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Focus on the News

世界初の無人運航船実証実験に向けた共同研究契約締結

NTTと株式会社MTIは、「Designing the Future of Full Autonomous Shipプロジェクト(DFFASプロジェクト)」を通じ、世界初となる輻輳海域での無人運航船実現に向けた実証実験を実施するため、共同研究契約を締結しました。MTIは無人運航船の実現に必要となるシステムのコンセプト設計、関連技術開発・検討、NTTはIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想における技術の適用検討、とそれぞれの強みを活かし、DFFASプロジェクトがめざす無人運航船がつくる未来の可能性の提示に向けて、共同研究開発に取り組みます。

■背景と目的

近年、我が国の長期的課題の1つとして、インフラとして我が国の社会経済活動を支え、国内物流の約4割を占めている内航海運を担う船員の高齢化、人員確保の難しさ、が挙げられており、地方経済や関連産業(造船・舶用機器、保険等)におよぼす影響も大きいことから、国と業界が一体となってその解決に取り組んでいます。
船の無人化、自動化はこうした課題の解決策として期待されていますが、船陸間の通信環境整備や障害物を瞬時に避けることが難しいなどの技術面、開発への莫大な資金が必要などの経済面から、これまで無人運航船の開発はほとんど行われていませんでした。
一方で日本は、IoT、AIや画像解析技術をはじめ、世界的に高い技術を保持しており、これらの技術を持つ複数の民間企業が共同で技術開発を行うことで、無人運航船にかかる技術開発を飛躍的に進められる可能性があります。そこで、公益財団法人日本財団がハブとなり、2019年10月から「無人運航船の実証実験にかかる技術開発共同プログラム」の募集が行われ、NTT、およびMTIは、国内26社(2020年10月13日現在)で構成されるDFFASプロジェクトのメンバーとして採択されました。
無人運航船がつくる未来の可能性を世界に示すとともに、物流革命、および業界の発展を促進させることを目的に、自動運航船に関する技術を追い求める日本の海事産業企業・団体などとDFFASプロジェクトに参画し、日本財団の支援の下、NTTとMTIは、2025年までの本格的な実用化という目標に向けて、世界初となる無人運航船実現に向けた共同研究を実施します。

■取リ組みの位置付け

無人運航船の実現にはさまざまな技術分野(操船、状態監視、通信など)が関連しますが、無人運航船の機能健全性(可用性)をを担保し続けるために、新たな通信・基盤システムの設計・開発が重要となります。
NTTとMTIは、2017年より、船舶の安全性・経済性の追求および国際的な競争力の強化のため、海事産業のイノベーション創出をめざし、両社の持つ技術、および研究開発成果を組み合わせた共同実験に取り組んできました。その船舶運航向けの通信技術・経験を活かし、無人運航船の開発に貢献するため、共同研究契約を締結することとなりました。

■研究テーマの概要

本共同研究・実証実験において、NTT、およびMTIは以下の3つの技術開発のテーマに取り組みます。DFFASプロジェクトをIOWNの将来ユースケースの1つととらえ、必要な要件の洗い出しと技術的課題の解決に取り組みます。
① 船舶向けコンテナ配信技術:衛星回線の狭帯域環境でのコンテナ技術とOTA(Over The Air)技術の実用化
② 船上、および船陸間の通信制御技術:SDN(Software Defined Network)による通信制御でのネットワークの可視化と運用性の向上
③ 船陸間の無線通信・端末技術:船舶向け5G / LTE技術の適用、衛星・モバイルのハイブリッド技術など

図 取り組みテーマイメージ

■今後の予定

2025年までの本格的な実用化という目標に向けて、2021年度の実証実験の成功をめざし、通信・基盤技術の検討・検証、搭載装置の設計・開発等を進めていきます。

問い合わせ先

NTT 広報室
E-mail ntt-cnr-ml@hco.ntt.co.jp
URL https://www.ntt.co.jp/news2020/2006/200619a.html

担当者紹介

安全航海達成のための自律船の取り組みに関して

中村 純/栁原 智哉/西山 尚材/牧山 宅矢/柴田 隼吾
株式会社MTI 船舶物流技術グループ 自律船チーム

日本郵船(NYK)グループでは、世界中で自動車運搬船や、ばら積み船、LNG運搬船など750隻以上の船舶を運航し海運・物流サービスをお客さまに提供しています。それらの事業の根幹となっているものは、“安全”であり、安全より重要なものは存在しないという認識で日々の業務に取り組んでいます。一度事故を起こしてしまうと、お客さまからお預かりした荷物に損害を与えてしまうだけでなく、人的被害や、船舶油濁などの大きな環境破壊など、取り返しのつかない影響を及ぼしてしまいます。
私たちの船舶運航における“安全”への取り組みでは、自律船舶の研究開発を2015年より進めています。これは、6~9カ月ほど続けて乗船する外航船員の労働負荷の軽減と、船舶衝突事故の防止を目的としており、外航船の“有人”自律船舶開発を目標に据え、船員の航海見張り業務を支援するための衝突リスク判定装置の開発や、陸上からの遠隔操船支援システムの開発に取り組んで参りました。
このたび、日本財団の「MEGURI2040プロジェクト」の中では、内航船舶における“無人”自律船の開発に取り組むことになりました。これは、日本海運業界全体としての“安全”運航実現をめざし、25社を超える企業とコンソーシアムを組み、2022年初頭の無人自律船舶の実証実験に向け取り組んでいます。
NTTグループとの協業では、この自律船における船と陸上との通信環境の効率化・安定化に取り組んでいます。船と陸との通信環境は、陸での通信環境に比べると、かなり低速で安定しない環境であるため、遠隔地から操船を実施するために必要なコンパス、レーダ等のセンサ情報や映像情報を安定的に通信するには難しい環境です。そのような環境を改善し、安全な自律船運航を達成すべく船内および船陸間通信を改善し、お客さま、乗組員皆がハッピーになる未来に向け頑張って参ります。

(左から)安藤 英幸/牧山 宅矢/柴田 隼吾/中村 純/栁原 智哉/西山 尚材(2020年9月30日現在)

研究者紹介

無人運航船の実現に向けて

朝日 大地
NTTソフトウェアイノベーションセンタ 第三推進プロジェクト

NTTはエッジコンピューティング等のIoT関連の先端技術を通じたパートナーとのコラボレーションを推進してきました。MTI様とはこれまでも次世代の船舶IoTプラットフォームの研究開発を共同で行っています。そこでは、より安全かつ環境にやさしい船舶運航をめざして、船舶に搭載されているエンジンや航海機器のデータ活用に取り組んできました。その取り組みの中でNTTは、保守・メンテナンス効率の改善を目的に、船内で動作するアプリケーションを遠隔から追加、更新する等の遠隔管理技術の研究開発を行い、実船での実証実験も実施しました。
今回の共同研究では、NTTは無人運航船の運航を支える通信・基盤システムに取り組みます。陸上と比較すると海上は通信が不安定であり、より細かな通信制御が必要となります。また、貨物を輸送する船舶は港に停泊する時間が短く、一度出航すると長期間海上にいる等の特徴があり、直接訪問して作業することが困難です。そのため、遠隔からシステムを監視・管理できることが重要になります。
海上輸送は日本の輸出入の大部分を占める、生活を支える大事な役割を担っています。一方で、船員の高齢化や特殊な勤務形態等による船員不足の課題を抱えています。無人運航船はその解決手段として期待されており、この共同研究を通して日本の海運・海事産業の発展、より良い社会の実現に貢献していきたいと思っています。