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グローバルスタンダード最前線

3GPPにおけるIP相互接続仕様の標準化動向

VoIP(Voice over IP)による電話サービスの普及に伴い、NTTではPSTN(Public Switched Telephone Network)マイグレーション/IP相互接続の実現に向けた標準化活動を行ってきました。この活動の集大成として、2021年からいよいよ国内でのIP相互接続開始が予定されています。ここでは、PSTNマイグレーション/IP相互接続の解説に始まり、IP相互接続仕様に関する国内外の標準化動向とそれに対するNTTの取り組みを紹介します。

永徳 はるか(えいとく はるか)
NTTネットワークサービスシステム研究所

IP相互接続

これまでの電話サービスにおいて、 異なるキャリアに契約を持つユーザどうしが通話するためには、PSTN (P u b l i c S w i t c h e d Te l e p h o n e Network)と呼ばれる従来の回線交換網を用いて通信を行う形態が一般的でした。しかし、固定網におけるNGN(Next Generation Network) や移動網におけるVoLTE(Voice over LTE)等のIPベースの電話サービスの普及や、PSTNを構成する一部装置の維持限界等を背景として、 PSTNを介さずにキャリアのIP電話網どうしが相互に接続(IP相互接続) する形態へと移行(マイグレーション) していくことが計画されています (図1 )。
これまでの接続形態では信号の中継に関する機能をPSTNに期待しており、 PSTNではISUP(ISDN User Part) というプロトコルを用いてこの機能を実現していました。一方で、IP相互接続時には各社のIP電話網どうしがSIP (Session Initiation Protocol) と呼ばれるプロトコルを用いることでIP 相互接続を実現していくことになります。このプロトコルの変化に伴う事業者網間SIP共通インタフェース仕様の新規策定が、IP相互接続に向けた大きな課題であり、NTTネットワークサービスシステム研究所(NS研)では、国内外での標準化活動を通じて取り組んできました。

IP相互接続に関する 標準化団体

NGNなどのIP電話網では、通信の確立や切断などのセッション制御を行うためのプロトコルとして、SIPを利用しています。このプロトコルの基本仕様は、インターネットで利用される技術の標準化を行う団体であるIETF (Internet Engineering Task Force) のRFC3261というドキュメントにおいて規定されています。しかし、SIP にはRFC3261で規定される基本仕様以外にもさまざまな拡張仕様が存在しており、SIPに関連するRFCのガイド(RFC5411) によると、2009年の時点ですでに100以上のドキュメントが規定されています。通信キャリアがVoIPサービスを提供するためには、 各社のサービスを実現するうえで必要となるさまざまな技術仕様をこれらのRFCの中から取捨選択しなければなりません。そこで、ETSI(European Telecommunications Standards Institute) のTISPAN(Telecoms a n d I n t e r n e t c o n v e r g e d S e r v i c e s a n d P r o t o c o l s f o r Advanced Network) やITU-T(In¬ternational Telecommunication U n i o n - Te l e c o m m u n i c a t i o n Standardization Sector)、3GPP (3rd Generation Partnership Project)などの標準化団体では、サービス・アーキテクチャ・プロトコルといった、通信キャリアがサービスを提供するために必要なルール(国際標準仕様)の議論と策定を行ってきました。 そして、現在は3GPPのIMS(IP Multi¬media Subsystem) がSIPを用いるキャリア網の国際標準になっています。

3GPP標準化最新動向

3GPPとは、移動体通信事業者やベンダを主体に活動している国際標準化団体であり、第3 世代以降の移動体通信(3G、4G、IMSなど)に関する標準化を行っており、移動体網は、この3GPP仕様に基づいて実装を行っています。
現在、3GPPでは5Gに関連する技術仕様の検討が盛んに行われています。3GPPにおける検討は「リリース」という単位で行われていますが、5G 仕様については、リリース15で基本仕様、リリース16で全体仕様の完成を目標として進められ、リリース17ではさらなる機能拡張が検討されています。 一言に5Gといっても、技術的には5G アクセス無線と5Gコア網に区分されており、IMSはこのうちの5Gコア網との接続が主に検討されています。これまで、IMSはDiameterというプロトコルを用いて4Gコア網と接続してきましたが、まず、リリース15ではIMSと5Gコア網間のDiameterによる接続が4Gコア網と同様に可能になり、リリース16ではクラウド化などの技術トレンドを取り入れてHTTPによる接続も可能になりました。今後、 リリース17では、IMSによる5Gコア網の特有機能(ネットワークスライスやモバイルエッジコンピューティングなど)の活用方法について検討が行われます。また、5G関連以外に、IMS の新規付加サービスに関する検討も継続して行われています。例えば、認証を受けていない端末が特定のサービスに限って利用できるようにするサービス(RLOS)や、ユーザが複数のデバイスや複数のIDを連携させて利用するサービス(MuD/MiD)がリリース16で追加されました。NS研では、 これらの新たな仕様が既存のサービスや国内仕様に与える影響について分析し、それらの整合性を保つための寄書提案や現地での会合対応も行っています。

IP相互接続に関する 標準化動向

NS研では、 図2 に示すように、 3GPPやIETF、TTCにおける標準化活動を実施してきました。その結果として、IP相互接続時に国内通信事業者が準拠する国内標準仕様(TTC JJ-90.30等)や、およびそれに先立つ国際標準仕様(3GPP TS 29.165等) が策定されています。これらの標準仕様の関係については図3 に示します。
NTTのNGNはITU-Tが規定するところのNGN仕様をベースに設計されています。国内におけるNGNのNNI 仕様やUNI仕様は、ITU-TのQ.3401とQ.3402という勧告を基に日本国内の要件やサービス仕様を取り込んで、 JT-Q3401、JT-Q3402 を2007 年にTTC標準として制定しました。その翌年、3GPPでは、 2 つのIMSの間のインタフェース(II-NNI)仕様であるTS 29.165が新規に作成されました。 当時、NS研では、IP相互接続に向けた国内NNI仕様の検討を行っていましたが、国内IP相互接続時には固定網どうしだけではなく、移動網どうしや移動網と固定網との接続も行われることから、従来のITU-TベースのNNI仕様ではなく、3GPP仕様が将来のIP相互接続時における国内NNI仕様のベースになると考えました。そこで、NS 研ではまず従来の国内NNI仕様であるJT-Q3401とTS 29.165との差分について2010年から3GPPへの積極的なアップストリームを開始しました。
このとき、アップストリーム活動に加えて、II-NNIにおけるヘッダ・パラメータの設定条件やIMS事業者間での協議事項等を明らかにして相互接続性を向上させるために、WG(Working Group)が取り組むべき2 つの課題(ワークアイテム)をNS研から3GPP へ提案し、ラポータとしてTS 29.165 の作成に取り組み、2013年までに国内独自要件以外の基本規定をTS 29.165に反映することができました。 これにより、 JT-Q3401からTS 29.165ベースの国内II-NNI仕様への移行準備が整いました(1)。その後、国内独自要件であった緊急通報サービスも国際標準等への盛り込みを行い、その国際標準をベースとして国内仕様を作成してきました(2)。
最近の3GPPでの取り組みとしては、2021年に開始する他事業者とのIP相互接続に向けた開発からのフィードバックと実際の保守運用を考慮した寄書提案や、国内仕様との乖離を防ぐための仕様防衛活動を行っています。例えば、新規付加サービスに関するII-NNI規定の追加や、SIPレイヤにおける復旧検知方式に関する追記、 事業者間精算に用いるヘッダの設定条件の修正、ISUP-SIPインタワークにおける発信者番号の扱いに関する記載追加、などの寄書提案項目があげられますが、以降では復旧検知方式に関する提案を一例として紹介します。
IP相互接続において、各社IP電話網はSBCと呼ばれる装置を事業者網間の関門(IBCF)に設置することが想定されます。このSBCが何らかの原因で障害を起こした後、このSBC の復旧検知をSIPレイヤで行う方式として「OPTIONSリクエストを利用する方式」を日本国内仕様では規定しています。この方式では、対向事業者のSBCの障害を検知した事業者が、 障害を起こしたSBCに対して定期的にOPTIONSリクエストを送信し障害発生したSBCから正常な応答を受信することで復旧検知とします。このような方式は、通常の呼の確立や切断を伴うSIP信号とは異なる信号条件〔例えば、事業者間精算のための情報の有無やRequest-URI(着信先番号) の設定内容など〕が想定されますが、 一方で、3GPP仕様ではこの方式を明確に規定していませんでした。国内でのOPTIONSリクエストの利用方法は、実際の運用におけるエラーや、それによる各社実装の見直しを削減する効果を期待して規定しているため、この利用方法を国際標準としても明確に許容することを目的として国際標準仕様の修正を行い、国内既定と国際規定を整合させることができました。
なお、これらの標準化活動を通してNTTのプレゼンスを高めて検討を優位に進めるために、外部ネットワークとのインタフェースを検討するWGである3GPP CT WG3において2013年以降継続してNTTが副議長を務めています。

国内標準の規定概要

国内におけるII-NNIの相互接続共通インタフェース仕様として、TTCではJJ-90.30を策定しています。このドキュメントはTS 29.165をベースに作成しており、IP相互接続時の事業者網間におけるSIP信号仕様を規定しています。また、その他のIP相互接続関連の仕様として、TTCでは図4 に示すようなJJ-90.31( キャリアENUMの相互接続共通インタフェース)、JJ-90.32(SIPドメイン解決のためのDNS相互接続共通インタフェース)、JJ-90.27〔着信転送サービス(CDIV) に関するNNI仕様〕、JJ-90.28(緊急通報呼に関するNNI仕様)を策定しています。JJ-90.31とJJ- 90.32 はGSMA(GSM Association) のIR.67をベースに作成しており、JJ- 90.27とJJ-90.28は主に3GPP仕様をベースに作成しています。

今後の取り組み

現在のJJ-90.30はリリース15の3GPP仕様を参照しています。新型コロナウイルスの影響もあり若干の検討の遅れこそありましたが、3GPPでは2020年7 月にリリース16仕様が完成(仕様凍結)しました。リリース16完成を受けて、リリース16で変更された個所をすべて確認し現在の国内仕様との差分を明らかにしたうえで、TTC ではJJ-90.30のリリース16準拠へのアップデートを行い、今年度10月ごろに改版を制定予定です。 3GPPにおける寄書提案や仕様防衛は最終的にこのようなかたちで国内仕様へとフィードバックしています。2021年にはいよいよ国内IP相互接続が開始されますが、その前に今年度は10月制定予定の改版仕様を基に、他事業者とのIP 相互接続試験が開始されます。今後は、 試験からのフィードバックを踏まえた明確化などを実施していきます。

■参考文献
(1) 坂谷・荒井・鐘ヶ江:“IP相互接続仕様に関する標準化活動,”NTT技術ジャーナル,Vol. 26, No. 7, pp. 63-65, 2014.
(2) 小川・上茶:“緊急通報の標準化動向とIP網間インタフェース仕様の標準化,”NTT技術ジャーナル,Vol. 30, No. 2, pp. 57-61, 2018.