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特集

5G特集──社会課題解決・社会変革実現に向けたドコモの挑戦

これまでの取り組み

NTTドコモは、2010年ごろから検討を始めた5Gを用いた通信サービスを2020年3 月から商用提供開始しました。以来、5Gに対応したスマートフォン6 機種とデータ通信製品(Wi-Fiルータ) 1 機種を順次発売し、高速・大容量といった5Gの特長を活かし、マルチアングル(多視点)視聴やVRライブを可能にした「新体感ライブCONNECT」をはじめとした7つのサービスを提供しています。本稿では、ドコモの5Gの実現に向けての検討開始からサービス提供までの道のりや開発およびパートナー企業・団体との協創について概説します。

岸山 祥久(きしやま よしひ)/ 須山   聡(すやま さとし)
NTTドコモ

まえがき

NTT ドコモは、LTE サービスが始まった2010年より、10年後の実現をめざして第5 世代移動通信システム(5G)に向けての検討を開始しました。5Gの基本的なコンセプトや無線アクセス技術について検討し、5Gシミュレータの試作、2014年には5Gホワイトペーパーの公開(1)などを行いました。また、 同年より世界主要ベンダとの個別協力による5G伝送実験を開始し、5Gの周波数や無線アクセス技術の評価検証に取り組みました。さらに、5G伝送実験の取組みをさまざまな業界のパートナー企業との連携へと拡大させ、 5Gの特長を活かした多くのユースケースについて共同実験を通じて開拓していきました。2018年2 月にはパートナーとのソリューション協創を促進するため「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」を開始しました。 本稿では、これらのドコモにおける5Gの基本コンセプト提案から実証実験およびソリューション協創に至るまでの取り組みについて振り返ります。

5Gホワイトペーパーの公開まで (2010~2014年)

2010年ごろは、10年後の2020年を見据え、 移動通信のトラフィック量が10年で1000倍程度に激増することを要求条件として想定し、 キューブ型のコンセプト(周波数利用効率* 1 の改善×周波数帯域幅の拡大×ネットワークの高密度化)でそれを実現する技術進化の方向性を提案しました(2)。2011年ごろには、既存の低い周波数帯と5 GHz 以上の高い周波数帯を組み合わせて用いる無線アクセス技術など、キューブ型のコンセプトを実現する具体的な技術候補を提案しました(3)。2012年ごろには、高速・大容量に加え、現在の5Gの特長である低遅延、多数端末接続といった要求条件の明確化、および5G が「LTE の拡張」と「New RAT(Radio Access Technology)* 2 」の組合せであるという「5G の定義」についても提案しました(4)。2013年ごろには、すでに5G時代に実現をめざすサービスやアプリケーションを含め、2014年公開の5Gホワイトペーパーに記載した技術コンセプト部分がほぼ完成しました(5)。このような5Gの基本的なコンセプトや無線アクセス技術については、世界主要会社とのコンセンサスを構築しながら進めており、要求条件や高い周波数帯の開拓など共通のコンセプトを含む内容が他社からも提案されています(6)、 (7)。
「5G」という名称については、当初、ドコモは「Future Radio Access」と対外的には呼んでいましたが、2013年10月のCEATEC で「5G」のネーミングを初めて用いて発表しました。この「5G」の初展示では、5Gの基本的なコンセプトや無線アクセス技術を可視化するシミュレータによるデモを実施し、 「CEATEC AWARD 2013 総務大臣賞」を受賞することができました(8)。5Gシミュレータは、図1 に示すように、その後もスタジアムモデルなどへとアップデートしつつ開発を進めました。「5G」のネーミングを用い始めたころには、5G の無線アクセス技術についても、高周波数帯を有効利用するため、 多数のアンテナ素子をフル活用するMassive MIMO(Multiple Input Multiple Out-put)* 3 が欧州の5G 研究プロジェクトであるMETIS(Mobile and wireless communications Enablers for Twenty-twenty Information Society)* 4 などで着目され、ドコモが主導して提案したファントムセル* 5 (C/U分離)(9)や、非直交アクセス(N O M A : N o n - O r t h o g o n a l M u l t i p l e Access)* 6(10)といった候補が出揃ってきていました。これらの無線技術やシミュレータ試作の取り組みについても、その時点で最新のものを「ドコモ5Gホワイトペーパー」において公開しました(1)。

 

*1 周波数利用効率:単位時間、単位周波数帯域当りに送ることのできる情報ビット数。
*2 New RAT:4G のLTE と後方互換性(Backward compatibility)のない新しい無線インタフェースの規格。5GのNR(New Radio)に相当します。
*3 Massive MIMO:超多素子のアンテナを利用する大規模MIMOのこと。高い周波数帯ではアンテナ素子サイズを小さくすることができるため、同じ面積により多数のアンテナ素子を配置できます。
*4 METIS:5G無線技術に関するEUの研究プロジェクトで、 期間は2012年11月~2015年4月。通信ベンダ、通信事業者、 大学などが参加。なお、継続プロジェクトのMETIS-Ⅱの期間は2015年7月~2017年6月。
*5 ファントムセル:ドコモが提案したC/U分離を基本コンセプトとする高度化スモールセルシステムの名称。5Gの標準化では「Dual Connectivity」に反映されました。
*6 非直交アクセス(NOMA):時間、周波数、符号のリソースを複数のユーザに割り当てる際、ユーザ間でリソースの重複を許すことで効率化を図る多元接続方式。

5G伝送実験およびユースケース開拓(2014年~)

■ドコモとパートナー企業による取り組み

ドコモは、5Gの周波数やキーとなる無線アクセス技術の有効性を実証するため、世界主要ベンダとの個別協力による5G伝送実験を実施しました。2014年5 月に6 社との実験協力を発表し(11)、2015年7 月には13社まで拡大しました(12)。各社との共同実験によって、最大70 GHz帯までのさまざまな周波数帯でMassive MIMO などの5G 無線アクセス技術を検証し、2016年2 月には、屋外環境で合計スループット20 Gbit/s を超える5G マルチユーザ通信実験に世界で初めて成功しました(図2 )。その他の報道発表を実施した主な5G伝送実験の成果を表1 に示します。 これらの5G 伝送実験により、2018年3 月までに170件の学会発表を実施しました(13)。
2016年ごろからは、5Gの特長を活かしたさまざまなユースケースを、さまざまな業界のパートナー企業の協力により開拓していきました(14)。これらを実証する場として東京臨海副都心地区(お台場・青梅地区)と東京スカイツリータウン周辺に5Gの実験環境を構築するなど、「5Gトライアルサイト」として、これまで430件(2020年6 月時点)のサービス実証実験の取り組みを行いました。

■ 総務省5G総合実証試験での取り組み (2017年~)

総務省は、5Gの実現による新たな市場や新しいサービス・アプリケーションの創出を目的に、さまざまな利活用分野の関係者が参画する「5G総合実証試験」を2017年度から3 年間実施しました(15)。ドコモが3 年間に連携パートナーとともに全国で実施した5G 総合実証試験の実施内容を表2 に示します。 試験グループGIでは低速移動環境、GIIでは高速移動環境(時速60 km以上)の試験を行いました。2017年度の5G総合実証試験では、 人口密集地における10 Gbit/sの超高速通信の実証試験(GI)を実施し、エンタテインメント、スマートシティ、医療の3つの応用分野において、4.5 GHz 帯および28 GHz 帯を用いたサービス・アプリケーションの実証試験を行いました(16)。また、ドコモは、NTT コミュニケーションズが実施主体となる高速移動時における2Gbit/s の高速通信の実証試験(GII)にも参画し、エンタテインメント分野において、時速90kmで移動する高速移動体に対して28 GHz帯を用いた実証試験を行いました(16)。
2018年度の5G総合実証試験においては、5Gの最大性能だけではなく、平均的な性能を検証するため、屋外環境における平均4 ~ 8Gbit/s の超高速通信の実証試験(GI)を実施し、2017年度の3つの応用分野に加えて、オフィス・ワークプレイス分野での実証も行いました(17)。また、時速60~120 kmで移動する高速移動体に対して平均1 Gbit/s の高速通信に関する実証試験(GII)を実施し、 エンタテインメント分野に加えて交通分野での実証を行いました(17)。2019年1月には、総務省は地方が抱えるさまざまな課題の解決につながる地方発のユニークなアイデアを発掘することを目的として、「5G利活用アイデアコンテスト」を開催しました(18)。2019年度の5G総合実証試験では、上記のアイデアコンテストの結果とこれまでの技術検証の成果などを踏まえ、5Gによる地域課題の解決や地方創生に資する利活用モデルに力点を置き、新たな連携パートナーと多様な応用分野における実証試験を実施しました(19)。

パートナーとのソリューション協創

幅広いパートナーとともに新たな利用シーン創出に向けた取り組みを拡大するため、ドコモは「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」を2018年2月から開始しました(図3 )。本プログラムは、パートナーとなる企業・団体に対し、5Gの技術や仕様に関する情報の提供や、パートナー間の意見交換を行う5Gパートナーワークショップの場を提供するものです。パートナー数は2020年6月末で3440です。
また、ドコモが常設する5G技術検証環境である「ドコモ5Gオープンラボ」においては、 5Gの実験基地局装置や、実験移動局に接続する映像伝送機器などを、パートナーに対して無償で提供しています。パートナーとなる企業・団体は、本プログラムへの参加を通じ、 商用開始に先立ち一早く5Gを用いたサービス構築や検証が可能となっており、高速・大容量、低遅延、多数端末接続といった5Gの特長を活かして、自社サービスの品質向上や新たなサービスの創出に活用することができます。「ドコモ5Gオープンラボ」は2020年6月末現在、国内外に11カ所展開しています。 また、「ドコモ5Gオープンラボ」にクラウドコンピューティングの設備を直結した「ドコモオープンイノベーションクラウド」のトライアル環境を提供し、技術検証を進めました。
また、ドコモは2019年9月より「5G プレサービス」を開始しました。5G商用サービスと同じネットワーク装置や同じ周波数帯を利用し、ビジネス創出を本格的に開始することに加え、5G商用サービスと同環境の体験など、5G商用サービスにつながる実質的な5Gのスタートとなりました。5Gプレサービスでは、「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」に参加している3000を超えるパートナーに対し、「5Gオープンラボ」の提供に加え、5Gプレサービス対応端末の貸出しにより、5Gを活用した産業創出や社会課題の解決に向けて、全国で200件を超えるフィールド検証を実施しました。その中から5Gのスタートに合わせて、「産業の高度化」「働き方改革」といった社会課題の解決につながる領域を中心に、パートナーの皆様との協創によって生まれた新体感ライブCONNECT をはじめとする7つのサービスと22のソリューションの提供を発表しました。今後も5Gの特長である高速・大容量・低遅延を活かした「遠隔作業支援」や「高精細映像伝送」などを中心に、働き方の新しいスタイルの価値提供をめざします。

あとがき

本稿では、ドコモの5Gサービス開始までの道のりについて解説しました。ドコモは今後も5Gのさらなる進化をめざし、引き続き、 技術の検討および研究開発を進めていきます。

※ 本特集は「NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル」(Vol.28 No. 2、 2020年7月)に掲載された内容を編集したものです

■参考文献
(1) NTTドコモ:“ドコモ5Gホワイトペーパー,” Sep. 2014.
(2) Y. Kishiyama: “LTE enhancements and future radio access,” APCC2010 Seminar on Future Wireless Technologies, Nov. 2010.
(3) Y. Kishiyama: “LTE enhancements and future radio access towards next decade,” 1st NGMN Innovation Day, Stockholm, Sweden, Sep. 2011.
(4) Y. Kishiyama: “Future radio access challenges,” WWRF Wireless World 2020 Workshop, Berlin, Germany, Oct. 2012.
(5) NTT DOCOMO: “Future radio access for 5G,” ARIB 2020 and Beyond Workshop, Tokyo, Japan, Nov. 2013.
(6) Ericsson: “White paper - 5G radio access,” Jun. 2013.
(7) Nokia Solutions and Networks: “White paper - Looking ahead to 5G,” Dec. 2013.
(8) NTT ドコモ報道発表資料:“「CEATEC AWARD 2013」において「次世代移動通信(5G)」が総務大臣賞を受賞,” Oct. 2013.
(9) H. Ishii, Y. Kishiyama, and H. Takahashi: “A novel architecture for LTE-B:C-plane/U-plane split and Phantom cell concept,” IEEE Globecom, Dec. 2012.
(10) Y. Saito, Y. Kishiyama, A. Benjebbour, T. Nakamura, A. Li, and K. Higuchi: “Non-orthogonal multiple ac-cess (NOMA) for cellular future radio access,” IEEE VTC Spring, Jun. 2013.
(11) NTTドコモ報道発表資料:“世界主要ベンダーと5G実験で協力,” May 2014.
(12) NTTドコモ報道発表資料:“世界主要ベンダーとの5G実験を拡大,” Jul. 2015.
(13) https://www.nttdocomo.co.jp/corporate/technology/rd/tech/5g/5g_trial/
(14) 中村:“5Gが切り開く未来の展望 ―パートナーの強みを融合させた世界―,” NTT DOCOMO テクニカル・ジャーナル,25週記念号,Oct. 2018.
(15) https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban14_02000297.html
(16)https://www.nttdocomo.co.jp/binary/pdf/corporate/technology/rd/topics/2017/topics_180326_03.pdf
(17) https://www.nttdocomo.co.jp/binary/pdf/info/news_release/topics_190319_01.pdf
(18) https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban14_02000362.html
(19) https://www.nttdocomo.co.jp/binary/pdf/info/news_release/topics_200316_00.pdf

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