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特集

5G特集──社会課題解決・社会変革実現に向けたドコモの挑戦

5G標準仕様策定における貢献

3GPPにおいて、5G標準仕様の初版が2018年6月に完成しました。 また、O-RAN Allianceにて、5Gのオープンな無線アクセスネットワークを実現する標準仕様が2019年3月に公開されています。NTTドコモは3GPPやO-RANの標準仕様策定に積極的に貢献しており、 2020年3月に商用サービスを開始した5Gも3GPPおよびO-RAN仕様に準拠しています。本稿では、これらの標準仕様策定におけるドコモの貢献を概説します。

永田  聡(ながた さとし)/  巳之口  淳(みのくち あつし)
ウメシュ アニール / 小熊  優太(おぐま ゆうた)/  竹田  真二(たけだ しんじ)
NTTドコモ

まえがき

2018年6月の3GPP TSG(Technical Specification Group) # 84 プレナリ会合* 1 において、3GPP Release 15仕様の凍結が宣言され、5Gの初版仕様が完成しました。5G標準仕様は、NR(New Radio) と呼ばれる新たな無線アクセス仕様と、5GC (5G Core network)と呼ばれる新たなコアネットワーク仕様を中核とし、既存システムであるLTE(Long Term Evolution)/EPC (Evolved Packet Core) との連携機能を含んでいます。
3GPP での5G 標準化は、2015年9 月にI T U - R ( I n t e r n a t i o n a l T e l e communication Union-Radio communication sector) が発行したビジョン勧告ITU-R M。2083に基づき、①モバイルブロードバンドのさらなる高度化(eMBB: enhanced Mobile BroadBand)、 ② 多数同時接続を実現するマシンタイプ通信( m M T C : m a s s i v e M a c h i n e T y p e Communication)、③高信頼・超低遅延通信(U R L L C : U l t r a - R e l i a b l e a n d L o w Latency Communication) の3つの利用シナリオを想定して、2016年3 月からRelease 14での要求条件や要素技術の基礎検討(SI: Study Item)が実施されました。 その後、2017年3月からRelease 15での詳細仕様検討(WI: Work Item)が実施されました。
ドコモは、Release 14開始からRelease 15完了までの2年3カ月にわたる3GPPでの5G仕様策定作業において、技術提案や仕様書の取りまとめ、会合の議長・副議長を務めるなど、積極的な貢献を行っています。この間のドコモからの5G標準仕様への寄書入力件数は約3700件であり、これは、3GPPに参画している全世界の企業の中で9位、通信事業者としては、首位の貢献となっています(1)。 さらに、5G必須特許* 2 候補の出願件数についても、通信事業者で首位と評価されています(2)。
また、3GPP標準化作業と並行する形で、 ドコモは、2018年2月に、AT&T、China Mobile、Deutsche Telecom、Orange との連名で、O-RAN Alliance を設立しました。O-RAN Alliance では、5G をはじめとする次世代の無線アクセスネットワークを、 より拡張性が高く、よりオープンでインテリジェントに構築することを目的に、①相互接続が可能なオープンインタフェースの推進、 ②無線ネットワーク装置の仮想化、ホワイトボックス* 3 化、③AI、ビッグデータの活用、 に取り組んでいます。
これらの取り組みの結果、2018年6月の3GPP Release 15仕様完成、 および2019年3月のO-RANフロントホール* 4 仕様完成に至り、5G商用サービスのための装置開発が可能となりました。
本稿では、5G標準仕様策定における活動内容とドコモの貢献について解説します。

 

*1 プレナリ会合:3GPP TSG会合の最上位会合。TSG配下のWGでの仕様策定に関するスケジュールやWGで策定された仕様の承認が行われます。
*2 必須特許:標準規格に準拠した製品を製造するうえで、ラ イセンスなどを受けなければ特許権の侵害を回避することができない特許。
*3 ホワイトボックス:装置などの内部構成や処理がオープンなこと。ブラックボックスの対語。
*4 フロントホール:基地局の集中制御装置と無線装置間の回線であり、光ファイバなどが用いられます。

3GPPにおける5Gの 早期仕様策定に向けた活動と貢献

3GPPにおける5Gの標準仕様策定にあたっては、新しい無線アクセス方式であるNRにおいて、eMBB やURLLC の一部を実現するユースケースを対象とした仕様をRelease 15で標準化し、URLLCやmMTCを含めた残りの仕様を次の段階であるRelease 16以降で標準化することを目標として検討が進められました。併せて、ノンスタンドアローン運用と呼ばれる4G基地局・コアネットワークと5G基地局の組合せで運用するケースの仕様をはじめに標準化し、 5G基地局・コアネットワークのみで運用可能なスタンドアローン運用を含めた全仕様を次の段階で標準化するなど、多様な要求条件やユースケースが存在する5Gに対し、段階的な標準化を行うことにより、計画的に標準仕様策定を進めることが決められました。
ドコモは、5G標準化全体の推進のみならず、5G標準仕様の早期策定の実現にも大きく寄与しました。具体的には、当初のスケジュールである2018年6月にノンスタンドアローン運用とスタンドアローン運用を同一のリリース(Release 15)で標準仕様化することを担保しつつ、ノンスタンドアローン運用の標準仕様策定を2017年12月までに終わらせることを明記したドキュメントを47社と連名で3GPPに提出し、早期策定に貢献しました。これが、世界的な5G商用導入の加速につながっています

3GPP TSG SA/CTにおける 活動と貢献

3GPPではプロジェクト全体を統括するPCG(Project Coordination Group) のもとに技術検討を行うTSG がおかれています。TSG にはTSG SA(Service and S y s t e m A s p e c t s )、 T S G C T ( C o r e Network and Terminals)、TSG RAN (Radio Access Network) の3つのグループがあります。TSG SA は、ユースケースの検討とシステム要求条件の導出、アーキテクチャの決定と各機能単位への要求条件の導出、機能単位間の情報の流れと各機能単位での動作の決定を行っています。また、各々に関し標準仕様を規定しています。TSG CT は、端末─コアネットワーク間、コアネットワーク内機能単位間のプロトコル、および第3者利用に向けた外部API(Application P r o g r a m m i n g I n t e r f a c e ) やU S I M ( U n i v e r s a l S u b s c r i b e r I d e n t i t y Module)の詳細仕様を規定しています。ドコモは、5G 仕様規定作業の中で、TSG CT 副議長およびSA-WG(SA-Working Group) 3 副議長の要職を務め、仕様規定の全体方針や、スケジュール策定、技術検討の推進などに大きく貢献してきました。
5Gの標準仕様の規定において、TSG SA/ CTは、ノンスタンドアローン方式と呼ばれるNR をEPCに収容するための機能拡充、 および新たなコアネットワーク仕様である5GCを検討しました。
ドコモは、5Gエリア拡充に相応の時間を要すことを考慮し、Release 14でのSI 検討中に、ノンスタンドアローン方式での5Gサービス導入を主張しました。検討当初は、ベンダに加えて通信事業者からも新たなコアネットワークに検討を一本化すべきという意見もあり、賛同を得ることができませんでした。 しかしながら、説明の繰返しとTSG RANでの技術検討の進捗(後述)により徐々に賛同が得られ、後にRAN/SA #72プレナリ会合にて、5Gとしてノンスタンドアローン方式の仕様化を優先して進められることとなりました。このような経緯がありましたが、今ではノンスタンドアローン方式は5G導入初期の主要なネットワーク構成として世界中の多くのオペレータに採用されています。
また、5Gサービス発展期への適用に向けて、新しい概念のコアネットワークが5GCとして仕様化されました。
ドコモは、NR のEPC 収容( ノンスタンドアローン方式)、および5GC双方の仕様化作業の進展に貢献しました。
(1)  SA-WG1
ユースケースの検討とシステム要求条件の導出を行うSA-WG1では、ノンスタンドアローン方式に関しては検討せず、5GC のみが検討されました。ドコモは、お客さまの要望は多様化しロングテール* 5 で分布すると想定し、そのためには画一的なネットワークでなく分割されたネットワーク(i.e.ネットワークスライス* 6 )が必要であると考え、 それを推進しました。加えて、オペレータとして基盤となる課題に取り組み、特に、アクセス規制の仕様化をリードしました。
(2)  SA-WG2
アーキテクチャの決定と各機能単位への要求条件の導出、機能単位間の情報の流れと各機能単位での動作の決定を行うSA-WG2では、ノンスタンドアローン方式、および5GC の両方が検討されました。
欧州通信事業者の一部はノンスタンドアローン方式をLTE の無線速度向上からの一連の流れとしてとらえていました。そこで、 この方式は多くの通信事業者が導入できるようコアネットワークの変更なしでも動作すること、コアネットワークに変更が入ることをいとわない通信事業者には高度な制御を可能にする機能を入れること、の方針を整理しました。個別技術項目に関しても、後述するSA-WG3やCT-WG での暗号化やS-GW 選択の検討の方針を整理しました。
5GC では、複数社がラポータ* 7 に名乗りを上げWID(Work Item Description) 作成が滞ったことから、WGメンバからの依頼を受けてドコモがエディタとしてWIDを完成させました。その後、ネットワークスライス、およびEPC-5GC 相互接続の検討に貢献しました。
(3)  SA-WG3
セキュリティに関しユースケースからプロトコルまで網羅的な検討を行うSA-WG3でも、前述の2つの方式両方が検討されました。ドコモは副議長を務め技術検討を主導しました。ノンスタンドアローン方式では、セカンダリRAT(Secondary Radio Access Technology)無線区間に適用するセキュリティは、MME(Mobility Management Entity)が変更なしでも動作するよう、LTE 用のセキュリティ能力をNR用のセキュリティ能力に読み替えることによっても動作することとし、その仕様化を主導しました。5GC の検討では、ドコモが5GC全体の主要仕様書のラポータとなり無線部分での暗号化強化や認証の改善を主導しました。
(4)  CT-WG1
端末─コアネットワーク間のプロトコルの詳細規定、および一部の基本機能についてはアーキテクチャから検討を行うCT-WG1では、5GC に関し、ETWS(Earthquake and Tsunami Warning System)、SOR (Steering of Roaming)、 アクセス規制の仕様化を推進しました。
(5)  CT-WG4
コアネットワーク内機能単位間のプロトコルの詳細規定を行うCT-WG4では、ノンスタンドアローン方式において、高いトラフィックを収容する場合の適切なS-GW(Serving Gateway)の選択方式の仕様化を推進しました。

 

*5 ロングテール:ここでは、サービスごとにそれを要望するお客さまの数を数の多い順番にグラフ化すると、分布図が、 長いしっぽがあるように見える状態。つまり、多様なサービスそれぞれに少なくない数の要望がある状態。
*6 ネットワークスライス:5G時代の次世代ネットワークの実現形態の1つ。ユースケースやビジネスモデルなどのサービス単位でコアネットワーク分割して最適化するアーキテクチャ。
*7 ラポータ:Work Itemのような検討対象項目に対して、進捗の管理、議論のとりまとめ、議論結果をキャプチャしたテクニカルレポートのエディタなどを務める3GPPの役職。

3GPP TSG RANにおける 活動と貢献

TSG RAN は、 無線アクセスネットワーク全般の仕様策定を行っています。ドコモは、TSG RAN 配下のWG での技術議論をリードするとともに、TSG RAN副議長を務めることで、5G無線アクセスネットワークの標準仕様策定に大きく貢献してきました。
(1)  RAN-WG1
無線インタフェースの物理レイヤ* 8 の検討を行うRAN-WG1では、無線アクセス方式の検討や複数送受信アンテナ技術の検討などが行われています。例えばNRでは多様なユースケースのサポートと、既存セルラで用いられている低周波数帯からミリ波帯を含めた高周波数帯までの広い周波数帯のサポートを目的として、複数のサブキャリア間隔によるO F D M ( O r t h o g o n a l F r e q u e n c y Division Multiplexing)信号が定義されました。ドコモは広帯域化技術やアンテナ技術、初期アクセス技術など多数の技術提案を行うとともに、5Gの標準仕様策定のラポータとして進捗管理や関係者との調整を図り、 さらにRAN-WG1の議長や、各要素技術のリーダー役を務め、標準仕様の完成に大きく貢献しました。
(2)  RAN-WG2
無線インタフェースのアーキテクチャとプロトコルの検討を行うRAN-WG2では、LTE とNR のDual Connectivity * 9 によりNR での通信を既存LTE での通信に上乗せできるようにしました。本仕様は、ドコモがラポータとして推進し、Release 12で標準仕様化したLTE のDual Connectivity 向けの規定がベースとなっており、加えて、ドコモが5G 向けに新たに提案したSN(Secondary Node)に終端されるsplit bearer*10(3)も採用することで、既存のLTE ネットワークを活かしつつNRによる高速化や低遅延化を可能にしました。また、5Gの多様なユースケースや要求条件を実現するため、端末が基地局に報告する対応機能や能力、基地局が端末に設定するパラメータが膨大にありますが、それらを通知するために用いるRRC(Radio Resource Control) メッセージの検討をリードするなど、ドコモは、標準仕様の完成に大きく貢献しました。
(3)  RAN-WG3
無線アクセスネットワークのアーキテクチャとインタフェースの検討を行うRAN-WG3 では、eNB*11間のX2*12インタフェースを拡張し、LTE とNR のDual Connectivity の実現に必要なeNB─gNB間の連携を可能にしました。また、性能向上やコスト効率化に向けて無線アクセスネットワークの展開柔軟性を高めるために、F1インタフェースを規定して基地局をCU〔Central Unit:無線プロトコルのPDCP(Packet Data Convergence Protocol)サブレイヤ以上を終端〕とDU(Distributed Unit:無線プロトコルのRLC サブレイヤ以下を終端)に分離にすること、さらにはE1インタフェースを規定してCU をCU-CP(CU-Control Plane: 制御プレーン*13を終端)とCU-UP(CU-User Data Plane:ユーザプレーン*14を終端)に分離することを可能にしました(3)。ドコモは、 これらのインタフェースのマルチベンダ相互接続性を高めるため、商用LTE 網でのマルチベンダ実現で培った経験を活かし、数多くの技術的な寄書を入力し、議論を推進させるためのモデレータを務めるとともに、標準仕様のエディタとしても貢献してきました。
(4)  RAN-WG4
基地局や端末の無線〔RF(Radio Frequency)〕性能や無線リソース制御*15の仕様策定を担うRAN-WG4では、LTE/LTE-Advanced が利用してきた6 GHz 以下の周波数帯だけでなく、NRで新規導入された準ミリ波/ ミリ波の周波数帯〔Release 15では、FR2(Frequency Range 2 ):24250 〜52600 MHz の周波数帯として定義〕の利用の検討がなされました。ドコモは、2015年より4 年間の任期でRAN-WG4の副議長を務め、日本国内の5G向け周波数割当予定を考慮した周波数バンドの策定および基地局や端末のRF性能仕様の規定に向けた技術提案を活発に行い、議論を牽引してきました。国内の5Gの法制度化は、この策定された規定に従い進められました。
FR2では、広帯域通信が期待できる一方で、 RF構成観点では、高周波数による無線部内部での電力損失や電波伝搬損失の増加と、広帯域化による電力密度低下がもたらすエリアカバレッジの縮小が課題となります。その解決には、カバレッジ確保が必要で、高いアンテナ利得を実現するアンテナのアレイ化が求められますが、狭い面積に無線信号の送受信機とアンテナを高密度に実装することが困難であるため、FR2では従来の測定用コネクタありのRF構成*16を適用できません。このため、FR2のRF 仕様規定ではコネクタなしのRF 構成で試験をするOTA(Over The Air)規定が導入されました。
OTA 規定では図1 に示す、装置から放射される全電力を規定する総合放射電力(TRP: Total Radiated Power) に加えて、 アンテナ特性を含めたビーム方向における等価等方放射電力(EIRP: Equivalent Isotropic Radiated Power) と等価等方感度(EIS: Equivalent Isotropic Sensitivity) が定義されています。
端末では、FR2のEIRP 最大送信電力について、端末を中心とした球面全体にビーム方向を操作した際に得られる各EIRP値の累積分布*17を用いた規定が採用されています(図2 )。本規定導入の目的は、意図した方向(通信を行う基地局方向)および必要な範囲に正しくビームを向けられることを統計的に担保することです。測定したEIRPのうち少なくとも1 つが最低限満たすべき値をMin peak 値、累積分布X%における値、すなわち球面空間上の(100-X)%エリアが担保すべき値をSpherical coverage と定義しました。 ドコモは、オペレータとしてFR2のエリア性能担保のためにはSpherical coverage が要点であると考え、技術的実現性を考慮しつつ、 各種規定の中でSpherical coverage が優先的に高い性能規定となるようオペレータ各社の賛同を集めながら議論を展開しました。

 

*8 物理レイヤ:OSI参照モデルの第一層。例えば、物理レイヤ仕様とは、ビット伝送にかかわる無線インタフェース仕様のことを指します。
*9 Dual Connectivity:マスターとセカンダリの2つの基地局に接続し、それらの基地局でサポートされる複数のコンポーネントキャリアを用いて送受信することで、広帯域化を実現する技術。
*10 split bearer:Dual Connectivityにおいて、MNとSNの両方の基地局を介して送受信されるベアラ。
*11 eNB:LTEの基地局・無線制御装置。
*12 X2:3GPPで定義されたeNB間のリファレンスポイント。
*13 制御プレーン:通信データの転送経路などの制御処理。
*14 ユーザプレーン:通信で送受信される信号のうち、ユーザが送受信するデータの部分
*15 無線リソース制御:有限である無線リソースの適切な管理や、 端末・基地局間のスムーズな接続を実現するために実施する制御の総称。
*16 従来の測定用コネクタありのRF構成:基地局のRF性能仕様の規定については、従来の6 GHz以下の周波数帯においても、一部OTA規定が導入されています。
*17 累積分布:評価する対象が、ある特定の値以下となる確率。

O-RANにおける活動と貢献

ドコモは、5G時代における無線アクセスネットワークをより拡張性高く、オープンでインテリジェントに構築することを目的に、 2018年2月にAT&T、China Mobile、 Deutsche Telekom、Orange とO-RAN Alliance を設立しました。現在では、多くのオペレータとベンダ(2020年6月26日現在、 加入メンバ数200)が加盟し、WG において無線アクセスネットワークにおける相互接続可能なオープンインタフェース、仮想化、 AI・ビッグデータ活用、ホワイトボックスハードウェア、オープンソースソフトウェアに関する検討を進め仕様を多数公開しており、注目を集めるとともに、多くの期待が寄せられています。
中でも、2019年3月に公開されたO-RAN オープンフロントホール仕様は、それまでグローバルにはベンダ独自であった基地局の(集約設置される)デジタル処理部と(張り出して設置される)無線部の間のフロントホールインタフェースについて、マルチベンダ相互接続を可能にし、多くのオペレータやベンダがその採用を表明したことは(4)、業界に大きなインパクトを与え、注目を集めました。
ドコモは独自に、パートナーベンダと協力して、すでにLTE 世代から共通のフロントホールインタフェースを用いたマルチベンダRAN を実現していました。そのノウハウと実績を活かして、2016年3月〜2017年12月にかけて3GPP Release 14/15で行われた基地局機能分離に関するSI のラポータを務めました。さらに、O-RAN Alliance に統合される前のxRAN Forum*18に2018年2月より参画して、賛同するオペレータやベンダと協力してフロントホールの標準仕様策定を推進し、 現在でもO-RAN Alliance でオープンフロントホール仕様の主管であるWG4の共同議長も務めるなど、フロントホールの標準化を牽引してきています。さらに、商用5G ネットワークにおけるO-RANオープンフロントホール仕様を用いたマルチベンダ相互接続も世界で初めて実現しており、今後も5G におけるマルチベンダRANのグローバルなエコシステムの実現を推進していきます。 RAN におけるマルチベンダ相互接続性は、 利用可能な基地局ソリューションのポートフォリオを拡大し、迅速、柔軟、かつコスト効率の高いネットワーク構築を可能にするものであり、多種多様な要件を持つ5Gにおいてこれまで以上に重要となります。
O-RAN Alliance において、ドコモはほかにも、X2やF1などの3GPPインタフェースのオープン化を検討するWG5の共同議長を務め、それらインタフェースのマルチベンダ相互接続性を確保するプロファイル仕様の公開などに貢献しています。さらに、仮想化やAI・ビッグデータ活用など、他のO-RAN Alliance の検討についても今後推進する予定です。

 

*18 xRAN Forum:拡張性の高い無線アクセスネットワークの推進を目的に活動していた業界団体。現在ではO-RAN Allianceに統合されています。

あとがき

本稿では、5Gの標準化に対して、3GPP およびO-RAN Alliance における活動とドコモの貢献について解説しました。
現在、3GPPでは、5Gを高度化したRelease 16の仕様策定が完了し、さらなる利用シーンに対応するため、Release 17の技術検討が進められています。 また、 O-RAN Alliance では、 オープンなインタフェースのさらなる検討に加え、無線ネットワークの仮想化やビッグデータ活用の技術検討が進められています。
ドコモは、5Gを今後20年の無線通信の基盤となる技術と位置付け、その高度化のために、引き続き、3GPPおよびO-RANでの標準化活動に積極的に寄与していく予定です。

※ 本特集は「NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル」(Vol.28 No. 2、 2020年7月)に掲載された内容を編集したものです。

 

■参考文献
(1) サイバー創研:“5G 実現に資するETSI 標準規格必須特許(5G-SEP)候補の出願動向と標準化寄書の提案動向,” 2019.
(2) サイバー創研:“5G 実現に資する5G-SEP 候補と5G-SEP 宣言特許の出願動向,および,標準化寄書の提案動向,” 2020.
(3) 内野・甲斐・戸枝・高橋:“5GにおけるNR上位レイヤ仕様,” NTT DOCOMO テクニカル・ジャーナル,Vol.26, No.3,pp.59-73,Nov. 2018.
(4) https://www.nttdocomo.co.jp/binary/pdf/info/news_release/topics_190222_00.pdf

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