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特集

NTTグループのSmart Infraへの取り組み

高精度3D空間情報を活用した地下設備の高精度3D位置情報管理

Smart Infraプラットフォームでは、地下設備を高精度3D位置情報として管理することで、設備照会の効率化、工事立会における稼働削減等、設備管理業務の効率化を図ります。しかし地下設備の多くは設計時の図面として管理されており、位置情報が付与されていません。地下設備に対して地理空間情報を付与するためには、現実世界を高精度に表す高精度3D空間情報を整備したうえで、地下設備の埋設位置を特定し、正確な三次元の位置座標を与える必要があります。

千葉 繁(ちば しげる)/南野 晶彦(みなみの あきひこ)/水津 知己(すいず ともき)
NTTインフラネット

地下設備管理の課題とSmart Infraプラットフォーム

■地下設備管理の課題

現在地下設備は平面図や縦断図で管理されており、それらは設計時につくられた図面の状態で保管されています。多くはCADの図面を画像として変換した状態であり、埋設位置を表す地理空間情報はついていません。また設備の埋設位置を表す背景地図として、道路管理台帳を使用していることが一般的ですが、設計時の道路状況であるため道路形状変更等の変化の影響を受け、現況における正確な位置特定が困難な状態です。このため工事を行う場合には、工事場所に設計図を持って行き、オペレータが現地と設計図を照らし合わせ、地下設備の埋設位置のあたりをつける必要があります。このように地下設備の埋設位置を特定するためには、熟練した人間の経験やノウハウなどを活用し、埋設位置を推測するという行為がその都度必要になっています。今後ベテランオペレータの人員不足や、より一層の業務効率化に対応するためには、これまでの地下設備管理の手法を進化させ、地下設備管理のデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現する必要があります。そのための第一歩として、地下設備の埋設位置を現実世界の高精度な位置で管理することが必要となります。

■Smart Infraプラットフォームにおける地下設備

Smart Infraプラットフォームでは、地下設備の埋設位置を現実世界の埋設場所である緯度・経度・標高といった、コンピュータが計算可能な3D空間情報で管理を行います。Smart Infraプラットフォームでは地下設備の3D空間情報を使い、掘削範囲および深度といった情報から、その3D空間内の地下設備の存在および影響度を判定することが可能です。また地下設備の高精度な位置情報をVR(Virtual Reality)やMR(Mixed Reality)で利用可能なフォーマット構造に変換し、現地のオペレータの稼働削減を行うことが可能です。したがって地下設備の3D空間情報は、現実世界との高い位置相関が必要になります。現実世界の地下設備と管理される地下設備の位置の許容誤差は、地図情報レベル(数値地形図データの地図表現精度を表し、数値地形図における図郭内のデータの平均的な総合精度を示す指標)で表現します。Smart Infraプラットフォームで管理する地下設備は、地図情報レベル500であり、水平位置の標準偏差0.25 m以内・標高点の標準偏差0.25 m以内の誤差精度となります。これは道路台帳附図の位置精度と同様であり、地下通信設備だけではなく、電気設備やガス設備、上下水道設備などさまざまな地下設備どうしの相対的な位置を把握するために必要な精度となります。しかし現在の地下設備は、位置情報がついていない図面で管理されているため、地図情報レベル500の位置精度を付与する場合、測量を行う必要があります。これは非常に大きなコストが必要になると同時に、開削しなければならないなど現実的ではありません。NTTインフラネットでは、この問題を解決するために、地下設備の図面に対して地図情報レベル500の位置精度を付与するための位置基準、高精度3D空間情報を整備しています。

■高精度3D空間情報を利用した地下設備の高精度化

高精度3D空間情報は、現実世界における道路上のマンホールや、道路境界、地上地下出入口の高精度な位置と標高で構成されています(図1)。これは地下設備の平面図に記載されている情報のうち、現実世界の地表面上に露出をしていて航空写真画像やMMSなどから位置を測量することができ、かつ簡単に位置を動かすことができない構造であるためです。地図情報レベル500を満たす航空写真やMMSから高精度3D空間情報を作成することで、元の位置精度を引き継ぎ、地図情報レベル500の高精度3D空間情報となります。この高精度3D空間情報のマンホールや道路境界を位置基準とし、地下設備の図面に記載されているマンホールや道路境界の位置を合せることで、地下設備の図面に高精度な位置情報および標高を付与することができます。また地下設備がすでに空間情報として座標を持っている場合は、高精度3D空間情報のマンホールから地下設備の種類にあった適切な形状や大きさのデータを選択し、もっとも位置が近傍に存在する設備をマッチングすることで、通信の地下設備に高精度の位置と標高を付与することができます。

図1 高精度30空間情報の道路境界取得内容

高精度3D空間情報の整備

■高精度3D空間情報の整備手段

高精度3D空間情報を整備するには、まず現実世界を高精度に測量する必要があります。一般的な測量と異なり、ある程度の広い範囲を測量する必要があるため、その手段は大きく2つに分類されます。1つは高解像度・高精度な航空写真で測量を行う方法です。高解像度・高精度な航空写真は、データ取得コストが整備対象となる道路の延長に関係なく撮影エリアによって決まるため、初期のデータ整備に適しています。しかし道路や鉄道高架下など撮影ができない部分については測量ができず、高精度3D空間情報を部分的に作成することができません。もう1つはMMSで測量を行う方法です。MMSは車道からレーザスキャナやステレオカメラなどで測量を行うため、道路高架下などのデータを取得することは可能ですが、車道から見えない歩道部分などではデータ取得が行えないことがあります。またデータ取得コストが、道路延長に依存するため、データ取得を行う道路を絞る必要があり、メンテナンスのデータ整備に適しています。今回NTTインフラネットでは、東京23区の高精度3D空間情報の初期の整備において、高解像度・高精度な航空写真を利用しました。

■高精度・高解像度な航空写真を利用した高精度3D空間情報の整備

高精度・高解像度な航空写真とは、従来のDEM(Digital Elevation Model)*1を基にオルソ処理(歪み補正)を行うものではなく、高精度・高精細なDSM(Digital Surface Model)*2を取得し、そのDSMに対して撮影画像データの幾何補正処理を行います。この航空写真はトゥルーオルソ(完全正射投影画像)と呼ばれ、従来の航空写真と違って高層建築物の倒れ込みの影響を受けないため、地上構造物の位置や形状の取得が容易になります(図2)。またこの航空写真は、地上における5cmを航空写真における1データ単位として扱うため、高精度な位置情報および標高を取得することができ、またビルの屋上に設置されている空調機械のファンの形状が分かるくらいの高解像度で、地上構造物の詳細な形状を取得することができます(図3)。
高精度・高解像度な航空写真を利用して道路境界・マンホール・地上地下出入口の形状をステレオ図化することで、地図情報レベル500の高精度3D空間情報を作成することができます(図4)。

*1 DEM:数値標高モデルともいいます。建物や樹木などを取り除いた、地表面の高さを表した三次元デジタルデータ。
*2 DSM:地表面とその上にある地物表面の標高からなる三次元デジタルデータで、建物や樹木等の高さを含んでいます。

図2 撮影技術の違いによる航空写真の違い

■高精度3D空間情報のデータ構造

高精度3D空間情報は、ESRI社のシェープファイルで定義されており、道路境界・マンホール・地上地下出入口といったデータ種別ごとにデータ構造が異なっています。図形情報は3D図形で定義されており、属性情報として地下設備の位置合せに利用する情報が定義されています。道路境界データは、ガスなどの道路境界からのオフセットで位置が特定される地下設備の位置合せに利用されます。したがって境界種別や境界識別の属性を使って、位置合せに適したデータを選択します。マンホールは、通信・電気・上下水道などの地上部分に設備が露出している地下設備の位置合せに利用されます。したがってマンホール形状やマンホールサイズの属性を使って、位置合せに適したデータを選択します(表)。
そのほかに共通的な属性情報として、高精度3D空間情報を管理するための管理IDやデータ作成・更新日、高精度3D空間情報を作成するときに参照した高精度・高解像度の航空写真の識別情報などを定義しています。共通的な属性情報は、今後の高精度3D空間情報のメンテナンスに利用されます。ESRI社のシェープファイルを選択したメリットは、仕様がオープンにされていることです。そのため他のシステムとのデータ交換が容易に行え、またオープンソース系のシステムで幅広く利用されているGeoJSONや、建築系CADで利用されているDXFやDWGいったフォーマットへの変換が容易に行えます。

高精度3D空間情報の今後

高精度3D空間情報は、現在東京23区のデータを作成していて2020年11月末に完了する予定です。その後、2021年度内に政令指定都市への整備拡大を進める計画であり、そのために高精度3D空間情報のより一層の整備効率化をめざしています。現在AIを活用した整備技術の検証を行っており、高精度・高解像度な航空写真を対象に、マンホールの検出の自動化、道路の自動判定および境界の自動抽出を進めています。AIを活用することで、高精度3D空間情報のデータ作成コストの低減はもちろん、データメンテナンスにおける整備期間の短縮にもつながり、現実世界との同一性をより確実なものにします。
また、現在は高精度・高解像度な航空写真を利用したデータ作成方法を採用していますが、今後のデータメンテナンスを進めるうえでMMSを活用したデータ作成方法についても検討を進めます。
高精度3D空間情報を整備する最終的な目標は、通信の地下設備における位置合せだけではなく、電気・ガス・上下水道の事業者が保有するすべての地下設備に対しても提供し、すべての地下設備の位置を合わせることです。全事業者の地下設備が、高精度3D空間情報を位置基準とした高精度な位置と標高を持つことで、地下設備の位置が全事業者共通的に扱えるようになるため、個々の事業者における設備管理やメンテナンスを統合することにつながり、スマートメンテナンスの実現が可能になります。

 

(左から)水津 知己/千葉 繁/南野 晶彦

高精度3D空間情報を活用することで、地下埋設設備をはじめ、地上におけるさまざまな情報の位置基盤の統合を推進するべく、データ提供エリアを政令指定都市へ拡大を図ります。今後AIやMMSを活用することで、リアルタイム性を備えた情報更新手法の確立、およびデータ整備コストの低減化に向けて取り組んでいきます。

問い合わせ先

NTTインフラネット
Smart Infra推進部
プラットフォーム戦略担当
TEL 03-5829-5270
FAX 03-3863-5437
E-mail si_pf_info@nttinf.co.jp