テクニカルソリューション
マルチモード光ファイバの心線対照方法の検討
通信設備ビル内では、装置間を光信号で接続するために、シングルモード光ファイバとともに、マルチモード光ファイバが張り巡らされています。これら光ファイバの保守運用において、漏洩光による心線対照を行い、対象を特定することはサービス品質の維持向上の観点で非常に重要ですが、GI型マルチモード光ファイバは光が漏洩しづらく、その心線対照方法は確立されていません。今回、NTT東日本技術協力センタでは、接続替えや撤去の際に確実に作業対象のマルチモード光ファイバ心線を特定するための心線対照方法を開発しましたので紹介します。
これまでの心線対照方法
広くお客さまにご利用いただいているFTTH(Fiber To The Home)サービスでは、光ファイバの保守運用等を行うことによって、その通信品質の維持・向上を図っています。光ファイバを利用するサービスの開通時や保守運用時には、作業を行う光ファイバ心線の特定を行うことで、作業誤りが発生することを防止しています。その模式図を図1に示します。図に示すように、まず心線が特定されているコネクタを対照光源に接続し、変調光を入射します(一般的に、270 Hzの強度変調光)。次に、実際に作業を行う場所で、心線対照器により確認したい光ファイバ心線を把持することで、そこに曲げが加わります。曲げにより光ファイバ心線から外に漏れ出してくる変調光(漏洩光)の有無を確認することで、対象の光ファイバ心線であることを確認します。
これまで、屋外の光ファイバ等では、シングルモード光ファイバ(SMF: Single Mode Fiber)が使われており、曲げを加えることによって漏洩光を得ることができます。しかし、通信設備ビル内の装置間の一部やデータセンタ等で使用されているGI型マルチモード光ファイバ(GI-MMF: Graded Index Multi-Mode Fiber)では、SMFと同じように曲げを加えても漏洩光強度が小さいため、心線対照器で漏洩光を検知することが困難でした。そこで、GI-MMFの心線対照方法について検討を行いました。
マルチモード光ファイバの心線対照方法
GI-MMFの心線対照を可能にするためには、伝搬する対照光の漏洩光強度を増大させる必要があります。また、通信設備ビル内での心線対照では、GI-MMFだけでなく、SMFの心線対照を実施する必要もあります。そのため、GI-MMF用の対照光源や心線対照器を新たに開発するのではなく、SMFの対照で使用している機器をそのまま利用できるよう、最小限の物品の追加で実施できる方法を検討しました。
図2の白丸に示すように、GI-MMFの漏洩光強度が小さい理由は、対照光源から出射される中心に集中した光(基底モード光)に対しての曲げ損失が小さいことに起因しています。一方で、光ファイバコア内の光の広がり(モードフィールド径)が大きくなると、曲げたときにコアの外側に存在する光が漏れやすくなるため曲げ損失が大きくなります。これは、コア内に高次モードの光を発生させることで実現可能です。図2の赤丸のように、コア内に高次モードを存在させることにより、漏洩光強度が大きくなっていることが分かります。
一般に、光ファイバ内で高次モードを発生させる方法には、デバイスを挿入する方法と外部から曲げを付与する方法があります。しかし、高次モードを発生させるデバイスを挿入することは難しいため、今回は、外部から曲げを付与して高次モードを発生する心線把持具(高次モード発生用把持具)について検討を行いました(図3)。
高次モード発生用把持具の検討
高次モード発生用把持具として複数の凹凸による曲げによって高次モードを発生させるものを検討しました。この把持具に求められる要件として、
① 対照光源(1550nm)の漏洩光強度を心線対照機で検知可能な値まで増加させること。
② 誤って現用心線を把持した場合、通信に影響を及ぼさないこと。
③ 狭いスペースでも、作業性が損なわれずにGI-MMFを把持可能なこと。
具体的には、①漏洩光強度の改善値(15dB以上)、かつ②通信光の損失が小さくなる(1dB以下)適切な曲率半径、③狭い作業スペース(把持範囲が100mm未満)に収まる凹凸数となります。これを満たす高次モード発生用把持具を3Dプリンタで設計、試作し検証しました(図4)。
試作した高次モード発生用把持具の特性を表に示します。図5(左)のように、高次モード発生用把持具を使用しない場合、心線対照器で漏洩光を検知できませんが、高次モード発生用把持具を使用することで、対照光を検知可能なことが分かります。また、表に示すように曲率半径が小さい(5 mm)場合、対照光(1550 nm)の漏洩光強度は15 dB以上に大きくなるのに対し、通信光(850 nm)の損失1 dB以上と大きくなります。一方、曲率半径が大きい(20 mm)場合、対照光に対する十分な漏洩光強度を得られないことが分かります。
検証の結果、曲率半径10 mm、凹凸数4~8個の高次モード発生用把持具を用いることで、通信光の損失を1dB以下に抑えつつ、漏洩光強度を15~20dB増大させることが可能ということが分かりました。
表
まとめと今後の展望
従来の心線対照器を用いたGI-MMFの心線対照方法として、心線に複数の曲げを加える高次モード発生用把持具を用いて行った検証について紹介しました。その結果、最適な凹凸数と曲率半径を持つ高次モード発生用把持具を使用することにより、GI型マルチモード光ファイバでも心線対照が可能であることが分かりました。作製した高次モード発生用把持具は、3Dプリンタで容易に複製や改良ができることから、今後、現場保守作業者の意見を取り入れつつ、さらに使いやすいものに改良したいと考えています。
技術協力センタでは、蓄積された知識と経験、新たな技術を基に、引き続き通信設備の信頼性向上、故障低減に向けた取り組みを進めていきます。
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