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特集

NTTのグローバルビジネスの取り組み

コンピューティングモデルの世界をナビゲートする

コンピューティングモデルの世界は変化しており、企業はますます自前のコンピュータを保有することを止め、同時にハイパースケール事業者のクラウドが成長しています。企業は、4種類のコンピューティングアーキテクチャと複数のクラウド利用サービスを包含する「ハイブリッドコンピューティング環境」を利用しています。本稿では、コンピューティングモデルの世界の変化と、企業が現在利用している4種類のコンピューティングアーキテクチャについて、NTT Ltd.のGroup CTO Officeが最近行った調査の結果を述べます。さらに、お客さまがさまざまなコンピューティングモデルを利用する際の意思決定を支援するNTT Ltd.の取り組み、およびハイブリッドコンピューティング環境を支援するための高付加価値サービスについて紹介します。

Nadeem Ahmad
NTT Ltd. Group Senior Vice President

変化する市場力学

市場ではICTに関するいくつかの遷移が進んでおり、企業がクラウドコンピューティングモデルを検討し、採用する気運が高まっています。データセンタやトラディショナルなデータセンタインフラストラクチャ(サーバ、ストレージ、データセンタネットワーキング)における新しい潮流は、ハイブリッドコンピューティングモデル、または、古典的なベアメタルのサーバやインフラストラクチャからなる自社コンピューティングリソース、(自社または他社の)プライベートクラウドプラットフォーム、パブリッククラウドプラットフォームを組み合わせて使うか、またはそのすべてを使うことです。中でもハイブリッドコンピューティングモデルが急速に台頭しています。

4種類のコンピューティングモデルが企業のアプリケーション利用の姿を変えている

市場では新しいコンピューティングアーキテクチャが次々と誕生しており、企業はどのモデル、どのアーキテクチャを使うべきか悩まされています。4種類の異なるコンピューティングモデルとして、物理サーバ、仮想サーバ、コンテナ型コンピューティング、およびサーバレスコンピューティングがあり、これらは同時に進化しています。その結果、企業はハイブリッドコンピューティング環境をサポートする必要があり、構成要素が多様なほどオペレーションやサービス継続が複雑になり、費用がかさむという悩みをかかえています(図1)。
世界で仮想化されている物理サーバは2019年には50%以下でしたが、現在は、コンテナ型アーキテクチャやサーバーレスコンピューティングモデルが増加しています。各モデルはそれぞれふさわしい適用分野があるため、企業はこれらすべてのアーキテクチャを検討、計画、投資しなければなりません。どのコンピューティングモデルまたはコンピューティングアーキテクチャを採用すべきかは、個々のアプリケーションに依存します。
アプリケーションの中には仮想マシンアーキテクチャに対応することができないものもあるため、今後もベアメタルの専用インフラストラクチャのままで残るでしょう。なぜなら最新のアーキテクチャへ移行するには企業のコアビジネスアプリケーションを書き換える必要がありますが、多くの場合、そこまで投資しても割に合わないからです。一方で仮想マシンアーキテクチャ上で実行できるようにプラットフォームを変更したアプリケーションも多く、最新のクラウドプラットフォームの多くはこれらのアーキテクチャから生まれており、成長を続けています。次の変革を起こすのはコンテナ型アーキテクチャです。大半のアプリケーションは、コンテナ型アーキテクチャの恩恵を十分に受けるには、書き換えが必要になるでしょう。
同時に、別のコンピューティングアーキテクチャも広がりを見せています。それはサーバレスコンピューティングです。サーバレスコンピューティングでは、値をクラウド上の機能に渡し、その機能が実行し、値を送信元に返します。企業がサーバレスコンピューティングを採用するには、コンピューティングアーキテクチャをさらに調整する必要があります。特に、データプラットフォームとデータアブストラクションの調整が必要であり、従来とは全く異なるアプリケーションアーキテクチャにせざるを得なくなります。すべてのアプリケーションがサーバレスに向いているわけではなく、各アプリケーションにより、最適なコンピューティングモデルやアーキテクチャは異なります。結果的に、企業が技術進歩の恩恵を受けるには、すべてのモデルやアーキテクチャに投資しなければならないケースも出てきます。
本稿では、①物理・専用インフラストラクチャモデルなどのコンピューティングモデル、②IaaS(Infrastructure as a Ser­vice)などのクラウド型モデル、③専用サーバ、仮想マシン(VM)、コンテナ型、サーバレスアーキテクチャなどの各コンピューティングアーキテクチャを区別して紹介します。ハイブリッド化は、コンピューティングモデルでもコンピューティングアーキテクチャでも起こるので、多くの企業にとって複雑なサービス選択に悩む事態となります。この複雑さを回避するため、多くの企業はSaaS(Software as a Service)のアプリケーションを選ぼうとしています。そうすれば、使用されているインフラストラクチャの複雑さに悩むことも、アプリケーションを書き換えることも回避できます。しかし、それがいつも可能であるわけではなく、複雑なハイブリッドが増加しているのが現実です。

ワークロード(とお金)はどこに行くのか

クラウドが担うコンピューティングワークロードは2018年には21%でしたが、2021年末までには44%に増加するとMorgan Stanleyは予測しています(1)。一方、超大規模クラウドサービス事業者の収益が1ドル増加すると、レガシーの非クラウドインフラストラクチャ技術に頼る事業者は約3ドルの収益を失っています。他の業界アナリストのデータおよび市場関係者の見解もこうした傾向を裏付けています。明らかに以下の3つの面で市場変化が起きています。
・IT支出はデジタルトランスフォーメーションに向かっている。
・企業のワークロードがどの環境で処理されているかの割合をみると、非クラウドでのワークロードが減少している。
・ソフトウェアデファインドインフラストラクチャが急速に成長している。
IaaSとPaaS(Platform as a Ser­vice)のハイパースケール市場のリーダはAmazon、Microsoft、Googleの3社です。
① Amazonのサービスのイノベーションと拡大の速度は大きく、その成功要因の一端は、必要ならばカミソリのような薄利で競争してきたことですが、これは市場が成熟し、競争圧力が増すにつれて危険なものになります。
② Microsoftがほぼ全ビジネス分野でこれまで力を入れてきたのはIaaSとPaaSで勝利することと、同社のSaaS、特にOffice 365を活用してAzureの利用と豊富なパートナーエコシステムを育て、それらの採用と利用を広げることでした。注目すべきは、これら3者の中でMicrosoftは、パートナーエコシステムや大量に存在する企業内システムとクラウドを連携させるようなハイブリッドクラウドを拡大する意欲がもっとも高いことです。
③ Googleがこの市場に入ったのは比較的遅く、企業へ大きく投資しており、全世界での容量が大きく、また、成長著しいデータ、AI、機械学習分野で強みがあり、この市場で勝利したいという意欲を持っています。
ハイパースケールクラウド事業者は非常に大きく成長しましたが、さらに、顧客の要求を満たすためにサービスの数、種類、規模を増やし続けています。
例えば、AmazonのクラウドサービスであるAWSのサービス数は2006年には1つでしたが、2018年には140以上に増えています。これは、レガシーアプリケーションについて伝統的なサーバ利用をやめ、新しい戦略に移っていることを示しています。アプリケーションや規模の動向をみると、クラウドへの移行に対するAmazon(および他のハイパースケールクラウド事業者)のサポートは拡大し続けています。より大規模な移行や専用の構成を従来と同等のプログラマビリティを提供しながらサポートしており、その結果、AWSの収益は増加しています。
今日、企業は社内に改善課題を抱える一方、外部との競争にさらされています。さらに、そのビジネスを妨げたり完全に奪ったりしようとする新規参入者もいます。そのため、ビジネス部門や技術部門のリーダにとって最大の関心事はいかにデジタルトランスフォーメーションとイノベーションのスピードを上げるかです。IaaSとPaaSの間の境界はますます不明瞭になり、どちらかを使うことが速くて効率的あるという観点から、ハイパースケールクラウド事業者を利用する動きが増しています。
クラウドアプリケーションはインスタントスケーリング、最新のDevOpsの利用、ツールチェイン、コンテナを活用するように設計されており、企業のデータセンタを全く使用せず、ワークロードをすべてパブリッククラウドで処理するものが多くあります。
企業がこれを利用することは、特定のクラウド事業者に過度に依存してしまう危険もありますが、ソリューションのスピードと豊富さは非常に魅力的です。多くのPaaS部品は、個々のクラウド事業者独自のものであり、その事業者のエコシステムやパートナーの部品とはスムーズに動くように設計されているので、ハイパースケールクラウド事業者1社に縛り付けられてしまう危険は高くなります。

企業価値を維持するための苦闘:プログラマビリティの登場

コンピューティングモデル、コンピューティングアーキテクチャ、それに、コネクティビティ、最新のオフィス環境、多様なビジネスモデル等の周辺インフラストラクチャの複雑さが増し、規模が拡大していることを考えると、これらの複雑な環境を運用・維持し、かつ特に技術が急速に変化する中、業界内での企業の存在価値を保ち続けることは大きな挑戦であることはいうまでもありません。
この業界は、これらの環境を維持する運用サービスを実施できる熟練した人材を十分に輩出していません。この問題には2つの側面があります。1つは熟練人材の不足、もう1つは、人の手ではもはや複雑で動的になった環境を効果的、効率的に運用することができなくなったことです。現在、すべての運用モデルは大幅な自動化で支えられています。そのためには、これらのインフラストラクチャやアーキテクチャプラットフォームが完全にプログラマブルでなければなりません。
多くのインフラストラクチャベンダは自社の製品をプログラマブルにするよう再開発中です。その際には、既存製品のライフサイクル、既存の複数プラットフォームやオペレーティングシステムや製品ファミリー等の扱い、最新ソフトウェアアーキテクチャの欠如を考慮しなければなりません。すべてのベンダ製品を「API(Application Programming Interface)ファースト」にする要求が高まっています。すなわち、製品は何よりもプログラマブルでなければならず、コンソールやコマンドラインによる設定は、もし要求されたとしても、二次的なものです。
真の「APIファースト」モデルを持つ会社は、大抵、同じAPIを介してコンソールアクセスも提供するでしょう。一方、「コンソールやコマンドラインファースト」から「APIファースト」に切り替えなければならない会社は、複雑な段階を踏まなければなりません。よくあるのは、必ずしもすべての設定項目をAPI経由では行えない、複雑なハイブリッドモデルです。これは、古いスキルと新しいスキルの両方を必要とし、運用モデルが必要とする自動化をサポートできず、結果として費用がかかり変化へ対応しにくくなります。
現在の市場と主要技術ベンダを考えると、APIファーストと真のプログラマブルモデルに移行する者が繁栄し、市場で好まれ、成長を加速するであろうことはいうまでもありません。一方、迅速に移行しない者はマーケットシェアを失い、市場で苦しむことになります。
ICT事業者が顧客に対して技術・サービスのリーディングカンパニーとなるためには、完全にプログラマブルなAPIファースト技術を提供するベンダを選ぶ必要があります。同時に、ICT事業者やその顧客にとって非プログラマブルなインフラストラクチャに適したビジネスモデルはもはや存在しないので、ICT事業者は先を見越して、自社製品のうち非プログラマブルな製品を取り除く必要があります。

SaaSの成熟と拡大は続く

広範なアプリケーション分野で企業SaaSが生まれ、大量に採用され続けています。従来、アプリケーションは、企業内にサーバと記憶装置を必要としていましたが、今はサービスとして使用されています。主要分野でのSaaSは以下のとおりです。
①生産性:Office 365、Google G Suite、Atlassian Confluence、JIRA
②ファイルストア:OneDrive for Business、Dropbox、Box、Google Drive
③コラボレーション:WebEx、Zoom、High Five、Slack、MS Teams、Yammer
④ERP:SAP Hana & cloud variants、Oracle、Dynamics 365、Intacct、Intuit、NetSuite
⑤人材、給与支払い:Workday、ADP
⑥サービス・販売・CRM:Ser­viceNow、Salesforce.com、Siebel
Platform as a Service (PaaS)とサーバレスは、企業顧客がサーバ、記憶装置、ネットワークインフラストラクチャを購入する必要性を減らすので、普及していくでしょう。もちろん、それらの設計、構築、運用のためのコンサルティングや専門技術サービスも拡大します。

現場のハイブリッドコンピューティング環境

4種類のコンピューティングアーキテクチャの概念は単なる理論とか学術的演習ではありません。NTT Ltd.には各種アーキテクチャのハイブリッドを実装した実践的なユースケースがあります。ただし、顧客のための意思決定に際して必ずしも技術的に優れているかどうかのみを優先しているわけではありません。多くの場合、アーキテクチャの組合せを選択する際に考慮すべき要因は、運用上の問題、財務規律、リスク許容度です。顧客の要求条件を満たすために私たちが採用したマルチアーキテクチャを実践例の1つとして以下に紹介します。

ツール・ド・フランスでの4種類のコンピューティングアーキテクチャの実装

NTT Ltd.のAdvanced Technology Groupが着目したのはスポーツをNTT内の技術インキュベータとして活用することです。これは、NTTが顧客と実施している戦略的イノベーションプロジェクトです。Amaury Sports Organization(A.S.O.)とツール・ド・フランスのプロジェクトについて聞いたことがある人は多いと思います。
ツール・ド・フランスは21日以上の期間、フランスを自転車で回るレースで、競技者は毎日200 kmほどを走破します。区間はだんだん長くなり、このレースのサポートチームは、大量の荷物を積んだサポート用車両とインフラストラクチャ車両を使うため、「トラベリングサーカス」と呼ばれています。
NTT Ltd.がツール・ド・フランスの運営組織であるA.S.O.と最初に手を組んだときには、多くの遠隔地のコースに十分なコネクティビティと電力等の供給があるかが大きな懸念でした。
その対策として最初に試みたのは「トラベリングデータセンター」となる巨大トラックでした。トラックは日夜を問わず毎日数100 kmも移動します。トラックはレースのサポート用に設計されており、自身のデータ、自転車からのデータ、競技者からのデータを集め、さまざまに分析し、分析結果とその要約を放送局に提供しました。NTT Ltd.のトラックは放送局のトラックに文字どおり横付けし、トラック間をケーブルで接続しました。トラックには物理インフラストラクチャと物理サーバが設置されていました。これらは結果的に正常に機能しましたが、すべてが問題なく機能するように技術スタッフ全員がレースについていく必要があり、苦労が伴うプロジェクトでした。
2016年のレースにはMont Ventouxという山にあるステージが含まれていました。この山は大きな嵐があることで知られており、実際にステージの最中に1日嵐に遭遇しました。風が余りにも強かったので、山頂のスキーリゾートに当初予定していたゴールを、山の中腹に変更しなければなりませんでした。
この変更は運用上特に問題がないと思えるかもしれませんが、実際には、山頂のスキーリゾートにある大駐車場に駐車するはずだったトラックを、山麓の村に散らばる学校、畑、スーパーマーケットの駐車場に分散駐車する必要がありました。そのため私たちのトラックを放送局のトラックに横付けすることができず、互いに2.5 kmも離れたところに駐車することとなりました。そのため、私たちは午前2時ごろに、物理サーバ上で動いてるものをすべてNTTクラウド上のVMに移行することにしました。お陰で、翌日には無事、必要機能を提供することができました。レースの残りのステージでもこのVMを利用したモデルを使うことに成功しました。その結果、お客さまをはじめ誰もが仮想環境を利用して機能を実現できることに確信を持つようになり、その後、2018年までずっと仮想環境を使用してきました。
過去8カ月ほど、私たちはまさに基本的なアーキテクチャ変更を行ってきました。それは、これまで述べてきた方向に沿うもので、4種類のコンピューティングモデルを使用しています。
図2にこのソリューションの核となるデータ構造を示します。おおまかにいうと、左側の多様なソースからデータを受け取り、中央部分でデータ処理と分析を行い、右側の各種消費者にデータを公開します。実時間データ分析プラットフォームは4つのエリアにグループ分けされます。それは、これらが本質的に異なるプラットフォームとして構築されており、各エリアには異なるドライバーがあるからです。
例えば、堅固に管理されたAPIが必要です。しかし、私たちが以前構築したAPIを詳しく調べてみると、誰もが自分でAPIをつくりたいと考えるものですが、自分でつくってみても、他者がつくったAPIとなんら変わらないものになることに気付きました。自分でつくっても特段の恩恵も生まれないばかりか、コストが増え、複雑性が増し、プラットフォームとソリューションの管理が必要になるだけです。
そこで、結局PaaSサービスを利用することにしました。サードパーティのAPIを使用することの利点は、基本的に、実現したい機能のインフラストラクチャやAPIの機能構成を意識する必要がなくなり、機能・必要な変更、処理したい構造化データをプラグインするだけで、良いのです。
その結果、この作業に払う注意、作業負荷が大幅に減少しました。さらに、サポートの必要性も大きく減り、サーバその他を意識する必要もなくなりました。以前は、100万ユーザまでサポートすることができるAPIを使っていたため、インフラストラクチャの規模はかなり大きくなり、その維持作業も膨大でした。サードパーティのAPIを使用することにより、これらを回避することができました。このAPIを使用した前回のレースでは、すべてが順調に動いたので、保守要員は何もすることがありませんでした。結局のところ、これが顧客側、事業者側双方のIT運用サポート要員すべてが望む結果なのです。
ここでのポイントは、自分たちが使いたいハイパースケールクラウド事業者の特定のソリューションの特徴をしっかりと理解したことです。その詳細をみてみると、最良の方法は概念実証(Proof of Concept)を実施し、技術を徹底的に検証することです。なぜなら、技術面だけでなく、コストモデルについても意思決定をする必要があるからです。
以前の私たちの進め方は、適切と思われる技術をまず見つけ、次いで概念実証を行うものでした。これだと、望む機能をサポートしている技術を選ぶことはできましたが、大量データを扱うことを考慮した価格モデルを使用していなかったので、結局、大きな経費がかかることになりました。今はハイパースケールクラウド事業者が多くの分野で複数の互いに重複するオプションを提供していることが多いので、それらを利用している場合には、機能的には今までと同様に効果的で、価格面でずっと好ましい別のオプションに切り替えることができます。ハイパースケールクラウド事業者の特に最高級なソリューションの採用を検討している場合には、この点を十分考慮すべきです。
これまでは、物理アーキテクチャから仮想アーキテクチャに移行する目的は運用上の課題を解決することでした。その後、財務面の考慮から、ハイパースケールクラウド事業者が提供するサーバレスや「as a Service」が必要となりました。お客さまの環境にふさわしいコンピューティングモデルを決める際に決め手となるのは、必ずしも技術ではなくなりました。
主にSQLサーバであるデータストアがあります(図2)。これは大量のデータを記憶するもので、VMベースのソリューションを使うことにしました。その理由は、他の選択肢がなかったからでも、それが最良のソリューションであったからでもありません。その理由は、2020年のレースで他の部分のソリューションを変更しているので、データストアのアーキテクチャまでも変更したくはなかったからです。このような点も、組織が注意を払うべきことです。それは、どこまでリスクを取るかです。私たちの場合、他の個所でリスクのある技術を採用したので、現実に正常に動いているVMによるデータストアは敢えて変更しないことにしました。PaaSソリューションにはいくつか利点があるので、来年はVMからPaaSに変更するかもしれませんが、今年は特に変更の必要はないと思っています。現在、APIにはサーバレス機能を、データストアにはVMと2種類のコンピューティングモデルを使っています。
図2で残された個所は実時間分析プラットフォームです。ここがNTT Ltd.がもっともそのノウハウをA.S.O.と放送局に提供した個所です。このプラットフォームでは、自転車からセンサデータを集め、自転車の速度、場所情報を補強し、機械学習を適用して少ないデータポイントから50以上のデータポイントをつくり出し、さまざまな利用シーンをサポートします。このように、前述したサードパーティAPIを使用する代わりに、自前のデータ分析プラットフォームをつくることに合理性がありました。
しかし、自前で実時間分析プラットフォームをつくるのは複雑です。それに、私たちは今後もソリューションを変更し、迅速に進化させられるようにしたいと思っていました。そのため、コンテナ化を採用しました。このソリューションはさまざまなDockerコンテナを使って構築します。その利点は導入・展開が容易なことです。それは、VM、OS、その他を導入する必要がないためです。コンテナを導入するだけなので、設置面積もリソースも少なくて済みます。要件はコードで記述します。例えば、コンテナの大きさ、形、内容などを簡単にコードで記述できます。すなわちコードを記述するだけでコンテナを展開できるのです。
インフラストラクチャのためのコードは、アプリケーションのコードと同じように管理でき、アプリケーションと同じように実行できます。実際、コンテナとその他をまとめて1つのパッケージにすることができ、1日に何回でも導入できます。それは、迅速に変更をテストすることができ、導入・展開時に望まれる迅速性を確保できることを意味します。
上記から実装した3つのコンピューティングモデルについて、導入経緯と得失を理解することができたと思います。私たちは完全に物理的なインフラストラクチャからVM、サーバレスコンピューティング、コンテナ型アプリケーションへと移行してきました。
3種類のアーキテクチャを使うことによる複雑化について一言触れます。図2の一番下に「可観測性(Observability)」というボックスがあります。このようなハイブリッドアーキテクチャソリューションを使用すると、多くの複雑性の問題が生じます。問題は、パズルの中の1ピースを変更すると、別の個所のピースがおかしくなり、誤動作が起こることです。全体が複雑になりすぎて、システムがどのように故障するか全貌を理解することはできなくなります。対策として適宜アラートを配置する案が考えられますが、故障個所が丁度アラートを配置した個所であることは滅多にありません。そのため、私たちが採用した解決案はソリューション全体に対する可観測性プラットフォームを設けることでした。このプラットフォームは全レイヤの出力を監視し、各レイヤの全機能を可視化します。これにより、出力を監視し、可視化情報を見てどの機能が正常に動作しているか、していないかを把握することができます。私たちのソリューションでの重要な問題は複雑性でしたので、それを解決するのが可観測性プラットフォームです。
ここまでの記述で明らかなように、私たちが提供したツール・ド・フランスのプラットフォームは、今後各種コンピューティングアーキテクチャを組み合わせたハイブリッドコンピューティングを実装する際に参考にできる好例であり、さまざまな考慮点を示唆してくれています。まず伝統的な物理インフラストラクチャから始めました。次に、運用上の問題を解決するためにVMへ移行しました。次に、財務面の利点を考慮し、サーバレスコンピューティングを採用し、さらに、運用性、移植性、効率を考慮してコンテナ型アーキテクチャへと移行しました。
ここで学べることは、必ずしも最良の技術が良いわけではなく、技術そのものだけでなく、ビジネス面を考慮してもっともふさわしい技術を選ぶべきであるということです。上記の例では、運用性、財務、セキュリティ、リスク許容性を考慮しました。

まとめと今後に向けて(高付加価値サービスの必要性)

物理コンピューティングと異なり、仮想およびコンテナ型コンピューティングでは、アプリケーションがコンピューティングインフラストラクチャと切り離されているので、アプリケーションの移行が容易です。これらのモデルが有利なユースケースは明らかになってきており、その採用は増加しています。現在では、アプリケーション移行の自由度が増し、費用削減が計れるサーバレスコンピューティングが有望です。それはアプリケーションをサーバで実行する必要がなく、代わりに、クラウド事業者のプラットフォームがその機能を実行し、出力を返し、その後すぐに関連するリソースを解放するからです。
物理サーバ、仮想サーバ、コンテナ型、およびサーバレスコンピューティングという4種類のコンピューティングモデルが同時に進化しています。そのため、組織は以下のような大きな疑問に直面しています。
・アプリケーションにはどのモデルを使うべきか。
・どの作業をクラウドへ移すべきか。
・社内には何を残すべきか。
・アプリケーションをVMで実行できるようにプラットフォームを変更することができるか。
・他のアプリケーションをコンテナまたはサーバレス用に書き換えることができるか。
・もっとも重要なことは、これらの変更を完了し、新モデルの恩恵を受けられるようになるまでにどのくらいの期間がかかるのか。
どのコンピューティングアーキテクチャを採用するかは、各アプリケーションの将来に直接影響します。実際、各アプリケーションの将来を決定付けることもあり得ます。
本稿では、4種類のコンピューティングアーキテクチャを選択するにあたっての意思決定要因、考慮点について考察しました。考慮した要因は、運用性、財務面、移植性、効率、リスク許容度があります。ハイブリッドおよびハイパースケールクラウド事業者の利用が急速に増加している中で、NTT Ltd.を含めICTサービス事業者は、その市場開拓およびパートナー戦略を新しいモデルに適合させようとしています。ハイパースケールクラウド事業者が提供するサービスは非常に多岐にわたるため、複数クラウドの利用状態を最新に保つことは複雑であり、企業顧客は大きな投資をする必要があります。この点に関して、ICTサービス事業者は、お客さまに対し真の価値と指針を提供することができます。
もう1つ明らかなことは、ICT事業者は、企業顧客の将来戦略に指針を与え、支援するために、高付加価値サービスの提供を強化する必要があることです。現在NTT Ltd.が40以上の高付加価値サービスの構築、販売に力を入れているのはそのためです。この分野に関連するNTT Ltd.のサービスは以下のとおりです。
①インフラストラクチャコンサルティングサービス:このサービスは顧客がトランスフォーメーションのどの段階にいる場合でも、それを最適化し、トランスフォーメーションを支援するための複数のサービスを包含しています。お客さまが望んでいることが、老朽化したインフラストラクチャの解消、複雑性の管理、インフラストラクチャのセキュリティの向上、マルチクラウド環境への移行、ユーザ・エクスペリエンスの改善のいずれにしろ、お客さまのコストを最適化しつつ、現在の運用状態の評価、インフラストラクチャの変更または性能の向上を支援します。
②クラウドコンサルティングサービス:このサービスでは、顧客のインフラストラクチャとアプリケーションの現状を解析してハイブリッドへの移行を評価し、ハイブリッドクラウド上のマネージドサービスへのロードマップを作成します。もう1つ含まれているサービスはクラウド移行サービスです。これはクラウド移行に適しているか見極めるためのワークロードの監査から始まり、最適な場所への移行の計画、次いで、日々の運用やビジネスを中断させることなく所要の作業負荷をクラウドに移行するまでをカバーするエンド・ツー・エンドのサービスです。
③マネージド・ハイブリッド・インフラストラクチャー・サービス:このサービスは、運用の迅速性を改善し、リスクを低減し、クラウドおよび技術インフラストラクチャへの投資を最適化するために、社内、クラウド、ハイブリッドITインフラストラクチャを総合的に管理、監視します。NTT Ltd.は顧客のマルチプラットフォームや複数個所に点在するITインフラストラクチャの日々の運用を管理するために必要な、高度に訓練され、ベンダにより認定されたスタッフ、プロセス、ツールを有しています。これらの資源を用いて、お客さまのITインフラストラクチャの復元力と性能を確保します。その結果、ビジネス目標達成に専念することができます。
④マネージド・アプリケーション・サービス:このサービスは、顧客の社内、クラウド、ハイブリッドIT運用環境にあるERPおよびCRMアプリケーションの実装と管理を支援するものであり、一貫性のあるガバナンス、セキュリティ、管理プラクティスが得られるように支援します。
⑤ハイブリッドおよびマルチクラウド・サービス:このサービスは、各ワークロードに対して最良のプラットフォームを使用することを可能にし、またハイブリッドIT環境の管理の難しさを軽減します。お客さまのシステムが複数の環境に散らばっている場合、1つのインタフェースからすべてを管理する手段を必要とします。弊社の「Solution Insight」クラウド管理プラットフォームの可視化機能により、顧客システムのすべてがどのように相互動作しているかを把握できます。これにより、どのアプリケーションをクラウドに移すべきか、どのアプリケーションを既存環境にとどめるべきかを判断することができます。
上記はNTT Ltd.が提供するサービスのすべてではなく、他にも、顧客のデジタルトランスフォーメーション、仕事場、データセンタ、ネットワーキング、セキュリティに関してお客さまを支援するいくつかの高付加価値サービスを提供しています。
企業顧客は4種類のアーキテクチャモデルを維持する必要があり、同時にパブリッククラウドとプライベートクラウドを組み合わせて使用するので、コンピューティング世界の変革はまさに迫っています。これらの組合せが多様になればなるほど、その運用とサービス継続は複雑で費用がかかるものになります。NTT Ltd.は、これらの高付加価値サービスを通して、企業顧客がハイブリッド環境の利用に乗り出そうとするときに、その意思決定と検討項目の考察を支援することができます。

■参考文献
(1)https://www.morganstanley.com/ideas/it-hardware-2018

Nadeem Ahmad

問い合わせ先

NTT Ltd.
E-mail nadeem.ahmad@global.ntt