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特集

モビリティを中心とした街のデジタルトランスフォーメーション

マルチモーダルMaaSを支えるオープンなMaaSプラットフォーム

さまざまな交通を統合する概念は、MaaS(Mobility as a Service)といわれ、フィンランドが先行事例といわれています。ヒトの移動に着目し、エンドエンドでの個別・全体最適な移動の流れをつくり出すために、さまざまな公共交通機関や周辺サービスを統合し、ワンストップで提供可能にする公共交通MaaSプラットフォームの構想と取り組みについて解説します。

佐藤 吉秀(さとう よしひで)†1/大井 伸哉(おおい しんや)†2
栖関 邦明(すせき くにあき)†3
NTT研究企画部門†1
NTTスマートデータサイエンスセンタ†2
NTTデータ†3

MaaSのレベル

MaaS(Mobility as a Service)には図1に示す4つの段階あるといわれています(1)。レベル0は各公共交通がバラバラに提供されているMaaS以前の状態です。レベル1では交通機関の情報が統合され、乗換検索サービスのように各交通機関の情報に横断的にアクセスできるようになります。料金が統合されるのはレベル2以上です。レベル2は、例えば、異なる交通事業者が運行する鉄道やバスを、あたかも1つのサービスであるかのように一括して予約したり決済したりできる状態を指します。レベル3はサービスレベルで統合された状態です。同じチケットでも状況に応じて利用交通機関を選択できるサービスや、「1日で○○円」「1カ月で○○円」といったサブスクリプションモデルのサービスが提供可能になります。レベル4は自治体や国の政策とも統合し、交通の最適化が進むMaaSの最終段階です。

公共交通機関とサービスがつながるMaaSの世界

MaaSのレベルが高まるにつれて個人個人の移動は快適になりますが、レベル4の実現に向けては人の移動全体を俯瞰的にとらえ、混雑や渋滞を緩和したり、交通弱者の移動を支援したりするアプローチも重要になります。例えば、混雑する都市部において、移動需要全体を時間的・空間的に平準化することができれば、交通機関や目的地での混雑集中がなくなり、結果的に個々の移動体験もより快適なものになります。そのためには、単に交通を統合するだけではなく、場合によっては立ち寄り消費を促すなど、目的地での利用サービスと合わせて移動を考えることが重要だと考えています。
私たちが考えるMaaSの全体概念を図2に示します。公共交通MaaSプラットフォームにつながる公共交通やサービスを、さまざまな顧客接点に提供することで、移動やサービスの販売機会増加を可能にします。また、別のMaaSが存在する場合には、これらとも相互に接続することで、ある交通機関を利用するには異なるMaaSアプリのインストールが必要、といった不便さも解消できます。

交通系ICカードを使ったクラウド型の認証

公共交通MaaSプラットフォームで重要な機能の1つに認証機能があります。認証機能をプラットフォーム側に集約させることで、公共交通やサービスがすでに存在している状態であっても統合しやすくなり、柔軟なサービス設計が可能になると考えています。NTTデータでは、交通系ICカードを使ったクラウド型の認証に注目し、東日本旅客鉄道株式会社やJR東日本メカトロニクス株式会社と連携して実証実験を行っています。
交通系ICカードを使ったクラウド型の認証を実現する仕組みを図3に示します。Suica®*1などの交通系ICカードを専用のカードリーダにタッチすると、ID情報がクラウド側で認証されます。そのID情報に紐付けられたプラットフォーム上の保有チケット情報を照会することで、公共交通の利用(乗車等)や、店舗での商品やサービスの提供・割引などの可否判定を行うことができます。
JR東日本 モビリティ変革コンソーシアム(2)において、MaaSを通じたさまざまな価値創造のかたちを検証するため、交通事業者と連携し、クラウド型交通系ICカード認証を用いた実証実験に取り組んでいます。

*1 Suicaは東日本旅客鉄道株式会社の登録商標です。

■横浜市での混雑緩和・回遊促進実証(2019年11月)

スポーツイベント終了後の周辺の混雑緩和をめざし、実証参加モニターに対し、会場から周辺の複数交通機関利用までの混雑予測情報をプッシュ配信し、交通機関利用の時間的な分散、利用する交通機関や駅等空間的な分散効果を検証しました。NTTサービスエボリューション研究所の人流のデータ同化技術を応用し、過去実績データや外部情報に加え、リアルタイムに取得した局所的な人数観測データから人の流れをシミュレーション上で再現、その結果に基づき交通機関利用までの所要時間や将来の所要時間の予測情報を生成し、混雑予測情報として配信しました(図4)。
またプッシュ配信では、専用の交通系ICカードを用いて対象駅から鉄道に十数分乗車して横浜臨海エリアまで移動すればインセンティブがもらえ、NTTドコモのAI運行バス®*2(3)に乗車できるお得情報を配信することで、広域な回遊促進を活性化させる実証にも取り組みました(図5)。

*2 AI運行バスは株式会社NTTドコモの登録商標です。

■前橋市でのマルチモーダル観光MaaS実証(2020年1月)

あらかじめ交通系ICカードを紐付けたスマホアプリ上で購入した統合チケットを用いて、交通系ICカード認証やスマホの画面表示により、複数の公共交通機関の利用や、店舗での割引が受けられるサービスコンセプトをモニターに体験してもらいました。改札出場のタイミングで、NTTコムウェアのLIKEUP™(4)によって個人の属性・位置・時間等に応じて、駅周辺の店舗情報およびその割引情報を配信するなど、シームレスな移動と消費の統合をめざした実証に取り組みました(図6)。

地方エリアでの取り組みと今後の展開

公共交通MaaSプラットフォームが日本全国どこでも使える世界をめざし、地方エリアの交通課題解決にも取り組んでいます。茨城県笠間市において「笠間市スマートシティコンソーシアム(5)」を設立し、交通課題の解決を通じた都市のスマート化をめざしています。将来的には、デマンド交通や周遊バスをはじめとする地方の交通が公共交通MaaSプラットフォーム上で連携し、住民や地域外からの観光客にとって利便性の高い交通システムが維持・充実化されることをめざしています。

■参考文献
(1) J.Sochor, H.Arby, M.Karlsson, and S.Sarasini:“A topological approach to Mobility as a Service: A proposed tool for understanding requirements and effects, and for aiding the integration of societal goals,” Proc. Of ICoMaaS 2017, pp.187-208, 2017.
(2) https://www.jreast.co.jp/jremic/
(3) https://www.nttdocomo.co.jp/biz/service/ai_bus/
(4) https://www.nttcom.co.jp/likeup/
(5) https://www.ntt-east.co.jp/ibaraki/information/detail/1268807_2476.html

(左から)佐藤 吉秀/大井 伸哉/栖関 邦明

MaaSへの注目が高まっています。さまざまな交通機関やサービスをつなぐマルチモーダルMaaSの実現を通じて、移動を便利にするとともに、都市や地方の交通課題解決につなげたいと考えています。

問い合わせ先

NTT研究企画部門
プロデュース担当(モビリティプロデュース)
TEL :03-6838-5373
FAX :03-6838-5349
E-mail :contact_mobilityp@hco.ntt.co.jp