NTT技術ジャーナル記事

   

「NTT技術ジャーナル」編集部が注目した
最新トピックや特集インタビュー記事などをご覧いただけます。

PDFダウンロード

トップインタビュー

願いも思いも耳を傾け、現実のものとする──住みよい生活空間のマネジメントをめざして

2019年、会社設立20周年を迎えたNTTインフラネット。会社設立の原点に戻り、果たすべき役割である「基盤設備業務全般のトータルマネジメントシステム」等を今の時代背景に合わせて再構築し、自然災害への対応、生産性向上 ・ 効率化による働き方改革、そして社会課題解決に挑んでいます。約1500人の社員を率いるトップとしてのあり方、そして、情報通信インフラのプロフェッショナルに求められる技術力を活かした新しい空間マネジメントについて、黒田吉広NTTインフラネット代表取締役社長に伺いました。

黒田 吉広 NTTインフラネット 代表取締役社長

PROFILE

1981年日本電信電話公社に入社。NTTコミュニケーションズコンシューマ&オフィス事業部企画部長、ヒューマンリソース部 担当部長を経て、2008年NTT総務部門担当部長、2011年NTT西日本取締役中国事業本部長広島支店長兼務、2014年取締役設備本部ネットワーク部長、2016年代表取締役副社長を経て、2019年6月より現職。

「基盤業務全般のトータルマネジメントシステム」を再構築し、さらなる飛躍を!

4年ぶりのご登場ですね。社長という新しいお立場からNTTインフラネットについてお聞かせください。

NTTインフラネットは、NTT東日本の子会社として1999年に設立しました。これまで地下管路やマンホールなどの通信基盤整備に関する業務と技術ノウハウを全面的・一元的に継承した技術専門家集団としてNTT東日本・西日本、 NTTドコモ、NTTコミュニケーションズといったNTTグループの基盤設備を手掛けてきました。2019年7月に、これまでのNTTグループ内の基盤設備の一元運用保守に加えて、インフラデータを一元化して3D化し、Smart Infraプラットフォームとして他の事業者にも提供できるようなビジネスをめざして、NTT東日本からNTT持株会社の帰属となりました。さらに、NTTコミュニケーションズの土木基盤設備・事業を承継し、NTT空間情報とアイレック技建の子会社化を進め、2020年7月にはNTT空間情報を吸収合併しました。
さて、すでにNTTグループ内の基盤設備の運用・保守を一元化しているものの、各社の要求条件が少しずつ異なっているのが現状で、2019年6月の着任以来、これらの効率的運用、管理の仕組みづくりに取り組んできました。NTTグループの基盤設備は、ケーブルを通している地下管路が約67万km、マンホールが約69万個、それからとう道と呼ばれるトンネルが約654kmもあり、これは、国内の上水道並みのボリュームであり、国内のガスの配管をすべて合わせても約27万kmですから、それと比べてもはるかに多いことが分かります。これらの基盤設備を効率的に運用・管理し、より高度に活用していくためにもデータベースの整備は必要不可欠であり、このデータベースはSmart Infraプラットフォームへとつながっていくのです。
これらの基盤設備は建設のピークからすでに40年から60年が経過しているうえに、保守要員である土木技術者は高齢化しています。この先も労働人口は減少していくでしょう。多くの基盤設備を効率的に運用・監理していく必要があります。これまで設備情報は主に「紙」で管理していたのですが、インフラ情報をデジタル化し、タブレットなどでさまざまな業務に活用すること、およびICTを活用して点検等の作業をスマート化するといったデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速し、こうした課題にも対応していきたいと考えています。さらに、2020年7月にICTを活用した「Smart Infra事業構想」を立ち上げ、一元的なデータベースを構築・活用して、NTTグループ以外のインフラ事業者さんにも活用してもらうSmart Infraプラットフォーム事業で、社会に貢献し、収益増につなげていきたいと考えています。

さまざまな技術が駆使されることでDXもさらに進みそうですね。具体的には日常の業務にどんな変化をもたらすのですか。

Smart Infraプラットフォームでは、プラットフォームで3次元的、4次元的な設備データを管理することで、自社の作業の効率化のみならず、例えば道路工事の調整作業を円滑に行うことができるようになります。一般的に道路の下には、通信のみならず、電力の管路・ケーブル、ガス管、水道管等が埋設されています。道路工事を行う場合、こうした設備の埋設状況を確認し、それらの保有者・使用者の事務所に個別に出向いて、工事(掘削)方法の協議を行う必要があります。各社の設備データをSmart Infraプラットフォームに入れておけばこの作業を1カ所で照会することでできるので、手続きの簡素化もを図り、さらに、現場の立会件数を減らすことができます。設備情報はインターネットでも検索できるようになりますし、将来的には、電気・ガス・水道・通信の個別工事による、掘削・埋め戻しの繰り返しによる二重投資の削減や、工期短縮による渋滞緩和など、社会的な課題解決にもつなげていきたいと考えています。
このほか、トリプルIP(Infrastructure IT Innovation Platform)事業では、自社の管理情報に加えて、官公庁や自治体、他の企業などから公開されている社外情報をリアルタイムにマッシュアップして、より効率的な設備点検管理や設備更改計画提案に活用し、効率的な設備の維持管理を目的にしたICT活用によるスマートメンテナンスを推進していきます。
そして、MMS(Mobile Mapping System)事業では、車にカメラやレーザを搭載して、マンホール等を撮影し、その画像上で 高精度3次元計測を行い、そのデータを、設備の劣化診断や立会、施工、点検、補修業務などに活用していくことを考えています。
なお、両技術については、NTT東日本・西日本のアクセス系設備運営業務においても、設備管理や電柱点検にすでに導入いただいているところです。
インフラネットがこれまで手掛けてきた土木系の事業は、長いお付き合いの中で国交省や地方自治体の信頼を得てきています。また、交通事故対策や景観保護、さらには台風など昨今の自然災害では電柱が倒れるなどの被害が多くある中の安全対策の観点で、電柱を地中に埋める無電柱化や空間マネジメントに対する要望を多く耳にするようになりました。私たちのICTを活用した社会課題への取り組みへの期待が大きいのだと肌で感じています。ただ、私たちだけでは成し得ないこともありますから、グループ各社と連携して臨んでいこうと考えています。

ステークホルダすべてに利益があるようなストーリーを描く

連携しながらリソースを最大限に活かす秘訣はなんでしょうか。

連携やリソースを最大限に活用するためには、各社の目標とうまく調和させていくことが大切です。やりたい方向に流れをもっていくには、各社の目標と合うようにストーリーをつくるのです。もちろん、ギブ・アンド・テイクの発想と実行も必要ですし、これらを織り交ぜて納得して進めていかないと、話は途中で止まってしまいます。時間がかかっても合意形成が大切です。そのためにも、表裏なく誠意をもって臨むことにつきます。自分の利益を追求するだけでは駄目なのです。つまり、ステークホルダ全員に利益があるようなストーリーをどうつくるかが大切なのです。場合によっては、最初は持ち出し、損をすることもあるかもしれませんが、時間をかけて誠実に取り組んでいけば信頼を得られると思っています。社内も同様に人間関係が一番大事です。目標を1つにして、信用してもらうことが基本中の基本でしょう。
このような姿勢で事業を進めてたとしても、マイナスな出来事やさまざまな衝突が起きるときもあります。こうしたことはこれまでも多く経験してきました。前述のとおり、私たちに寄せられるNTTグループ各社の要望、契約内容は1つとして同じものはありません。工事予算を年間で包括的に提示して効率化を求める会社もあれば、工程ごとに積算して予算を決めている会社もあります。さらに、基盤設備の保守運用だけでなくケーブルの保守運用も含めてすべて任せたいという会社もあります。私たちからすれば同じ基準に合わせたいところなのですが、一朝一夕にいくものではありませんから、うまく進めるためには時間をかけて基準を少しずつ変えていくという方法しかないと思います。そして、最後はやはり各社が利益を上げることや、コストの削減や品質等メリットを感じていただくという実績を積んで、相手が納得した中でインフラネットがなくてはならない存在になることが大切です。

信頼を得ることは重要なことですね。

仕事の大小にかかわらず、乗り越えなくてはならない山はありますし、それを乗り越えるためにも信頼関係は大切です。大きな山という意味では、私にとってはかつて経験したNTTの再編成がその1つだったかもしれません。組織設計を担うという初めての経験でした。再編後の各社へのミッションや組織を引継ぐ検討・調整を行う段階で、この部隊は持株会社へ持っていきたい、何人かをこの部署に送り込みたいと、各部門がさまざまな事情を抱え、それぞれの理屈で要望を寄せてきました。ちょうどそのときにNTTインフラネットも1つの会社として独立したいと名乗りを上げて設立されたのですが、当時は本当にそれぞれが抱えているいろいろな思いを汲み取りつつ、最後まで形にしなくてはならないと考えていました。施策の規模が大きく、多方面にわたるだけに、利害関係等の調整にかなり苦労したことを覚えています。
しかし、苦労はしても仕事は最後までやり遂げたいし、最後まで完遂できるようにもっていかないとだめだと思っています。また、立場上、完遂しないと許されないこともありましたが、結果もさることながら、どのようにして結果に向かって進めていけるかについては一番気を使ってきました。もちろん、それは今でも常に考えているところです。若いうちは、それができなくて行き詰まることもあるでしょう。そういうときは、私は人に会いに行けと話しています。いろいろな人に教えてもらうというのはとても大事ですし、聞いて話をしてくれた方は味方になってくれます。自分の知識も増えて仲間も増える、まさに一石二鳥です。会社生活の中で、特に若い技術者は分からないことだらけではないでしょうか。こうしたとき、いきなり解決策が出るわけでもなく、地道にやっていくのが一番の近道だと思います。デスクでいくら考えても埒のあかないことでも、訪ねて会えば乗り越えられることはいくらでもあります。ちなみに自分から喋らなくても良いのです。教えてもらうのです。私もそうでしたが、とにかく教えてもらうところから始めて、その後、教えてもらった中で自分の役に立てそうなことがあれば少しずつでもやっていく、そんな順番で仕事をしてはどうでしょうか。

仕事を通じて自己実現する

人の話を聞くことが上達すれば仕事もできるようになりそうですね。

人の話を聞くことは結構難しいと思います。話すのも難しいのですが、それ以上に聞くことは難しいです。部下であろうと意見を聞くときは、絶対に怒ったり話を割り込んだり途中で否定したりしてはいけないし、どんどん話してもらえるような雰囲気づくりが大切です。何か言いたいのだが、なんだか言いにくそうだという雰囲気を醸しているときは、とても大事なことを話そうとしていることも多々あります。やはり、会いに来てくれたら必ず、何を差し置いても最優先で、その人のほうを向いて話を聞くことを一番大事にしています。これができないと情報を得られなくなってしまいます。着任以来、全国の各拠点を回って社員と意見交換をする際にも、「なんでもええ」と繰り返し伝えて、どんなことでも聞いて、きちんとフィードバックします。すべてを叶えることができなくても、必ず各エリアで出てきた要件の1、2つは本社に戻って実現の方向を探ります。こうした中で繰り広げられる仕事は、社会との接点を持つ一番大事なことだと私は考えています。また、人は社会的な動物ですから社会抜きで1人では生きていけません。仕事は自己実現であり、生きていくうえで一番身近な社会活動だと考えます。

確かに仕事は1日の大半を占める活動です、おのずと自分らしさがあらわれますね。

プライベートと仕事をはっきりと分けるとか、ワークライフバランスの重要性が説かれたりもしていますが、私にとっては仕事とプライベートは密接につながっているものだと思います。仕事でもプライベートでも社会とつながっているということが一番大事だと考えています。また、現場に行く、人の話を聞くことは仕事をしていくうえで一貫して続けていこうと考えています。何事も簡単にはいきませんからこれからも頑張ってやり続けていきます。
ただ、今は新型コロナウイルスの感染拡大防止を考えると、それすらもままならない状況にあります。一番かわいそうなのは新入社員です。人間関係がある程度できてからリモートへ移行するのであれば機能しますが、いきなりリモートでは無理があります。入社してすぐに自宅待機で研修も十分にできていない、同期がどこに配属されたのかも分からない。出社してもマスクで顔が隠れている。私もここは悩みどころでした。こちらからの発信はイントラネットを通じてできますが、その逆は非常に難しく、やはりコミュニケーションが不足します。言いたいことがたくさんあるのだろうと思いますし、その思いも十分にくみ取ることができないのです。そこで、何とかこういう状況を打開しようと、エリア単位での意見交換会を開始しました。対面するのは少人数とし、その様子をWeb会議で別の事務所にいる社員とつなぐ等、工夫をして意見交換をしています。2019年度はすべての部署を回っていましたが、2020年度は緊急事態宣言下では思うように動くことができませんでした。宣言解除後に様子を見ながら夏あたりから回りはじめ、年明けくらいまでには主要拠点だけでもすべて訪ねることができるのではないかと思っています。
(インタビュー:外川智恵/撮影:大野真也)

※インタビューは距離を取りながら、アクリル板越しに行いました。

インタビューを終えて

まっすぐに誠実にお話しくださる黒田社長。4年ぶりにお目にかかりましたが、やはりその姿勢、印象に揺らぎはありませんでした。にこやかに登場された黒田社長にコロナ禍でどうお過ごしかと尋ねると、リモートワークの影響で体を動かす時間が減っていることから夕方にはトレーニングジムに行ったり、ご近所を1時間くらい走っていらっしゃるのだそうです。「単身赴任前の体重にやっと戻ってきましたよ」とあっさりとおっしゃいましたが、その距離は10km程度です。NTTコミュニケーションズのラグビーグラウンドへ向かって走り、練習風景を眺めていらっしゃるといいます。また、インプットのための読書は欠かさず、孫子の兵法や自然科学、生物学の本が面白いと教えてくださいました。「インプットだからといって仕事に関連付けては読まないのですよ。興味に任せています」と話される黒田社長。どんな物事にも垣根を設けず、耳を傾けて受け入れるという仕事に臨まれるお姿そのものを体現していらっしゃいました。思わず、「社長が私の上司だったらきっとお仕事が楽しくなりそうです」とお伝えしてしまいました。聞くのは難しいとおっしゃっていましたが、思わず話したくなる上司、それが黒田社長なのだと、社員の皆さんのお気持ちを理解できたひとときでした。