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グループ企業探訪

第225回 株式会社ハレックス

お客さまに付加価値を提供する専門家集団

ハレックスは、法人のお客さまを中心に気象情報等を提供する、 NTTグループ唯一の総合気象情報会社だ。法規制の下、業界各社は気象庁からの配信情報をそれぞれ加工してビジネスを行う中、情報の鮮度と活用ノウハウを強みに“IT×気象” のエキスパート集団としてニッチトップをめざす、藤岡浩之社長に話を伺った。

ハレックス  藤岡浩之社長

情報に付加価値をつけてお客さまに 提供する総合気象情報会社

◆設立の背景と目的、事業概要について教えてください。

ハレックスは、気象業務法が改正・施行された年の1993年4 月1日に設立されました。この日を境に、それまで気象庁でしか実施することができなかった気象予報業務が、気象庁の許可により予報業務許可事業者として民間の事業会社でも行えるようになりました。他の主要気象会社と異なる第三の新たな民間気象会社として設立されたのが当社です。株主はNTT データ(設立当時はNTT データ通信)をはじめ、日本気象協会、鉄道、通信、電力、建設等、 気象情報と関係の深い54社(2020年7 月現在)で構成されています。こうした出自により、今年度で創立27年目を迎える歴史の長い総合気象情報会社です。約40名の社員のうち半分が気象のスペシャリストである気象予報士で、気象という分野のみならず、多くのスペシャリストで構成されているという点で、NTT グループ会社の中では非常にユニークな存在です。
さて、気象情報会社というと天気予報が思い浮かびますが、天気予報は、気象庁が観測データ、スーパーコンピュータによる予測データ等を基に分析・発表する天気予報や警報注意報などを各社が独自にアレンジして表現するかたちで行われています。そして、テレビのニュースや情報番組で気象予報士が「お天気キャスター」として登場するシーンをしばしば見かけますが、当社は一般向けの天気予報も、「お天気キャスター」もほとんど手掛けていません。当社の事業は、気象庁から配信される、 気象(風、雨等、大気の状態)、地象(地震や火山活動)、 海象(波浪や海流等の現象)の3つの分野にかかわる観測データ、予測データに、NTT データグループとしての強みであるIT を活用して(気象情報とIT の連携)、当社独自の付加価値をつけて、XML ファイル、 API(Application Programming Interface) 等の形式やソリューションとして法人のお客さまに提供するのが主な事業です。特にピンポイントの気象情報サービスに関しては、 ニッチな領域ではあるのですが、そこでのトップをめざしています。

◆気象情報の付加価値とはどのようなものでしょうか。

気象情報サービスは、一般的な天気予報とは異なり、気象庁から配信される天気、気温、湿度、降水量、風向・風速、気圧等の観測データ、予測データ等の気象データを加工して提供するサービスです。気象庁から配信されるのは、 5 〜20 km 四方の格子の平均値のデータ、 1 日4回発表される予測データを基にした1 時間単位の時系列予報データ、独自の圧縮形式で専門知識を必要とする膨大なデータなどです。これらのデータは専門家に向けたデータであるため、必ずしもお客さまが使いやすいかたちになっているわけではありませんし、そのままお客さまの事業に活用できるわけでもないため、お客さまの利用目的に合うかたちで加工しています。当社では、格子の範囲を1 km のメッシュに変換補正し、さらにその地点の標高補正、時系列予報データに対してアメダスやレーダーの実測値・実況情報による補正(最短5 分単位の補正、 1 日48回更新)、地点情報の緯度・経度や時刻による指定や、お客さまの用途やデータ種類に応じてXML ファイルやAPI、ソリューションといった提供形式の変更を行っています(図1 )。そして、この付加価値である1 km メッシュといった「粒度」や更新頻度の高さである「鮮度」、そしてデータ提供形式の「柔軟さ」と、 ストレスレスに使えるAPI の性能がまさに当社の強みとなっています。

◆付加価値のある気象情報はどのように活用されているのでしょうか。

防災関連の事例が多いです。NTT の災害対策における活用では、基本的に大雨等の警報が出るのは自治体単位であるところ、きめ細かな気象情報から災害発生の可能性が高いエリアをピンポイントで想定し、早期復旧の観点から復旧に向けた人材や資材の配置の検討を行っています。
京浜急行電鉄株式会社様では、 1 km メッシュの積算降水量の監視や1 時間先までの雨の強さの変化予測等をベースに、基準値を超えた駅間にアラートを点灯表示させて、運行停止や徐行のような列車運行の安全確保に反映させる「鉄道安全運行支援サービス」をご利用いただいています(図2 )。
また、ある大手製造会社様の事例では、河川沿いに工場があるのですが、工場敷地が冠水すると業務が停止してしまうだけではなく、そこから漏れた水により土壌や河川の汚染や産業廃棄物の発生等環境問題にも発展します。そこでBCP 対策として、工場のある場所のみならず、 河川の流域も含めて時間降水量を監視し、この先の雨の降り方も予想する「防水・止水対策支援サービス」を提供し、敷地の浸水や河川の氾濫等への対応の事前準備に活用していただいています。
このほか、「防災情報支援サービス」により自治体の防災システムとの連携も行っており、 防災以外では1 km メッシュ気象情報や長期予測等の農業経営への活用、「工程管理支援サービス」として建設現場における工程管理・安全管理等への活用や熱中症対策への活用、 太陽光や風力といった発送電管理への活用等、気象と関係があるあらゆる場面で活用されており、データのきめ細かさや柔軟な対応が評価されています。
これらの実績が評価され、2018年11月には「ASPIC IoT ・AI ・クラウドアワード2018」にて「総務大臣賞」と、 「ASP ・SaaS 部門総合グランプリ」を受賞しました。 また、2019年3 月に「第5 回ジャパン・レジリエンス・アワード(強靭化大賞)」を受賞しました。

データの「粒度」「鮮度」データ提供形式の「柔軟さ」に 「過去のデータ資産」を強みに加え、ニッチトップをめざす

◆ 今後の事業展開や抱負についてお聞かせください。

当社の気象情報サービスは現況の情報と予測情報をベースとして構成されていますが、それらは過去8 年にわたる膨大なデータとして蓄積されています。このデータの気象特徴量を抽出することで、AI(人工知能)のモデル学習のための良質なデータとして活用することができるようになります。これにより、サービスのさらなる精度向上、お客さまのDX ( D i g i t a l T r a n s f o r mation) への貢献等、新たな展開につなげていくことができると考えています(図3 )。
また、AI の登場を待たなくとも、すでに過去データの活用によるDX も始まっています。分かりやすい例としては、災害発生後の状況分析・検証への活用ですが、このほか、天気や気温との関係の分析によるスーパーマーケットにおける受発注管理やアパレルの在庫管理、天気に依存する売れ筋商品のネット広告やデジタルサイネージ広告といったデジタルマーケティング、メッシュ形式の気象情報と過去の事故事例の突合による事故原因分析と安全ルートのナビゲーション、建設現場における天気と事故・ヒヤリハットの関係分析による安全管理、スタジアムの芝の生育状況管理への活用等、多岐にわたっており、将来的には気象状況と気象病との相関関係の調査といった医療分野における活用等、これまでとは異なる分野への展開も視野に入れています。
気象情報の活用の可能性は無限にあります。潜在ニーズを掘り起こし、新たな価値をお客さまにご提案していくことが当社の使命です。粒度が細かく鮮度の高い気象情報の提供と、お客さまへの柔軟な対応に、過去のデータ資産という大きな強みが加わり、これらを強く訴求していくことで、気象情報の活用事例や領域を広げ、総合気象情報会社としてニッチトップをめざしていきます。

担当者に聞く

ニッチトップへの道 気象情報をお客さまのニーズに合わせて提供する

ビジネスソリューション事業部
システム部長
馬目 常善(まのめ つねよし)さん

馬目 常善さん

◆ 担当されている業務について教えてください。

システムに関して、開発、運用からお客さまへのソリューション開発まですべて担当しています。 システムのチームは、風、雨等、 大気の状態に関する気象情報、地震や火山活動に関する地象情報、 波浪や海流等の現象に関する海象情報の3 領域で編成されているのですが、私はその中でも特に気象領域を20年以上にわたり担当しています。
気象庁から配信されるデータは格子(メッシュの枠)点ごとの観測値・予報値で、そこに位置、時刻、要素、単位、 格子配列等のメタデータが含まれています。それらを1 km メッシュ単位で管理することでお客さまに提供する情報のベースができます。例えば緯度・経度で位置を指定すると、それがどの1 km メッシュに該当するかの対応付けができているので、瞬時に必要な情報を取り出すことができます。また、 1 km メッシュ相互間のデータの差分をスムーズにする補正も行っています(特許取得)。そして、 情報の鮮度が重要であり、30分に1 回(情報によっては5 分に1 回)更新しています。
これをお客さまが使いやすい形式で提供するために、 API に力を入れています。このAPI による情報提供はまさにNTT データグループの得意とするIT の活用であり、 2012年から当社が業界の先駆けとなって提供しております。その後、世界の天気、特別警報・警報・注意報、降水ナウキャスト等、API で扱う情報の種別も増やしてきています。最近でこそ、他社も例えば雨雲が動くような情報をWeb サイト等で提供していますが、当社のAPI では緯度経度で指定された1 km メッシュに該当する時系列データを瞬時に提供することができます。ピンポイント地点の予測データや過去データをシステムに取り込んで活用するお客さまにはご好評をいただいております。
気象データを扱いやすい素材にして提供すること。これが1 つの強みとなっています。
もちろん、API を業務に活用できないお客さまには、ご要件を確認して、ASP などのソリューション開発も行っています(図4)。
お客さまの業務に合わせて気象条件やしきい値等を決め、 アラートを出力するプログラム開発は得意技の1つです。

◆ご苦労されている点を伺えますか。

気象情報をお客さまのニーズに合わせて提供することは難しい課題の1 つですが、当社の腕の見せ所でもあります。
と言うのも、気象庁から発表される情報の粒度、タイミング、予報の期間などは、必ずしもお客さまのニーズとは一致しないからです。
大雨警報などの警報注意報は自治体単位に出され、最近運用の始まった危険度分布情報は1 km メッシュで表現されている一方で、お客さまのニーズはピンポイントのほか、 例えば管轄エリアや路線上の情報を必要としており、必ずしも気象庁が発表する情報の単位と一致しないため、お客さまを軸に考えた提供をする工夫が必要となります。
当社は気象庁の各種情報を活用し、日本全国にわたってお客さまのニーズに合わせた情報提供が可能であるため、 NTT の災害対策関連のチームからも注目されています。 通信ネットワークは社会インフラなので、身の引き締まる思いです。

◆今後の展望について教えてください。

データの鮮度と活用ノウハウは当社の強みであり、ニッチトップをめざすうえで、これらをさらに向上させていくことが重要だと考えています。そこで、これらについて現状の環境においてお客さまにご満足いただける情報提供ができるよう、システムの強化を進めていきたいと思います。 現在のところは、まだまだ100点といえるレベルではありません。例えば2 〜3 年前に気象庁がスーパーコンピュータを更改した結果、それまで台風進路予想が3 日先までだったものが5 日先になったように、気象庁の取り組みが変わることで当社が対応しなければならないことも増えていきます。こうしたことはこれから先も繰り返されていくので、しっかりと対応を続けていきます。一方で、IT 技術の進化も目まぐるしい昨今、環境の変化や世の中のニーズの多様化などをタイムリーにキャッチアップできるよう、 準備していきたいと思います。

ア・ラ・カルト

■気象予報士の朝礼

毎朝9:30から、朝礼の代わりに気象予報士による気象会報を行っているそうです(写真1 )。当番の予報士が、当日や今後の気象について解説をするのですが、そこは専門家の集まり。解説に対して異論が出てきたり、指導が入ったり、朝から議論白熱、ということもしばしばあるとのことです。予報士ではない社員ははじめのうちはこれに面食らうのですが、勉強になることも多いそうで、これをきっかけに気象予報士をめざす人も出てくるかもしれません。以前は職場の一角に集まって実施していましたが、現在はオンラインで行っています。

■物産展 ツマミはクイズ?

年に2 、 3 回関係会社や取引先等を招待して物産展(写真2 )を開催するそうです(現在は新型コロナウイルス感染対策で休止中)。NTTグループの会社のいくつかも行っている物産展同様、社員が帰省や旅行等で地方へ行ったときに買った土産物を持ち寄るのですが、地方に帰省等をする人が少ないので、物産品が集まりづらいとのこと。そこで、気象予報士にクイズを出してもらう企画を始めたところ、話題豊富でネタが尽きることなく、大いに盛り上がるそうです(写真3 )

■社長席はひな壇

社長席が社長室から飛び出て社員と同じフロアに移りました。ただし、ひな壇の上なのです(写真4)。このひな壇、役員が着席中に社員と会話する際に、視線の高さを合わせることを目的に以前からつくられていたそうです。社員の顔を一望できる場所を求めて社長室から出てきたとのことなのですが、ステージの上で仕事をしているような雰囲気で、少し戸惑いもあるそうです。主のいなくなった社長室は打合せ室として使っているとのことですが、一部の社員が社長室であたかも社長のように仕事している、という声もチラホラあるようです。