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トップインタビュー

同じ釜の飯を食い、「暗黙知」を受け継ぐ──ソーシャルICTパイオニアとして地域のビタミンとなる

新型コロナウイルスのパンデミック下において実施された東京商工会議所の調査によると、67.3% の企業がリモートワークを実施しています。一方で、リモートワーク、テレワーク実施を検討するにあたって、 現在テレワークを実施していない企業では、社内体制の整備やセキュリティ確保が課題として挙げられ、テレワーク導入環境整備の支援(要件緩和、対象費用の拡大等)や導入モデルの紹介などが行政に求められています。指定公共機関としてこのニーズにどうこたえるのか、 昨年20年の節目を迎えたNTT西日本の展望と姿勢について、同社の岸本照之常務取締役にお話を伺いました。

NTT西日本 常務取締役 岸本  照之

PROFILE

1986年NTTに入社。2014年NTTフィールドテクノ代表取締役社長、2017年NTT西日本取締役 関西事業本部長 大阪支店長を経て、2019年6 月より現職。設備本部長、 設備本部ネットワーク部長。

20年の節目に発足以来の最高益を達成

まずは経営環境について、西日本グループの現状を教えていただけますか。

NTT西日本は 2019年7 月に創立20年の節目を迎え、 2019年度の決算として会社発足以来の最高益、1322億円を達成することができました。発足当時の赤字から黒字化をめざして苦楽を共にしてきたメンバーと21年目を迎えられたことは非常に感慨深いです。
2019年度は、G20が日本で開催され、九州を中心に集中豪雨や台風といった災害が相次ぎました。こうした中、 固定電話を中心に減収の傾向にありますが、減収幅は少なくなってきており、念願の増収が射程範囲に入ってきました。また、光サービスは年間目標としていた純増20 万を超え、22万を達成し、ビジネス営業・新分野事業は全収入に占める比率が初めて半分を超え、デジタルトランスフォーメーション(DX)による徹底した効率化により費用削減を図ることができました。こうした全社一丸となった取り組みの結果として最高益を上げることができたのだと実感しています。
しかし、ご存じのとおり、新型コロナウイルスの感染拡大によって、社会全体が停滞している今、2020年度の決算着地を案ずる方も多いと思います。災害の場合、災害が収まりその後復興していくという先が見えることに対して、パンデミックの場合はウイルスとの戦いがどれくらい続くのか等、先の見えない点において不安の元は異なります。

確かに社会には不安が蔓延しています。指定公共機関としてNTT西日本はどう対応されますか。

こうした中であっても、私たちは先頭に立ってICTの力で社会課題の解決をしていく「ソーシャルICTパイオニア」をめざし、地域から愛され、信頼される企業として変革し続けるとともに、地域を元気にしていく「ビタミン」のような役割を担います。
私たちはこうした不安に対して3つのキーワードを掲げて対応しています。まず、事業の継続と安全への対応です。私たちは指定公共機関として、こうした状況下においても自治体・企業・医療などへアクセスするための通信環境整備のご要望におこたえする使命があります。 そして、社員の健康や不安を十分に配慮して、使命を果たすというバランスが非常に重要です。これに関しては数年前に新型インフルエンザ拡大が騒がれたときに、その対策として整えた体制があり、それを今回初めて発動し、全社を挙げたテレワーク・時差出勤等を導入して事業の継続と社員の安全・健康の維持に努めています。
次は混乱からの回復です。この段階においては、社会活動再開の声におこたえし、「リモート」「オンライン」をキーワードに展開し、グループの商材を結集してお客さまのご要望を想定しつつ、千差万別の課題解決に臨みます。また、これはNTT西日本のみの展開ではなくNTT グループ全体の力をお借りする、言い方を変えればグループの全体最適化を図ることにもつながると考えています。
私は入社当時、現場の最前線におりました。現場を担当する者はやはり災害やトラブルなどの困ったときに必要とされることが多く、現場の社員はお客さまと直接コミュニケーションを図るNTTの顔だと感じました。しかも、NTTの3 文字にお客さまが寄せる期待値は高いのです。こうした経験から、災害時などにいかに最善を尽くすことができるか、指定公共機関としての使命を果たせるかが重要だと考えます。さらに、すべての部署が前線の社員と同様にお客さまの声を聴き、ご要望にこたえる姿勢を持つことなのです。
最後は成長です。アフターコロナ、ウィズコロナといわれるニューノーマルを見据えたリモート型社会、働き方の改革が起きています。リモートワークが進むことにより、現在の東京一極集中型のビジネスも分散されるようになるでしょう。このような時代の変革期において、 ICTのインフラは血管であり、空気や水のような存在になると考えられます。従来のネットワークサービスやソリューションを提供するだけではなく、サイバーセキュリティやユーザサポート等を通して、サービスを安心かつストレスフリーで提供できるように努めていきます。
対応策の一例を申し上げますと、「時間・場所」にとらわれない効率的な働き方を実現するセキュアなビジネスコミュニケーション環境を提供するELGANAは、さまざまなワークスタイルを快適にするサービスです。2020年6 月末現在、すでに5 万IDを超えています。リモート社会の定着に向けた、安心・安全、かつ多岐にわたるお客さまのご要望におこたえできるサービスを充実させていこうと考えています。新型コロナウイルスの感染拡大防止はピンチととらえず、私たちにとっては追い風であると前向きにとらえ、先を見据えて臨みます。

日進月歩ならぬ、秒進分歩の社会でNTTファンを獲得する方法とは

未曾有の事態を前向きにとらえてのビジネス展開、頼もしいですね。新中期経営計画はやはり新型コロナウイルスのパンデミックの影響を受けていますか。

確かに、新型コロナウイルスの感染拡大防止をかんがみて歩んでいくことになるでしょう。新年の社内プレゼンテーションでは、2020年の動向をアイスホッケーのスティックに例え、スティックのシャフト(柄の部分)とブレード(パックを打つ部分)の接点を2020年当初の状態で、そこをターニングポイントに上昇基調にもっていこうとの説明とともに2020年の幕を開けました。新型コロナウイルスの感染拡大という未曽有の事態ですが、着実に増収に向けて一丸となって歩んでいると確信しています。
新しい中期経営計画では2025年に売上1.5兆円、営業利益率10%、光1000万を目標に掲げています。その中で2020年は非常に重要な1 年です。まず、ソーシャルICTパイオニアとして、「地域のお客さまに選ばれ続ける「いい会社」をめざします。カスタマサクセス、つまり、お客さまのご要望、課題に寄り添って、お客さまの事業目標を達成することに重点を置き、地域社会のスマート化への貢献に努めます。
また、昨今はよりスピード感を求められ、日進月歩ならぬ、秒進分歩で進んでおり、私たち自らが働き方を改革して効率化を図り、それをお客さまに提供するというスパンも短くなっています。このニーズにこたえることができれば結果として数字はついてくると考えています。 私はICTに特化したソリューションを提供するのは当たり前、そこにどれだけ付加価値をつけられるか、従来のインフラを利活用できるかが重要だと考えています。加えて、通信設備の故障等については、理論上、10年に1 度あるかないかのできごとです。しかし、昨今では自然災害などが相次いでおり、被災地では通信の途絶も発生しています。こうした、お客さまが非常にお困りになることに真摯に取り組まなければ、たちまちアンチNTTとなってしまいます。逆に、誠実に取り組み改善できればファンとなり、リピータとなってくださいます。そして、修理や故障対応の仕事は非常にお客さまに喜んでいただける重要なカスタマサクセスの1 つです。いかなる状況にあっても誠実に対応しファンを獲得することにつなげていきたいです。

決断と実行という重要な任務

充実した取り組みがなされているのですね。こうした未曾有の事態において、トップとして大切にされていることを教えていただけますでしょうか。

社員もお客さまも皆不安を抱えていらっしゃると思います。その不安材料はさまざまですが、それらを払拭することに努めることが大切だと思います。そして、現状は緊急対応をしている時期であるけれど、私たちはその先の未来へ向かって進んでいると示すことだと考えます。 設備部門は物事を長期的な視点でとらえてグランドデザインを考えます。 例えばIOWN (Innovative Optical and Wireless Network)構想は2030年の実現をめざしていますが、通過点である2025年には大阪万博が開催されます。つまり、IOWN構想実現を見据えて大阪万博をテストベッドととらえていかに成功に導いていくか、未来を思い描き構想を打ち立てていくのです。一方で設備部門には夢だけではなく、徹底した効率化も求められます。大量にある設備をスリム化、シンプル化し、新しいサービスに転換していくことも求められるでしょう。こうした現実感を踏まえつつも夢を語れる、希望を持って仕事に臨める環境を整えていくことがトップには求められていると考えています。
これを現実のものとするため、私たちトップには「決断」「実行」という2 つの大切な任務があります。一気に100 点は取れないかもしれないし、最短距離ではなく、遠回りするかもしれない。それでも、着実に決断し、実行することが求められていると感じます。私に限らず、社員の皆さん、それぞれの役職で悩みを抱え課題を解決する毎日を送っていると思います。例えば、現在一丸となって取り組んでいる新中期経営計画も方向感は間違っていなくても、判断や決断に迷うことがあるかもしれません。 そんなときに決断して背中を押すことが私の仕事だと考えています。また、先ほどお話ししたとおり、スピードは加速していますから、100点の検討を待つよりも50、60 点でスタートして微調整しながら一丸となって臨んでいきたいです。

トップが責任を取ってくれるというのは大きな安心を与えてくれます。絆はどのように築かれているのでしょうか。

新型コロナウイルス対応のために電話会議を毎日、そして少なくとも週に一度はミーティングを開いています。 部門長クラスは何が起きているかを把握して共有することが大切です。実はこの朝のミーティングは2011年ごろ私の上司が行っていたものにならっています。このほかにも九州・沖縄サミットのプロジェクト等の経験も活きているのですが、過去を共有した仲間が「現在」を引っ張り、「現在」の仲間がそれを受け継いでくれているということが嬉しいです。そのためにも、先輩や仲間が相互に良い刺激を与えあえる存在でありたいと思います。同じ釜の飯を食うという言葉がありますが、まさにその言葉どおりです。先輩方が高度成長期に電話局のビルを建て、ケーブルを引っ張った。それが今更改時期を迎えています。当時の考え方と今の考え方には時代や価値観の変化からかい離があるのは当然です。しかし、マイグレーションにおいては、その当時の思想や背景を理解して、 今後を見据えたグランドデザインを描くのです。物品や工法、DX ・ツール等も変化していますが大切なことは変わりません。
実は、10年ほど前からNTT西日本にはゴールドマイスター制度を設けて匠の技の伝承を保ち続けています。なぜなら、先輩方はお客さまの業態や現場の状況に合わせた「暗黙知」「匠ノウハウ」をお持ちです。しかし、言葉にはしませんし、文章にもしていただけません。そこで、 若手社員を先輩に付かせてたくさん質問をさせ、その「暗黙知」を人から人へと継承しているのです。刻々と変化する技術やサービスへの対応はスポンジのような吸収力を持つ若い社員のほうが長けていますから、経験や性質等の特徴をお互いがうまく活かし合っていると感じています。

アンテナは常に高くして社会の動向を知る

社内外の技術者の皆さんに求めることを教えてください。

井の中の蛙大海を知らずと言われないために外へ出ることです。固定電話の時代から技術は大きく変化し、昨今では小学生もアプリを製作する時代になりました。技術開発がオープンに行われる時代において、通信事業者以外の企業や人がどのようなビジネス開発に取り組んでいるかを知り、アンテナを高くすることが求められています。
その中で、NTTグループの基礎研究は私たちの大きなバックボーンです。お客さまからも「すごい」という声を多く伺います。私たち自身も、研究所の取り組みがあるからこそ、ビジネスの最前線での取り組みを安心して展開できると実感しています。NTT西日本では2020年度、 技術戦略の5 つの柱を立てました。①地域ビジネスの更なる推進、②DX ・データ活用ビジネスの推進、③キャリアズキャリア・ビジネスの推進、④IOWN時代を見据えた取り組み、⑤PSTNマイグレーションに向けた取り組みです。
私たちはオペレーション会社ですから、モノを売っておしまいではなく、ちゃんと使え、故障しにくいことはもちろん、故障したとしても遠隔からのサポートで修理時間を極力短い時間に収めることが大切です。私たちの肝であるオペレーション&メンテナンスを支える技術開発、トラブルシューティングを支える研究に挑んでいただきたいですね。そして、NTTグループの研究者にはグローバルで展開される研究開発競争に打ち勝つ取り組みをしていただきたいと考えています。これらが有機的につながった取り組みになってビジネスに展開できたら良いと思います。
研究のフィールドも通信のフィールドもどんどん広がっていますから、私たち技術者はどれだけ外界と接して、動向を知り、誰とアライアンスを組んで何をするのか、 ロードマップを作成して取り組んでいきたいです。目標を定めて走っていくことで確実にNTTへの信頼につながり、研究開発と有機的につながることになるのだと考えます。(インタビュー:外川智恵/撮影:大野真也)
※ インタビューは社会的距離確保のうえ、マスク着用で行いました。

インタビューを終えて

意外な一面を知りたくてトップの皆様にはご趣味を伺います。岸本常務は「応援」について語られました。野球、陸上競技、駅伝、マラソン等、あらゆる応援に精を出され、日本全国を駆け回っているそうです。実業団チーム、そして役職柄という一面もあってとお話しされつつ、「文化もスポーツもある意味いらないという人もいるけれど、私は必要だと思うし、生きるうえでのゆとりや豊かさだと思うのです」と熱く語る岸本常務。新型コロナウイルス感染拡大防止の自粛期間の選手の皆さんの様子も語ってくださるお姿に、単なる応援という行為だけではなく、選手がどのような苦労をし、その心情を理解して支えるという深い愛情を感じずにはいられませんでした。インタビュー終了後も撮影機材の撤収が終るまで、会議室の正面にある大阪城を眺めながら、トライアスロン大会のルートやトリビアをお聞かせくださいました。その一瞬を切り取ると、単にお話が好きだからと思われるかもしれません。しかし、そこには隅々まで心配りを行き届かせ、そこにいるスタッフを誰1 人として退屈させない、そして、これまでかかわられた方々のことも、この先にかかわるだろう方々のことも考えるという岸本常務の生き方がありました。言葉では表現しがたい匠ノウハウを教えていただいたひとときでした。