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from NTTファシリティーズ

通信機械室の未来をかたちづくる「空調ガイドライン」の改定

近年、通信装置の高集積化による高発熱化が進み、空調環境の重要性が増加しています。空調環境は空調設備の冷房能力に加えて、通信機械室内全体の気流環境によって大きく左右されます。NTTグループでは、適切な空調環境を構築・維持するために、通称「空調ガイドライン」が制定されています。このたび、2020年6月にこれまでの「空調ガイドライン」が抱えていたさまざまな課題を解決させた第2版を制定しました。ここでは本改定の事務局を担いましたNTTファシリティーズより、空調ガイドライン改定に関する取り組みについて紹介します。

通信機械室の空調気流方式の変遷

通信機械室の空調気流方式は、通信装置の発熱量とともに変遷しています(図1)。最初の空調気流方式は直置き方式でした。これは、気流の観点では一般的な家庭のルームエアコンと同様の方式です。発熱密度*1という値で評価してみましょう。10畳(約16㎡)のリビングルームに4人が在室しているとします。1人当りの発熱量は約100Wなので、この場合の発熱密度は約25W/㎡となります。通信機械室でも、1ラック当りの発熱量が数10W~数100W台(前半程度)だった当初は、前述のリビングルームとそう大きくは変わらない発熱密度で、直置き方式で十分に均質な温度環境の維持が可能でした。その後、通信装置の発熱量が増加すると、均質な温度環境の維持が難しくなったため、現在の一般的な二重床方式が誕生します、冷気を供給する通路(コールドアイル)と供給しない通路(ホットアイル)を交互に配置し、通信装置の吸込面をコールドアイル側にそろえました。冷気の領域と排気の領域を緩やかに分けることで、より大きな発熱量に対応できるようにしたのです。そして、近年ではさらに通信装置の発熱量が増加してきたため、冷気の領域と排気の領域をより明確に分けることで対応しています。アイルコンテインメント*2などを用いて冷気と排気の領域を明確に分離した空調気流方式は、現在世界中のデータセンタでも広く採用されています。

*1 発熱密度:「内部の発熱量[W]/床面積[㎡]」で算出する値。
*2 アイルコンテインメント:コールドアイルまたはホットアイルを壁や天井等で囲うことで、冷気と高温排気とを物理的に分離する設計手法。

空調環境の構成要素

通信機械室の空調環境(または温度環境)を適切に維持するためには、なぜ冷気と排気を分けなければならないのでしょうか。それは、空気という空間内を自由に動き回ることができるものを媒体としているからにほかなりません。では、通信機械室の中で空気がどのように移動しているのでしょうか(図2)。まず、通信装置を冷やすための冷気は、通信機械室内の空調設備でつくられます。冷気は二重床内部に吹き出されます。そして、二重床の開口部からコールドアイルに吹き出されます、コールドアイル内の冷気は、通信装置の持つファンの力で、ラック内に誘引され、さらに通信装置内部に誘引されます。冷気は、通信装置の内部で冷却の役割を果たし、高温な排気となって通信装置からホットアイルに向けて吹き出されます。その後、排気は空調設備に吸い込まれ、再び冷気となります。一連の空気の流れをお伝えしましたが、排気と冷気の分離に課題があります。アイルコンテインメントやラック内のブランクパネル*3などを設置し確実な分離ができないと、排気を多かれ少なかれ冷気側に移動させてしまいます。これを排気の再循環と呼んでいます。通信装置の発熱量が大きい場合は、排気の再循環の影響が大きくなるため、吸気と排気との分離をより徹底していく必要があります。ここまでの内容から、通信機械室の空調環境には、室内のほぼすべての構成要素が深くかかわっていることをご理解いただけたのではないでしょうか。空調設備の能力担保は大前提として、ラック・通信装置の配置、ラックの内部・外部での吸排分離などで機械室全体の空調品質は確保されています。通信機械室の空調環境は、それぞれの構成の、計画、設計・施工、運用・管理を司る多くの組織による合作といえます(表1)。

*3 ブランクパネル:通信装置の排気が通信装置搭載ラック内のすき間を通り、通信装置吸気口に回り込むことで通信装置の吸い込み温度が上昇するのを防止するために、ラック内に設置する遮蔽板。

空調ガイドラインの意義

2020年6月に空調ガイドライン*4、5を第2版に改定しました。この第2版は、さまざまな設備所掌が混在する空調環境について、共通的なあるべき状態をより明確に示したものとなっています。この空調ガイドライン第2版は、持株会社を筆頭としてNTTグループ会社の代表者が集結して、議論を重ねて作成しました。NTTグループが高品質な電気通信をお客さまに継続的に提供するため、通信機械室の効率的利用や通信信頼性担保などの観点から通信機械室としての価値を維持し続けるための規定が定められています(図3)。

*4 空調ガイドライン第1版:正式名称は冷却を考慮した大容量データコム装置導入ガイドライン第1版。
*5 空調ガイドライン第2版:正式名称は通信機械室の空調環境ガイドライン第2版(名称を変更)。

■空調ガイドラインの改定ポイント

第1版には、次の2つの課題がありました。
① 2008年制定当時のあるべき通信機械室像として特定の空調環境のみを想定した規定となっており、適合の難しいケースが多い。さらに、近年の更なる高発熱化に対応した形式(アイルコンテインメント等)の扱いも規定していない。
② 資料構成の分かり難さ、基礎的解説の不足が原因で実務者の理解度が上がらず実効性が低く、空調設備の構成や消費電力が必ずしも最適になっていない可能性がある。
そこで、①に対しては、多様な構成の機械室に対応するため、グレード別に空調環境を定義しました(図4)。グレードは技術的な観点から4段階としました。グレード1は初期の直置き方式です。グレード3は二重床方式(コールドアイル・ホットアイル構成、ラック内外の吸排分離なし)です。グレード2はグレード1とグレード3の中間的な位置付けです。二重床方式ではあるのですが、ラックの向きに整合性がなくコールドアイル・ホットアイルが明確に分かれていない状態の空調環境です。グレード4はグレード3に対してさらにラック内外で明確に吸排分離を実施した空調環境です。②に対しては、理解度向上のため、章構成・記載方法等を刷新し、さらに基礎解説を充実させました。第1版では、各担当者がガイドラインの規定全体の中から各自の該当規定を選択する必要がありましたが、第2版では一般的な業務所掌別に章分けをすることで、各自の把握すべき規定が分かりやすい構成としました(表2)。

空調ガイドライン改定の営み

空調環境のグレード分けにあたっては、定量的な基準値を示す必要がありました。そこで、2016年度から現地調査や実験を行い、基準値を策定しました。2018年度から空調ガイドラインの改定に着手し、初期構想、原案作成、原案審議の流れで改定作業を実施しました。改定では、NTTファシリティーズは事務局を担い、各グループの通信機械室関連組織との多面的で有意義な意見交換を実施し、原案作成を担いました。合わせて、原案審議では、開発から運用に至るまでのより多くの組織、担当者とさまざまな議論を交わし、これまでの反省点の洗い出しとともに、空調環境の重要性の共通理解を深め、今後の通信機械室がめざすべき方向性・課題を盛り込んだ空調ガイドラインの改定を実現できました。この空調ガイドラインの改定は、NTTファシリティーズの技術力とノウハウ、NTTグループ各社の課題認識と解決に向けた協力体制、持株会社のマネジメントを結集した集大成だといえます。

空調ガイドラインに関する今後の展望

空調ガイドライン第2版が制定されたことで、各社が同じ方向性をめざして歩むことができるようになりました。このまま高発熱化が進む場合、空調技術の観点だけでいえば、近年のデータセンタのように、すべての通信機械室がグレード4になっていきます。しかし、通信機械室はその使われ方がデータセンタと大きく異なるためそう簡単にはいきません。比較的短いライフサイクルの中で、均一な環境を維持し続けるのがデータセンタです。通信機械室は、限られた面積を活用し、長いライフサイクルの中で、新陳代謝(通信装置の逐次増減設)を繰り返しながら少しずつ姿かたちを変貌させていく流れが標準的です。空調ガイドライン第2版によって、各種空調環境のあるべき状態と技術基準や規定が示されました。一方で、全国に無数にある各通信機械室の実態はさまざまで、そのほとんどは前述の新陳代謝の過渡期にあります。空調ガイドライン内での規定としては、このような過渡的なあらゆる状態を規定することはできません。今後は実態を見据えつつ、運用面での課題を明らかにしていく必要があります。引き続きNTTグループで連携を図りながら、よりよい通信機械室の構築・運用を進めていく予定です。

空調環境視点での未来の通信機械室の創造

近年のデータセンタでは空調気流方式として、壁吹方式が多く採用されています(図5)。この方式は、空調ガイドライン上の定義ではグレード4に該当します。冷気側と排気側を明確に分離する考え方からは、既存の高グレードな通信機械室も最新のデータセンタも変わりはありません。未来の通信機械室はデータセンタに近づいていくのかもしれません。NTTファシリティーズは、引き続きNTTグループ内で意見交換を行いながら、信頼性、作業性、構築性、運用性、省エネルギー性、安全性、コストなどの評価軸で総合的な検討を進め、通信機械室としての理想的な姿を描いていきます。併せて空調ガイドラインのアップデートも適時実施していきます。

 

問い合わせ先

NTTファシリティーズ
研究開発部 ファシリティ部門 環境ソリューション担当
TEL 03-5669-0743
FAX 03-5669-1650
E-mail tsudaa24@ntt-f.co.jp