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from NTT西日本

社会課題・ビジネス課題解決に向けた研究開発の取り組み

NTT西日本は、社会を取り巻く環境変化がもたらすさまざまな課題をICT活用によって解決し、社会の発展に貢献する企業(ソーシャルICTパイオニア)をめざしています。NTT西日本R&Dセンタでは、社会課題やビジネスユーザの課題と積極的に向き合うことで、その解決に向けた応用的研究開発を推進しており、事業に密着したトライアルや実フィールドでのPoC(Proof of Concept)などを通して、お客さまへの価値提供をめざしています。

社会課題・ビジネス課題解決に向けた応用研究

社会を取り巻く環境がめまぐるしく変化する中、社会や企業が抱えるさまざまな課題に対し、ICTを活用した解決策への期待が高まっています。このような状況の中、NTT西日本R&Dセンタでは、具体的な社会課題やビジネスシーンを想定し、業務効率化やデジタルトランスフォーメーション(DX) といった解決策に貢献するサービス提供に向けたさまざまな研究開発を推進しています。
ここでは、R&Dセンタの「ソーシャルICTパイオニア」をめざす研究開発の取り組みについて、具体的な想定事例と解決イメージを交えて紹介します。

FAQ自動生成とナレッジに基づく応対自動化

コンタクトセンタでのFAQ作成業務において、長年にわたり蓄積されてきたお客さまとの応対ログや各種ドキュメントを収集・分析するには膨大な稼働と費用がかかることから、取り扱う情報量が限られてしまう場合がありました。NTT西日本では、お客さまの声(VOC:Voice of Customer)データとAI(人工知能)技術を活用したFAQ自動生成システム「Q&A Generator」の実証実験を実施しており、具体的には以下の2つの機能について成果を得ました(図1)

キーワード抽出・カテゴリー整理

FAQ作成にあたっては、「よくある問合せ」や「関連する問合せ」のカテゴリー整理が重要となります。「Q&A Generator」ではVOCデータをAIが分析し、頻出度の高いキーワードを基に、問合せ内容のカテゴリーを整理します。その際、キーワードの係り受け(キーワードがどの言葉に関連しているか)を分析することで、より正確なカテゴリー整理を実現しました。

新規FAQ候補の自動生成、既存FAQとの関連付け

「Q&A Generator」は、多量なVOCデータから、新規FAQ候補の自動生成を行い、既存FAQと比較することで、新たに追加・更新するFAQ候補を抽出します。これにより、さらなるFAQの充実を図るとともに、FAQ作成稼働の軽減を実現しました。
現在はFAQ自動生成の技術領域をさらに拡大すべく、製品マニュアル等のドキュメントからのFAQ自動生成、ならびにNTTメディアインテリジェンス研究所の「対話知識活用技術」と音声認識IVR(Interactive Voice Response)技術を組み合わせた応対の自動化に取り組んでいます。
本研究により、従来自動応答のために必要だった複雑なシナリオ設計や、精度向上のためのチューニング作業等からコンタクトセンタ業務を解放することで、さらなるDXを推進し、人が人にしかできない作業に注力できる環境づくりへの貢献をめざしています。

図1 FAQ自動生成とナレッジに基づく応対自動化

移動型ゲートウェイによる不感知エリア解消

近年、スマート社会の実現に向け、無線技術によりガスや水道等の遠隔検針を行う動きが広がっていますが、その実現に向けては、各家庭のメータに設置する必要があるセンサデバイスの電力確保や、無線電波が届きにくい不感知エリアの解消が課題となっています。
そこでNTT西日本では、それらの課題を解決し、遠隔検針をより広く社会に普及させるための技術として、“BeecleTM”の開発に取り組んでいます(図2)。
まず、センサデバイスの省電力化については、電池を利用する程度で数年間の連続稼働が見込めるLoRaWAN®*に着目しています。
しかし、LoRaWAN®では、センサデバイスのデータを収集するためのゲートウェイをビルの屋上などに固定設置した際、ビル影などの電波が届きにくい不感地エリアが発生することがあり、その解消のためにゲートウェイを追加設置すると、コスト増となってしまいます。
BeecleTMは、このゲートウェイ設置コストの削減のため、街中を定期巡回するごみ収集車やバスなどにゲートウェイを搭載することで、それら車両の通常業務を妨げることなく、不感地エリア周辺を走行したときに「ながらデータ収集」を行う技術です。
また、BeecleTMでは、データ収集の際、搭載されたゲートウェイからセンサデバイスに対して起動信号を発信し、スリープ中のセンサデバイスを一時的に起動させます。これにより、センサデバイスの省電力化を図りつつ、不感地エリアでのデータ収集効率化の実現をめざしています。
本技術の応用案としては、鉄道車両にゲートウェイを搭載することで鉄道設備や線路周辺環境の情報を定期的に収集することでの「ながら点検」実施や、災害時に被災エリアへ入る緊急車両へのゲートウェイ搭載による、設備被災状況の早期把握などを考えています。
今後は、実フィールドにおけるフィージビリティ評価を行うとともに、ゲートウェイ搭載車両の検討も併せて行う予定です。

* LoRaWAN® :アンライセンスバンドの920 MHz帯を使用し、省電力で、長距離通信可能なLPWAの1つ。LoRaWAN®はSemtech Corporationの登録商標です。

図2 移動型ゲートウェイ技術“BeecleTM”によるLoRaWAN®の不感地エリア解消

AI技術による映像編集作業の効率化

放送業界などにおける映像編集は、人が実際に映像を見ながらの作業となるため、膨大な稼働がかかっています。特に、「放送分野における情報アクセシビリティに関する指針」として、総務省から字幕放送の拡充を求められているため、字幕作成作業の効率化が課題となっています。
そのため、R&Dセンタでは、映像編集や字幕作成作業の効率化に向けた技術開発に取り組んでおり、まず、映像編集作業の効率化に向けては、AI技術を用いた映像シーンの階層化に取り組んでいます(図3)。
例えば、ロケ番組の場合、「京都に関するコーナーを確認したい」「京都に関するコーナーの中でも、食事のシーンだけを確認したい」というように編集者によって確認したいシーンの粒度が異なります。そのため、AI技術(音声認識、文字認識、画像認識、話者認識)を用いて「キーワードや人物等のメタデータを付与し、メタデータの類似に基づいて映像を階層的に分割する技術」の開発に取り組んでいます。
さらに、字幕作成作業の効率化に向けては、認識間違いが疑われる箇所の明確化に取り組んでいます。
AI技術(音声認識)を用いた音声データの文字起こしは、すでにさまざまな会社で実装されていますが、字幕作成に向けてはより高精度な文字起こしが求められるため、AI技術のみでは解決が困難です。そのため、複数のAI技術の特性やテロップ情報等を活用することで、文字起こしの認識間違いが疑われる箇所の明確化や、当該箇所の修正候補の提示といった、「誤認識被疑箇所の補正技術」の開発にも取り組んでいます。

図3 AI技術による映像編集作業の効率化

鏡に映るだけで健康チェック

健康に対する意識は個人・企業・自治体問わずより一層高まっています。また、社会課題の1つである生活習慣病に対して、「重症化した後の治療」だけでなく、「未病ケア・予防」も重要視されてきています。
未病状態(健康から病気に遷移する前の中間状態)を早急に検知するには、日常的にバイタルデータの計測と記録を行うことが必要ですが、ヘルスバンドやスマートウォッチなどのウェアラブル端末は装着や携帯する煩わしさがあり、利用者に負担をかけてしまいます。
R&Dセンタでは日常生活の中で誰でも気軽に自然とバイタルデータの収集と管理が可能となる世界を実現させるために、カメラを利用した非接触センシング技術の確立に取り組んでいます(図4)。
カメラで撮影した顔の皮膚部分の動画から脈拍数・脈波(拍動に伴う血流量の変化)を推定するアルゴリズムについて、精度向上の研究を進めており、この技術を活用することで、鏡に映るだけで健康チェックを可能とする技術の実用化をめざしています。
これにより、例えば、工場において作業前の簡単な健康チェック実施や、運転中における体調変化の検知、学校での集団感染チェックなどが可能になると考えています。
今後、より短時間で計測を可能にするような利便性向上に取り組むとともに、血圧や眠気の推定に発展させていくことで、人々の健康増進への貢献をめざしています。

図4 鏡に映るだけで健康チェック

今後の展開

このように、NTT西日本R&Dセンタでは、将来的に実用化が期待される新技術の開発や検証による知見の蓄積だけでなく、実際の社会課題やビジネス課題の解決に向けたトライアルや実フィールドでのPoC(Proof of Concept)にも積極的に取り組んでいます。今後も、こうした実際のユースケースへの適用を通じて、お客さまへの価値提供をめざしていきます。

問い合わせ先

NTT西日本
デジタル改革推進本部
技術革新部 R&Dセンタ 開発推進担当
TEL 06-6450-6451
E-mail ks-jimu-rdc@west.ntt.co.jp
※電話番号をお確かめのうえ、お間違いのないようお願いいたします。