、他の電子部品と同時かつ自動でリフロー実装が可能となりました。従来の光デバイスの多くは、PCB基板に電子部品をリフロー実装した後に個別に実装する必要があったため、実装工程の煩雑性が課題となっていましたが、COSAの適用により、光トランシーバ実装工程の大幅な簡略化が実現されます。

今後の展開

APNの描く将来は、ネットワークのあらゆる情報伝送においてフォトニクスへの転換を図られた、革新的な光ネットワークの実現です。光技術をより短距離の信号伝送や端末まで適用するためには、光送受信モジュールのさらなる小型・経済化や伝送速度の向上が求められます。現在、COSAにおいてパッケージ内に集積されている電子回路は比較的小規模なものですが、今後はさらに大規模かつさまざまな機能を有する電子回路とのコパッケージ化により、モジュールの小型経済化が進むと思われます。また、光送受信機能としての伝送速度向上も求められますが、光・電気回路間を極限まで近接させ、回路間の伝送速度の劣化を抑制し得る光電融合技術は、その進展を加速すると期待されます。

すでにNTTデバイスイノベーションセンタでは,このような光電融合の展開を見据え、COSAの伝送速度を大幅に向上するための研究開発を進めています(3).すでに開発した400 Gbit/s伝送用の64 Gbaud対応COSAに比べ、伝送速度を大幅に向上させ、100Gbaud級の伝送を可能とするCOSAの実験に成功しています。新たなCOSAの送信帯域および受信帯域特性を図4に示します。シリコンフォトニクスチップのみならず、コパッケージング技術の改良により、大幅な動作帯域の拡大に成功し、伝送実験においても100 Gbaud級の動作確認を行いました。今後の光電融合の進展により、小型・経済化とともに、伝送速度の向上が期待でき、継続して研究開発を進めていきます。

■参考文献

(1) 特集:“新世代通信を拓くシリコンフォトニクス技術、” NTT技術ジャーナル、Vol. 21、No. 12,pp. 12‐35, 2009.

(2) 柏尾・那須:“Beyond 100 G 光トランスポートネットワーク用光送受信器、”NTT技術ジャーナル、 Vol. 28,No. 7,pp.15-17, 2016.

(3) S. Yamanaka, Y. Ikuma, T. Itoh, Y. Kawamura, K. Kikuchi, Y. Kurata, M. Jizodo, T. Jyo, S. Soma, M. Takahashi, K. Tsuzuki, M. Nagatani, Y. Nasu, A. Matsushita, and T. Yamada:“Silicon Photonics Coherent Optical Subassembly with EO and OE Bandwidths of Over 50 GHz,”OFC2020, PDP, Th4A.4, 2020.

(左から)那須 悠介/山中 祥吾

NTTデバイスイノベーションセンタのシリコンフォトニクスを活用した光送受信モジュールの開発について紹介しました。APNの描く、よりスマートな社会の実現に向けて、これからもフォトニクスを活用した基盤技術の研究開発に取り組んでいきます。

問い合わせ先

NTTデバイスイノベーションセンタ
企画部
TEL 046-240-2403
FAX 046-270-3703

E-mail dic-kensui-p@hco.ntt.co.jp