from NTTデータ
変化に適応できるアジリティの高い組織への変革の取り組み
日本では各企業が競争優位性を確保するためにデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進しています。DXに取り組むためには組織として何をすべきなのか、NTTデータの取り組み例を交えながら重要な考え方や組織運営時のポイントを紹介します。
背景と課題提起
近年一般消費者のニーズ多様化や従来とは異なる異業種競合の出現、新技術の加速的な進化など、ビジネス環境の変化が激しくなっており、日本でも多くの企業が「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の必要性を感じ、取り組み始めています。
DXとは紙帳票などのアナログの情報を電子化する“データ化”や業務“プロセスのデジタル化”(IT化)にとどまりません。デジタル化されたデータや業務プロセスにより、商品開発、マーケティング、セールス、商品・サービス提供の全事業プロセス変革が進んでいきます。これらが進んでいくと企業は顧客のニーズの変化に応じて、サービス・製品・ソリューションを速い時間で提供するように企業活動が変革していくため、企業にとっては顧客ニーズや競合新商品に対応する変更を素早く反映することが競合との差別化要素となります。
DXに必要な取り組みとは
このような時代背景を受け、経済産業省が発表している「デジタル経営改革のための評価指標」の中で「DX推進指標」が図1のとおり定義され企業のDXを後押ししています(1)。
上記はそれぞれ単独で取り組む課題ではなく、相互密連携で取り組むべき大きなテーマですが、ここでは上記指標の観点でどう組織を運営すべきか、について説明します。
図1 経済産業省DX推進の仕組み
NTTデータとしての取り組み
アジャイルプロフェッショナルセンタ(APC)ではScrum*1等の方法論やCloud Native*2等の新しいデジタル技術の研究開発とともにお客さま組織のDXを推進しています。Scrumは1チーム10名以下の小さなチームがITの仕組みを構築するものですが、Scrumの適用効果が出ていくと、他ITチームへのScrum適用、そして最終的にはITチーム以外の組織全体を巻き込んだ変革により組織全体のスピードを向上させることが必要となります。つまり変化に適応する、後発的要件に対応する、といったアジャイルの考え方を組織に適用したい、というニーズが発生します。ではそういった組織が満たすべき要件は何でしょうか?
前述のDX推進の枠組みと対応付けると、図2が要件となります。
① ビジネス環境変化への適用:組織としてビジネス環境の変化に適応ができること
② 推進サポート対応:DXを推進・サポートできるリーダチームをつくること
③ 人材の転換:自社の人材がDXに対応することが可能なスキルセットに変革できること
④ 方針やビジョンの浸透:めざすべき方向・ビジョンを現場のメンバ全員に浸透、実行可能な個々のチームの計画を組織運営側に集約、という上下方向のコミュニケーションがタイムラグなくできること
⑤ 全員が共有可能な指標:自分たちが正しい方向に進んでいるのかどうかを測定可能な指標を全員が理解できること
これら要件への対応を包含した枠組み(フレームワーク)として、大規模アジャイルの導入が欧米ではすでに普及段階に突入しています。大規模アジャイル方法論はいくつか存在しますが、ここではAPCがフォーカスしているScaled Agile Framework®(2)(SAFe®)*3をベースに説明します。なおSAFe®はScaled Agile Inc.が提供しており、NTTデータはGoldパートナーを締結しています。
*1 Scrum:アジャイル開発手法の1つでITシステムを反復的に開発するフレームワーク。
*2 Cloud Native:クラウドの利点を活用してアプリケーションを構築、実行するアプローチ。
*3 Scaled Agile Framework®:大規模なアジャイル開発手法の1つ。
図2 経済産業省DX推進とアジャイル組織との対応付け
アジャイルを組織に適用する場合のポイント
SAFe®とは図3のとおり、3つのレイヤから構成されています(2020年1月時点)。
それぞれのレイヤにおいて、役割、イベント(会議体)、成果物等が定められており、また導入するためのロードマップもSAFe®のHPで公開されています。
前述の5つの要件と対応付けてSAFe®を適用する場合のポイントを以下に説明します。
① ビジネス環境変化への適用の対応
組織に存在するさまざまなチームが定期的な改善を行うために、計画をつくる期間をProgram Increment(PI)*4として定め、PIの最後に振り返りの場を必ず設けます。PIの具体的な期間は、アウトプットの量(期間が短いと量が減るためビジネス価値の判定が難しくなります)と組織としての変更を我慢できる期間(長いと変化を受けにくくなります)の2つのトレードオフで決めていきますが、SAFe®では2カ月半を標準として設定しています。
② 推進サポート対応の対応
組織全体の変革を推進するためにLean-Agile Center of Excellence(LACE)*5と呼ばれるリーダを集めたチームを組成します。LACEメンバの教育後LACEチームは顧客にとっての価値は何か、現状と何を変える必要があるのか、などの自社事業の価値とそれを実現する主な要素を定めます。
③ 人材の転換の対応
LACEチームが中心となり実行メンバのリスキルのための育成(トレーニング)を行います。この育成後は、トップダウンで“決められた計画”に基づいて現場が実行するのではなく、トップダウンで決められた“ビジョン”や“価値”を実現するために何をしなくてはいけないのか、をメンバ自身が主体的に考え、実行することができるようにLACEメンバが実業務を通して教育を継続して行います。
④ 方針やビジョンの浸透の対応
関係するメンバ全員が一堂に会するPI計画会議、というイベントを実施します。イベントを開催するための事前準備として、組織運営者は全員が理解可能な組織がめざす方向やビジョンの検討、ビジネス・業務担当者は顧客ニーズの調査やビジネス要件の検討、IT技術者は必要なIT環境や実現性の検討をそれぞれ行います。PI計画会議では最初に組織運営者が、熱意を込めてビジョンや方針を説明し、ビジネス・業務担当者やIT技術者はビジネス要件やIT環境など全員に共有すべき内容を説明します。その後チームごと、チーム間で議論をしながら計画を作成し、最後に全員に対して各チームの計画説明や価値の定義を行います。
表1は自社で実際に実施した1日半のPI計画のアジェンダです。
このイベントにより組織トップから現場メンバまでの全員が共通のゴール、計画、課題等を効率的に共有することが可能となります。
⑤ 全員が共有可能な指標の対応
経営運営、ビジネス、IT、それぞれの情報をいくつかの指標を用いて可視化し定量データに基づいた判断ができるようにします。SAFe®では例えば表2の指標が定義されています。
*4 Program Increment:SAFe®で定義されている用語でビジネス価値を実現するためのITシステムを開発する期間のこと。
*5 Lean-Agile Center of Excellence:SAFe®で定義されている用語でSAFe®を導入するチームのこと。
図3 SAFe®とは
表1 PI計画のアジェンダ例
表2 SAFe®で定義されている指標の例
アジャイルを組織に適用した効果
SAFe®の適用は日本でもすでに始めている企業が存在しますが、SAFe®を適用した場合、表3に示す4領域での効果があるといわれています。
具体的な指標値は、データ収集が可能かつ適応効果を測ることができるものを組織ごと、期間ごとに設定します。1つの目標設定でも複数の目標設定でも構いませんが、社員エンゲージメントが向上すると生産性や品質も向上(改善)するなど、相互に関連し合う指標となります。
実際にNTTデータ社内の組織へ適用した結果、複数領域での効果が出ています。
表3 SAFe®の適用効果
今後について
ここでは、DXが必要となる背景から、変化に適応できる組織運営について解説をしました。
SAFe®でも最重要視されていますが、DXを推進するためのもっとも重要な点は経営者の積極的な関与です。仕事の仕方だけでなく外部リソース活用や自社社員の人材スキル転換等、従来の組織として備えている機能を時代に合わせて変化させることが必要なため組織トップの強い変革の意志とそれが実行できる権限が必要となります。
APCではDXを推進するためにSAFe®導入コンサルサービスを提供しています。この導入コンサルサービスをぜひ活用いただき、顧客企業とともに社会課題の解決や組織全体の変革をめざしていきたいと思います。
■参考文献
(1) https://www.meti.go.jp/press/2019/07/20190731003/20190731003.html
(2) https://www.scaledagileframework.com/
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