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Focus on the News

精華町とのAI対話システムにおける共同実験の開始について

NTTは、精華町役場と共同実験を開始し、精華町の広報キャラクターである「京町セイカ」を、なりきりAI京町セイカとしてAI化する取り組みを行います。
NTTがこれまで培ってきた「なりきりAI」技術を応用し、個性的なキャラクターを持つ京町セイカが雑談のみならず、情報提供や観光案内、窓口受付といった役場業務も行う対話システムを構築します。
また、なりきりAI京町セイカを構築するにあたり、AIの学習に必要なデータ収集および実証実験を精華町、精華町民の皆様のご協力のもと実施し、企業・行政・住民の三者の協力による地域連携の取り組みとして本プロジェクトを進めていきます。

■研究の背景

NTTでは現在、人間をより深く理解し、人間と共生できるような対話システム技術の研究と開発を行っています。この対話システムの実現には、人間の持つ行動傾向や性格、価値観、知識、言語能力などをモデル化し、人間の振る舞いを理解し、自分自身も人間のように振る舞う技術が必要となります。
この技術の1つの方向性として、対話システムに有名な仮想キャラクターという個性を持たせることで、そのキャラクターをよく知るユーザであれば満足度の高い対話を行うことができる「なりきりAI」という技術がNTTメディアインテリジェンス研究所で開発されています。なりきりAIは、あるキャラクター(有名人や小説、ゲームのキャラクターなど)になりきった対話データをさまざまなユーザから収集することで、そのキャラクターの振る舞いを再現した対話を実現します。NTTでは、NTTドコモ、ドワンゴとの連携により、これまで複数のキャラクターを対象としてなりきりAIを構築し、NTT R&Dフォーラムやニコニコ超会議等で出展してきました。しかし、現状のなりきりAIはエンタテインメント目的で雑談対話を行う技術であるため、受付や案内などを行うタスク対話はできず、「その人の持つ知識や経験の活用」や、それを活かした高度なインタラクションは実現できていませんでした。
NTT コミュニケーション科学基礎研究所では、かねてより質問応答や案内といったタスク対話と雑談対話を自由に行き来し、対話の話題を自然に制御する技術の基礎研究を行ってきました。この技術では2体のロボットが連携して話を進めるなど、さまざまな対話のテクニックを活用することでタスク対話と雑談対話の間で話題や知識を一致させ、対話が自然に続かないという問題を解消しています。一方で、この技術は限られた話題に対してのみ利用可能であり、応用範囲が狭いという問題がありました。

■研究の内容

今回の研究では、これまで限られた話題でのみ行われていたタスク対話と非タスク対話の両立を、対話データの収集方法および、対話制御モデルに工夫を加えることで、幅広い話題や知識に対応できるよう改善しました。またこの技術をなりきりAIに適用することで、キャラクターの特徴を活かして、タスク対話と非タスク対話を両立する技術の提案に至りました。
本研究では、これらの技術をさらに発展させ、従来どおりの対話システム側からの一方的な質問によるタスク対話ではなく、タスク対話の合間でもユーザからの雑談や質問に答えたり、適切に情報提供や相談を行うなど、ユーザの気持ちや要望に寄り添いながらタスク対話を進行する「人の心に寄り添うタスク対話」の実現をめざします。
(1) 地域連携による高度な知識・経験を持つ対話データの収集
NTTと精華町は連携して精華町に関する高度な知識や経験を含んだ対話データを収集しました。データ収集では、精華町の広報キャラクターである京町セイカになりきった対話データをさまざまなユーザから収集しました。これにより、非常に多様な知識を内包する対話データを1つのキャラクターの知識として集約することができます。さらに、今後は精華町の皆様のご協力のもと、精華町に関するより多数の知識、経験を含む対話データを収集し、なりきりAI京町セイカの学習データとして活用していきます。
(2) 高度なインタラクションが可能ななりきりAI対話制御モデルを作成
NTTのこれまでの対話研究によって培われた技術を活かし、従来のなりきりAIでは困難であった情報提供や観光案内、窓口受付といった役場業務に関する対話も可能な対話制御モデルを作成します。情報提供や観光案内、窓口受付といった役場業務では、これまでに行われてきたバス運行案内などのタスク対話と異なり、町に関する非常に広範な情報の提供や案内が求められます。また、受付などでは、単に情報を提供するのみでなく、相手との対話を通してより詳細な要件を伺うことや、別の窓口への引継ぎなど深く情報をやり取りする対話も行う必要があります。本システムでは、なりきりAIの対話データ収集方法を改善し、非常に広範かつ高度な知識を持つ対話データを集めることで、これまで難しかった役場業務に関する対話を実現できる対話制御モデルを学習します(図)。
また学習したなりきりAI京町セイカを用いて、窓口業務の一部を補助できるかどうかを、精華町役場における受付業務の場を活用して、実証実験で性能を確認していきます。

■今後の展開

精華町の皆様のご協力および、精華町役場での実証実験を通じた成果について、今後のイベントなどで発表するとともに、ここで得られたデータを基に、人の心に寄り添ったタスク対話の高度な実現をめざした研究開発をさらに進めていきます。

問い合わせ先

NTT先端技術総合研究所
広報担当
TEL 046-240-5157
E-mail science_coretech-pr-ml@hco.ntt.co.jp
URL https://www.ntt.co.jp/news2020/2007/200703a.html

担当者紹介

京町セイカを社会の未来を拓く一助にしたい

西川 和裕
精華町役場 財政課 課長

関西文化学術研究都市(けいはんな学研都市)の中心に位置する精華町の公式広報キャラクター「京町セイカ」は、全国でゆるキャラブームが全盛の頃、逆転の発想から学研都市をイメージした「『過去・現在・未来』を行き来する未来からの使者」をコンセプトとした「萌えキャラ」として、2013年7月に誕生しました。
京町セイカは、市販のマンガ作成支援ソフトの素材や3Dモデルデータを、基本的に個人が自由に使えるよう公開しています。また、音声合成の「声」による読み上げソフトも販売されており、ファンによる動画やイラストがネット上で拡散されることで町のシティプロモーションにつなげています。
また、こうした素材を研究機関や大学等に提供することも、京町セイカのコンテンツの重要な目的の1つと考え、さまざまな実証実験や研究との連携を行ってきました。
今回のNTTコミュニケーション科学基礎研究所様の「なりきりAI」とのコラボレーションでは、3Dモデルや音声合成をフルに活用いただいていますが、この実験は京町セイカにコミュニケーション能力を与えることを通して、いわば「心」を造ることともいえます。京町セイカが地域住民と対話しニーズにこたえる能力を得ることは、まさに国の進めるSociety5。0がめざす社会変革(イノベーション)、けいはんな学研都市の建設理念である「持続可能社会」の実現に寄与するものと期待しています。このような取り組みに京町セイカが参画できますことを光栄に思います。

研究者紹介

人の心に寄り添った対話システムの実現に向けて

水上 雅博
NTTコミュニケーション科学基礎研究所
協創情報研究部インタラクション対話研究グループ

人間の対話では、さまざまな情報がやり取りされ、中には対話の目的(タスク)に全く関係ない雑談も含まれます。このような一見役に立たない雑談は、実際はプライベートな情報を交換することで良い人間関係を築き、長期的に円滑なタスクの解決をできる土台をつくる重要な役割を果たしています。NTTコミュニケーション科学研基礎究所では、円滑なコミュニケーションの実現に向けてさまざまな研究を推進してきました。中でも、対話システムと人間の対話において、対話システムが人間といかにうまく、自然に対話できるかは、昨今のAI時代においてもっとも重要な課題の1つでした。
この課題の解決に向けて、対話システムにキャラクタ性を持たせる「なりきりAI」の技術をはじめとした多くの技術について研究所を超えて検討し、研究開発を推進してきました。そして、これらの対話技術の1つの集大成として、今回の精華町との共同実験であるなりきりAI「京町セイカ」の取り組みを進めています。
この共同実験は、精華町に人間と共に住まう1人としての京町セイカをつくるプロジェクトであると思っています。もちろん、京町セイカは精華町民の皆さんと関係を築き、円滑なコミュニケーションを行う必要があります。単にタスクを解決するだけでなく、人との関係を築き、信頼関係の下で相手の本当に望むかたちでタスクを解決する、そんな人の心に寄り添った対話システムの実現に向けて、引き続き研究を続けたいと思います。