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特集

モビリティを中心とした街のデジタルトランスフォーメーション

マルチモーダルMaaSを支える二次交通の取り組み――ドコモの次世代モビリティサービス

生活交通、観光交通において深刻な課題となっている二次交通(ファーストワンマイル/ラストワンマイル)の公共交通の再生の解決のために、サステナブルな地域社会・スマートシティを実現するAI(人工知能)や異業種連携を活用したNTTドコモの取り組みを紹介します。

三宅 基治(みやけ もとはる)/西田 典了(にしだ のりとし)
NTTドコモ

はじめに

自動車業界は「CASE」(コネクテッド化、自動運転化、シェアサービス化、電動化)により100年に一度の大変革期を迎え、異業種企業の参入も後押しして、次世代のモビリティサービスに向けたビジネス創造が活性化されています(1)。
こうした中で、次世代の移動の概念MaaS(Mobility as a Service)が欧州で提唱され、自家用車を中心としていた移動から、鉄道、バス、タクシー、シェアサイクル、カーシェアなど、さまざまな移動手段を連携させることで、渋滞やCO2排出などの移動にかかわる課題を解決する取り組みが始まっています。さらに、予約から運賃支払に至るまでの統合したシームレスなサービスの提供により、利便性の向上も図られています。日本国内においては、生活交通、観光交通において深刻な課題となっている二次交通(ファーストワンマイル/ラストワンマイル)の公共交通の再生の解決が喫緊の課題となっています。
NTTドコモは2010年からサイクルシェアリング事業を推進し、2015年にドコモ・バイクシェア社による自転車シェアリングを行ってきました。また、近年では図1に示すように「MaaS」を移動の高度化、統合、サービス連携(移動×サービス)の3つでとらえ、人が移動する際のファーストワンマイル/ラストワンマイルの移動手段をドコモが急務で取り組むべき課題として考えて、「高度化型MaaS」におけるAI(人工知能)技術によるオンデマンド交通の配車最適化の検討を先行して推し進めてきました。
本稿では、高度化型MaaSとしてAIタクシー(2)、AI運行バス*1(3)を紹介するとともに、サービス連携型MaaSとしてAI運行バスによる“移動×サービス”連携によるビジネス深化について紹介します。

*1 AI運行バス:(株)NTTドコモの登録商標。

高度化型MaaS:AIタクシー

過去のタクシー運行データや、人々の統計的な位置情報から、エリアごとにタクシーの乗車需要を予測する技術を開発し、「AIタクシー」として2018年2月より商用サービスを開始しています。

■人口統計データを用いた需要予測

AIタクシーでは、過去のタクシーの乗車実績データや天候データに加え、全国エリアで人の分布や流れを把握する近未来人数予測*2から得られた人口統計データを利用します。そして、500m四方に区切ったエリアごとに30分後までのタクシー乗車需要を予測し、10分ごとにタクシー運転手に提供することで需要の高いエリアへの配車を可能とします(図2)。これにより、タクシー運転手による経験や勘だけでは予測が難しかった電車遅延やイベントなどの突発的な状況下でも、より適切な需要予測を可能としています。また、リアルタイムに変化する乗車需要を確認できるので、土地勘がない経験の浅いタクシー運転手であっても効率的な運行により実車率向上が可能となるほか、タクシーの乗客にとっても待ち時間の短縮が期待できます。

*2 近未来人数予測:(株)NTTドコモの登録商標。

■ハイブリッドによるモデル構成

人口の推移と乗車需要の推移にはいくつかの相関関係が分かっています。一例としては、①オフィス街では人口が増加する際に、繁華街ではある程度滞在していた人口が減少する際にそれぞれ乗車需要が増えるといったエリアに依存する傾向や、②球場などの多目的スタジアムではプロ野球の試合のほうが女性アイドルのイベントよりも乗車需要が増えるといった集まっている人の属性に依存する傾向があります。
これらのエリア、イベント種別によって傾向の異なる相関関係を持つデータを扱うために、AIタクシーでは、時系列予測モデルである多変量自己回帰モデル*3とディープラーニング(深層学習)*4によるモデルとを組み合わせ、精度の良いほうを利用するハイブリッド構成としています。

*3 多変量自己回帰モデル:自己回帰モデルを多変量に拡張したモデル。ベクトル自己回帰モデルともいいます。
*4 ディープラーニング:多層のニューラルネットワークによる機械学習手法。深層学習とも呼ばれます。

高度化型MaaS:AI運行バス

交通事業者のオペレーションの効率化と、利用者にとっての交通の利便性向上を両立する新しい交通手段となるオンデマンド交通「AI運行バス」の商用サービスを2019年4月より開始しています。

■AIを用いた効率的なオンデマンド配車

AI運行バスは、乗りたいときに行きたい場所まで、自由に移動できるオンデマンド交通システムで、利用者はスマホアプリ・ブラウザ上のWebサービス、コールセンタへの電話などにより、各自の希望する乗車時刻、乗降ポイント、利用人数を指定して乗車予約を行うことができます。一方、システム側では随時発生する新たな乗車予約に対して、各車両の走行ルートを再計算し、各ドライバーに運行計画を提示することでオンデマンド配車を実現しています。この際、確定している利用者の送迎に大きな遅延を生じさせない範囲での見直しとする制約に従い、利用者の移動需要に最適な車両の割当てと走行ルートをAIが算出します(図3)。
従来の定時・定路線のバスに比べると、この運行計画は必要な乗降ポイント間のみを結ぶ走行ルートをとり、利用者のいない区間の走行が不要となるため、移動時間を短縮できます。また、AI運行バスは、複数の利用者の同乗を前提とした乗合い型の交通サービスであるため、タクシーなどの個別輸送に比べ、移動当りのコストを下げやすく、安価なサービス提供が可能になります。

■需要予測に基づく走行エリア推薦機能

AI運行バスでは、AIタクシー同様にバスの運行実績データや人口統計データを利用してエリアごとの乗車予約数を予測し、高需要なエリアへ前述したオンデマンド配車の制約の範囲内で迂回する機能を実現しています(図4)。さらに、空車時の待機場所をドライバーに提示する機能も持たせることによって、利用者の待ち時間の短縮と運行効率のさらなる向上を図っています。本機能の実現にあたり、学習データを収集する場合、タクシーに比べて運行台数が一般的に少ないバスにおいても早期に需要予測モデルを構築できるように、XGBoost(eXtreme Gradient Boosting)*5によるアンサンブル学習*6を採用しています。

*5 XGBoost:近年注目されているアンサンブル学習の一種。
*6 アンサンブル学習:複数の異なるモデルを構築し、予測時にはそれらのモデルの予測結果を統合する手法。これによって、未知のデータに対する予測能力を高めることが期待されます。

サービス連携型MaaS:AI運行バスによる“移動×サービス”のビジネス創出

ここまで高度化型MaaSの2つの取り組みを紹介しましたが、二次交通の維持・充実のキーポイントとしては、コスト最適化に加えて、新たな収入源(原資)の獲得が必要となります。ここでは、サービス連携型MaaSとして、AI運行バスと他事業者との“移動×サービス”連携によるビジネス深化について述べます。

■AI運行バスと店舗との連携機能

既存の交通手段の多くは目的地ではなく、その近くの駅やバス停までの移動支援の場合が多く、利用者の行動と結びつけることが難しいという問題がありました。一方、AI運行バスでは目的地となる降車ポイントの選択を通して、オンデマンドで移動できるため、利用者にスムーズな周遊を提供するとともに、施設情報を直接届けることも可能となります。
このため、店舗向けの集客サポート機能として店舗管理ポータルを提供し、施設情報の掲載やクーポンをリアルタイムに配信するようにしています。さらに、NTTグループのAI技術「corevo®」を活用した近未来人数予測を用いて未来の移動需要を見える化し、訪問者の人数・属性の参照および、自施設情報の閲覧状況を店舗側で把握できるようにした実証実験を行っています(図5)。

■他社サービスとAI運行バスとの連携機能

小売店舗/宿泊施設/医療・福祉/観光地/金融/保険といった他業態で提供されているサービスに対して、利用者の移動手段を加えてビジネスを深化させるために、AI運行バスの予約機能をAPI(Application Programming Interface)化しています。これにより他社サービスから乗車時刻、乗降ポイント、利用人数などを指定して配車予約を行い、同エリアで配車可能なAI運行バスを簡単に手配することが可能となります。
例えばこの仕組みを活用し、病院のシステムと連携すれば、診察後の会計に合わせて帰宅用の移動手段としてAI運行バスが手配できます。また、病院の予約管理システムに連動させ、次回診察日前日にリマインダーを通知し、診察当日のAI運行バスの予約も可能となります。

おわりに

本稿では、ドコモにおけるMaaSに関する取り組みとして高度化型MaaSであるAIタクシー、AI運行バスを紹介するとともに、サービス連携型MaaSとしてAI運行バスによる“移動×サービス”連携によるビジネス深化について紹介しました。今後、最新のAI技術を活用したさらなる精度向上や付加価値の提供に加え、自治体や交通事業者との関係強化によるエリア拡大を通して、地域経済活性化など社会課題解決の貢献に積極的に取り組んでいく予定です。

■参考文献
(1) 深井:“いつでもどこでもだれとでも快適で安心のモビリティを ―ドコモの次世代モビリティサービスの取組み―,”NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル,Vol.27,No.4,pp.6-9,2020.
(2) 川崎・石黒・深澤・藤田・鈴木・槙島:“AIタクシー ―交通運行の最適化をめざしたタクシーの乗車需要予測技術―,”NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル,Vol.26,No.2,pp.15-21,2018.
(3) 溝口・武市・神山・川崎:“移動に関する社会課題解決をめざすドコモのMaaS,”NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル,Vol.27,No.4,pp.10-17,2020.

(左から)西田 典了/三宅 基治

「いつでもどこでもだれとでも快適で安心のモビリティを提供し続ける」をビジョンに掲げ、移動通信事業者によって生み出すことのできる付加価値を利用者の移動向けに提供することで社会課題解決に取り組んでいきます。

問い合わせ先

NTTドコモ
モビリティビジネス推進室
TEL 03-5156-3012
E-mail ai-bus-ml@nttdocomo.com